行き倒れ侍従者になる 作:妖怪(侍)
従者と言う小間使いになってから、二年は経ったと思う。
なぜ曖昧かと言うと、俺がそこまで気にしていなからと説明しようか。童には「無頓着だから妖怪になっても気づかないのだ」と言われるだろうな。
まあ実際そうだから、困ったものである。
しかし五百年生きて、何も自分の根幹を得られないと思うと少し虚しく思う。意味のある毎日では無かったが、それでも多少は何かあると思ったが、そう簡単には見つからないものだな。
物思いに耽っていると後ろから妖忌が声を掛けてきた。こんな朝早くに一体何の用事であろうか。
「弦蔵。済まんが今日は妖夢に剣を指導を願いたい」
「構わん。が、妖忌の方が良いのではないか?」
もう既に型が出来ているのに、今更違う型を教える訳には行かまいて。
そう言うと妖忌は、
「今日はどうしても外せぬ用があるのだ。幽々子様と出掛けるから昼と晩飯は妖夢の分だけでいいぞ」
「承知した。存分に楽しんでくるといい」
仕事だ戯け者、と持っていた竹刀で軽く小突かれた。そうか今晩は二人だけか……と言うかあの童は一人で寝れるのだろうか?
前に幽霊が苦手だ、と言っていたが。
「童も知っているのか?」
「知らせていない。だからお前から言っておいてくれ」
何とも面倒な話である。こちらから話そうとしたら敵意全開で来るからな。子供にそう言う態度で来られると、少し悲しい。
自分の何がいけないのだろうとついつい深く考え込んでしまう。
「まあそう言う事だ。後は任せたぞ」
頷いて妖忌と別れる。それからはと言うと童を起こさなければならない。俺は朝に強いので大丈夫なのだが、童にはまだきついのかいつも俺が起こしに行っている。
いい加減一人で起きて欲しいものだ。
「起きろ。童」
部屋の前で声を掛けるが当然反応は無い。まあいつもの事だ諦めている。俺は部屋に入り童の小さい体を揺すって見る。まだ反応はない。
ため息を吐いて、常人ならば気絶するくらいの殺気を当ててみる。
するとどうだろうか。
童は布団から飛び出して部屋の隅に行ってしまった。
「……お前! その起こし方はやめろって……!」
「起きない童が悪い。飯にしよう」
後ろでまだ文句を言う童を見て、一日が始まるのだな。出来れば笑顔で始まって欲しいが。
「今日は幽々子殿と妖忌がいないからな。鬼がおらぬと思って羽は伸ばし過ぎるなよ」
「そこまで弛んでおらぬわ! 全くこの行き「尻百叩き」ぅひっ! 嘘嘘! さあ行きましょう! 弦蔵さん」
小走りで食卓に走って行く童を見て、俺の息子はまだ手のかからない方だったんだなと改めて思った。まあ妻が大体世話を焼いていたから、そこまで記憶に残っていないが。
「幽々子様と師匠は?」
「今日は外せぬ用があるからと出て行ったぞ」
「ならば今日の修行は弦蔵が見てくれるのか?」
「そうだ。それを食べたら洗濯を済ませて道場へ来い」
俺はその間に庭の手入れを済ませねばならない。これが実に難しい。炊事洗濯はこの一年で、妖忌迄とは行かないが妖忌にお墨付きは貰った。意外と簡単な物なのだなと心中思い、毎日こなして行くと、まあ面倒くさい。
献立は毎日変えなければならないし、足りない物は少し離れた人里まで買いに行かなければならない。
お墨付きを貰って台所を任された所までは本当に良かった。全部妖忌がやってくれていたから。
「この様な職人芸は妖忌がやれば良い物を……」
景観を壊さぬ様手入れして行く。一度妖忌が大事に手入れしていた松の枝を間違えて折ってしまった時の殺気は尋常では無かった。
それからは区分分けをして、自分の作業範囲を決められてそこだけを手入れしている。
「弦蔵まだか。こっちは終わったぞ」
「ああ、直ぐ行く」
軽く箒で掃いて今日の手入れは終了である。ああ今日の事は飯だけか……正直一人だけだったらそこら辺の物を焼いて食うだけなのだが、そうはいかない。
一度幽々子殿に焼けば何でも食べれると言ったら、なんだか憐れむ様な視線を向けられ、童には「ただの畜生ではないか」と小馬鹿にされた。もちろん後でお仕置きしたが。
そんなこんなで道場へ向かっていく。
「待たせたな。でははじめようか」
「誠に不本意だが、剣だけは良いからな。教えて貰ってやる」
なぜこの童は教えを乞う側なのにこんなに偉そうなのか。まあこんな事で一々腹は立てれないので、ため息を吐き。
木刀を正眼に構えた。
「今日は俺に一太刀浴びせてみろ。師が妖忌なのだ、これぐらい簡単に出来るだろう?」
童も構えてそこから直ぐに突っ込んできた。だがまだまだ未熟そのもの。軽くいなしてやって、直ぐに構える。
筋はいい……だが直ぐ昂ぶる癖は未だに抜けていない。
本来人を殺すのにそんな感情の昂りは要らないのだ。ただ急所にどれだけ早くそして鋭く突き入れるのが重要なのだと、俺は今までの経験でそう結論づけた。
だが俺はそれを教えようとはしない。何より既に型は出来ているし、妖夢に人を切って欲しく無いからと言うのが、一番の理由である。
そんな青臭い理由だと知ったら、童は怒るのだろうか?
「どうした? そんなモノではいつまで経っても無理だぞ」
「くっ! 次こそは……!」
歯を食い縛り向かってくる。俺は童の持つ木刀を叩き落とし首に木刀をあてがった。童は悔しそうに目に涙を溜めてこちらを睨んでいる。
俺は木刀を拾い童の頭に手を置いて、
「よくやった。次は昼飯を食ってからにしよう」
「……うん」
俯いて小さく返事をする童を見て少しやり過ぎたか? と後悔してしまう。こう言う時はどうしたら良かったかな? 俺の息子だったら、確か――――
「童疲れたろう。おんぶしてやる」
「……あ、ば! 馬鹿にするな! 疲れてなどいない!」
どうやら違った様だ。憤慨して道場を出て行ってしまった。
子育てはこんなに難しいのか……今なら妻にも茶の一杯位は出せそうだ。
●
昼飯を作ろうと食料を備蓄している蔵まで足を運ぶ。それと蔵の中にある食料も見ておかなければならない。
どうやら今日の分は足りそうだが、明日以降は少し怪しいな。
買い出しに行かねばならぬか……ああ面倒くさい。
そうだ、童も連れていき荷物を持たせるとしよう。これならば俺の負担の少しは楽になると言うものだ。
あと晩飯も童に作らせよう。よし決まったな。そうなると昼飯は簡単な物を作ろう。
「……弦蔵。腹が減った」
童が壁に寄りかかり催促をしてくる。手を止めずにそれを適当に返事をして、仕上げにかかる。
「出来たぞ。持っていけ」
首肯して持って行く童。少し泣いていたのだろう、目が赤い。
こう言う時何と声を掛ければいいのかわからない……童から見たら、俺は薄情な男に見えるのだろうか?
だが剣の道を目指すのであれば、どれだけ辛くともソレは超えねばならない物だ。童が壁にぶつかっていたとしても、俺にはどうする事も出来なかった。
それに励まそうとしても、あの童なら意地を張って突っぱねる事だろう。ならば今は触らずにまた一つ成長出来たら、ウンと褒めてやろう。
そんな事を考えていると童が先に食べていた。俺は気にせずにそのまま腰を下ろして、飯を食う。
「昼からは買い物に行く。一緒に行くか?」
「……うん。剣は見てくれないのか……?」
「なら晩飯を食った後だな」
まだこんなに小さいのに修行修行……妖忌は厳しく育てたな。
俺の息子は修行と聞いたら果てしなく嫌がったものだ……全くあの爺にこの娘ありか。
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