「君のため、これを造り出した……そう言ったね。
すまない、あれは嘘であり、本当だ。
これは、君のためであり、フリージアの為の物だ。
だが、騙すのは心苦しい。
なので、正直に吐く。
これを使えば、君は神器を失い、この世界の範疇から外れた科学、錬金術を扱うことになる。」
「……。」
「それの何が問題か……かね?
そうだね、簡単に言うとだ。
君は危険視される。
教会、悪魔、堕天使関係無くだ。
それほどまでに、科学の力はあらゆる勢力にとって恐ろしいものだ。
過酷な道を選び、一人の大切な者を守るか。
安易な道を選び、何かを切り捨てていくか。
それは君が決めること。
君の脚本、君の物語、君の人生だ。
全てが君の選択次第であり、君の舞台となる。
私は、これを渡すだけ。
私は、これを託すだけ。
私は、脚本に手を加えるだけだ。
それしか出来ない。
それだけしか、私には『もう』出来ないんだ。」
「……?」
「……ああ、確かに、私はそのリゼヴィムとも戦えるし、いざとなれば倒すことも出来る可能性はある。
出来るだろうとも。
それは、事実であり、避けようのない残酷さというものだ。
けれど、だ。
私が向かい、私の選択で家族を失う可能性が0%であると言い切れないのであれば。
私はそれを選ばない。
それを選べば自死すら選ぶだろう。
だからこそ、君らが必要で、それが必要かもしれない。
戦いもせず、逃げていると罵ってくれてもいい。
─だが、娘達だけは、家族だけは。
どうか、助けてほしい。
私が死ぬのは構わない。
死んで娘が救われるのなら何十、何百、何千と死のう。
呪いだって受けよう。」
「……!」
「ハハハ、中々格好いい台詞だ。
私好みの台詞だ。だが、それは置いておこう。
とにかく、これを使えば今後の君を保証は出来ない。
リアス君が許そうと、裏の世間が許すかは別なのだよ。仮にそれが君がその気であろうと無かろうと。
何より、戦争という単語、現象に極端に反応するからね、彼らは。
全くもって質の悪い。
だが、安心してほしい。
そうなったとしても私は、私達は君の味方だ。」
「……?」
「何故か、かね。
決まったことを言わせないでほしいのだが。
分からないという顔をするとは、もう少し考えてくれ。
……それでも分からない?ならば答えるとも。
娘が味方するから、君に味方する。
至極普通ではないだろうか?」
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変身し、新たな力をその身に纏った俺は調子を確かめる。
禁手の比にならない力強さを感じる。
これは確かに、危険視をされるかもしれない。
『やあ、イッセー君。』
「!?ズェピアさん!?」
「ズェピア……?」
『(相棒、落ち着け。これは録音だ。)』
「(そ、そうなのか……)」
『これを着てるということは、使う意思を示したということだね。嬉しくもあり、申し訳無いとも思う。
さて、これから簡易的な説明に入ろう。』
どうやら、俺とドライグにしか聞こえないようだ。
フリージアさんはズェピアさんがいるのかと警戒しているようで、すぐに向かっては来ない。
『まず、このスーツ……『
『(何……!?)』
『赤龍帝であるドライグの魂を直接媒介することでドライグ本来の力をほぼ100%引き出す。それが『
倍加も出来るし、譲渡も問題なく行えるだろう。
そして、もう1つ機能を付け足しておいた。』
「機能……?」
『相手の能力、もしくは何かを与えている物体や魔力等を一時的に奪取する機能だ。』
「(なんだと!?)」
『まあ、恐らくはドライグの籠手ならば出来たことだろうが、やれる確率を上げられるならその方がいい。
さて、ここまでが解説だ。
後は、一言。
頼むぜ、主人公。』
「主人公……。」
そんな大層なモノではないと言いたい。
けれど、録音された声に言っても無駄だ。
それよりも、その前の一言。
あれが、ズェピアさんの素なのだろうか。
「……ズェピアさんは居ませんよ。」
「っ、騙したの?」
「そっちが俺の声に過剰に反応したからでしょう。
やっぱり、ズェピアさんには勝てないみたいですね。」
「うるさい!……ズェピアは、強い。
吸血鬼として最上位の強さだって、リゼヴィムは言ってた。そんな存在、私が倒せるわけがない。」
「力、力と言う割にはすぐに諦めるんですね、フリージアさん。
分かってるんじゃないですか?」
「……何を。」
「結局、フリージアさんは幾ら強い力を得ても、扱いきれない。いや、十分に使おうとはしない。」
「根拠は?私に出来ないと言える根拠がないよ、ヒーロー。」
馬鹿馬鹿しいと笑うフリージアさんに、俺は何だか寂しさを覚えた。
何故かは知らない。
「先に不安になるからです。
後先を考えず、それを使うとか、そういうのを考えられない。これをしたらこの後は何がある。
こいつを倒したらこの後は誰が来る。
そんなリスクを考えて、使うべきかを迷う。」
「……。」
「幾ら心が変わっても、根底まではそう簡単に変わらない。それを埋め込まれても、それは同じだ。」
「好き勝手言って……!」
「フリージアさんが言えたことじゃないはずだ!
ズェピアさんやオーフィス、ネロさんの気も知らない今のフリージアさんが、一番好き勝手なことを言ってる!
どんなにズェピアさんがフリージアさんを心配しているか、どれだけオーフィスがフリージアさんを大切にしているか、どれほどネロさんがフリージアさんに優しくしているか!」
「ッ、うるさい!うるさい!!
そんなの、力がある奴の余裕だ!
私にはそんなのは無かった!
不安、苦しみ、妬み、憎しみ!
全部、全部私が今までずっと持ってきて、育った感情!
理解されてたまるか!強いからって、弱いやつを可哀想な者を見る目で、割れ物を触るように扱って!
私が、それにどれだけ苦い思いをしてきたか分かる!?
分かるはずがない!」
『来るぞ相棒!』
「ああ……!」
怒りのままに向かってくるフリージアさんに迎え撃つように俺もまた駆ける。
気絶させて、抜き出すのは簡単だ。
だけど、それじゃいけない。
フリージアさんは、確かに辛さや苦しさを抱えて生きてきたんだから。
『疲れ、ちゃうね。ずっと生きてるって。』
それでも、今まで一緒に生きてよかったと言っていたんだ。家族との絆を、あれほど大切にしていたのはフリージアさんじゃないか。
例え、苦しくても、それでも手放さない強さがあるんだ。それをねじ曲げて、狂わせるんなら……
「どんなに戦おうって、どんなに強くなりたいと思っても、体が先に倒れる!心が挫ける!
その籠手があっても、使おうだなんて思えなかった!
足手まといになって、何もかもが駄目になるのが怖くて!でも、今はもう違う!」
「違うもんか、今だって怖いはずだ。
俺だって!貴女に拳を向けるのが怖いんだ!」
「それなら、倒れてよ、私に倒されてよ!」
拳を弾き、右肩を素早く殴る。
それにフリージアさんは悲痛な顔を浮かべるが、すぐにまだ殴りかかってくる。
「こんな紛い物の力が無くても、戦う力なんか無くてもフリージアさんは強いんだ!」
「っぁ、うる、さい!
出鱈目を口にして、気休めを口にして!」
「く、ぐっ……気休めじゃないし出鱈目でもない。
ズェピアさんが言っていた!おかえりの一言を聞くだけで今日も守れたと誇れることを!
オーフィスが言っていた!一緒に遊んでいるときは何物にも代えがたい時間だって!
ネロさんが言っていた!フリージアさんの料理は一度食べれば病み付きだって!
他にも、部長達、魔王様達も、俺だって!
純粋な貴女に、助けてもらってるんだ!」
「─っ─ァァアアアアア!!」
『相棒!!』
フリージアさんの籠手に魔力が集まる。
これは……ドラゴンショット!?
こんなゼロ距離で撃たれたら防御が間に合わな──
「ガァァッ!?」
案の定、防御が間に合わず、全力のドラゴンショットを受けて吹き飛ぶ。
壁に激突して、地面へと倒れ込む。
『相棒!無事か!?』
「ぐっ、ぅぅ……!何とか……」
『馬鹿か!刺激し過ぎだ!』
「確かに、やり過ぎたか……」
「ハァ……ハァ……!」
頑丈なスーツでよかった。
ズェピアさんに感謝しつつ、立ち上がって肩で息をしているフリージアさんを見る。
「何で……何で立ち上がるの……」
「まだ倒れませんよ。
俺はまだやるべきことをやれちゃいない。」
「やるべき、こと……。
私、も……イッセー君を、倒して、それで……
それで……?
あれ…?私は…倒して、それで……何を?
イッセー君を殺して、リアスちゃん達も殺して…その後は……ズェピア達を?」
様子がおかしい、フリージアさんは自分の籠手を焦点の合わない目で見ながら、混乱している。
一体、何が?
『相棒!今だ!』
「ドライグ?」
『フリージアの中にあるあのナニカ……あれの魔力を使ってドラゴンショットを撃ったんだ!
あれの魔力が再び充填される前に、抜き取れ!』
「っ、分かった!」
俺はフリージアさんの元まで抜き取る準備をしながら走る。
その時、フリージアさんと目が合う。
「……来るなぁぁぁぁ!!」
「っ、2発目!?うぉ危ねぇ!?」
『暴走している!
フリージアの自我が、あれの魔力が少なくなったことにより拮抗状態になったんだ。
早く抜き取らないと不味いぞ!』
「分かってる、くっ!」
見るからに苦しんでいるフリージアさんの元へと急ぐ。
だが、ドラゴンショットを近づく度に放ってくるので思うように近寄れない。
けれど……
「うぉぉぉぉ!!」
当たってでも俺はフリージアさんに近付く。
回り込もうにも反応が早くて無理なら、正面突破だ。
凄く痛いが、さっきほどじゃねぇ!
「ァ、ァァアア……!」
「今、助けます!ドライグ!」
『ああ!』
ドライグの返事と共に俺の右手の宝玉に赤い光が灯る。
わざと食らっての接近の甲斐もあり、ようやく近付けた。
俺は右手を素早くフリージアさんへとぶつける。
『Absorb!』
「これで、どうだ!」
リゼヴィムが来てないってことは部長たちはまだ粘ってるんだ。
証拠に、まだ獣の唸り声や雷の音……皆の攻撃の音が聞こえる。
フリージアさんにぶつけた右手の宝玉が、フリージアさんから何かを吸い上げている。
これが、フリージアさんを狂わせた……!
「あ、ぐ、ぁぁぁぁぁ!!」
「大丈夫、俺がいますから!」
『相棒、もうすぐだ!』
苦しむ声をあげるフリージアさんを両手で抑える。
吸血鬼の力は伊達ではなく、振りほどかれそうになるが、倍加していたお陰で大丈夫そうだ。
きっと、これを埋め込まれた時も苦しかったんだ。
でも、あとちょっとの辛抱。
どうか、耐えてくれ!
そうして、暴れるフリージアさんを抑えつけ……
しばらくして、宝玉が何かを吸うことをやめた。
それと同時にフリージアさんも大人しくなる。
『相棒……
もう、大丈夫だ。』
「……よし……!」
フリージアさんを助け出せた……!
約束を、果たせたんだ。
でも、皆は一体───
「終わった?」
「『ッ!!』」
おちゃらけたような声が聞こえる。
俺はとっさにフリージアさんを守るように前に出る。
そんな、さっきまで皆戦ってた筈……!
目の前には、いくつか焦げ跡や噛まれたような後、切り傷があるが未だ健在のリゼヴィムと──
「いやぁ、倒れても抵抗するからね?転がしたりとかで遊んじゃったZE☆」
「ぐ、ぬぅぁ……!!くそ……!」
「ごめん、なさい……!イッセー……!」
「くっうぅ……」
「これ程とは……!」
「小僧……!」
─倒れ伏す皆の姿があった。
ヴァーリとネロさんの傷が特に酷い。
死にはしないが、痛みが常に伴う……そんな悪魔の配慮のされた怪我が多く残っている。
「てめぇ!!」
「健気だねぇ……そんなにその木端吸血鬼ちゃんが大事?まあ、おっさんはソレもう要らないから素直に返すけどサ!
あーでもなぁ……その子女の子だったもんね、お楽しみもう1つあったの忘れてたわぁうっかりだぬぁー?」
「フリージアさんを、仲間をここまで傷付けたテメェは許さねぇ!
俺が、お前を倒す……いや……殺す!!」
「殺意MAX!怖ぁいなぁ!
でもさでもさぁ!お前程度じゃおっさん強すぎて倒せない訳よぉ!
実力差って奴?分からないほどOROKAでもないよね!」
確かに、俺一人じゃ勝てない。
そんなのは分かりきってる。
だけど……それでも男にはやらなきゃいけない場面ってもんが……!
「んーんー、分かるよぉ。
おっさん超分かるゥ!お前さんが何を思ってるか分かるよん。
惚れた女がやられたらそりゃ殺意も沸きますな。
あ、ごめん、おっさん惚れた女いねぇわぁ、ヒャヒャヒャ!!
……言ってて辛いなぁ!
まあ、トニモカクニモ?やるって言うならやるけどぉ、おっさん、殺っちゃうかもしんないなぁ!」
「上等だ、やれるもんならやってみやがれ!」
「お、言ったね?言っちゃったねぇ?
いやぁ、じゃあ、全力でやっちゃおうか──?」
「……?急になんだ?」
リゼヴィムが面白そうに肩を回してこれから戦うって時に突然ピタリと止まり、無表情に変わる。
そして、無表情は、苦々しそうに歪め、チッと悪態をつく。
「…空気の読めないなぁ…!」
「は?」
リゼヴィムの視線の先には俺ではなく、俺が乱雑にぶっ飛ばした扉のあった方。
俺も、警戒しながらリゼヴィムの視線を追うように後ろを見る。
「─やあ。」
「ッッ!!?」
一声。
たった一声が部屋に響き渡る。
だが、その一声に、俺は恐怖した。
まるで、心臓を掴まれたかのような。
首に刃物を突き付けられたかのような。
そんな錯覚を覚える。
この声は、知ってる。
だけど、こんな肝の冷える声を、あの人が出すのか。
暗い道から、この部屋へと入ってくる人物。
「来るとは思ってたけどさぁ……激おこじゃーん……」
「…君が──リゼヴィム・リヴァン・ルシファーか。」
「そだよ──ズェピア・エルトナム。」
フリージアさんの親であり、魔王様の友人であり、同じく超越者に数えられる人。
ズェピアさんが、片手に銃のような物を持ちながら現れた。
「ズェピアさん……!?」
「お疲れさま、イッセー君。
よくやってくれた……そして、すまないね、皆も。」
ズェピアさんの謝罪と、リゼヴィムの周りで倒れていた皆がこちらへと転移するのは同時だった。
あれだけの人数を、一瞬で……!
「何で、ここに。」
「『
「マジか……ドライグ?」
『俺に気づけるわけないだろ。』
「……フリージア…すまなかった……後で、必ず。」
倒れているフリージアさんを申し訳なさそうに一瞥し、リゼヴィムへと視線を戻す。
俺には、1つだけ分かることがある。
今、俺の見ているズェピアさんは、今までで一番ヤバイ。
温厚であるズェピアさんが、ここまで怒りを露にしているのは……家族が危険へと陥ったからだ。
そして、自分にさえ怒りを覚えている。
「流石はズェピアちゃん。
誰が勝つか何てのも折り込み済みかよ。」
「そうでもない。
ただ、私は君に大きな……そう、貸しができている。」
「へぇ、そりゃ返してもらわないとなぁ!」
「ああ、返すとも…。」
「この舞台から、降りてもらう。
それが私の礼だ、リゼヴィム。
だから、死ね。」
「安直だなぁ、吸血鬼ぃ!」
嗤うシナリオを、監督自らが台無しにするために来た。
頑張ったイッセー君は、おやすみ。
後は、間違ったシナリオに三流の刻印を押しに来た監督の仕事。