【完結】 ─計算の果てに何があるか─   作:ロザミア

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それを選ぶのは主役足る彼次第。


終わりの分岐点

「終わりにしよう。

この狂った劇を。」

 

ああ、くそ。

素で喋ってしまった。

ワラキアはこんなことを言わない。

だって、悲劇も喜劇も彼にとっては同価値なんだから。

 

……けれど、寧ろ、本心を告げるのが一番なのだろうか。

 

俺は、後ろにいるようやく再会できた少女を見る。

彼女は、俺を信じている。

……ハァ、本当、敵わない。

 

父親の弱味というか、なんというか。

娘の期待には応えたくなる。

 

でも、目の前の娘は、叱らなければ。

 

元を辿れば逃げてきた俺の罪だ。

謝罪なんかで事足りるか、どうか。

 

「ズェピア、フリージアがそんなに大事?」

 

「同じぐらいに、君も大事だ。

娘に優劣はつけられない。

……だが、君を頼りすぎてしまった結果が、これだ。」

 

「頼らなくても、してたよ。」

 

「いいや、しないさ。

君は純粋で、優しい子だ。

少し親孝行の方向性が違っただけで、悪ではない。

……だが、これはやりすぎだ。」

 

「我を叱るの?」

 

「勿論。

家族同士での問題は家族で解決しなければならない。

私は、君とフリージアの保護者だからね。」

 

「もうアレは家族じゃない。」

 

「家族だッ!」

 

「──ッ。」

 

「否定はさせない!

忘れたとも言わせない!

君も、笑っていただろう?

皆で遊び、皆で食卓を囲み、皆で過ごした日々を!

君も幸せを確かに感じていた筈だ!」

 

あの日々を、嘘にしたくはない。

あの子の笑顔を、嘘にしたくはないんだ。

 

それを聞いてオーフィスは押し黙る。

俺相手なら多少は会話に応じてくれるらしい。

何だかなぁ……父親として見られてないっぽいし、辛いわ。

 

それでもいいかって思うのはやっぱり親馬鹿なのかな。

 

「オーフィス、もうやめよう。

再会も出来た。約束は、果たされた。」

 

「でも、そいつは、ズェピアを何年も、何十年も待たせたんだよ?

そいつの言い訳なんて、我は信じない。

信じられない。」

 

「(…これも俺が招いた結果か。)

すぐに信じろとは言わない。

だが、頑なに自分の意見だけを貫くのは良くないな。」

 

慎重に言葉を選ぶ。

オーフィスは今、感情の制御が出来ていない。

初めてここまで爆発させたのだ、歯止めが利かないのだろう。

俺も、そんな時があった。

 

だから、下手な言葉は刺激して暴れさせてしまうかもしれない。

そうなったら力づくになるが、俺はそれを好まない。

 

「…ズェピアにとって、我は娘?」

 

「……ああ。すまない、私は君をどうしても一人の少女として見ることが出来ない。無論、フリージアもだ。

故に、私は君の愛に応えられない。恋に応えられない。」

 

「……そう。」

 

顔を俯かせたままのオーフィスは静かになる。

 

……理解、してくれたのだろうか。

 

俺を含めた皆がオーフィスの反応を待っていると、オーフィスは体を震わせる。

 

まずい、何か刺激してしまったか!

 

「……あはっ、アはハは……」

 

「オーフィス…私は、「馬鹿みたい。」……。」

 

オーフィスは、俯かせていた顔をあげる。

俺は、その表情を見た瞬間、心が痛んだ。

 

「…本当、馬鹿みたい。」

 

泣いていた。

あの滅多に泣かないあの子が。

その笑いながら、泣いていた。

 

俺はその涙を見て、今までのとは違う意味の涙なのだと理解した。

フリージアが死んだときの涙ではない。

俺が記憶を失っていったときの涙ではない。

 

あれは、自身を惨めだと嗤う涙だった。

 

「我は、結局一人でおかしくなって、一人でズェピアを救おうと躍起になって、一人でフリージアを恨んで、一人で狂言回しをしてた。

嗤うしかない、こんなの、馬鹿馬鹿しすぎて、嗤うしかない!」

 

「だが、それは私を思っての行動なのだろう?」

 

「違う、我の為の行動だった。

我はね……ずっと、ズェピアが欲しかった。

保護者としてじゃない。

一人のヒトであるズェピアが、欲しかった。

吸血鬼としての貴方だけじゃない、『人間』としての貴方が、ひたすらに欲しかった!」

 

─人間の、俺を?

 

「だって、吸血鬼の貴方は、何かの殻を被ってる貴方だって知ってるから。

中身の貴方は、本当は弱くて、脆いって知ってるから!

だから、我の物にして、他との関わりを消して、ずっと平穏で辛くもない日々を与えたかった!」

 

「…君は、ずっと?」

 

「ずっとじゃない……フリージアが死んでから、その想いが強くなった。

……ズェピアの日記、見たよ。

本当は、辛かったんでしょ?期待だけなんて嘘でしょ?

見てれば分かる。

ズェピアはずっと、フリージアの死を誰よりも悲しんで、誰よりも無力感に打ちひしがれていた…。」

 

「……。」

 

よく、人を見てる。

そう教えたのは俺だけど、ここまでしっかりと見てるとは、思わなかった。

 

…狂っていたのは俺なのかもしれない。

 

オーフィスは俺を過剰なまでに好いている。

それは事実だ。

だが、オーフィスが俺の事を誰よりも身を案じていてくれていたのも事実だ。

 

何処までも、俺は弱い。

弱くて、脆い。

狂わせるしか出来ないのか、俺は。

 

「我は誰よりも貴方を理解してる。

ずっと、見てきたから。

痛みを隠すのも知ってる。

そうやって、元々の貴方は消えたから。

……ズェピアは、強い。

でも、本当は弱いのを、ズェピア自身が分かってない。」

 

「そのようなことは…」

 

ない、とは言い切れなかった。

無意識に苦し紛れの言い訳をしようとしている自分が情けない。

 

ずっと、あの子に無理をさせてきたんだ。

 

オーフィスは俺に微笑みながら、ゆっくりと近付く。

止めようとは思わなかった。

 

目の前まで来たオーフィスを、俺は見た。

 

そうして改めて理解した。

 

「(ああ、この子はこんなにも小さい。

中身が大きくても、この子の心はまだ、無垢なままだったんだ。)」

 

それを狂わせた。

それをねじ曲げた。

 

オーフィスは俺に抱き付いて話始める。

 

「…ね、今から、終わらせよう。」

 

「……。」

 

優しく、言い聞かせるようにオーフィスは俺に抱き付きながら言う。

 

「ズェピアはもう、頑張らなくてもいい。

だってずっと頑張ってきた。

我を怖がらずに家族と言ってくれた。

我に知識をくれた。

我を個人として、接してくれた。」

 

「…ッ。」

 

「でも、もういいの。

頑張りすぎた位に、ズェピアはやってきた。

この世界で、終わりにしよう?

これ以上は、持たないよ……。

ズェピアが壊れるところなんて、もう見たくない。

ここで、終わらせて、二人で永遠に静かに過ごす。

それだけで、ズェピアは…『貴方』は、楽になれる。」

 

「それはっ……」

 

「……ズェピア。

もう、いいんだよ。」

 

「ぁ────」

 

心が崩れる。

それが最悪の結末を示す提案なのも理解しながら、放棄しそうになる。

 

……そうだ。

 

ずっと、頑張ってきた。

家族に弱いところを見せたくはないと。

家族を何者からも守れる程に強くならないと、と。

 

ずっと、隠してきたんだ。

怖い、辛い、悲しいという心の叫びを隠してきた。

 

それを、この子は見付けてくれた。

 

密かに、誰か気付いてほしいという願いに気付いて、叶えようとしてくれていた。

 

これ以上頑張ったら、心だけじゃなく、文字通り俺の全てが壊れてしまうと。

そう、言ってくれている。

 

甘言かもしれない。

でも俺には救いのようにも聞こえた。

 

もし、オーフィスを選べば俺はもう、何もしなくてもいい。

 

オーフィスに縋れば全てを終わらせて、この世界という殻で平穏を与えてくれるだろう。

きっと、幸せで、怯えることもない夢を、見せてくれる。

 

それは、とても素晴らしいに違いない。

 

心がそれを求めているのが、嫌でも分かる。

否定なんて、出来る筈がない。

 

「……オーフィス……」

 

「…『貴方』が願ってくれればそれでいい。

そうしたら、何も怖がることのない世界で二人きり。

我が怖い?」

 

「……いいや。」

 

「よかった。」

 

優しく、包み込むような温かさだ。

何もかもを安心させてくれるような、温もりだ。

 

……どうするかは、俺次第、なのだろう。

 

 

「(俺は────)」

 

決断は、すぐに出た。

 

後は、言葉にするだけだ。

 

「オーフィス、私は───」

 




はい、ここで終わらせたということは皆さまお察しでしょう。

バッドエンド、ハッピーエンド。
どちらもを投稿します。

皆さま、勿論バッドエンドを先に所望しますよねぇ?

次回、『安らぎを得た先で。』
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