今回はズェピア視点はないです。
あの後、イッセー君とシオンが起き、リアスが事情を説明してくれたおかげで事は拗れずに進んだ。
次の日になってから、リアスの眷属達を元に戻すのには時間は掛からなかった。
彼らにも事情を説明し、次にアジュカ達を戻す為に彼らを電話で学校へと呼んだ。
その時、今日は授業参観じゃないとか面倒だとか言われたけどそれでも来てほしいと頼んだら渋々と了承してくれた。
しかし、ズェピアは僕達と戦って、尚且つグレートレッドを倒さねばならないのに、何故ネロに確実に仕留めるように言わなかったのか……。
いつでも殺せるという余裕……ではないな。
なら、ネロが独断で行ったということ。
そして、ズェピアは全権をネロに委ねた。
前半戦という、全権を。
……それにしても、シオンは誰かに少し似ている。
何だろう、それが何かまでは分からないが……。
「お兄様、考え事ばかりしていては疲れてしまいます。」
「え?ああ……いいんだ、こうしている方が今は落ち着く。
…ネロを倒し、ズェピアを倒す。
最初から難関だ。」
「魔王様はズェピアとネロとは手合わせとかしたことないんですか?」
「ネロとはないけど、ズェピアとならある。
……そうだね、僕から言えることは一つだけだ。
今のズェピアは単体でも僕らを相手取れるくらいには強い。
加えて、切り札の『黒い銃身』…どんな能力を秘めているのか不明だ。
情報がないということはそれだけで強みになるからね。」
「な、なるほど……。
シオンさんは、何か知らないのか?」
「…彼には吸血鬼としての弱点がありません。
それに、彼は他にもタタリを用いた攻撃や、エーテライトによる精神掌握等もあります。
彼自身、吸血鬼…死徒としても上位でしたし、下手に近付いて攻撃するのは愚策でしょう。」
「エーテライトというのは、私達を戻すのに使った糸のような物の事ですか?」
「ええ、姫島さん、その通りだ。
私の情報処理能力とズェピアの情報処理能力には差がありますので彼の方が早く私達の体を動けなくできるでしょう。
刺されたら一貫の終わりと思ってください。」
……やっぱり、彼は強い。
だというのに、彼の行動原理は自身の目的を入れても家族という要素が大半を占めている。
本当、君の親馬鹿加減には呆れてしまうよ。
無限の龍神も娘として扱うなんて、誰もしないだろうに。
そういえば、何度か彼に聞いたことがある。
『君はどうしてそんなに強いんだい?』
『私は強くはない。
君よりも弱いとも。』
『そんな事ないだろう?
現に僕は負けたじゃないか。』
『ハハハ、君には未だ足りていないからだよ、サーゼクス。』
『足りていない?』
『うむ、私にはもう理由があるからね。』
『理由って、どんなだい?』
『それは、教えられないな。
なに、君もすぐに見付けられるとも。
頑張りたまえよ。』
僕が聞くと、いつもいつも笑って流してしまう。
でも、今なら分かる。
君の言う理由は、家族なんだろう?
これが、僕の妄想かも知れなくてもいい。
家族のためにも、負けられない、無様は晒せない。
君は心の底ではいつだって怖がっていたんだろう。
自分と言う家族にとって『父』という立ち位置が負けたらその後に何が起こるのかが怖かった。
だから襲撃の時にも決して屈服しなかった。
それを為すための力を身に付けてきたから。
……もしこの妄想が真実なら、君は……。
「魔王様。」
「どうしたんだい?」
「いえ、深く考えていたようなので、私達でよければ何か力になれればと。」
確か、搭城 小猫だったかな。
丁度いいから皆に聞いてみよう。
「…なら、聞きたいんだが、いいかな?」
「はい。」
「君達はオーフィスが動くと思うかい?」
「シオンさんがそれはないと言ってました。
ズェピアがまずそれをさせないと。」
「……だろうね。
彼ならそうする。」
「魔王サーゼクス、何か引っ掛かりでも?」
「いや…僕は動かないとはどうにも思えなくてね。」
「何故です?
オーフィスは貴方達がタタリに呑まれた時も何もせずに見ていたと聞きました。
それに、ズェピアが娘のオーフィスを動かすとは思えない。」
「……普通なら、僕もそこで動かないと思うよ。
だが、僕は見てしまったんだよ。
あの、恐ろしい目を。」
「……目?」
あの時、タタリを阻止しようと結界を破壊すべく突っ込んでズェピアに蹴られたとき、確かに見たんだ。
『……あはっ。』
あの時、確かに彼女は笑っていた。
それも僕を見てじゃない、ズェピアを見て。
まるで、彼を龍の姿になって喰らうのではと錯覚するほどの目だった。
「オーフィスは、ズェピアとは別の目的で動く。
そんな予感が僕の頭から離れない。
……一応、心に留めておいて欲しい。」
「もし戦うとしたら……無限の龍神に勝てるんですか?」
「ハッキリと言いますが、0です。」
「分かってはいましたが、悔しいですわね…」
「こ、怖すぎますぅ……!」
「…ドライグ、お前は何かないか?」
『……。いや、無い。』
ん?何だか歯切れが悪いというか、隠しているような感じだ。
この緊急事態なのに隠す事……?
「…?そうか、魔王様達の次にズェピアを知ってるのはお前だから、頼りにしてるぜ。」
『ああ……任せろ。
…シオンだったか、少しいいか?』
「…なんです?」
『お前が来たのは、
「…止めるためです。
約束など、何も。」
『そうか。
おかしな質問をした、許せ。』
「構いません。」
…気になるが、今は他の事を考えよう。
「安心したのはネロとズェピアは別々で動いているという点だ。
ズェピアがネロとの戦いに介入することはないだろう。
……だが、聞かせて欲しい。
シオンはどうやってネロを止めるつもりだい?」
「それは今から来るであろう二人の魔王を戻してから説明します。
二度説明するのは嫌なので。 」
「そうか、じゃあ、その時に頼むよ。」
説明は後々か。
まあ、何をするかは大体分かるし、いいんだが。
そして、扉をノックする音が部屋に響いた。
シオンは立ち上がって、いつでもエーテライトをさせるようにしている。
この魔力は二人のだ。
「いいかい?僕が出るから、君達はもし二人が抵抗したら止めてくれ。
恐らく、悪魔という事すら覚えてないから其ほどの強さはない筈だ。」
『はい…!』
シオンを除いた全員が小さく頷く。
「……私が外すと?」
「そうは言ってないけどさ。
事前に言っておいた方がいいだろう?」
僕は扉を開けて、声をかける。
「やあ、来てくれたんだね、二人とも。」
「もう!今日は学校休みの日じゃない!」
「なのに開いていたが。
少し外で探したくらいだ。」
二人とも、変な格好はしてない……
変な格好をしてないっ!?あのセラフォルーが!?
こんなの何十年、何百年振りだ……?
最早、魔王少女な格好をしていないセラの姿を見た僕は異様な体験をした気分になっていた。
これがズェピアの言っていたSANチェック
「ハハハ、ごめんよ。
ま、中に入ってくれ。」
「そうさせてもらう、外は暑くて敵わん。」
「ああ──シオン、今だ!」
僕が扉を開けて退いた瞬間に僕の後ろに居たシオンに指示を飛ばす。
「了解。」
シオンは即座に行動へと移し、二人の首筋へとエーテライトを飛ばし、刺すことに成功した。
「何を──!?」
「イタッ──!」
二人は続きを喋れなかった。
頭を抑えて苦しみだしたからだ。
イッセー君やリアス、そしてリアスの眷属達にもこのような反応が出たので、解除は出来たようだ。
シオン曰く、情報が流れ込むような感じなので処理するのに脳が働いているので痛いらしい。
僕だけは別なので、その感覚は分からないが皆はうんうんと頷いているのでそうなんだろう。
しばらくして、アジュカとセラフォルーが頭を抑えながらも立ち上がる。
「─おれは しょうきに もどった!」
「裏切りかな?」
「いや、今のは遊んだだけだ。」
「う~……頭が痛い……飲んでないのに。」
「帰ったら飲むといいよ。
二人とも、手荒な真似をしてしまってすまない。」
「こうするしかなかったのなら、仕方のないことだ。」
「そうよ、それに……今はそれどころじゃないんでしょ?」
「ああ、二人の力が必要だ。
力を貸してくれ。」
二人は当たり前だと言わんばかりに頷く。
周りの皆はその様子にホッとしたようだ。
「そっか、私達が最後だったのね。」
「それは別にいい。
サーゼクス、諸々の説明を頼む。
元の状態には戻ったが、現状が分からん。」
「そうだね、手短に説明しよう。」
僕は今まで何があったかを説明した。
ネロとズェピアを止めること、ここがタタリで世界がどんどんタタリに呑まれていってること。
…ズェピアが、僕達をこの事件を通して確かめようとしていることを。
他にも色々だ。
「…ふん、これだからあの家族馬鹿は好かんのだ。
娘の願いを叶えるのもいいが、度が過ぎる。
あの娘が見たら何を思うか分かってるのか?」
「絶対分かってないって。
あの子なら『ズェピアの馬鹿、嫌い!』とか言うわ。」
「いや意外と軽い罵倒だな……。」
「多分それ、ダメージでかいよね。」
「「それな。」」
「は、話は済みましたか!
早く作戦を伝えたいのですがっ!」
突然シオンが乱暴に話を切ってきた。
何で顔を赤くしてるんだろうか?
まあ、少し三人の空間になってたから周りの皆が各々で別の事し始めちゃってしね、話を進めなきゃね。
「すまない、お願いするよ。」
「ええ。
まず、この作戦は一度きりです。
失敗すればすぐに対策を取られることでしょう。
……では、内容を伝えます──」
そこからシオンの考えた作戦は短時間で考えたにしては素晴らしい物だった。
説明している様は、どことなくズェピアに似ていたので少し驚いてしまったが。
シオンの言っていたネロの不死性。
666の獣の因子が彼を不死身足らしめる。
一度に殺しきらなければならないというのだ。
ともすれば下手な伝説上の生物よりも不死身だ。
止めれるなら、そうした方が得策なのは間違いない。
だが、シオンの場合は別の事情がありそうだ。
それが何かは分からないが……僕は僕の使命を全うするだけだ。
彼の期待に応えるというのはもうしない。
彼はもう友でなく敵になったのだから。
だが、夢だけは諦めるものか。
彼を殴って止めて、それから見せてやるんだ。
人を食い物にしなくなった冥界を、彼にその景色を見せるという彼への『罰』を僕は彼に与える。
それが僕の彼への答えだ。
次回、『混沌─決戦─』
彼らの作戦は通用するのか、それとも無駄に終わってしまうのか。
……それはそうと、テスト怠いです。