【完結】 ─計算の果てに何があるか─   作:ロザミア

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混沌─決戦 後編─

獣の波が押し寄せる。

絶望的なまでの数、嵐のような暴力を伴った波はただ一人を喰らう為にその食欲を働かせる。

 

しかし、波は突如として止まる。

いや、止まるどころか押し返されてさえいる。

その一人が獣の波を消していっているのだ。

 

波の発生源たるネロ・カオスは足りぬかと一言漏らす。

 

「流石は超越者、といったところか。

貴様の滅びの魔力は我が獣さえも消し去るか。」

 

「これを君がくらえばただでは済まない。

それでもやる気かい?」

 

「無論。

貴様の滅びの魔力とて無限ではあるまい。

その力が尽きるまで私もまた獣を出せばいいだけの事。」

 

「チッ、鬱陶しい……!」

 

獣の波を押し返せども、元よりあちらは獣をいくらでも出せる。

何せ、彼さえ無事ならば獣自身が死んでも支障はないからだ。

 

対してサーゼクスは真の姿になろうと無限に魔力があるわけではない。

いくら超越者という存在でも限界はある。

 

出鱈目な不死性と物量に後退している者達は恐怖すら出てくる。

 

だが、獣を消滅させ、後ろを守るサーゼクスにずっと魔力を放出する辛さはあれど恐怖はない。

何故なら、あの二人ならばあの不死性を無視してネロ・カオスを突破できると信じている。

 

それまで時間を稼ぐまで、とジリジリと近寄る。

 

「滅びの魔力を使い続けながら私を拘束する気か。

無謀なことはやめておけ、それでは貴様の魔力より先に脳が処理しきれずに死ぬぞ。」

 

獣の処理と魔力の消費を続ける行為は脳を酷使している事を彼は見抜いていた。

視覚情報による獣の感知と獣を捌く魔力をどれ程の消費を抑えた上で一撃の撃破が出来て、尚且つどれだけの数を減らせるか。

 

それを先程から休みなく行うことで脳への負荷は多大なる物になる。

 

「これぐらい、リアス達の頑張りに比べれば…辛くもない。」

 

「痩せ我慢は褒められたものではないな。」

 

「痩せ我慢ではない、これは僕なりの矜持ってやつだよ。」

 

「変わりない事だ。

確かに正面からの獣は対処可能だろう。

だがそれは貴様の死角ではないからに過ぎない。

……ならば」

 

「……っ!?」

 

サーゼクスはようやく気付いた。

地中より湧き出る黒い沼に。

そしてそこから出てくる巨大な鰐に。

 

「っ、ォオオオオ!」

 

「■■■─!」

 

食らいつかんと大顎を開け、迫る鰐にサーゼクスはリソース等を無視して滅びの魔力を鰐にぶつけることで頭を消滅させる。

 

「───」

 

「なっ、ぐぅっ!」

 

しかし、まだ意思が残っていたのか尾を振るうことでサーゼクスを壁へと打ち付ける。

ダメージ自体は大したことはないので、すぐに立ち上がる。

 

狼が襲ってきたが魔力を込めた拳で殴ることで消滅させる。

 

「さて、今ので計算が狂ったようだが。」

 

「……どうかな。」

 

…やるしかない。

サーゼクスは今この場で後の事を考えるのは無駄と断定し、決行することにした。

 

サーゼクスは手に魔力を集中させる。

先程までの節約を無駄にするかのように多くの滅びの魔力が圧縮されていく。

 

自棄になったか、とはネロ・カオスは考えなかった。

そんな目をしていない、あれは諦めてはいない。

寧ろ、勝てる確信をしている目だ。

 

「計算なんて、元からしてないさ……

僕は、馬鹿だからね。

そんなのは親友に任せて、僕はただ力を振るうだけだ。

だからこそ、この一撃が─」

 

─君を追い詰める。

 

そう言う彼は普段の彼とは違う笑みを浮かべていた。

ニッと笑う、まるで好戦的な笑み。

 

こうしてる間にも彼の手はネロ・カオスへと向けられ、魔力は未だに圧縮されている。

 

ネロ・カオスはすぐに行動に出た。

奴は確実に自分を追い詰めるための一撃を放つ。

この身が負けるとは微塵も思ってはいないが何かあれば遅い。

 

自らが持ち得る最大の防御手段を彼は用いた。

 

「集え我が魔獣─!」

 

全ての魔獣を自らの盾とする。

それだけである。

 

だが、侮るなかれ。

この盾は単純ゆえに強力。

あのオーフィスの一撃を辛くもだが耐えきれるほどだ。

 

魔獣を今サーゼクスに放っても、圧縮している魔力と同時にバリアのようなモノを展開している。

確実に溜めきる為の術。

 

「くらえ、ネロ・カオス──!!」

 

「─来いッ!」

 

紅い光が、閃光の如くネロ・カオスへと迫る。

圧縮しきった滅びの魔力をレーザー状に放つことで貫通力を極限にまで上げた一撃。

 

彼はあの魔獣の盾を貫かんとする。

 

魔獣の盾は、それすらも耐えようと身を固める。

 

そして、魔獣の盾と滅びの閃光がぶつかり合う─

 

 

 

 

─勝負は、一瞬だった。

 

「──ぐっ。」

 

「─ふっ、見事だ……!」

 

閃光は見事獣を貫き、その奥にいる獣の王をも貫いた。

 

そして、消滅の魔力をまともにくらったネロ・カオスにも効果は訪れた。

 

「ぐっ、おぉぉぉ…!我が混沌をも食い破ろうとするかッ!

…だが、だが足りぬ!

我が混沌は消えはせん──」

 

 

「─ああ、だから、これは君を追い詰める一撃だ。」

 

「何……まさか─」

 

「そのまさかだ、ネロ・カオス。」

 

続きを口にする前に、更なる異常がネロ・カオスへ叩き込まれる。

 

倒れ伏していた魔獣が消え去っていくのだ。

元から、居なかったかのように。

 

魔獣だけでなく、ネロ・カオスもまたその場で膝をつく。

 

「なん、だ…これはっ─!」

 

「…あの瞬間、敵がそいつだけだと思ったお前の敗けだ、ネロ・カオス。」

 

そう言って空から着地する二人の姿。

シオン・エルトナムとアジュカ・ベルゼブブだった。

 

ネロ・カオスは苦痛の中で得心した。

 

「そうか、貴様か、アジュカ・ベルゼブブ!

貴様が我が混沌に細工をしたな……!」

 

「ああ、そうだ。

覇軍の方程式(カンカラー・フォーミラ)』を使ってお前の『666(不死性)』を弄った。

シオンのお陰でできた荒業だ。」

 

「…シオン・エルトナム。」

 

シオンは頷く。

 

「ええ、だからこそ、貴方に『苦痛』を与え、そちらに意識を向けさせねばならなかった。

即席の作戦でしたが上手くいきました。」

 

覇軍の方程式(カンカラー・フォーミラ)』。

アジュカ・ベルゼブブのみが有する能力で相手の魔力などの軸をずらすことによって、術式を乗っ取ることが出来るといったもの。

 

それによって、ネロ・カオスの『666(不死性)』を攻略したのだ。

 

「流石に焦りはしたがな。

だが、まあ……これで貴様の『666(不死性)』は『1(不死ではなくなった)』というわけだ。

獣の因子という術式を書き換えるのは至難の技だったぞ。」

 

「──。」

 

己が不死性が破られる。

それが、彼の琴線に触れた。

 

あの少年は魔眼によって不死性を無視しての殺害をした。

そうだ、二度目だ。

形は違えど、ネロ・カオスは攻略された。

 

己の絶対的な不死性が今や1となった。

 

彼は今、この世界で初めて──

 

 

「─ふざけるなぁッッ!!」

 

『ッ!!?』

 

 

─初めて、憤怒を露にした。

 

破られるはずがない不死性。

 

こんな事があってたまるものかと。

 

シオン達は初めて激昂するネロ・カオスを見てたじろいだ。

見たことがないほどに憤怒に歪んだ顔。

 

「我が混沌を無効化するなど、あってたまるものか…!

一度ならず、二度までもッ!」

 

自分にとっての絶対能力が対処されてしまった。

故に彼は激怒している。

だが、窮地なのには変わらない。

彼には最早敗北しかない。

 

彼はシオン達に『止められて(負けて)』しまうのだ──

 

 

「ぬ、ぅおおぉぉォォぁァァァ!!」

 

 

─彼の足掻きを止められた後に、だが。

 

「くっ、なんだ!?」

 

「不死性を剥がし、重傷を負わせ、勝敗は揺るぎないというのに……まだやるつもりか!」

 

「ネロ・カオス……!もうやめてください!

これ以上は無意味です!」

 

「無意味なものか、貴様らを一人でも多く仕留める。

ズェピア・エルトナムの勝利を揺るぎないモノとするためにな……!

さあ、止めて見せろ!」

 

ネロ・カオスの体が隆起していく。

彼の奥の手である『武装999』。

獣の因子で自らを強化することで圧倒的な破壊力のみを得る。

 

灰色の化物は、このままでは負けられないと吼える。

 

サーゼクスとアジュカ、そしてシオンはその巨体に怯んだ。

いや、違う。

彼の己の身を省みずに一歩でも創造主を勝利へと近づけようとする精神力に怯んだのだ。

 

今までの敵にこれほどの執念を持つ者はいなかった。

シオンに至っては膝をついていないだけでも上々と言える。

 

化物(ネロ・カオス)はその強化された膂力でこちらへと突進する。

一歩進むだけでも地鳴りがするほどの力。

それをまともに受ければ待っているのは死。

 

「■■■■■■■■■!!」

 

「っ……!」

 

そうして、彼らは灰色の嵐に飲み込まれ──

 

 

 

 

「─させ、ねぇよ……!」

 

「イッセー君!?」

 

─なかった。

それどころか、化物(ネロ・カオス)は止まっていた。

兵藤一誠に止められていた。

 

赤い鎧を身に纏い、歯を食い縛って、彼は止めていたのだ。

 

「■■■─なんだと……貴様、あれほどの消耗をしたにも関わらず、どこにそのような力がっ!?」

 

「そんなの、決まってんだろ…気付いたらやれたんだよ!」

 

「そんな、そんな理屈が通ってたまるかぁぁァァァァ!」

 

巨人はさらに力を込める。

一誠は辛いのか段々と押される。

このままでは一誠は競り負ける。

元々、力の差は歴然。

それでもこの巨人を止めれているのは単に意思の力というものなのか、それとも。

 

「ならばこれでどうだ!」

 

「ぬぐぅ!?」

 

虚空から鎖が現れ、巨人の腕を後ろから縛る。

アジュカも既に『666』の解析と操作に魔力リソースを殆ど割いていたせいか、そこまで大掛かりな魔法は使えないでいた。

 

巨人の動きが若干鈍る……だが

 

「ナメるなッ!!」

 

巨人は鎖を意図も容易く引きちぎる。

 

「チッ!?」

 

「くそっ、滅びの魔力が使えない……!」

 

「くっそぉぉぉぉ……!」

 

「終わりだ、赤龍帝の小僧!」

 

 

「いいえ、終わりは貴方です。」

 

「なっ……──」

 

しかし、巨人の進行は突如として終わりを告げる。

 

ネロ・カオスは姿が元に戻り、その場で動けなくなってしまった。

一体何が、と考えるがすぐに結論に達する。

 

そして、確信する。

 

「……エーテライトか!」

 

「ええ……これで─」

 

 

「─これで、終わりです、ネロ。」

 

これで終わりだと彼女は告げる。

腕を動かそうとするが、出来ない。

獣を出そうと魔獣創造を使おうにも、エーテライトから流れる信号がそれを許さない。

 

……打つ手無し。

 

彼は諦めたようにふっと笑う。

 

「─強くなったな、フリージアよ。」

 

「っ、はい……!」

 

混沌は、遂に敗けを認めた。

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

……。

オーフィスはもう、皆の所へ到着して殺戮を始めているのだろうか。

 

何を間違えた、とかではない。

俺は、応えなさすぎた。

心の何処かでフリージアの代わりになろうと必死なオーフィスに甘えてしまっていた。

 

そんな自分に腹が立つ。

俺は所詮、弱い人間だった。

俺には家族を何者からも守るなんて事は出来やしなかったのだ。

 

…それでも俺は。

 

俺は、家族を守りたいんだ。

何に代えても、俺はあの子ともう一度向き合いたい。

 

思えば、父として何をしてやれただろう。

勉学を教えた程度か……。

フリージアとの時間を割きすぎたんだろう。

 

それでもオーフィスは俺を父と…否、男として見ていた。

俺には勿体無い位いい子になった。

 

そのいい子を歪めたのもまた俺だ。

我ながら情けない。

 

…。

 

……。

 

………。

 

腕をタタリで生成し、感覚を確かめる。

問題なし。

 

今から俺は、無謀な戦いをする。

勝率なんて存在しない。

勝てはしないのだ、当然だ。

あの子はそういう存在だ。

 

殺すなんて出来るものか。

倒すなんて出来るものか。

傷つけるなんて、出来るわけ無い。

 

父親が怒ってる娘に出来ることなんて、1つしかないんだ。

父親が暴れてる娘に出来ることなんて、1つしかないんだ。

 

…家族だもんな、俺が、やらなくちゃ。

 

例えこの身が砕け散ろうとも、オーフィス。

あの子だけは……

 

元の優しいあの子に戻してあげないと。

 

俺に応え続けてくれたあの子に、今度は俺が応えないと。

ああ、いいとも。

 

元は一般人でも、元は弱くても、今は違う。

 

俺は誰だ。

 

そうだ、ワラキアの夜だ。

ズェピア・エルトナムだ。

 

家族が大切で、その為に力を求めた親馬鹿なズェピア・エルトナムだ。

 

もう、目を背けるのは無しにしよう。

しっかりと娘と向き合おうじゃないか。

 

そうして、俺はオーフィスの元へと急いだ。


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