ズェピア・エルトナムによる世界を巻き込んだタタリは無事に終わりを告げた。
これといった犠牲者も何もなく終わり、ホッとする。
ただ、一体だけ報い…というか、当然のように倒された龍もいたけど、些細な話だ。
最強の龍が一体だけになっただけの話。
現在は冥界ではなく、駒王にある家に住んでいて、オーフィスもネロさんも忙しいらしく、私は一人だ。
というのも、オーフィスは利用した禍の団の事後処理を魔王様たちと共にしていて、これが大変らしい。
まあ、したのはオーフィスだから庇えないんだけど。
ネロさんは拉麺屋での店主なので、家に帰ってくる時はいつも遅めだ。
確か、店名は『泰山』だったかな……。
行ってみたけど、辛いものしか無くてあの時ズェピアが作った麻婆豆腐が余程気に入ったのが分かった。
食べてみたら、死ぬほど辛かったけど不思議と食は進んだ。
まあ、それだけじゃなくてオーフィスの手伝いもしてるらしいけど、オーフィスが自分でしたことだからと少ししか手伝わせないので店の方に集中してる、とか。
私は…取り敢えず、皆が帰ってきたときの為に料理したり、洗濯したり……家事担当をしている。
肝心のズェピアはまだ駒王学園にいるだろう。
教師としてか、リアスたちの顧問でもしてるのか……。
ズェピアはタタリを起こした者として重い罪が課せられる筈だった。
だけど、タタリが無くなった後、冥界の様子などを見に行ったところ、あの時タタリに居た人以外、誰も覚えてないらしい。
世界中を飲み込んだタタリはそれこそ夢のように誰からも忘れ去られた。いつも通りの生活を送ったという記憶に改変させたとズェピアは言っていた。
流石にその前に事情を知ってたファルビウムさんやグレイフィアさんには説明したらしい。
サーゼクスさんは、何もなかったのなら罪はないねと言い、それを他の魔王様たちが駄目に決まってるだろと言った結果として、異常事態が発生したとき必ず来るようにという罰を課せられた。
これは罰……なのかな?
というか、堕天使と天使陣営が覚えてないからと悪魔陣営が勝手にそうするのはやはり悪魔らしく腹黒いなと思った。
そのお陰でズェピアは殆ど自由の身だ。
というか、もう何かをするのは疲れたと真顔で言っていたので何もしないだろう。
娘の私が保証する。
そういえば、オーフィスはまだズェピアを諦めてないらしい。
娘という存在じゃなくてオーフィスという一人の女として見てほしいそうな。
あんなことがあった後なのにブレないのは凄いと思う。
この前なんか夜中まで帰ってこなかったから遂に…と思ったけどそんな事はなかったらしい。
項垂れてるオーフィスを元気付けるのに結構時間が掛かった。
「今日、どうしようかな……シチューにしようかな……。」
夕飯を作る為に冷蔵庫の中身と睨めっこしながら考える。
シチューなら、残ってもまた食べられるし、そうしようかな……。
皆、シチュー好きだし、そうしよ。
皆好き嫌いがないし約二名がよく食べるから作り甲斐が
ある。……私のトマト嫌いは多分直らないんだろうなぁ。
……皆早く帰ってこないかなぁ。
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「すみません、先生も忙しいというのに……。」
「いや、構わんよ。
私が手伝いたいからしていることだ。
君も大変だな、支取君。」
やあ、皆の衆。
俺だよ、ワラキーだよ。
何か真面目じゃない場面でようやく挨拶できた気がする。
現在俺はソーナちゃんたち生徒会の荷物を持って生徒会室まで向かっているところだ。
さて、あれから何があったかを説明しよう。
黒い銃身によって貫かれたグレートレッドは苦悶の声をあげながら消滅した。
元々、黒い銃身はグレートレッドを倒す為だけの兵器。
どんな事があろうとそれを起こしたのがグレートレッドならば負けることはない……と思いたい。
グレートレッド特攻という誰得な性能だ。
その後はさっさと皆の元に帰ってからタタリを解除。
その際に記憶改変を行ったがそこまでの改変はしていない。
あの数日の記憶は全て日常を過ごしたという記憶にしてある。
ま、事前に知ってる奴への説明はサーゼクスたちに任せたがね。
しかし、お咎めが実質無しになるとは思ってなかった。
いやまあまだ強敵がいてそれを倒す役目を背負いましたけども。
お陰で黒い銃身はまだ破棄してないです。
後は、何やかんやあって俺達家族は駒王で暮らしている。
オーフィスの手伝いにも行ってるのだが大半はあの娘が終わらせるのでもう俺は要らない子状態。
…そろそろ禍の団の事後処理も終わる頃だな。
そうしたらいよいよ束縛が無くなって精神的にもちゃんと落ち着けるってもんだ。
フリージアには家事を任せる事になって申し訳無い気分だが、本人は寧ろやらせてくれと言うのでそうすることにした。
フリージアは魂の状態だったので、タタリで彼女の体を用意して器に魂を入れることで存在を安定させることに成功した。
教授に至っては拉麺屋で店主だ。
激辛麻婆拉麺とか……どこの神父だよ……。
いよいよもってあの人は声優ネタのキャラなのではと思い始めてきた。
これで他のキャラネタ言ってきたら確定だ。
リアスちゃんたちは俺たちを許してくれた。
理由が、サーゼクスたち魔王の判断がそれなら従う、だそうだ。
何だかタタリの一件で皆成長したようにも感じるし、この先の困難も俺がいなくてもやれそうな気がする。
ついでに虚夜 件先生は俺だということを教えるとそこまで驚かれなかった。
驚き疲れたからもういい、だそうだ。
ソーナちゃんにも教えたのだが、予想はしていたそうだ。
くそぅ、驚く反応が見たかった。
…ま、後は本来の役者に任せよう。
グレートレッドがいなくなったということは多少は運命も変わるだろう。
だが、それは悪いことではない。
他者に縛られ、望まぬ未来を押し付けられるのは誰にとっても屈辱だろう。
故に、これでいい。
「先生、ありがとうございます……先生?」
「…ん?ああ、すまない。考え事をね。」
「そうですか。私たちに出来ることがあれば相談してください。リアスたちも手伝ってくれるでしょうし。」
「ハハハ、それはありがたい。
いつか頼らせてもらうよ。
多少重いが持てるかね?」
「流石に後は中に入って置くだけですので……。」
考え事ばかりで生徒会室に着くまで話してないやん……
教師失格だ、気まずい雰囲気だったかもしれないのに俺というやつは……。
取り合えず、荷物を渡して生徒会室に入っていくソーナちゃんに一言告げねば。
「支取君。」
「はい、何でしょうか?」
「生徒会は大変だろうが、頑張りたまえ。」
「…はい、そのつもりです。」
そう言って、話は終わったと判断したのかソーナちゃんは生徒会室へ入っていった。
俺も残った仕事をさっさと終わらせて帰るかな。
そう思い、職員室へと向かった。
・
・
・
ようやく終わった…現代社会は厳しいね。
今それを思い出しましたわ。
気付いたら、夜になっていたので俺はさっさと帰ることに。
他の教員たちも帰るところだ。
「虚夜さんはどうします?」
「どうする、とは?」
「いや、これからどっかに寄って食べようってなってるんですが、虚夜さんもどうかなって。」
「あー……申し訳無い、娘たちと食べる予定が……」
「えっ、虚夜さん結婚してたんですか!?」
「いやいや、引き取った子でね。
けれど、私にとっては本物の娘だ。」
「へぇ~じゃあ今度ということで。」
「ええ。」
申し訳無いことをした。
今度奢ろう。
俺は支度を済ませてさっさと帰る。
学園を出て、街灯はあれど暗い道を一人歩く。
そろそろ夏も終わるなぁ。
そういや、メルブラも夏だったか。
妙なところで一致するのな。
家までが遠く感じる。
転移すればいいって?何となく、歩きたいんだよ。
そんなときが皆もあるっしょ。
……っと、誰かがこっち来るな。
いや、他にも歩いている人はいるけど、一際気配的なのがね。
というか、家族でしたね……
「ほぼ同じ時間に終わったようだな。」
「そのようだ。オーフィスは一緒ではないのかね。」
「もうすぐ終わるとは思うが……」
「ん、もう終わった」
「そうかそうか、それはよかった……」
『……!?』
「?」
いつの間にかオーフィスが俺の隣に居たので、俺と教授は驚く。ほ、いつのまに!?
てか、京都でもこんな事あったよね?
肝心のオーフィスは首を傾げている。
あーもう可愛い娘だなぁもう。
俺は驚愕からすぐに戻り、オーフィスの頭を撫でる。
「えへへ。」
「驚いた、いつのまに?」
「ついさっき。ズェピアとカオスの姿が見えたから。」
「跳んできたと。」
「ん。」
「心臓に悪い……帰るぞ、二人とも。
フリージアが待ってるだろう。」
「そうだね、早く帰るとしよう。」
「ん。」
オーフィスが俺の腕に抱きついてくるが、別に邪魔じゃないので好きにさせておく。
教授はその様子に呆れ顔で見るが、まあ仕方ないよ。
「こうして三人で歩いて、家では失った筈のあの娘がいる。……中々に良い結末だと思わないか。」
「唐突だな。
だが、そうだな…1つ問いたい。
貴様のいう舞台の終わりは、これでいいのか?」
質問してくる教授に俺はふっと笑い、答えを提示する。
ずっとやってきた事だ。
それを日常で出来るのは素晴らしい。
「いや、まだこの物語には続きがある。
…まあ、見せなくても良い話だがね。
その先は観客の想像に任せるとしよう。」
「ふっ……そうか。」
「ん、家、着いた。」
愛しの我が家に着いた。
夕飯作って待ってるだろうし、早く入るか。
俺は鍵を開けようとして、やめてからインターホンを押す。
オーフィスと教授は俺の意図を察したのか苦笑する。
ピンポーン、と前世の俺も今の俺も聞き親しんだ音が響く。
その後、家の奥からドタドタという音がする。
鍵を忘れたのかと思ってるのかな。
ガチャリと玄関の扉が開く。
「はい……ってズェピア?それに、二人も。
鍵忘れたの?」
「いや、何となく、開けてほしかったといったところかな。」
「え~?何それ、変なの。」
少し話してから中に入ると良い匂いがする。
……シチュー、かな?
やったぜ、俺はシチューが紅茶の次に大好きなんだ。
なんて良い日なんだ。
俺はもう死んでもいい、よくない。
さて、今日も言おう。
この言葉は、俺にとっては重要な言葉だからな。
「フリージア。」
「ん、なあに?」
「─ただいま。」
いつも言っているけれど、何よりも大事な台詞。
俺という舞台から降りた役者がそれでも使い古していくと決めた台詞。
俺の気持ちを察してくれたのか、それともいつも通りの返しを言えば良いと思っただけなのかは分からない。
でも、彼女はいつも咲いた花のように笑っていうのだ。
「─うん、おかえり、皆。」
「さて、待たせてしまったかな?
早く夕飯にしようか。支度は?」
「お皿並べるから手伝ってくれる?」
「あ、我がやる。」
「私は飲み物でも出すか。」
「ありがとう、ネロさん、オーフィス。」
「ふむ?私は何をすれば?」
「んー……じゃあ、座って待ってて。
一家の大黒柱なんだから。」
「むぅ、承知した。楽しみに待つとしよう。
では、二人とも、存分に働きたまえ!」
「「財布からクレカむしりとるぞ。」」
「やめて。」
日常的な会話を、きっとこれからも繰り返す。
それがたまらなく嬉しい。
これが俺にとってのハッピーエンド……とは言わないでおく。
まだ俺は終わってないからね。
だけど、これから先の話は俺たちだけの劇場とさせてほしい。
観客は…未来の自分ってところかな。
長く続いた計算はついに答えを導きだした。
公式は完成したのだ。
足掻いた甲斐はあったのだ。
俺の望む未来への道に出来ると信じた。
その思いは無駄ではなかった。
目の前には、望んだ光景が広がっているのだから。
今日の紅茶は今までで一番の味となることだろう。
もう舞台は終わった。
役者も去った。
脚本のページは最後まで進んだ。
名残惜しい。
どれだけ愚かであってもこの劇を続けた意味はあった。
どれだけ臆病であっても、逃げなかった意味はあった。
ならばこれでいいのだろうさ。
最後に、一言だけ。
「……願わくば──」
─次の
さあ、幕を下ろせ、喜劇は終わった。
これにて『ハイスクールD×D ─計算の果てに何があるか─』は終幕となります。
この作品が良きものと感じてくれたのならば私も書いてきた甲斐があります。
語りたいことが多いのですが……!
しかしあまり長ったらしいとワラキーにくどいと言われてしまいますからね。
これで終わりとさせてもらいます!
最後に、活動報告も1つ更新しましたので、見てくれると幸いです。
では、皆様も良き演劇を。