【完結】 ─計算の果てに何があるか─   作:ロザミア

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お久しぶりです、ロザミアです。

色々と忙しくて投稿が遅れました、申し訳ありません。

ではどうぞ。


混沌─決戦 中編─ ─狂乱─

獣龍の遠吠えはこちらにまで届いた。

ようやく出番だとはしゃいでいるのか、単に腹が減っているのか……確実に後者だろう。

彼の用意した獣龍は腕を振り下ろす。

 

当然ながら、皆対抗しようとはせずに素直に避ける。

 

これぐらいはしてもらわなくてはこれから起こるかもしれない予測外の事態に対応できない。

 

……のだが。

 

「─シオン、だと?

何故、彼女が?タタリが強い意思を具現化した…はないな。

ならば、あれは姿を借り受けた誰か……。」

 

どう見ても、ワラキアの夜に血を吸われ、半死徒化したアトラシアの少女、シオン・エルトナムその者だ。

どういうことだ?

おかしい、イレギュラーが多発しすぎだ。

 

可能性で言えば先程口にしたモノと…夢幻の仕業か、或いはその2択か。

 

駄目だな、情報が無さすぎる。

もう少し近寄れれば魂を見れるのだが。

 

……誰か……だなんて、俺は希望を見てしまう。

やめてくれ、俺に下手な希望を与えるな。

脆くなってしまう、俺の人としての精神が浮き彫りになってしまう。

 

「……彼女は、死んだ。

それが事実だ。

魂が今までさ迷っていたとでも?

……あり得ないな。」

 

それにしても……

 

「……いやはや、ここまで動くとは。

恐ろしいものだ、巨大な的ではあるが、耐久を越えるには生半可な攻撃では無意味だが……さて。

ここは、君に期待しよう、シオン。」

 

偽者であれ、本物であれ、演じるならば素晴らしいものであって欲しい。

……娘、か。

さて、俺も準備をしますかね────……!

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

「くっ!巨体に身を任せたとはいえここまで破壊力が出るのですか……っ!」

 

「だが、巨体故に動きが鈍い、その隙をついて攻撃を与えるんだ。

赤龍帝が十分な力をチャージできるように時間を稼ぐぞ!」

 

全員が獣龍へ攻撃を仕掛ける。

魔力をぶつける等の全力に近い攻撃は獣龍の肉を抉るまではいかなかった。

 

顔から腕を退けた獣龍はまた吼える。

なんだその攻撃は、とでも言いたげな顔だ。

 

「くっ、やっぱり効かないか……頭付近ならば効くか?」

 

「恐らくは。

あの獣、頭に当たりそうな攻撃は腕でガードしていました。」

 

「それより、来るわよ!

皆避けて!」

 

獣龍は腕を薙ぎ払う。

巨大さも相まって一撃一撃が災害に相応しい攻撃はまさしく龍のソレだ。

 

建物を壊して迫る腕を全員飛んで避ける。

シオンは咄嗟にリアスが抱えたので無事だ。

アーシア等の過剰な戦闘についていけない者は後ろへ下げて回復に徹しているので問題はない。

 

「すみません、私にも羽のようなものがあれば。」

 

「大丈夫よ。

それより、イッセー!

いけそう?」

 

リアスはシオンと共に降りてイッセーへと問い掛ける。

 

「……もう少しだけ、待ってください!」

 

「分かったわ。

皆はまだいけそう?」

 

「…進行させるわけにもいかないので、行くしかないんですけど。」

 

「ぼ、僕の神器も効きません~!」

 

「動きも止められないとなると…セラフォルー様!」

 

「どうしたの?」

 

「あの巨体を凍らせる事は出来ますか?」

 

「…あの大きさだと出来るとは思うけどそれでも長くは持たないわね。

でもま、やらないよりはマシか……!」

 

セラフォルーは自身の得意とする氷の魔法を最大にまで威力を高め、獣龍へと放つ。

 

「──ォォオオ……!」

 

獣龍は腕と体の一部を凍らされ、鈍重な動きが更に鈍った。

しかし、それも彼女の言った通り長くは持たない。

氷はすぐにヒビが入り、今にも砕けそうだ。

 

「──?」

 

「こうなったら意地なんだから!

こんなデカい獣凍らせたら魔王少女伝説に新たな1ページが加わっちゃうわね!

それに、さっさと倒さないといけないんでしょ、今の内に早く!」

 

氷が割れそうになるがセラフォルーが更に魔法を放つことにより、割れずに拮抗している。

 

「むっ……力押しとはな。」

 

「今なら急所も狙える筈……!」

 

『相棒、いけるぞ!』

 

「よっしゃぁ!行くぞデカブツ野郎!」

 

「熱血漢め…だが、嫌いじゃない。」

 

イッセーはアジュカと共に獣龍の頭の部分にまで駆ける。

発射の準備はもう出来ている、後はこれを放つだけ。

 

そして、ようやく辿り着いた。

この肌を刺激する寒さが、セラフォルーが全力でこの巨体を食い止めていると思うと気にもならない。

 

鈍重な頭は隙だらけだ。

獣龍は倍加して自身を打倒しうる力を感じとり焦っているのか全身に力を込めるが長時間凍らされている部位は思うように動かない。

 

やるならば、今しかない。

 

「ハァッ!」

 

「ドラゴン……ショットォォォォ!!」

 

アジュカが放った魔力の塊は首の皮膚を抉り、内部の肉をさらけ出す。

 

そしてそこへイッセーの全力のドラゴンショットが放たれる。

初めての痛みと恐怖を同時に味わった獣龍は動けない。

自らが圧倒的に強いという自信すらあったというのに、何故と自問する。

しかし、答えを出す前に、ソレは弱点となった首へ到達した。

 

─ォォオ"オ"オ"オ"オ"──ッ!!

 

獣龍はその苦痛に満ちた叫びを最後に、頭が吹き飛び粒子となって消えた。

 

一部を除き、全員が消耗した。

イッセーに到っては肩で息をし、ふらつきかけている。

 

そこへネロ・カオスが地面からぬるりと現れる。

拍手をし、褒めるかのようだ。

 

「見事だ。

流石といったところか。

もう少し粘ると思ったが、存外すぐに殺されたか。」

 

「どうだ……アンタの、奥の手の一つを、潰してやったぜ……!」

 

「奥の手?何をいうのかと思えば……

私は言った筈だ、前哨戦(・・・)とな。

元より私は666の獣の因子を宿す死徒。

あの獣龍も、10の因子と竜の因子を混ぜ合わせた獣に過ぎん。」

 

「規格外の化け物め。

あの怪物を未だ作り出せると?」

 

「いや、竜の因子があればこそ出来た欠陥品。

私の獣ならばいくらでも出てこようが、あの獣龍はもう出てくることはない。

安心するがいい。」

 

「本体の貴様が無事な時点で安心など出来るか。」

 

悪態をつくアジュカにネロ・カオスはただ周りを見渡すのみ。

 

「シオン・エルトナム。

貴様の策は崩れたか?」

 

「……いいえ、概ね作戦通りです。

一つ、いいですか。」

 

「下らない質問ならば答えんが。」

 

「何故、貴方はオーフィスと敵対してまでズェピアにつくのです?」

 

「……知れたことを。

奴が我が創造主であり、契約者であるからに他ならない。」

 

「それで死んだらどうするのです!」

 

「何も。

そこで死ねば私はそこまでだったということ。

二度目の死を味わうことに何の恐怖がある。」

 

二度目、彼の言葉に皆が驚く。

このような化け物が死ぬというのか、と。

 

ネロ・カオスはコートのポケットに手を入れくつくつと笑う。

 

「貴様らが私を止めると言っても、半数はもう消耗した状態だ。

さて、ここからどうやって私を止めるのか、確かめさせてもらおう。

そしてそれを打ち砕き、貴様らを喰い尽くした後に他の目的を果たすとするか。」

 

「…他の目的が何かは分かりませんが、私達が喰い殺されるのはない。

私達は貴方を越え、ズェピアを引きずり出さないといけないのだから。」

 

「ひ弱な小娘がよく言う。

貴様はその皮を被らねば戦えぬ臆病者に過ぎん。」

 

「そんな事は、分かってます。

私が今でも弱い存在なくらい。

けれど、私は娘として止めなくてはならないのです。」

 

「娘…やはり、君は……。」

 

「魔王サーゼクス。

その話は、全て終わってからにしましょう。」

 

「……娘か。

死人がおいそれと出てくるのは良くないが?」

 

正体を元から知るネロ・カオスは介入を快くは思わなかった。

その正体が他の誰かならば…別に何も思わずに喰らうのみと判断した。

 

唯一の拠り所であった少女が、何の因果か戻ってきた。

殺さずともいずれは消える存在であるが、それでも創造主に今の少女を見せてやりたいという気持ちは確かにある。

 

…しかし、既に敵として立ち塞がった。

ならばこの思いを消し去り、ただ敵として喰らうのみ。

 

シオンはネロ・カオスの言葉に『彼女』としての笑みを浮かべる。

 

「そんなの、私にはよく分かりません。

善くも悪くも普通過ぎたので。」

 

「ふ……一理あるな。

では、始めようか。

我らは闘争で決するしか道はない。

無論、手加減はせん。

獣の群れに何処まで持つか……!」

 

「くっ……」

 

サーゼクスは判断に迷う。

今ここで真の姿を出せば勝てなくはない。

いや、寧ろあの力とネロ・カオスとは相性がいい。

圧勝すら狙えるかもしれない。

 

……だが、ズェピア・エルトナムの存在が彼の判断を鈍らせる。

ネロ・カオスを倒せても、彼がいる。

いや、それだけじゃない。

 

『あれはもう我等の知る無限の龍神ではない。

あれはズェピア・エルトナムという存在に酔った化物だ。』

 

あの言葉、もし本当ならオーフィスは二人とも敵対している。

どうしてなのかは分からない。

 

それより先決なのは現状の解決。

なるか、ならないか。

 

「……シオン、僕が力を解放して彼を止める。

その間にアジュカと君で何とか出来るかい。」

 

「しかし、それではズェピアを……」

 

「大丈夫、僕を信じてほしい。

…人間の君が悪魔の僕を信じれるかは分からないが……」

 

「…いいえ、信じます。」

 

サーゼクスはその言葉に確信したように笑みを浮かべる。

やはり変わらない。

彼女は、何も変わっていない。

 

「なら、その信頼に応えなくてはね。

アジュカ、シオンと作戦通りに頼むよ。

イッセーとセラフォルーは退いてくれ。」

 

「任せろ。」

 

「でも、魔王様!」

 

「ううん、イッセー君。

退くわよ。」

 

「レヴィアタン様まで!」

 

「いいから退くの!

サーゼクスちゃんが力を解放するなら、消耗してる私達だと邪魔になる。

それに、ネロも本気を出さざるを得ない。

悔しいけど、三人に任せるしかないわ。」

 

「……分かりました。」

 

同じ魔王でありながら二人についていけないセラフォルーは悔しそうに言う。

その表情を見て、イッセーもまた悔しげに退いていく。

 

ネロ・カオスは意外そうにサーゼクスを見やる。

 

「ほう……私に見せるか、その力を。」

 

「ああ、君の足止めはここから僕が務めよう。

ズェピアとの戦いにとっておきたかったけどね。」

 

サーゼクスの力が高まっていく。

いや、違う。

縛っていた力が解放されていく。

 

自分の力の危険性を知っているからこそ、己を縛った。

 

この姿ならば、あの不死性に食らい付ける。

ズェピアとの戦いに対する不安は残るが、仲間を信じずして王にはなれない。

 

(ああ、この姿でようやく五分だ。

分かっている、見たときから。)

 

この世界に閉じ込められる前、彼と相対した瞬間に悟った。

そして、魂を喰らった結果の強さを知った。

 

あれは、よくない力だ。

 

(どうして、君がそこまで家族のためにやれるのかは分からない。

まるで、怖がるように家族のため、家族のためと頑張るのか……。)

 

それでも、と彼は真の姿を現し、彼の信頼する家族の一人と相対する。

 

それは、滅びの魔力が人の姿をしたナニカだった。

 

周り全てを消し去るそれは、味方であるシオン達にも威圧を与える。

 

しかし、この威圧を受けて尚─

 

 

「ク、クク、ハハハハ!

いいぞ、それでこそだ!

貴様が本気で来なければ面白くはない。

見せてもらうぞ、タタリが貴様を宿敵と見なした力を!」

 

 

─笑っていた。

解放すると期待していたのかもしれない。

戦闘狂という部類ではないにも関わらず彼は笑った。

 

「君を止めて、僕達はズェピアを止めて、この世界を壊す!」

 

「遠くから援護をしながらネロ・カオスの隙を突きます。」

 

「ああ、それでゲームクリアだ。」

 

「シオン・エルトナム、サーゼクス・ルシファー、アジュカ・ベルゼブブ……獣の波に呑まれるがいい、ここが貴様らの終焉だ!」

 

ようやく、本番が始まる。

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

ねえ、ねえ、答えて。

 

「…。」

 

一緒になる気はない?

 

「すまないが、『今の』君とは勘弁願おう。 」

 

そう。

でも、一緒になっちゃった。

ほら、ほら、欲しかったものの『一部』、手に入った。

 

「…何故。」

何故、と聞くの?

どうして、と?

ソレは違う、違う。

 

聞くのはこちら。

どうして?

 

応えてくれないの?

どうして、この身体を貪ってくれないの?

どうして、交わってくれないの。

 

「何処からそうしてしまった、私は。」

 

貴方と、暮らして、感情を得て、妹が出来て、それが死んだ時から。

 

ねえ聞いて、貴方はまだ夢を見てる。

だからこんな夢の世界を作った。

無意識に可能性に賭けたの?

 

■が、アレの代わりになれればいいって我慢してたのに、そんな、酷いよ。

 

だったら、この世界を二人だけの世界にしましょう。

姿も、貴方の愛した者の姿よ。

 

ねえ、聞いて。

決めたの。

貴方は■の物にするって決めたの。

でもね、そうやって抵抗するからね。

 

「─ぐっ、ぬ……」

 

─腕、もげちゃった。

 

「─あは、美味しい。」

 

「っ─!」

 

これが、貴方の味。

美味しい、美味しい美味しい美味しい美味しい。

 

貴方と交わってるような感覚。

貴方をお腹の中に入れてるよう。

でもね、お腹に欲しいのは違う。

もうちょっと小さいの。

 

興奮するけど、違う。

 

味も、匂いも、何もかも。

こんなにも愛しい、憎らしいと思っても、抵抗しちゃうなら仕方無い。

 

次は、どこを引き千切ろうか。

痛みが、■の貴方への愛になる。

「オー、フィス……!」

 

 

─拒まないで、逃げないで、傷付けないで。これは、貴方の娘の姿で中身も貴方の娘だから。




オーフィスちゃんおかしくなってる気がする?
いえ、これが物語の結果ですよ。
しかし、腕を食べるなんてワイルドだなぁ(白目)

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