HAPPYENDが一話だけだといつから言った?
なにげに英語のタイトルって初めてですね、これ。
その誘いは、正しく俺の心に響いた。
屈する、というより縋るに近い。
オーフィスに縋りつけば、きっと言葉通りに終わらせて、言葉通りの安らぎを俺に与えるのだろう。
それがどうやってなのかも分かる。
確かに、俺は今までが怖かった。
ずっと、隠してきた。
それをこの子は見破っていた。
……この子なりの救い方で俺を救おうとしていたんだ。
それを俺は…なにも分かりもしないで拒もうとした。
きっと、このどちらかの選択肢を選べば結果は確定する。
オーフィスを選べば、『
フリージアを選べば、俺個人が望んではいない、だが『
…もし、フリージアを選べば、オーフィスとは……。
だが、かといってオーフィスを選べば、何もかもが消え去り、本当の意味での新世界で二人になる。
……幸い、オーフィスはずっと待っててくれる。
だが、長い時間悩むのは、失礼だ。
「(俺は結局、何を目指した?
再会か?平穏か?闘争か?)」
何かが、噛み合わない。
俺が目指したもの……俺は、ズェピアは何を目指してこの世界の今を生きてきた?
再会は違う、俺はそれを待っていただけだ。
平穏も違う、それは、俺の望みであって、目指す果てじゃない。
闘争も違う、戦って、果てを知りたいなんてのは過程にすぎない。
……どうする、どうすれば俺にとって、オーフィスにとって、教授にとって、フリージアにとって……俺達家族にとってのハッピーエンドを……
ハッピーエンド……そんなものを目指すのは当たり前だ。
誰だって自分にとってのハッピーエンドを目指す。
オーフィスにとってのハッピーは俺を自分なりのやり方で救ってその後の世界で二人で過ごす事。
フリージアにとってのハッピーエンドは家族でまた笑い合う事。
きっと、教授にとってのハッピーエンドは、俺次第なのかもしれない。
……なら、俺にとっての、ハッピーエンドは……?
再会は、出来た。
これが俺の目指したハッピーエンドなら、俺はオーフィスの言葉で崩れたりはしない筈だ。
再会ではない。
それは約束であって、ハッピーエンドではない。
…ああ、いや、そうなると、俺にとっての最良の終わりは我儘が過ぎるんじゃないか……?
…………ふう、参ったな。
「オーフィス。」
「何、ズェピア?」
「私は…我儘なのだろう。
君の言う終わりも、フリージアの言う終わりも…私が欲するものではない。」
「…じゃあ、どんな終わりが良いの?
貴方は……ズェピアはどんな終わりならいいの?」
いつの間にか、オーフィスは俺から距離をとっており、穏やかな笑みを浮かべて俺を見ている。
……威圧感が無いからこそ、分かることがある。
きっと俺の願いにこの子は
それも、俺の願いを取り潰して強引に自分なりの終わりに導くに違いない。
だが、それは許されない。
ここは、俺の舞台だ。
これは、俺の物語だ。
誰にも俺のエンドを決めさせはしない。
俺が決めるからこそ納得できる終わりになるんだ。
俺は覚悟を決めて、同じように穏やかに自分の願いを伝える。
「私の願いは……家族と共に笑い合いながらもう何もしなくていい、平穏な日々を過ごすことだ。」
自嘲する。
自分で事を起こしておいて何て勝手な奴だ。
これが終われば死ぬかもしれないのに?
……だが、それでこそなのだろう。
人としての生を失い、
人間は自分勝手で、傲慢で、臆病な生き物だと。
当たり前な日常を望みながらも、常に現状を良くも悪くも壊そうとする。
それ故に、ここまで生きてきた。
人類は存続してきた。
生き物を食い潰し、自然を食い潰し、星を食い潰しても尚、朽ちることがない欲望。
……俺の中身もまた、どこまでいっても人間でしかなかったってことか。
当然か、人が人でなくなれる訳が無いんだ。
ワラキアの夜も、最初から化け物の感性だけの現象じゃなかった。
ズェピア・エルトナムという人間が計算の果てになってしまった姿。
救いを求め、救いを計算し、救いの方程式を生み出そうともがいた人であったひとでなし。
きっとそれは執念の塊だ。
だからこそ、人を惹き付けた。
俺もそうだった。
……俺は、ワラキアの夜になりたかった。
でも、本人になれるのは本人だけ。
俺がなれるのはワラキアの夜を形取ろうと必死になっていた阿呆だ。
だから、奴がやるわけがないこともやれる。
悲劇なんて、俺には要らない。
欲しいのは喜劇だけだ。
やっと、気付けた願い。
これを手放しはしない。
「それは、駄目。」
「それを決めるのは君ではない。」
「駄目、ズェピアはもう休むべき。
だから我が元凶を消してないといけないのに…どうしてズェピアも邪魔をするの?」
「私の願いを邪魔するからだね。
第一、私はフリージア達を元凶と思ってはいない。
……長い生を受けた私は、いずれはこうなる定めだった。」
「違う!」
オーフィスは大声で否定する。
そんな事はあり得ないと。
どこまでも優しい子だ。
だからこそ、歪むのもすぐだったのかもしれない。
「そんな事ない!
ズェピアは、頑張りすぎたからそうなった。
それもこれも、フリージアや魔王達や…我のせい。
だから、我が終わらせるの。」
「……それこそ違う。
私は、私がやりたいからやったのだ。
私なりのエゴだ。
私の意思がやると決めたことを、君が否定する要素などない。
……君たちは悪くはない。全て私の責任だ。」
「どうして否定するの?
苦痛をずっと耐えるなんて出来はしない。
その殻に閉じ籠ってばかりで何になるの?」
「閉じ籠るか。
的を射た言葉だ。
……諦めることが出来たら、楽だったのかもしれない。
だが、ズェピア・エルトナムという人物は諦めることをしなかった。
ワラキアの夜は悲劇も喜劇も良きものとしていた。
だが、私は……喜劇が見たい。
この殻を閉じ籠ろうと、私は私だ。」
「……ズェピアの願いがそうでも、我は……。
やっぱり、駄目。
そんな無茶をしてまでズェピアに笑っていてほしくない。
我は間違ってなんか、ない。」
「ああ、そうだ。
君は間違っていない。
正解なのかもしれない。
だが、それならば私も正解な筈だ。
元より願いに解答などありはしない。
だからこそ、私は私の願いを叶えるために、君の願いを否定する。」
これは結局、押し付けあいだ。
願いを叶えるのに、気に入らない願いを持った奴がいるから叩き落とすようなもの。
だからといって俺はオーフィスが嫌いなわけでもない。
対峙するだけでも心苦しい。
お父さん泣いちゃう。
……それでも、俺はその願いを叶えさせるわけにはいかないから。
はっきりと否定させてもらう。
監督審査はもう俺がやることではないので、この世界の
オーフィスは否定されたのが苛立つのか、俺を少し睨んでくる。
確かに、自分なりとはいえ俺を助けようとしているのに否定されたら何で?とか思うかもしれん。
まあ、でもね、俺の平穏=全人類抹殺は違うやん?
なので、俺は彼女の怒りを受け止める。
今度は俺がしっかりと受け止める。
「それは、ズェピアとして否定してるの?
それとも、貴方?」
「両方の意見だ。」
「……そう」
「君と私の願いは相容れない。
……そうなれば、1つしかない。」
「……ズェピアは我に勝てない。」
「勝て『は』しないだけだよ。
そんな勝負、もう味わった。」
「……。」
それに、今は感情が爆発してないように見えるかもしれないが、俺には分かるんだぜ。
その静かな狂気が俺に向けられてるのはさ。
オーフィスは仕方無いか、と構える。
げ、構えるのか……さっきまで自然体だったのに。
俺の時だけそれはせこくないですか。
「否定された分と、相容れない分だから……今度は四肢をもいで、動けないように拘束する。」
「それは困る。
そうされると、君を受け止められないからね。」
「それは告白?」
「いや、まったく。」
「…期待させた分で内臓追加。」
「(やっべ地雷踏んだわ)」
軽い会話でもしないと俺の心が軋むのでしっかりやっていこう。
オーフィスも会話には応じてくれるしね。
……俺の時だと会話に応じるって相当なんだよなぁ…病み度。
まあ、何はともあれ…決戦って奴だろ。
ラスボス…ではないな、うん。
持ってくれよ、俺の体。
娘を助けるときくらいは、頑張るかな。
俺は、後ろの皆を巻き込まないように結界を張る。
これで、衝撃は向こうにまでいかない。
……よし、やるか。
俺は、意識を切り替える。
分割思考、展開。
さあ、
タイトルの意味は真実への道です。
さて、次回はオーフィス対ズェピアですね。
もうちょっとだけ付き合ってください。