遂に始まった親子喧嘩。
その結末や如何に。
今回は長めです、どうぞ。
結界が張られてしまい、手出しが出来なくなった。
あの人は、オーフィスと決着をつける気だ。
『私の願いは……家族と共に笑い合いながらもう何もしなくていい、平穏な日々を過ごすことだ。』
彼の願いを思い返す。
私の願いと殆ど同じように思えるが、違う。
彼は、オーフィスとの蟠りを解決し、本当の意味で笑い合いたいのだ。
私は、違う。
私の願いはズェピアの願いのような先が無い。
そこで終わってしまう停滞。
「フリージア。」
「……ネロさん。」
声がして、振り返るとネロさんがズェピアとオーフィスの戦いを見ていた。
あくまであの戦いを見ながらの会話。
私もまた、二人の戦いを見る。
やはり、力の差は歴然。
ズェピアはオーフィスの攻撃に手も足も……いや、違う。
私は、理解して、驚愕した。
「ズェピアは、どうして……?」
「ズェピア・エルトナムなりのオーフィスへの謝罪なのやもしれんな。」
「それでも、あれは…」
そこまで言って、その後の言葉を、私はわざと言わないことにした。
どのみち、結界で何も出来ない。
いや、しない方がいい。
したら悪化する。
そんな確信が私にはある。
「フリージア……少し、いいかな。」
サーゼクスさんがいつの間にか隣にいた。
立っていたが、もう限界なのか座り込む。
断る理由もないので会話に応じることにした。
「ありがとう。
……君とネロは分かってるのかもしれないけど、僕達にはまだよく分かっていない事があるんだ。」
「オーフィスの暴走の原因、ズェピアの言葉の意味ですね。」
サーゼクスさんはそれに頷く。
実を言うと、私にもよく分かってはいない。
オーフィスの言葉通りだと、ズェピアは『ズェピア・エルトナム』という殻を被った誰かという事になるのだ。
流石に、変装などではないだろう。
誰かが化けているというのもない。
……そうなると、本当に言葉通りの?
「二人とも理解が追い付いてないようだな。
いいだろう、私が説明しよう。
……といっても、言葉通りの意味なのだがな。」
「待ってくれ、それだとズェピアは僕達だけじゃなく、君やフリージア、オーフィスにもズェピアという殻で接していたことになる。」
「違うな、魔王。
ズェピアという殻でしか、接することが出来なかったのだ。」
「……その方法でしか僕達に接し続けられなかった、或いはそうせざるを得ない事態だったのか?」
「前者が正解だな。
ズェピア…いや違うな、この場合は名前が分からんからAとしておこう。
Aは、臆病故に化け物という殻を頼るしかなかった。
殻にさえ籠れば、後は演じるだけだからな。
だが、奴はその殻に同化しすぎた。」
「本来の自分を、出せなくなったの?」
「内面でしかな。」
「それは……」
…じゃあ、ずっと演じてたんだ、あの時から。
家族に、せめてオーフィスに位は本来の自分を出してあげればよかったのにと今更な怒りが沸き上がるが、すぐに静める。
臆病、かあ……そんなズェピア、想像が……
『……ズェピアが泣いているところ、初めて見たわ。』
『──泣いている?私が?』
……ああ、そっか。
確かに、臆病なのかもしれない。
そして、内面を出すことが出来なくなったのも納得した。
出来る筈がない。
でなければ、あの時、初めて泣いたように驚かない。
思えば、あの時だけは、素の彼だったんだ。
最期に、見せてくれたんだ。
「……でも、ネロさんは知ってたんだね。」
「随分と前からな。
あれは、私の記憶するタタリではないからな。
ズェピア・エルトナムの姿を借りた誰かというのは分かっていた。」
「そっか。」
「…まだ聞きたい事があるけど、今は戦いを見ることに集中するよ。」
「負けるとは考えないのだな、魔王。」
「…どうだろうね。」
サーゼクスさんは、戦いを眺めながら、神妙な面持ちだった。
「やっぱり身内とか友人の事になると甘いんだろう。
ズェピアが負けるとは思わない。
それが単にグレモリー特有の情愛が原因なのか、はたまたサーゼクス・グレモリーという個人の感情なのかは僕にも分からない。」
「ふむ。王が自らの感情を理解できていないとはな。」
「そんなもんだよ。
自分の事は自分がよく分かってるなんて言葉があるけど、実際は他人が見る自分の方が本性だ、なんてよくあることだ。」
「違いない。」
「……。」
会話を聞く限り、ネロさんも負けるとは思ってないようだ。
まあ、私もなんだけど。
「何にせよ、僕達は傍観者……いや、ズェピア風に言うのなら、観客としてこの戦いを見届けなければならない。」
「それが終わり、ズェピアが無事ならどうするつもりだ?」
「……彼は犯罪者何て言う枠組みで収まる人物ではない。どうあっても今の法で裁かれるだろうね。」
「…何とか、なりませんか?」
「ならない。これは悪魔とかの問題ではないんだ。
僕程度が口出しできるとは思えない。」
「奴が素直に裁かれるといいがな。」
「ハハ、妙なところで律儀だし、問題ないんじゃないかな?」
「でも、ズェピアは演技……」
「例え演技だったとしても、彼が心から笑えていた時間はあった。君が分かってないといけないところじゃないかな、フリージア。」
「……。」
「それに、僕は本来の彼とか知らないからね。
長年の付き合いはズェピア・エルトナムという『彼』だ。どっちにしろ、僕は信じるけどさ。」
「そう…ですね。」
会話はそこで終わり、後は彼の戦いを見ていた。
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正しくそれは身を削る戦いだった。
どれだけ強くなろうと、相手は無限だ。
勝てる算段など、1つも無し。
いや、あるにはある。
だがそれは、
龍だからと、龍を殺す生き物を再現するなどやってはならない。
向き合うと決めて、また逃げの一手を打つのか。
否、否である。
この戦いは覚悟を決めて受け止めるための戦いだ。
故に、自分は──
「─ギィッ……!」
「……どうして……?」
オーフィスの一撃を腕で受ける。
当然のように、腕は吹き飛ぶ。
痛い。
焼けるような痛みという表現も生温い。
オーフィスは構えを解かない。
そうだ、それでいい。
ぶつけてこい、お前の全てを。
「どうして、攻撃しない!?」
「ッ、くっ…ははは……」
─何もしない。
俺は攻撃を一切しない。
放棄する。
どうせ、勝てないのだ……等という諦めではない。
最初からこうする予定だった。
我ながら、狂気的な行動をしている。
一撃一撃が体の一部を欠損させるというのに、それを敢えて受けるなんて笑ってしまう。
ああ、これでいい。
お前の全てを俺は受けきって見せるとも。
全身を消すほどの一撃、受けるとも。
星を砕く程の一撃、受けるとも。
君の全力、受けるとも。
全部受ける。
オーフィスは、理解が出来ないように、俺を見る。
俺は、笑いかける。
右腕が、吹き飛んだ。
腕一本になったな。
困った。
横腹も抉れている。
……が、吸血鬼の再生力のお陰で塞がる。
「中々、苦痛を伴うものだな……!」
「何で?どうして我の攻撃をくらうだけ?
どうして我を攻撃しない!?」
「私は、娘を攻撃する父親、ではない……」
「なら、結界を解いて!
無駄なことをしないで!」
「君の力で、壊せばいい……させんがね」
「~ッ!」
困惑を隠しきれない、といった様子だ。
当然か、俺は、さっきから結界を壊す一撃を代わりに受けている。
こういう時、分割思考は便利だ。
オーフィスの動きがよく分かる、予測できる。
……まあ、準備は終わったから次からは結界への一撃は構わないが。
にしても、死徒でも痛いもんだね。
いやはや、予想より痛みがありますね。
1割増しですよ……誤差ですね。
「ズェピアは、それでいいの!?
我は、我はズェピアに安らぎを与えたいだけなの!」
「理解している。
君の言うように、私はそれを欲している。」
「ならどうして……?」
「それでも、私は君と、フリージアと、ネロ・カオスと。
……家族で、共にいたいのだ。
君の願いを否定するはめになろうとも、君の想いを無駄にすることになろうともだ。」
「……分からず屋……!!」
「君が言うか!」
オーフィスはその言葉を皮切りに俺に肉薄し、拳を、脚を、魔力をぶつけてくる。
避けるなんてしない。
受け止めよう。
だが、そうだな……言葉を告げる体力諸々は欲しい。
俺は身体強化の魔法を自身に掛ける。
勿論、体の耐久力も上がることだろう。
付け焼き刃にしかならないが。
容赦ない攻撃が俺を襲う。
「頑固者、監督気取り、三流役者!
どうして、どうして!!」
「ぬ、ぐぁ……!」
「我の事を選んでよ!
選んでくれたら、選んでくれたら何もかも、ズェピアの、貴方の心に安らぎを与える楽園を創るのに!
どうして理解ってくれない!」
この娘は、俺を諦めさせるためにこうして攻撃している。
確かにここまで殴られたり蹴られたりして、泣き叫ばれたら心が折れそうだ。
言葉による説得は無駄だと俺から伝えたようなものだからな。
そりゃ、最終手段の暴力しかないわな。
「ずっとそうだ、ずっと、ずっと、ずっと!
理解してくれるようで、理解してくれてない!
フリージアが死んだとき、我は確かに悲しんだ!
それでも、それでも先に出てきた感情は貴方に求められるという期待だったっ!」
「それは、初耳だ…な……」
─ちょっと、待ってください。
死ぬ、これは死ぬ。
痛いなんてもんじゃない。
死徒、それもズェピア・エルトナムの肉体じゃなければ粉微塵になって死ぬレベルだ。
訴えるのはいいけど、その暴力を一旦止めてください!
無理なのは分かってるけどやめて、全部聞けなくて死ぬ!
くっそ、シリアスを貫こうとした俺の心がガラスのように砕け散った!
無理だ、内心だけでもこうやってないと持たない!
そんな俺の心の叫びが届いたのか、オーフィスは攻撃をやめる。
「期待したのに、貴方は理解ってなかった……!
我は、ずっと求めてくれる、頼ってくれると思ってた!
それなのに、貴方は一言も、側に居てくれとも言わない!
怖いとも、寂しいとも言わない!」
「…そこまで想われるとは、父親冥利に尽きるね。」
「っ、まだそんな……」
「まあ、聞け。
…確かに、あの時から私はまた家族を失うことが怖かった。ズェピア・エルトナムの仮面を被り、心さえも誤魔化そうとするほどにはね。」
「なら、どうしてそれをっ!」
「言える筈がない。
私なりの見せたくない一面というやつだよ。」
「…そんな事の為に?
そんな、意地の為に、自分を壊したの!?」
ああそうだ……とは、言えなかった。
オーフィスがその俺の意地の為の被害者なのを分かっていて俺の心配をしているのが苦しかった。
理解しているのに、それでもと俺を選んでいる。
こんな男の何処に惚れたのやら…。
「もっと、自分を大切にして!
家族のために磨り減らしてきた精神を、今度こそ消す気?そんなことされても嬉しくも何ともない!
やっぱり分かってない!」
「……すまない。」
「謝罪なんか……!」
「…すまない、私は父親として、守らねばならなかった。」
「っ、我はっ!」
全く以て、俺はダメな男だ。
今もオーフィスを苦しめてるのが分かっていて、こんな事を言っている。
怒りをぶつけるように、拳が飛んでくる。
無論、受ける。
とても痛いが、内臓とかには影響がないので問題はない。
幸い、意識は無事で足も無事だ。
なら、問題はない。
もっと言えば生きているので問題はない。
無限チャレンジ、サンドバッグ編ってか。
俺じゃなきゃ死んでるぞこれ。グレートレッドのド畜生ならどうだろ。
……死ねるかな、多分。
俺に対してだけこうして手加減してくれてるので、嬉しいが、それでもこれである。
肉片になってないだけ褒めて欲しい。
「どうしてこんなにしてるのに……!」
「倒れない、かね?」
「!もう、黙って!」
「ぐぅっ、ふ、ふふ……倒れることはあり得ない。
娘の攻撃で倒れる父親はいないからね…」
「黙れ!黙れ!黙れ!」
鳩尾ばかり狙うのはやめてください、吐いてしまいます。
意識が若干遠退いたが、気合いで耐える。
根性論って、当てにならないと思ってたけどそんな事はなかった。
娘のためと思ってたらやれるもんだ。
にしても……
「どうしたのかな、段々と威力が下がっているが。」
「黙って!!」
さっきから攻撃を受けてばかりでドMに思われるかもだが……いやもう、そう思われてもいいんだが。
そもそも無限と戦おうなんていう無謀行為に走ってるんだ。
当然、勝負になるわけがない。
多分、本当の意味での戦ったら俺は瞬殺だろう。
俺が仮に強い部類だとしても、小細工をしても勝てはしない。
……可能性があるとしたら、初めて会ったあの日なら勝てたかもしれない。
今の俺の強さで出会っていたらという無理ゲーだが。
サマエル使っても今のオーフィスに勝てる気がしない。
毒が刺さる前に殺しそうなんだもの。
賢くなるって、凄いなぁ……。
何度も殴られ、蹴られて。
そろそろ意識が途絶えそうだ。
途絶えそうなだけなので、問題はない。
俺がこの娘に出来るのは、受け止めることだけだ。
今まで溜まっていた行き場のなくした感情の渦を受け止めることしか俺には出来ない。
でも、その後にこの娘が……。
攻撃を受けながら、思考をしていると腹部に衝撃が走る。
……あー。
「……っく、はは…いやはや、ここまで殴られるとは、私は相当な愚か者だったか。」
「ズェピアが、悪いの……ズェピアが……!」
腹にオーフィスに拳が埋まってる……というか入ってる。
痛い、痛いぞこれは……中に異物感が凄まじく、吐血する。
…いや、これはヤバイ。
人間ならマジでヤバイ。
その後、拳を引き抜かれた後に、蹴られたのか、吹き飛ばされる。
痛い。
死ぬかもしれない痛さだ。
このままだと、失血死するかも。
吸血鬼が失血死とか笑えないな。
そんな馬鹿な事を考えながら立ち上がる。
「ああ…確かに、私が悪い。
君がここまでなったのは、私の責任だ。
……故に、私は何もしない。
叱ったが、聞いてくれないからね。
しかも私が叱られる始末だ。」
「どうしてまだ立つの……?
おかしい、もう何本も骨を折った、腕も片腕を残して吹き飛ばした…腹に、穴も空けたのに……?」
「……死徒だからね、痛みに強くできている。
が、これは少々キツいな。」
不屈の精神を持っている俺が倒れるとかあり得ない。
俺が倒れたら結界も消える。
それだけはいけない。
あっちは死がいつくるか恐れている。
だが、俺は攻撃を耐えるだけだ。
何と楽なことか。
「…──。」
血を流しすぎたせいでふらつく。
倒れるものかと堪えて、立つ。
あと何発受けれるか。
……なら、動くか。
オーフィスに近付こうと足を動かす。
上手く動かずに倒れそうになる。
分割思考を体の命令に回す事で何とか動かす。
「っ、動かないで。
それ以上動くと、今度こそもう片方の腕を引きちぎる!」
「…オーフィス、その台詞はね……」
一歩一歩確実に、オーフィスへと近付いていく。
オーフィスは先程のような勢いは何処へやら、完全に俺に対して怯んだような反応だ。
近付くな、それ以上近付くと云々はなぁ……
しかし、考えても見て欲しい。
願いを否定するとか言っておいて何するかと思ったらただ攻撃食らうサンドバッグになってその後にゆらゆらと近付いてくる男だぞ俺は。
あーそりゃ怯むわ。
後で謝ろう。
「動かないで、そんなに……これ以上我の邪魔をするなら!」
「むっ……」
オーフィスは掌に魔力を集中させる。
多分、当たったら消し飛ぶかな、あれは。
まあ、でも。
そんな事で怯んでたら父親やれないわな。
構わず俺は歩いて近付く。
もう走れないからな。
俺を脅すつもりなら、その百倍は最低でも持ってこないと話にならないぞ。
と意地をはっておく。
本当は怖いです。
「オーフィス……!」
「結界を解いて、それだけでいい!
ズェピアはもう、もう休んでいいの!
お願いだから、お願いだからぁ……!」
「休んでもいいのは……君だ。
君に、私は頼りすぎた。
このような事態になるまで君に頼りすぎた。」
「…今更、今更そんなこと「娘をっ!」っ……」
「娘を理解できなかった私は父親として失格だ。
あの時も、フリージアの心の全てを理解できなかった。
君の心も、そうだ。
私は、何も出来ない父親だった……。
だからこそ、だからこそだ……」
足がふらつく。
今にも倒れそうだ、だが、倒れていないので歩く。
もう少しだ。
魔力のせいで体が震えそうになるがそれを気のせいだと言い聞かせて震えを止める。
「父親とは何かと問い続けてきた。
父親とは家族を守る者だと答えを得た。
だが……守れたのは、平凡な少女だけだった。
私は、愚か者だ。
君が強いからと、勝手に決めつけていた。
心まで、強くはないというのにだ……。
その結果が、現状だというのなら元凶たる私が何とかしなければならない。
それでフリージアや君から…家族と見られなくなってもだ。」
「ぁ、あ…」
頭に浮かんだ言葉だけを紡ぐ。
それが俺の本心なのだと。
そうして俺は、オーフィスの目の前まで、やってきた。
その気になればもうすぐに死ねる。
それでも死なないのはきっと……。
俺は魔力をこちらに向けている方の掌に前まで、来たのだ。
俺の言葉が届いたのかは分からない。
単に気味が悪いということで動けていないだけかもしれない。
それでも、やってきた。
右腕が、無かったのを思い出した。
なので、左手でこちらに向けている腕を掴む。
「……放つなら、放つがいい。
だが、宣言しよう。
例えこの身が消えようと、この腕は、君を離さない。」
「っ……アァァァァ!」
魔力の球が強く輝き始める。
何があっても、この選択は間違ってない。
死なすも生かすも、お前次第だ、オーフィス。
…。
……。
掴んだ腕は、震えている。
輝きが消えると、掌に集中していた魔力が消えていた。
どうやら、俺は賭けに勝ったようだ。
目の前には、顔を俯かせて泣いているオーフィスが。
また、俺は娘を泣かせたようだ。
俺はボロボロな左腕に鞭を打ち、腕を引っ張り、抱き寄せる。
「……もう一度、君の家族として、父親として…生きていいだろうか。
君とフリージアとネロ・カオス……あの時のように…平和で楽しい時間を過ごそう、オーフィス。」
「でも、我は……我は…もう、否定して……!」
「否定しても、謝ればいい。
私が側にいる。」
「でも、世界を壊そうとした!」
「罪は私が背負う。」
「ズェピアを、貴方を、殺そうと……」
「娘からの過剰な愛情だと受け取らせてもらうとも。」
「どうして…?どうしてこうなってまで……我を、カオスを、フリージアを……」
「至極当然な答えしか出せないが……。
…俺の、願いだからだよ、オーフィス。」
「ぁ……」
オーフィスは俺の言葉に顔をあげる。
俺は、意識が飛びそうになりながらも今出来る最高の笑顔を向ける。変な顔になってなければいいが、そこはズェピア・エルトナムの顔だし、問題はないか。
「君が、家族だから。
……だから、一緒に帰ろう。」
「…ズェピア…ぁぁ…」
オーフィスは俺にしがみつき、また泣き出してしまった。
俺は、昔みたいに頭を撫でて、泣き止むのを待った。
……結界も、解除していいか。
まだ、泣き止みそうにない。
好きなだけ、泣くといい。
今まで溜め込んできた分、ここで流すべきだ。
この娘の心に、それだけ重荷を背負わせていたのだと改めて自覚する。
その役目も、俺が背負う。
今まで背負ってくれてありがとう。
俺が、本来背負うべきものを背負ってくれていた娘に、感謝の念を抱く。
「…本当に、ありがとう、オーフィス。」
聞こえるか分からない位小さい声で感謝する。
もう大きな声出せないからね、仕方ないね。
…それにしても、あの糞蜥蜴……どうしてやろうか…
ああ、くそ、終わったと安心すると意識が…まだ仲直りさせていないのに。
……まあ、泣き止んだら、落ち着いてるだろう。
「オーフィス、私も、少し……」
「ズェピア……?」
駆け寄ってくる音が、聞こえてくる。
多分、皆も回復してるだろう。
後は、頼んだぞ教授。
ちょっと、働かなかった分働いたから…疲れてしまった。
「ズェピア……ズェピア……!」
死にはしないと、言葉にできたら良かったのだが。
恨めしいことに、そこで俺の意識はそこで途切れた。
この後、とても赤い蜥蜴に怒りの鉄拳を下すと誓いながら。
言葉とは、力以上に発揮するときがある。
次回、HAPPYEND 3です。
…あの蜥蜴、どうなるんでしょうね?