【完結】 ─計算の果てに何があるか─   作:ロザミア

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正直、すまんかった。
でも、やりたかったんや……!な回


番外編 純粋な死徒 6花

拳と拳がぶつかり合う。

 

互いに赤い龍の籠手を有し、片方はその宝玉の中に籠手の主が居て、片方には何もいない。

 

ぶつかり合う男と女。

女が攻め、男はそれを上手くかわしていく。

 

「ほらほら、どうしたのイッセー君!

それじゃあ私を倒せないよ!」

 

「くっそ……戦ったことはないっていうけど、案外しっかりしてるな…」

 

『相棒、早く勝負を決めないとじり貧だぞ!』

 

「わーってる!っ、そらっ!」

 

女─フリージア─の攻撃を男─イッセー─が弾き、左の拳で鳩尾へと放つが

 

「うわ、危ない。」

 

「っくそ…外した。」

 

フリージアはその隙を埋めるように羽で後ろへと飛んで拳をかわす。

吸血鬼の羽、それがイッセーが攻めあぐねる要因であった。

 

攻撃の活路を見出だしても読まれているように逃げられる。

激しく攻めているようでその実堅実な攻めだった。

 

『『Boost!』』

 

「(形振り構わないなら禁手(バランス・ブレイカー)を使っても良いけど、吸血鬼の体が何処まで頑丈か分からない以上は……)」

 

『相棒!』

 

「な、なんだよドライグ。」

 

『よく考えろ。

フリージアは吸血鬼、それもズェピアの眷属吸血鬼となったことにより身体能力が悪魔のお前のそれよりも上を行く。このままだとじり貧だと言っているだろう!

禁手を使え!』

 

「だけど…」

 

『ここまでに来て迷うな!

お前がここで下手に消耗すればリゼヴィムはどうする!

今はネロ・カオス達が抑えているが、それも長くは持たんぞ。』

 

「……」

 

そこまで言われて、考える。

そうだ。

忘れていた。

 

フリージアを助けても、その次は超越者と同等の力を持つリゼヴィムとの対決も待っている。

リアス達というイッセーの信頼する仲間が耐えているが、それも何時までか。

 

イッセーは冷静に考え、決める。

 

今思えば、少々受け身に回りすぎていた。

攻撃の中で隙を見つけて一撃で昏倒させよう、だなんて。

 

元より、自分はバカなのに。

そう思い、決意する。

 

フリージアは攻めるチャンスだというのにただ、じっとイッセーの様子を見ているだけ。

 

「……ドライグ!!往くぞ!」

 

『ああ。ここからが─』

 

「─正念場だ!」

 

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』

 

その声と共に、イッセーは禁手、『赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』を使用する。

 

『Boost,Boost,Boost,Boost,Boost,Boost,Boost,Boost…』

 

赤龍帝の籠手とは違い、禁手化をすることでその倍加を10秒と待つことなく何度も使用が出来る。

しかし、限度はある。

 

それが訪れたことは無いが、この状態は負荷も強いので早く決めるしか道がなくなった。

フリージアは鎧を身に纏ったイッセーを見て、どこか情熱的な視線を送る。

 

「へぇ……あれが、禁手。」

 

「フリージアさん、リゼヴィムに何をされたんですか。」

 

「特に何も。

ただ、あの人の言葉で目が覚めただけだよ。

結局は、必要なのは個人の圧倒的な力。

……私は、疲れたの。

守られて、その度に自分の惨めさを実感して、その度に自分に言い訳をして。

だから私は、力を求める。」

 

『……フリージア、それは違う。

それは辛いだけだ。それは力という一つに縋り、己の辛さを誤魔化しているだけだ。』

 

ドライグがフリージアと言葉を交わすのは、何時振りか。

どれ程の年月が経ったのか。

自身はフリージアにとって、苦い記憶だと分かっていたドライグはイッセーと仲が深まろうとも話そうとは思えなかった。

 

その方が傷を抉ると思っていたからだ。

だが、それでも今のフリージアは見ていられない。

 

あの時見ていたフリージアではないのだ。

辛いと口にしていた時もあった。

私にも戦える力があればと嘆く姿も知っているし、けれど、ならば俺を使えとは言えなかった。

少女は戦うには向いていないからだ。

 

だが、少女はそれでもそれを認め、それ以外で役に立つことを決意した。

それを見て、ドライグは確かにその時安心感を覚えたのだ。

 

だからこそ、見ていられない。

 

あの決意を、踏みにじられ、それに気付かず力を求めるフリージアがただ見ていられない。

 

「ドライグ?そっか、そうだよね。

いるよね……貴方に何がわかるの。

私の弱さしか分からない癖に!

何も知らない、何も分からない龍の癖に!」

 

『確かに、俺は愚か者だ。

今でも宿命として何物かに俺が宿るのを指をくわえて見るしかできない愚図だ。

だが、それでも俺は知っているぞ。

フリージアという少女は力がなくとも、それを認め、逃げなかった奴だ。

断じて、今のように誰かに促され、従い、それを行使するような奴ではない。

今のお前は、力に酔い、決意を見失ってしまったというのは、馬鹿の俺でも分かることだ!』

 

「そして、俺がその決意を、思い出させる!

何に代えても、何が起ころうとだ!」

 

「……やめてよ…そうやって、そうやって!

私を、助けるとか、思い出させるとか!

力に酔うとか!勝手なことばかり言わないでよ!

そんなに私を、惨めで、弱くて、臆病なフリージアにしたいの!?虚しい思いなんてもうしたくないから、それだけの想いでこの力を手に入れたのに!」

 

「貴女は、惨めでも弱くも臆病でもない!

俺達との日々じゃなくても、フリージアさんの家族との生活はもっと、もっと良かったと思える日々だった筈だろ!」

 

「……うるさい!これ以上、私を、私を……!」

 

 

「惨めにしないでよ!」

 

『Boost!』

 

吸血鬼の身体能力の倍加、それによりイッセーの方が圧倒的に倍加してるのに追い付くのではないかと思うほどの速さで肉薄し、怒りのままに拳を振るう。

 

イッセーはそれを片手で掴む。

 

「くっ、この……!」

 

「速さは確かに今の俺と同じ位だ。

だけど、力は日々鍛えてる俺の方が上だ。」

 

「離、せぇ!!」

 

「離すもんか、離したら、俺は一生後悔する!」

 

もう片方の拳を振るうが、イッセーはそれを弾く。

しかし、攻撃をしない。

 

「何で、何で攻撃しないの!?

私は、敵なんだよ!」

 

「……ドライグ!」

 

『ああ、あったぞ!

ズェピア(・・・・)の言った通りだ!

フリージアとは違う魔力を見付けたぞ、相棒!』

 

「─!離せ!」

 

「うぉっ!?」

 

先程までの力より強い力で掴んでいる方の手を殴られ、手の力が緩み、距離を取られる。

 

フリージアは焦りのような表情を浮かべ、イッセーを睨み付ける。

 

「……ビンゴだな。後は、あれを取り除けば!」

 

『恐らくはな……もしかすればフリージアは本当に洗脳をされた訳じゃなければ……相棒。』

 

「─分かってる。ちゃんと『助ける』。」

 

「これは私の、これは、この力は、この虚しさは、惨めさは、辛さは、苦しさは、私の……!」

 

ぶつぶつ、ぶつぶつと焦点の合わない瞳がイッセーを捉える。

不気味さを感じさせるその瞳に、しかしイッセーは真っ直ぐとフリージアを見る。

そして、ズェピアとの会話を思い返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これを君に託す。」

 

「これは?」

 

「私でも何故作ったのか分からない。

だが、これは神器使いが使うことを想定した物だ。

……いや、訂正しよう、『君』に託す為に造った。」

 

「俺に?」

 

「もっと言うとだね、フリージアにもしもがあったときのために、可能性として考えて造っておいた。」

 

イッセーはズェピアから受け取ったあるものを見る。

ズェピアはただ、真剣にイッセーを閉じられた瞳で見る。

 

「……フリージアは既に何かをされているかもしれない。神器を埋め込まれたか、洗脳されたとかでね。」

 

「そんな……!」

 

「もし、前者ならば……これを使いたまえ。」

 

「…ありがとうございます!」

 

「感謝はいいが、使い方を説明させてくれないか。」

 

「あ、はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ズェピアさんから貰ったこの道具……使うなら今しかねぇ。」

 

『……だが、分かってるだろうな。それを使えば。』

 

「ああ。部長からも、皆からも許可は得てる。」

 

イッセーは禁手を解き、とあるものを取り出す。

機械のようで、形は四角く、赤い。

真ん中にはコアのような部分があるだけだ。

 

「それは……?」

 

「ズェピアさんが造った物です。

俺はこれを使って、フリージアさん。

貴女を助ける。」

 

「助ける……それにズェピア?

……ふざけないでよ!物にも負けるような女だって、言いたいの!?」

「そんなんじゃない。

これは、ズェピアさんが俺に覚悟を決めたときにしか使えない、そんなものだと言った。

俺は約束したんだ、貴女と。

だから──」

 

 

─俺はフリージアさんだけの赤龍帝になる。

 

 

イッセーは『それ』のボタンを1つ押す。

 

すると、《認証開始》と機械的な音声を発し、コアが光りだす。

イッセーはその機械のコアの部分に籠手の宝玉を当てる。

 

《認証完了。

赤龍帝の神器権を剥奪。

赤龍帝の籠手、最適化完了。》

 

赤龍帝の籠手が粒子となり、機械のコアへと吸い込まれる。

 

「ドライグ、どうだ。」

 

『ああ。中々良いぞ!』

 

ドライグの声が機械から聞こえる。

 

「いけるか?」

 

『無論だ。』

 

「何を───」

 

 

イッセーはフリージアの言葉に耳を貸さず、機械のもう1つのスイッチを押し、声をあげる。

 

 

 

「─変身ッ!」

 

赤龍帝の変機(ブーステッド・ドライバー)起動!

Boost on!』

 

 

ドライグの声と共に機械はイッセーの腰へとはまり、イッセーの体が包まれていく。

先程までの『禁手化』ではない。

その龍を思わせる姿とは違う、赤き戦士の姿。

 

禁手化の時のブースターは大きな見た目より簡易的な見た目へと、両腕には緑の宝玉が。

 

それは鎧ではなく、言うなればスーツのような物だった。

 

子供達が好きなヒーローショーに、テレビで登場するヒーローのようなヒーロースーツを身に纏った戦士の姿がそこにはあった。

 

フリージアはその姿を見て、呆然とする。

それも少しの間の事であり、すぐに憎い者を見る表情へと変わる。

 

「……馬鹿にして!!」

 

 

「いくぞ、こっからが俺らの証明だ!」

 

『応!』

 




ズェピア「ノリで作ったのを改良して、今回のための兵装にした。後悔はしていない、寧ろやりきった感すらある。」

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