今回は戦闘は無しです。
ネロ・カオスが敗北を認め、ようやく中盤を過ぎたと消耗しきった体で座り込みそうになるサーゼクス。
だが、そのまま座るのは許されない。
何が起こるかまだ分からない。
既にここは敵地で、不確定要素しかないオーフィスがいるのだ。
ここで襲撃されれば一溜まりもない。
同じく警戒を怠らないシオンに、サーゼクスは話しかける。
「…やっぱり君は、フリージア、なんだね。」
「……はい。」
儚そうな笑み。
シオン・エルトナムという殻を通じてその笑みを浮かべているフリージアの姿を思い浮かべると胸が痛くなる。
「僕たちがもっとしっかりしていれば、こんな事態にならずに済んだのに、申し訳ない。
いや、謝罪したところで許されるかどうか……」
「いいえ…多分、遅かれ早かれこうなっていたとは思います。
ですね、ネロ・カオス。」
拘束され、動けないでいる彼もまたふっと笑う。
最早抵抗の意思はない。
だが、念には念を、というやつだ。
「タタリは少々親馬鹿でな。
娘のためなら世界を相手取ろうとする時点で馬鹿さは察せ。
……だが、まさかこうなるとは、彼奴も思ってはいなかったろう。
元より、色恋沙汰には興味を示さない男だったからな。
ある意味では必然か……。」
「オーフィスは、今どんな状態なんですか?」
「…戦う前に言った通り、あれは長年にタタリを求めるがゆえに溜まった負の感情が入り混ざった状態で暴れている。
所謂、ヤンデレというやつだ。」
「『無限』のヤンデレとか誰得なんだ、まったく。」
アジュカが悪態をつき、それに多くが賛同する。
ネロは突如、笑みを消して真剣な目で話し出す。
「おい、そろそろ拘束を解いてくれると助かる。」
「……どうする?」
「ネロは約束を違えない性格だ。
自決だって出来たろうに、律儀に捕まったのが証拠だ。
拘束と彼の不死性も戻してくれ。
……いつ、オーフィスが来るか分からない。」
「不死性を戻されても恐らくは殺されるだろうがな。」
「…そうか、『無限』の権能か。」
拘束が解除され、不死性も戻ったネロ・カオスは理不尽極まると吐き捨てるように言った。
なるほど、と魔王三人とシオンは納得したように頷く。
しかし、周りはよく分かっていない。
何せ、無限の龍神とは存在を聞いたことがあまり無ければ、話したことすらない。
イッセーが手を挙げてサーゼクスに聞く。
「魔王様、『無限』の権能とは?」
「僕も詳しくは分からない。
けれど、アザゼルから聞いた話だと…
曰く、無限の龍神はゼロ以外の可能性を持ってきてあらゆる事を可能にできる。」
「そんなものが……?」
「私を殺せる可能性を引っ張り出せば殺せるというわけだ。
…昔はそれを使う方向性がおかしかったがな。」
「…聞かないでおくよ。」
「そうしてくれ。」
話したくないという雰囲気が溢れていたので聞かないでおくのが一番だろうと判断したサーゼクスは辺りを確認する。
戦闘の跡が目立つものの未だに誰かが向かってくるような気配はない。
……だが、無限ならば、と考えると油断はならない。
気配を消す、姿を消す等造作もないだろう。
「……それで、貴様らはどうする。」
「…ネロ、オーフィスの襲撃の可能性は?」
「ほぼ間違いなく来るだろうな。
タタリを仕留めた後か、それともその前に前菜感覚でな。」
「まともに戦える相手でもない……サマエルはなくともせめて白龍皇がいれば時間稼ぎくらいは出来た…だが。」
「それも無しならば、打つ手はなしか。」
「…いや、あるにはある。
けれど、無限はあらゆる事柄に対応できる…これが効くかどうか。」
「一か八かというわけか。」
「サーゼクスちゃん、アザゼル達が外で何かしてたりはしないの?」
「してはいるだろうけど、この結界を壊すには至らないだろうね。
そうなんだろう?ネロ。」
「その通りだ。
タタリに入ることも容易ではないが、破壊するのは更に困難を極める。
結界への干渉も厳しいだろうな。」
「うー……そっかぁ……」
セラフォルーは嘆くようにへたり込む。
情けないように見えるが、仕方のないことだ。
事実、周りもそのような状態だ。
ネロ・カオスだけでも厳しいのにその後が二人も残ってる。
しかも無限を除いてズェピアは厄介さはネロ・カオス以上だろう。
いや、そもそもズェピアは無事なのか。
「ズェピアは…生きているのかい?」
「生きている。」
「根拠は?」
「そんなものはない。
だが……あの馬鹿は死んでも死にきれない理由があるからな。」
「そんなものが……」
「想いというのは時に何物にも勝る。
ズェピア・エルトナムという死徒はその想いを原動力に今までを生きてきた屍だ。」
「屍……か。」
サーゼクスは腑に落ちたような感覚がした。
娘のためなら、という想いで動き、己を削っているのはネロ・カオスの言葉からわかってしまう。
自分には到底理解出来ない。
自己犠牲に近い精神性を持ち得ない限りは自分には一生理解することはないだろう。
そういえば、と聞きたいことを思い付いたサーゼクスはネロ・カオスに問おうとする。
「ネロ、またズェピアの事についてなんだが──」
「─ズェピアが、どうかしたの?」
とても落ち着いた、鈴のような声。
化け物の、声が辺りに響く。
『─ッッ!!!?』
ネロ・カオスを除く全員が声のする方を振り向いて驚く。
魔王三人とシオンにいたってはその驚愕は計り知れない。
「…フリー、ジア?」
「え、な、あ……?」
「……これは……」
「ど、どういうことなの!?」
フリージアの姿がそこにはあった。
いや、すぐに違うと理解する。
理解しても、それでも驚愕は消え去らない。
唯一違う点はフリージア本人の金髪ではなく黒髪ということだろうか。
そして、次に気付くのはその存在感。
間違いない。オーフィスだ、無限の龍神だ、と頭が警報を鳴らす。
そうして、目に光を宿していないオーフィスは無表情で
「うるさい羽虫、黙って。」
と言い、次の瞬間にはシオンの目の前にまで居た。
「─ぁ」
「─お前さえ、居なければよかったのに。」
その拳をシオンの胸にぶつけようとして─
「それは嫉妬というのだ、愚か者。」
黒い獣がオーフィスに体当たりをして、拳の位置をずらした。
「…ネロ、さん……?」
「何を呆けた顔をしている。
……家族を守るのは家族の役目だろう。
それに、貴様がここにいる以上……」
契約は続いているということになる、と笑みを浮かべてシオン…フリージアの隣に立つ。
その笑みは、フリージアが何度も見たことがある笑みだ。
戦いの時の獰猛な笑みではない。
面倒見のいい人の笑み。
分からない事を手取り足取り教えてくれた先生のような存在。
ズェピアと同じ位に頼もしい、家族。
恐怖が来るよりも先にずっと頼ってきた存在が味方についたことへの喜びで視界が潤む。
しかし、泣いてばかりではいられない。
涙を拭って、フリージアからシオンへ切り替える。
獣は既に消され、オーフィスは立ち上がる。
「……また、邪魔をするの?」
「無論。
……創生の土は然程効果がなかったか。」
「あれはもう効かない。
耐性を得なかったら三日は悶え苦しんでた。
…最後の警告、そこを、どいて。」
「出来ん相談をするほど愚かになったか。
何度でも教えてやろう、貴様の恋は叶わない。」
「っ、黙れッ!!!」
見破られた事への苛立ちか、それとも単に煩わしかったのか。
オーフィスは声だけで殺すのではというほどの声量で叫んだ。
一部の構えていた周りがその悲痛なまでの叫びに怯えが混じる。
黙ったことに満足したのか怒りの表情は消え去り、無表情に戻る。
「…黙ってくれればいい。
あとは静かに、殺すだけ。」
「何故殺す?奴は貴様に今も応え続けている。
貴様は奴を裏切るのか。」
「違うっ、違う!
ズェピアが裏切ったの!
ズェピアが、ズェピアがフリージアをずっと求めているからっ!
……ああ……ああ、お前、お前が!」
シオンを睨み、感情の爆発を止めようとせず、それどころか更に決壊していく。
シオンは睨まれてもただオーフィスを見捉えるだけだ。
何も言わない、言えない。
「お前が来てから、ズェピアはお前しか見なくなった……この世界だってそう!
お前が、もしかしたら来てくれるかもしれないという希望を持って展開した!
隣にたまたま並べたから?唯一人としての自分を最初に見つけ出したから?何で、お前なの……!
何だってしてきたのに、『
……なのに、なのにどうしてお前に勝てない!
お前という存在を少しでも小さくして彼の心を休めてやれない!?」
「…オーフィ「黙れ亡霊風情が!」ッ!」
「……どうして来たの?
嘲笑いに来たの?それともこの世界を壊しに来たの?
させない、もうここはズェピアと
憎しみをフリージアに向けるオーフィスに、彼女はどれだけ自分が後の家族を歪めたのかを目の当たりにする。
それはもう、彼女の知るオーフィスではない。
歪みに歪んで、溜め込んできた感情を爆発させて、自身の涙にすら気付けなくなってしまった。
「…それでも。」
それでも、諦めない、諦められない。
自分は家族一の頑固者だ。
あの時の死への選択への後悔なんてあるわけがない。
確かに、自分が折れて、死徒になったIFを想像せずには居られない時はあった。
…けれど、それはもしもの世界。
選択した後の世界はここなのだ。
だからこそ、無茶な選択をする。
『
どうしても、あの頃の皆の笑顔を見たい。
シオンは真っ直ぐとオーフィスの瞳を見る。
暗く、深い闇を孕んだ瞳。
「それでも私は、貴女とまた家族に戻りたい。」
「お前は家族なんかじゃない。」
「いいえ、家族です。
貴女であっても絶対に否定しきれない。
…否定させはしない。
貴女が、貴女として笑っていたあの時を、忘れさせはしない。
貴女を追い込んでしまった、貴女に背負い込ませてしまった。
……ごめんなさい、それでも─」
─貴女とまた一緒に本を読んで、トランプをして、食事をして、同じベッドで寝たい。
「その為に、私は貴女を助けます。」
「…覚悟を決めるとすぐだな、フリージア。
いいだろう、手伝おう。」
「元々人間の君にばかり無茶はさせられないよ。
僕も、出来る限りの事をしよう。」
「あの貧弱娘がよく吠えたものだ。
……嫌いじゃない。」
「もう、フリージアちゃんが頑張るなら私も頑張るんだから!」
「俺たちだって…やってやる!」
「どれだけ強くても…
「ボロボロなのに辛いけどね。」
「全く、過労で死ぬぞ。」
「あら、帰ったらお茶会ですよ?休む暇なんてありませんわ。」
「…頑張ります。」
「ぼ、僕もやってやります!」
「はい、私達も戦えます!」
皆がいる。
怖くなんてない。
第一、家族を怖がる必要なんてない。
死ぬかもなんて考える意味なんてない。
今からやるのは、喧嘩なのだ。
感情を出すのが苦手だった姉との喧嘩。
迷惑をかけてしまったのだから、叱らなければならない。
なら、怖くはない。
「オーフィス、初めての喧嘩をしましょう。」
「フリージア─!!」
拳骨を落として、叱って、仲直りをして、終わりにしよう。
『
世界を巻き込む家族喧嘩とか今思うも三島家かよ……と思いましたがあっちよりマシですよね。