行き倒れ侍従者になる 作:妖怪(侍)
俺が従者になってから何年が経ったのであろうか。十回目の冬が来てから、数えるのが面倒になった。そろそろ旅に出たいと思い幽々子殿に体の調子を聞くと、いつも言葉を濁される。
何が駄目なのかと問いただしても笑って誤魔化されるばかりで、話にならない。
ならばこの様な所を即刻出て行くと伝えたら、妖忌と童に止められてしまう。
その時は本気の斬り合いを果たし三日三晩妖忌と斬り合った。幽々子殿が止めねば一生斬り合っていただろうが、あの死合は中々に良きモノであった。
だがしかし納得できぬはいつまでもここに、引き留めておく理由である。
「何なのだ……本当に」
理由さえ教えてくれれば、良いものを……妖忌は説明下手。幽々子殿ははぐらかす――――困った主人達である。
そんな事を考え仕事をしていると、いつのまにか庭の手入れが終わっていた。
「この道で食っていけるやもしれぬな」
自分が手入れした庭を見て頷く。娯楽がこれと庭を見て茶をしばくか酒を飲むしかない、白玉楼は非常に退屈だ。
童も生意気盛りを経て、大人しくなってしまい加速的につまらなくなってしまった。
本当に散歩ぐらいは許して欲しいものだ。
「弦蔵さん。今よろしいですか?」
「童か……何だ? 俺の技はもう無いぞ」
それはもういいですよ……と困った様に答える。どうせ幽々子殿が呼んでいるのだろう。俺は童を制して幽々子殿がいる部屋まで向かおうとする。
「……あのどちらへ?」
「どうせ幽々子殿が呼んでいるのだろう? 態々すまなかった」
「いえ幽々子様は呼んではいませんが……一緒に休憩でもと」
「なんだそんな事か。菓子を持ってくるから茶を用意しておけ」
どうやら早とちりだった様だ。死合なら先を読めると言うのに……不便な物よな。
俺は部屋に戻り人里の人間から貰った菓子を取り出して、縁側に座った。
休憩するなら何時もここで決まったいる。何故なら俺が手入れした、庭が見えるからだ。自分が手入れした庭を肴に茶をしばく……これしか娯楽が無いと言うのは、本当に退屈だ。
「お待たせしました」
そう言いながら茶を注ぎ側に湯呑みを置いた。童も自分の分を注ぎ俺の隣に座った。
「あーこれ美味しいお煎餅じゃないですか! 好きなんですよね、これ」
「なら全部食え。俺はもう食い飽きた」
いいんですか? と言う割にはもう既に手をつけている童。こう言う所は変わっていないのだな……子の成長を見れるのは良いものではあるが、時に寂しくなるものだ。
「……でかくなったなあ」
つい自分の息子と重ねてしまう。格好良く過去を捨てたと言う割には未だに、家族と過ごした時間を思い出してしまう。
これを甘さと言わずに何という? 不恰好極まりない今の姿を息子が見たら何と言うであろうか。
だからこそ一刻も早く旅に出たい……この平穏が続くかぎり俺はどんどん腑抜けになってしまいそうで、怖いのだ。
「わわっ! 弦蔵さん! どうしたんですか!」
「何がだ……俺は何ともないぞ」
手ですよ手! 言われるがまま自分の手を見ると童の頭に手を乗せていた。
「…………」
順調に毒されているな……なればこそ、今出ていかなければ手遅れになってしまう。
「……ふー……俺も未だに甘い物よな」
「何がですか?」
「やはり俺は独りでいい……こんな所でままごとをしている暇は無いと、思っただけだ」
「……答えになってませんから、それ」
「一々言わねば分からんか? すぐ頼るのはお前の悪い癖だ。妖忌が何も言わなくなり弛んでいるのではないか?」
全く妖忌も妖忌だ。幼き頃はあれだけ厳しく接していたのに、デカくなると途端に何も言わなくなってしまった……妖忌なりの考えがあるのであろうが、アレのやり方には今一賛同出来る物ではない。
「少々度が過ぎますよ。弦蔵さん」
「幽々子殿か……」
見計らったかの様に出てくる幽々子殿。俺は大きくため息を吐いてこの場から立ち去ろうとした。
別に逃げている訳ではない。幽々子殿がここに来たと言うことは、そろそろ飯時なのだと思っただけだ。
「昼餉はいいですよ。妖忌がやっているので」
「ならば手伝いに向かう故……ここを立たねばなりませぬ」
「何故逃げようとするのです? 私と妖夢がそんなに嫌ですか」
随分と意地の悪い言い方をする。こちらの気も知らないで……本当に自分勝手で反吐が出る。童は童で剣呑な雰囲気を察して、押し黙っていて使い物にならない。
俺はまたため息を吐き、縁側に再び腰掛けた。
「ならば何をご所望か……身の周りの世話など童が今までやっていたでしょう」
「二人でお茶していたのを見たので、私も混ぜて貰おうと思っただけですわ」
――嘘だな。なら何故この場はこんなにも重く苦しい雰囲気なのだろうか? 本当に面倒くさい、俺は幽々子殿のこう言う所が苦手だ。
「童……俺の部屋に使ってない湯呑みがある。それを幽々子殿に」
童は頷くと直ぐに湯呑みに茶を入れる。その間に態々俺の隣に座り、茶を一口。
「呑気なモノだ。俺はこんな所で一生を終える気は更々ない――――だと言うのに幽々子殿は俺を引き止めようとなさる」
「貴方がこちらに歩み寄って、腹の一つも見せればこちらもその気になるのですけど――中々難しい話しですね」
「……これ以上何をさせれば気がすむのか。 俺は充分に其方の従者として責は果たしているであろう!」
立ち上がり声を荒げてしまう。だが今まで堰き止めていた物が壊れた様な感覚が、心中で感じた。
それからは童や幽々子殿の前でみっともなく心中を吐露してしまう。
「仕事は仕事だ。なればこそ其方の事を思って全てやったつもりだ!
気に入らぬなら其方が俺に命令すればいいだけの話だ。それを勿体ぶって俺の腹の内を見せろだと? 巫山戯るのも大概にしろっ!」
童が後ろで驚いているのが見える。知った事か、何故俺がこんな餓鬼の面倒を見なければならない? 何故俺が庭の手入れをしなければならない? 俺は根幹を知るために旅に出た筈だ、それがどうしてこの様な所で遊びに興じなければならないのか、理解に苦しむ。
「あら……お人形さんも怒るのね」
「貴様吹いたな……その命いらぬと見た」
人間を殺すのに刀がいると思うたか? それとも殺す気は無いと本気で思っているのか、幽々子は笑みを崩さず余裕すら感じさせる。
――閃――
俺が手刀を放つと同時に童が攻撃を止めた。
「邪魔をするな」
「これ以上は見過ごせません……幽々子様に危害を加えるなら、私が相手になります」
「戯けが! 丸腰なら叶うと思うたかっ!」
砂利を蹴り上げて童の目に食らわす。一瞬怯んだ隙に腹を一発。肋(あばら)が折れる感触が手に伝わる。それでも俺の腕を離さない童。
中々頑丈だな……まあ童が倒れたら凶刃が幽々子に行くから倒れないだけであろうが。
「……ぐっ、逃げるなっ!」
「逃げるとは可笑しな事を……まだ食らい足りぬか? なら存分に食らうがいい」
更にもう一発……! 今度は念入りに砕いておこう。決して反撃など起こさせない様にだ。
だがどれだけ痛めつけようが、童は俺の腕を握りしめたまま動こうとしない。
「おいお前の従者が死にそうだぞ。良いのか?」
「……何を怖がっているのやら……私達はあの時から、貴方がどんなモノであろうと受け入れていたのに……」
「怖がる? 何を言っている。お前は何か勘違い「なら何故そんな怯えた目でこちらを見ているのですか?」……っ」
「そう……ですよっ! 逃げないで下さい……!」
「知った風な口を聞くな雑魚どもが! 俺の何を知っている?!」
「何も知りませんわ……貴方は何も話してくれませんから――――でも貴方は何より平穏を望んでいるのは、私や妖忌それに妖夢も皆知っていますよ?」
青い顔をしている童。それに此方をいつに無く真剣な眼差しで見る幽々子。
醒めた頭で周りを見ると、愚か者は自分自身だと気付かされた。
「……そんなモノを望んではいない。ソレは俺が一番望んではならないモノだ」
今の俺に出来る精一杯の反論をし、力を緩める。
「貴方は……「もういい喋るな」……ぐっ!」
童を抱き抱え自分の布団に寝かせてやる。それから引き出しにある薬を飲ませた。
「仙人の妙薬だ。よく効く」
何かを言おうとする童の頭を撫でてやり、幽々子へ向き直った。
「……済まない。それと少し留守にする。晩には必ず戻る故心配なさらぬ様」
「何時迄もお待ちしてます。帰って来たら土産話楽しみにしていますわ」
また何時もの表情に戻り俺の外出を許してくれた。俺は今一度深く礼をして刀を携え身支度を整える。
「童……済まんかった」
振り向かず一言だけ謝りを入れてその場から離れる。何か聞こえた様な気がするが、気のせいだろう。
廊下を歩いていると、一服している妖忌とすれ違った。
「妖夢も偶にはやるであろう?」
俺は何も返さずその場を歩き去る。そして妖忌がいないのを気配で確認して、
「流石お前の弟子だ……何も分かっていないのは俺の方だったな」
本当にままならないモノだな……知った気で話していた自分が恥ずかしくなる。俺は本当に愚かだ。
今まで彼らの何を見ていたと言うのか……これではただ無駄に時間を浪費していただけではないか。
弛んでいた自分の心を今一度締め直さなければならないな。
俺は門を開き、百年振りにあの場所へ、初めて冥界へと降り立った場所へと向かって行った。
小説って難しいですね。文字で何かを表現する事が最近は凄く疲れます。それともう少し文字数を多くしたいですね。
では次の更新までさようなら