今回はズェピアと後三人くらいしか出ません。
夢を見ている。
何時寝てしまったのかも分からないが、夢を見ているのだけは理解できた。
ポツンと一人、部屋に取り残されたように立っている。
「……ふむ、ここは私の家、とすると、私の記憶を元にした夢ということだろうか。」
「───…」
「む……?」
ふと、声が聞こえた。
よく聞き取れないが、呼ばれたような気がした。
後ろを見ると、誰かが私のベッドでぐっすりと寝ている。
金の髪が綺麗な、女性だ。
「─おやおや、可愛らしいお嬢さんだ。」
「──ズェピア?」
「起こしてしまったかな。
おはよう、お嬢さん。
君は、私の事を知っているようだが、君は──」
「─貴方、誰?」
「…………私は、ズェピア・エルトナムだが。」
そう答える私に、女性は微笑みを浮かべて私の頬へ手を伸ばす。
私は、何もせずにそれを受け入れた。
頬へそれが触れた瞬間、懐かしい温かさだと感じた。
「違う、貴方は違う。
私の知っている、『貴方』じゃないもの。
……ねえ、思い出して、貴方は──」
─本当に、『そう』なの?
意識が、闇へ落ちる。
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「……夢……?」
椅子に座った体勢で、寝てしまっていたらしい……
立ち上がり、辺りを確認する。
「……ここは、違う。
タタリではない……。」
辺りは、白い空間だった。
私が一人、居るだけの空間。
どういうことだ……?
「─そう、ここはタタリじゃない。」
「……君は…姿が見えない。
いや……?ノイズか、これは。」
後ろから声がして、また振り向くと、今度はノイズがかかったかのように、姿が分からない。
なのに、声は鮮明に聞こえる。
一体、誰だろうか。
「■は、何者でもない。
■は、お前が忘れた誰かだ。」
「私が忘れた……誰か?
舞台には登場する予定のない役者、エキストラですらない裏方という事かね。」
「いいや、■は既に登場している。
そも、ずっと『ここ』に居る。」
「……ふむ。
君が、登場している…一体いつなのか聞いても?」
「いつ?おかしな事を言う。
■は最初からいるじゃないか。
お前が『忘れている』だけだ。」
不愉快だ。
何者なのかは知らないが、目の前の存在は私に大きな不備があると抗議している。
私が、劇場に大きな見落としを作る?
何をバカなことを。
「勿体振るのは感情を引き出すソースになるが、長引くとただの煽りとなってしまう。
いい加減教えてはくれまいか?」
「常に教えている。
最初から、それこそお前がこの世界に居るときから、そして居ないときからも。
■を忘れるなんて、監督としてどうなんだ?
役割を忘れるも同義だ。
実にナンセンスだと思わないか?」
「私自身が思い出さなくてはならないと?」
「その通りだ。
どうか、思い出してほしい。
手遅れになる前に。」
……手遅れ?
未だ手遅れではないというのか。
私が、友を裏切り、世界を敵に回した今でもまだ間に合うと?
「そうだ。
お前に必要なモノを、忘れたままなのはそれこそ損というものだ。
思い出せ、今がある理由を。
あの約束を。」
「約束……?
オーフィスとの約束ならば今……」
「本当に?
それよりも、大切な約束があったはずだ。」
「それより、大切な……?
……だが、思い出せないということは、今は重要なことではないのでは?
ならば、思い出すのは諦めても問題はないだろう。」
「それは諦めではない。
停滞だ。」
ノイズは、パズルをどこからか取り出す。
あれは、私か。
私が描かれたパズル……顔だけ、ピースがはまってない。
「─これを、お前の記憶とする。
■は欠片だ。
だが、お前が思い出さない限り、たとえどんな結末になろうと■は自分からはまる気は毛頭ない。
そして、他にも欠片は存在する。
名前、日々、家族…これらを思い出さなくては、お前は真に望む対決を、満足に出来ないだろう。」
「……。」
「それに、このような雑なパズルを残して、終わりへ向かうというのか?
それはいけない。
神へ要求し、その姿になったのに、そんな雑ではいけない。
…お前がこのピースを忘れて、果たしてこの舞台は─」
ノイズは、パズルを私に渡すように差し出す。
私は、それを受けとる。
「─交じり合ったコレに相応しいに足る、
「──君はっ……!」
そこで、夢に近い何かは途切れた。
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「……私は…。」
「ズェピア?どうかした?」
「……オーフィス、ネロは?」
「カオスは、まだ帰ってこない。
多分、殺るか殺られるかまで帰ってこないと思う。」
「……そうか。」
「…ズェピア、元気ない。
どうしたの?」
オーフィスが心配そうに私を見る。
……一瞬、誰かの顔と被ったように見えた。
おかしいな、私はこの子を通じて誰かを無意識に見ているのか?
「オーフィス……私には、大切なナニカが抜け落ちている。
心当たりはあるだろうか?」
「……大切な、ナニカ?」
「ああ……私が、私でなくなるような感覚がして、気になるのだよ。
私を構成する上で欠かせないようなナニカなのだろうが……どうだろうか?」
「───知らない。そんなの、知らない。」
「オーフィス……?」
オーフィスは、顔を俯かせて知らないと強く否定した。
何故、そんなに拒絶するように否定するのか。
知っているのか?
「……ズェピアは、我をしっかりと見てくれてない。
どうして?我はこんなにもズェピアを見ているのに。
なのに、どうしてズェピアは……幻影ばかり見る?」
「幻影……?私は、君をしっかりと見ている「嘘をつかないでっ!」…。」
「我に無くて、アレにあるのは、何?
我はずっと、ズェピアの為、ズェピアの為と頑張ってきたのに、アレはただ居るだけだったのに!
どうして、どうして……!!」
腕が折れないように、だが自分の存在を示すように強く握り、涙を流して私を睨むオーフィスに、私は何も言えなかった。
……取り繕った言葉だけではダメということが分かった。
「……私は、君のいう、アレすら覚えてない。
だから、それを思い出したい。
君に答えを提示するためにも。」
「要らない、そんなもの要らない。
ただあの連中を殺して、アイツも殺して、皆殺して、我と居てくれればいいの。
どうして分かってくれない?
我は、ずっとズェピアの事を愛しているのに。
ズェピアは我の愛に見向きもしない!
何が足りない?
力ならある、知恵なら身に付けてきた。
魅力がない?娘としての我だから?」
「落ち着きたまえ!」
私は一人暴走しているオーフィスを落ち着かせようとする。
どうして、こうなったのか。
私が、聞いたからか。
アレとは、誰だ……早く、思い出さなくては……。
「……ごめん、少し、一人になる。」
「……ああ。
すまない、オーフィス。」
「……。」
オーフィスと私との間にある壁……この正体を私はきっと忘れてしまっている。
思い出さなくてはならない。
そうだ、嘘の終わりなんて許さない。
脚本家としても、個人としても……そんな終わりなどごめんだ。
このタタリは私にとっての戦いでもあるということか。
自分に襲われるとは、何と不可思議なことか。
やってやろうじゃないか。
■■■■■、君を思い出して見せる。
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どうして、こんなにも求めてしまうのか。
時折、感情に身を任せてしまう自分が恐ろしい。
ずっと昔、我には感情がなかった。
……いや、感情はあったが、出す機会がまるでなかった。
我を見てくれてるのは、分かっているのに。
どうして、あんな言葉が……。
「……我は……」
怒りをただぶつけるような言動。
あれはいけない。
あれは、良くない。
確かに、我はズェピアが好きだ。
けれど、フリージアも好きだ。
……好きな、はずなのに。
どうして、あの時我は邪魔だと思ってしまったのだろう?
大切な、家族なのに。
再会を待ち望んでいる筈なのに。
いつか帰ってくる彼女を、どうして……。
ああでも……一つだけ、ハッキリしている。
─我だけを見てもらいたい。
そんな、どす黒くも一途な願いを我は持ってしまったということを。
人が願いを叶えようとするのは……当たり前、だよね?
ズェピア。
ずっと溜めに溜めていた感情が、爆発した結果がこれだよ!
あ、でも女性が好きな男性に自分(だけ)を見てほしいのは当たり前の事だから普通ですね!