番外編の平和さ凄いなぁって
暴威の嵐が吹き荒れる。
力の差は歴然、勝てる要素など万に一つもありはしない。
「オォ──!」
「……。」
それでも向かってくる。
拳を、剣を、魔法を、自らが持ち得る力を振り絞って向かってくる。
殴りかかってきたドライグの宿主を腕を掴んで放り投げる。
不屈の精神で向かってくる様は敬意を表するが、何度来ても無駄だ。
寧ろ、よく我の攻撃を7回も耐えたものだ。
「うぉあっ!?ガハッ……!」
「ハァッ!」
「これならばどうだ!!」
圧倒的に強いのは我の筈だ。
その気になれば世界ごとこいつらを沈めるのだって造作もない。
こいつらも理解してる筈だ。
……なのに。
魔剣を此方へと振るう男と女を纏めて横凪ぎに蹴ることで吹き飛ばす。
今ので何本か逝っただろう。
「きゃぁっ!」
「くっ!」
「うわぁぁ!」
何人も、諦めずに向かってくる。
何故?実力差は明確なはず……勝てるなどという幻想をまだ見ているのか?
「不愉快。」
…フリージアやカオス、魔王達に負けるとでも思われているのだろうか?
「……!」
背後から鹿一匹、空から烏が数羽、目の前には鰐とライオンが襲い掛かってくる。
魔力を放出することにより一掃する。
こんなのが効くとでも思われている?
屈辱的だ。
……いや、カオスがそんな無駄なことをするとは到底思えない。
なら、何かあるはず…。
だが、何が来ようと無駄だ。
あらゆる可能性は我の手にある。
だというのに……
何故足掻くのか、いや、足掻けるのか。
絶望を思い知った筈なのに。
どうして……諦めることをしない?
勝てる確率なんてないのに、助けるなんて言い出せるのか。
そもそも、何から助ける?
……くだらない。
所詮は羽虫の考えだ。
何から助け出すとか、そんなことは考えなくていい。
こいつらを殺して、ズェピアを呪縛から解き放つだけ。
あの女の約束を、忘れさせる。
存在も消して、声も消して、言葉も消してしまおう。
もう苦しみから解放させるんだ。
約束のために身を削って、記憶も削って。
……やはり駄目だ、これ以上の無茶をさせればおかしくなってしまう。
多少手荒になってもいい。
それでズェピアが我の物になってくれるなら。
我の元にいることが真の安寧を得れる。
我を倒せるものはたった一体を除いて存在しない。
今度は我が助けるんだ……そうすることが一番なんだ。
本当に愛してる我だからこそ出来ることなんだ。
「我の邪魔をするな。
大人しく死を受け入れろ。」
「ほう…素で話すようになったな。
死を恐れている貴様が死を受け入れろと言うとはな。
些か傲慢が過ぎるぞオーフィス。」
「黙れ、もう挑発には乗らない。
まずはお前から始末する。」
「ククッ、いいぞ。
貴様が私を殺す、私は貴様を殺さずに捕らえる。
良いハンデだ。
折角だ、あの時の大富豪の屈辱も晴らすとしよう。」
……馬鹿にして。
そんなに死にたいなら殺してやる。
「邪魔をするなら、家族でも許さない…ズェピア以外、皆消してやる。」
「…奴は世界を壊すほどの価値がある聖者でも何でもないがな。
我らはそうして奴を知らぬうちに追い詰めていたのだろうな。」
「僕たちの期待が、彼を精神的に追い詰めていた、か。…フリージアは普通の人間だったからこそ隣に並べたのかもしれないね。」
「私がいる前でそう言うのはやめてください。
私はただ、過ごしていただけです。
……ずっと、頼りきりでした。」
「……我の前で、その話をするのは、我よりも寄り添えたという優越感の見せしめ?」
「違います。」
対峙するフリージアはまだ諦めの目をしていない。
「我に勝つ気でいるの?」
「勝つのではありません。」
「なら何。
なら、何なの?
無駄なことばかりして、家族喧嘩だとか妄言吐いて、我はそんな意味のないことをする暇はない。」
「なら何故殺さなかったのです。」
「……お前かカオスから先に殺すから。」
「効率的には考えないのですね。」
いちいち感に触る事ばかり。
自然と体が怒りに震え、今すぐ殺したいという気がわき出る。
だが、まだだ。
彼の苦痛を教え、後悔させてやる……
考えても、考えても苛立ちが発生する。
もう面倒だ。
「うるさい、お前にはこの気持ちが分かるわけない。
お前を失った後のズェピアがどんなだったかも知らないで!
必死に生きて、約束を果たすまでと何度も一人で言葉を吐き出していたのをずっと見てきた。
どうして、どうしてすぐに来てくれなかった!?」
「……。」
「黙りか、それだけの存在だったのか!
我も、ずっと待っていた!
それまではフリージアの代わりを務めて、少しでも心を休ませようと思った。
でも駄目だった、だって、お前はお前しか居ない!
代わりになんてなれない!
なら、もう全て終わりにさせて止めるしかない。
気苦労も何も感じさせない世界を、ここなら創れる。
そう思っていたのに……お前がここに来た!
何故今来た?誰の差し金?誰がその魂を今まで留めていた!?」
力ある限りこの女の罪を叫ぶ。
今更来ても、もう遅いと。
もっと早くにお前が来てくれれば、何も狂わなかったと。
「今更、どの面下げて来た!
ねぇ、見てて楽しかった?滑稽だった?無様だった?
娘のため、娘のためと身を削って、心を削ってきたズェピアを見るのはその心を満たした?
ふざけるな、我らはお前の観察道具でも何でもない!
すぐに戻ってきてくれて良かったのに!
何で、何ですぐに来て、『ただいま』を言わなかった!?」
ここまで追い詰めておいて、何なんだ、この女は。
家族喧嘩とか、そんな事をして仲直り?
ふざけるのも大概にしろ。
感情がぐちゃぐちゃに混ざって荒れ狂うのを感じる。
そして、それを受け入れる。
だってこれは正当な怒りだ、憎しみだ、悲しみだ。
「もう懲り懲りだ。
ズェピアは我が助ける。
あんな約束、忘れさせればよかった。
あんな約束をしなければよかった!
我も苦しませていた!
だからこそ、我が救うんだ、世界なんてもういい。
我が欲しかったのはただ一人。
ズェピアを手にいれて、全部忘れさせて、苦しみも悲しみも存在しない世界を創り上げる。
お前にも、カオスにも、グレートレッドにだって邪魔はさせない!」
感情のままに叫ぶ。
夢を叶えると、全てを終わりにして、彼の幸せを創ると。
「…それが貴女の本心ですか。」
「そう。
どうせいつでも来れたんでしょ?
それなのに来なかったのは、愉しむ為だった。」
「違います。」
「どこが違う。
お前がもっと早くに来なかったからこうなった。
自分の無力さに耐えれないからと、見捨ててきた癖に。」
「……何もかも、違います。」
頑なな女だ。
そういえば、頑固さなら我の知る者の中では一番だった。
フリージアが、微かに体を震わせているのに気付く。
「何もかも、違う。
私だって、行きたかった。
でも、行けなかった。行かせてもらえなかった。
折角、転生も何もしていないフリージアとしての魂だったのに、アレは行かせてくれなかった。」
「……フリージア、アレとはなんだい?」
「…グレートレッドです。」
「─!」
グレートレッド?
あの、グレートレッドが?
「グレートレッドは、私が死んだ後に私の魂を次元の狭間へと保管しました。
……ズェピア・エルトナムへの抑止力として、私を。」
そんな、バカな。
あり得ない。
アイツが、そんな事をするなんて。
いや、でも……
『グレートレッドは、星に属する龍だ。』
もし、そうなら……フリージアは……
いや、違う。
そんなわけがあるか。
そんな事があってたまるか。
「お前が、ズェピアの抑止力だとするなら、グレートレッドはこうなるのが分かってた。
分かっていて、放置していたのか?」
「……はい。
事が起こるまで、あの空間を出ていくことも、会いに行くことも許さないと。」
ズェピアを討伐する理由を求めた?
アレが直接出向けばいいのに?
「無駄な混乱を避けるためにも私をここに送ったのです。」
「そん、な……じゃあ、フリージアは……。」
「私も、会いに行けなかった理由があった…ごめんなさい、オーフィス。」
「……だ……そだ……!」
「…オーフィス?」
そんな、そんな都合の良いことがあってたまるか。
グレートレッドがフリージアをズェピアの抑止力として保存していた?
馬鹿にするのも、程々にしろ。
「嘘だ、嘘だ!」
「嘘ではありません!
信じてください、オーフィス!」
「嘘を、つくなぁぁぁぁぁぁ!!」
どうして今さらそんな嘘をつくんだ。
どうして言い訳しか述べない!
苛立つ。
毎回そうだ、こいつは何かを盾にしないと何も言えない!
今度はグレートレッドか!
殺してやる、この害悪がっ。
「フリージアァァッ!」
「っ!」
がむしゃらに拳を振るった。
フリージアは必死の形相で何とか避けている。
どうして避ける!当たれ、当たれ、当たれ!
「っく、オーフィス……!」
「黙れ、喋るな!
もう騙されてたまるか!
信じられるか!」
「くっ、疑心暗鬼にも程があるだろう…!?」
「邪魔をするな!蝙蝠風情が!」
「ぐぉあっ!」
雑魚の魔王の一人が我に魔力弾を放つが、振り向き際にこちらも魔力弾を放つ。
威力はこちらが上。
あちらの魔力弾は消え去り、代わりに我の魔力弾が奴にぶつかり、数メートル先まで吹き飛ばした。
「アジュカ!」
「これならどうかしら!」
「っ、こんなもの!」
今度は女が我を凍らせようと魔法を行使する。
無駄だ、こんなものは効きはしない。
魔法を無効化し、同じく魔力弾を放つ。
我の魔力は無限大だ。
何をしようが、無駄だ。
あまりの早さに対応できず、女もまた吹き飛ばされる。
「セラフォルー!」
「……」
気付けば、フリージアの隣にはカオスが居た。
後は、魔力をほぼ使い果たし役に立たなくなった魔王一人とカオスとフリージアだけ。
魔王は後回しにして、カオスを殺そう。
地面を蹴り、また一瞬の内にカオスの懐へと潜り込む。
「むっ……!」
「死ね、獸。」
もう我は、お前を殺せる。
拳が、カオスに吸い込まれていく。
これで──『divide!』─!?
唐突に、横から蹴られる感覚と共に力が抜ける感覚が襲う。
これ、は─
「アル、ビオン───!!」
「─その通りだ、オーフィス。」
何故、何故こいつがここに。
おかしい、何故……
「ヴァーリ……!」
「見ない間に醜い顔をするようになったな。
それに、何故俺たちがここに……という顔だ。」
……気付かなかった、どうして……!
四人ほど、気配が増えている……どうやってタタリに侵入した……?
「余計な真似を…!」
「確かに、お前の戦いを邪魔したのは謝ろう。
だが、頼まれたからな。
存分に邪魔させてもらおう。
それに……」
ヴァーリは、より一層獰猛な笑みを深める。
待ちわびていたといわんばかりの笑みだ。
「無限と戦い、俺の力が何処まで通用するか試すのも一興だ!」
「この、くたばり損ないが───ッ!!!」
─────────────────────
一時間前まで、時間は遡る。
「俺たちがあの結界の中に、だと?」
「ああ、頼まれちゃくれねぇか?」
ヴァーリは訝しげに自身を頼ってきた男性、アザゼルを見つめる。
アザゼルは至って真面目な態度だ。
それも、今まで見たことがないほどの真面目さと焦りようだ。
どうやら、本当らしいと判断したヴァーリは考える。
「…何故、お前を裏切った俺を頼る?」
「俺達はあの結界…タタリって言うんだけどよ。アレの進行を止めるのに出向けねぇ。
サーゼクス達があの中に居るが、本当に勝てるかも不明だ。
だから、お前らを頼りたい。」
「これはズェピア・エルトナムの仕業か。」
「ああ、ズェピアとネロ・カオス。そして、オーフィスだ。」
「オーフィス……か。」
「なんだ?何か予感でもあったのか?」
「予感も何も、ズェピア・エルトナム達は何かを起こすと分かっていた。
……まさか、オーフィスもとは思ってはいなかったが。」
「そうかい。で、どうだ?やってくれるか?」
ヴァーリは考える。
自分たちを頼ってきたということはあの中にチームのメンバーも入るということ。
そして、相手の実力は未知数で結界の中もどうなっているのか分からない。
ヴァーリは戦闘狂ではあるが仲間を蔑ろにするほどの愚か者ではない。
故に、悩んでいた。
自身の判断で決めて良いものかと。
しかし、今は緊急事態なのも理解していた。
ヴァーリ自体はこの頼みを受け入れてもいいと考えているが、他はどうなのかと。
そこで、ヴァーリはアザゼルに条件を突きつける事にした。
「……なら、こちらの条件を受け入れればやろう。」
「その条件ってのは?」
「ああ、それは───」
こうして、アザゼルはその条件を受諾し、ヴァーリもまた、その依頼を受けるのであった。
・
・
・
「へえ、俺たちがあの中に?」
「うにゃー……話聞く限りだと死んでこいみたいな話にも感じるにゃ~」
「でも、受けたんだろう?何か考えがあるのかい?」
「途中で進行が止まったと思ったら三勢力と他の神話勢力が塞き止めてたんですね。」
「待て、一斉に喋るな。俺は聖徳太子でも何でもない。」
全員で話し掛けてくるメンバーにヴァーリは手でやめろでもと伝える。
一人一人の質問に答えるとも伝える。
真っ先に質問したのは、自身と同じ戦闘狂の部類の美猴だった。
「俺たちがあの中に入って、平気って保証は?」
「アザゼル曰く、大丈夫との事だ。」
「分かったぜぃ。」
次に質問してきたのは猫又である黒歌である。
「何か見返りとかあるの?」
「ああ、それは後で教える。
お前ら全員が喜ぶ内容ではある筈だ。」
「ってことは白音に会わせてくれるとか?」
「…よく気付いたな。」
「ちょっと今から全力出すわ。」
美猴以上に張り切った様子の黒歌に苦笑するヴァーリにアーサー・ペンドラゴンが質問する。
「勝つ算段は?」
「難しいな。俺達全員が全力でかかっても勝てないまである。」
「それは辛いね。」
そこまで辛そうには見えない表情で言うが、内心は何か考えているんだろう。
最後に、アーサーの妹のルフェイ・ペンドラゴンが質問をする。
「結界が世界を呑み込んだらどうなりますか?」
「それもアザゼルの解析でもよく分かってはいない。
質問に満足の行く解答が出来なくてすまない。」
「いえ、構いません。
私もあの結界は曖昧に感じてよく分かりませんし…。」
魔法使いとして才能に優れたルフェイでも分からない結界。
アザゼルでさえも分かってはいないタタリとは一体なんなのか……。
思考が深く入る前に打ちきり、これから作戦を提案する。
「まず、タタリに侵入するのは全員参加でいいんだな?」
「当たり前にゃ!」
「野暮なことは聞くなだぜぃ、ヴァーリ。」
「世界の危機だし、構わない。」
「私達で出来ることがそれなら。」
「…感謝する。
それでは、作戦についてだが……
まず、既に中にいる魔王達との合流をする。」
顎に手を当て、考える仕草をするアーサーが質問を投げ掛ける。
「やられているという可能性は?」
「あり得る。
だが、今回はまだ全滅していない線で話す。
合流した後、怪我人を治療しなくてはならない。
そこは全員に頼む。」
「ヴァーリはどうするにゃ。」
「俺はその間の足止めなりするさ。
重要なのは一人でも戦力を失わないことだ。」
「……ですね。」
「でもよぉ、オーフィスはどうするんだ?
ネロ・カオスとズェピア・エルトナムを倒せても無限の龍神様が残ってるぜぃ?」
ここで全員が黙ってしまう。
……オーフィスの打倒など、土台無理な話である。
元々、無限は何処まで強いのか、どうすれば倒せるのか。
それすら分からない。
「それでも、やれることをやる。
全員での脱出も視野に入れる。」
「それがいいね。」
「では、行くぞ。」
全員が頷く。
この中の誰かが一人でも欠けないことを密かに願いながらヴァーリはアザゼルの元へと向かった。
─────────────────────
存分に邪魔させてもらおう、とは言ったものの……
「死ねッ!!」
「グッ、オォ!」
禁手化しても及ばない、か。
流石は無限の龍神か。
一撃一撃が重いなんてもんじゃない。
避けながら半減させるのも無理がある。
もう既に三発程喰らってしまった。
後、どれだけの時間を稼げるか。
ネロ・カオスが何故味方になっているのかは分からないが、オーフィスに殺させてはならないと直感的に察した。
ネロ・カオスと側にいた女の支援攻撃で戦えてはいる。
だが、こちらの攻撃が効いている様子はない。
邪魔はできてもダメージがない。
「足掻くな、もがくな、生きるなァ!」
「チッ……!?」
『ヴァーリ!』
また鳩尾に一撃が入る。
吐き気と共に意識が揺らぐ。
しかし、気合いで倒れそうになる体に鞭をいれて意識を保つ。
「悪いが……まだ、付き合ってもらうぞ……!!」
「混ざりものの屑が……!」
赤龍帝もやられてしまった。
奮闘したが、及ばず。
ならば、俺も足掻こう。
ライバルよりも耐えて見せようとも。
オーフィスは一度離れ、その膨大な魔力を放出する。
一体何を……
「消してやる……!
原型も残らないほどに消してやる!
お前らなんか、要らないッ!」
オーフィスの手にあったのは、巨大な剣だった。
俺達を飲み込んでも余りある大きさ。
無限の魔力で造り出したそれは禍々しい黒でオーフィスの心を表してるかのようだった。
「ここまで、か……」
「…流石にこれは、防げんな……」
「ここまで来て……!」
皆が諦める。
勝てはしない。
無限の龍神は、最強だ。
どれだけ強くあろうとも、頂点にいるのは無限と夢幻なのだと。
その剣は絶望を俺達へと伝えていた。
俺達は、もう終わりなのだと。
オーフィスは嗤っている。
これで終わりだと、これで死ねと。
「アハ、アハハハハハ!
死ねェェェェェェ!!」
剣が、振り下ろされた。
憎悪の剣は迫ってくる毎に力の差を否が応にも理解させてくる。
そんな中、銃で援護をしていた女だけが、諦める様子もなく、目を閉じていた。
俺も、諦めているのに。
俺は聞いてみることにした。
「おい、何かあるのか?」
「いいえ、私にはもう、手はありません。」
「なら、何故諦めない?」
迫る剣を見ながら女は微笑んで、一言。
「─父がいますから。」
「なに─?」
次の瞬間─
「─え?」
─剣が、ガラスのように音をたてて割れ、消え去った。
分かっていたのか、この女は。
この展開を?
そんな馬鹿な。
「お前が諦めなかったのは、これか……?」
「……いいえ。
単に約束が諦められなかった。
それだけです、私とあの人は。」
理解できなかった。
約束の事も、それだけのために諦めない女の事も。
オーフィスも、理解できないように呆然と立ち尽くしている。
女は後ろを見て、微笑む。
「遅いよ……本当。」
一体、誰が……。
俺も、ネロ・カオスと魔王もまた後ろを見る。
「いや、すまない。
先程まで、チケットが売っていなかったものでね。
─無事かね、
「……うん、また、助けられちゃったね。」
「構わないとも。
君が無事でよかった。
再会の挨拶は、また後でにしよう。」
「うん……!」
そこに居たのは、穏やかな笑みを浮かべ、女に話しかけるズェピア・エルトナムがいた。
女もまた、泣きそうな顔でズェピアと言葉を交わす。
「……白龍皇君、感謝する。
君が時間を稼がなかったらこの結果は無かった。」
「…いや、感謝しなくても良い。
それより、任せても良いのか?」
「ああ、安心して任せてくれたまえ。」
「……そうか。」
俺は、壁に寄りかかる。
疲れがどっと出てきた。
それだけの、俺にとっての死闘だった。
オーフィスは、ズェピアを見ると、体を震わせる。
「どうして……守ったの……」
「君に、殺しをさせないために。
娘を守るため、叱るために。」
「…邪魔をしないで。」
「それは出来ない。
私は、君に受け止められてばかりだった。
だから、今度は私が……
「っ、ズェピア……!」
ズェピアは俺達の前に出て、オーフィスに告げる。
「終わりにしよう。
この狂った劇を。」
ようやく再会した二人。
そして、ようやく向き合える二人。
次回でようやく、オーフィス戦本番