行き倒れ侍従者になる   作:妖怪(侍)

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遅れてごめんなさい


繋がり

俺が導を見つけ白玉楼に住み着いてまた年月が経った。前とさして変わりはしない毎日だが、少し心持ちは変わった様な気がした。

幽々子殿曰く表情が柔らかくなったと言っていたが、俺には今一よく分からない。

確かに前に比べて心に余裕が出来たからか、一緒に酒を楽しめる様にはなったと思う。――が、長く平穏な時を過ごしていると、偶に胸がキリキリと締め付けられる様な感覚が襲ってくる。

 

その度にまだ俺は自分自身を赦してはいないのだと、悟る。

 

「おーい弦蔵」

 

「ん、妖忌か」

 

ここ最近よく妖忌が俺を酒に誘って来るようになった。何故か知らぬが、まあ幽々子殿と同じ様な感覚なのであろう。

 

「今日の一杯だ。ほれ」

 

盃をこちらに渡して注いでいく。本当に最近はよく酒を飲んでいる様な気がする……別に飲めない訳ではないのだが、こうも立て続けに来ると、少しは自分の体も労りたくなる。だが妖忌の顔を見ると、疲労の色が見え隠れしているにも関わらず、俺と酒を飲もうとする。

 

そこにどう言う意図があるかは分からない……だが敢えてそこには触れず今は相伴に預かるとするか。

 

「中々……昨日飲んだ物よりコレの方が良いな」

 

「本当か? お主の舌でも分かるのだな」

 

「何を言う……これでも白玉楼の台所を任されているのだぞ。それくらい簡単だ」

 

「んー? 最近は妖夢の方がよく台所に立っているのを見たが……」

 

……なんだその目は? 確かに童の方がよく立ってはいるがそれとこれとは別であろう。俺にも台所に立っていると言う意地があるのだ、こればっかりは譲れん。

 

「クック……そう怒るな。全くそう言う意固地な所は一つも変わらんな……それがもう少し大人しくなればなあ」

 

「フン、男はいつまでも意地の張り合いよ。そこに譲れぬ物があるから、俺は立っていられる……それしか無いからな」

 

「成る程、眩しいのう……少しお主が羨ましい」

 

「何をじじむさい事を言っているのだ……まあ爺ではあるか」

 

「カカカ! 言うのう」

 

笑っている割にはあまり楽しんではいない様子だ。何時もならば一言聞いてはみるのだが、妖忌の雰囲気が余り感じた事が無いモノなので、少し躊躇ってしまう。

何を欲しているのかが、分かれば早いのだがな……そう簡単には行かない様だ。

 

「すぐ結論を出そうとするのは浅はかよ……まだ若いの」

 

「……人が悪いな。こちらの考えはお見通しと言うわけか」

 

「長い時間一緒にいたらな……ならば今は何も聞かずに酒を飲んでくれるか?」

 

「では明日の庭と家事と洗濯は任せたぞ」

 

「ぐ……ここぞとばかりに……」

 

少しは見返りがあっても良いと思うのだ。何分この爺には修行だと言いつつ雑用を押し付けてくるからなぁ偶の一日ぐらい休みが欲しい。

俺は妖忌に視線を送りこの密約を呑むのかどうか伺う。

 

「良かろう……但し明日は妖夢と手合わせをしろ。必ずだ」

 

「ソレは本気で死合う――と言う事か?」

 

言葉は返さず無言で酒を煽る。どうやら沈黙を答えと取ってもいい様だ。

 

「妖忌が明日の雑事を全て行うのだ……力は有り余っているぞ。うっかり殺す程度には」

 

「貴様の冗談は本当に性質が悪い……」

 

今更だな……まあ良い。少し気分も良いしここで横になろう。

別に眠くは無いのだがな。

 

「寝るなら部屋に戻らんか」

 

「お前に頼まれた雑用が腰に来たのだ。少しくらい良いだろ」

 

とは言え何故か横になったら急激な眠気に襲われる。抗おうとするがそれ以上に自分の意識が引っ張られて、直ぐに闇の中へ落ちてしまいそうだ。

 

「先に行く。余裕があるならお前も私を見つけてみるといい」

 

崩れ去る意識の中で何か言われた様な気がしたが、ソレが何だったのか、考える暇もなく闇の中へ意識落とした。

 

 

目が覚めたのはそれから幾ばくか経った後だった。まだ日は明けておらず、空はまだ暗い。

若干の肌寒さを感じて、やはり外で寝る訳にはいかないなとため息を吐いた。

 

「……アレを起こしに行くか」

 

弦蔵は妖夢の寝床に向かい、揺り起こす。

 

「何ですか……急に」

 

「妖忌がいない……気配がないのだ」

 

起きた後に暫く探っては見たがやはり見つからない。昨日の事は酒が入っていたので、あまり思い出せない。

 

「……ああ……そう、ですか」

 

何かを察した様に二本の刀をジッと見つめた。やがて立ち上がって刀を二本抱きしめた。

 

「ならば……貴方を全力で倒さねばなりません。それが私と師匠であるお祖父様との約束です」

 

「……もっと取り乱すと思っていたのだがな……外で待っている。すぐに準備を済ませろ」

 

庭に降り立ち妖夢を待つ。手合わせをするのは何百年ぶりか? 刀を抜いて、昂ぶる気持ちを抑える。

 

「お待たせしました」

 

「能書きはいい……さっさと来い」

 

仁王立ちのまま妖夢を一心に睨みつける。妖夢は太刀を抜き弦蔵に肉薄する。

そこから更に速度を上げて横薙ぎに払った。

 

斬った感触は無い――弦蔵を見ると刃圏の外で顎を摩りながら、何かを考えている。

 

「……何故抜かない」

 

「抜かせてみろ。小童」

 

小馬鹿にした様な口調でおどける弦蔵。少し頭に来たが直ぐ心を落ち着かせる。そういつもの事だ……息を小さく吐き、再び縮地を用いて、弦蔵に肉薄する。

 

「受けるまでも無い……たかが何十年しか研鑽していないない技など」

 

半身だけで唐竹割りを躱して、腹に掌打を喰らわせた。痛みに声が漏れる――だがこんな所で止まれない。

腰の小太刀を取って、

 

「いい判断だ。だがそこは俺の距離だ」

 

「私の距離でもありますよ」

 

弦蔵の背中から声が聞こえて来たと思うと、体を貫かれていた。

 

「な……ん」

 

膝を着き血が噴き出している腹を抑えて妖夢を睨む。

 

「余り私を舐めないで貰いたいですね」

 

「…………」

 

弦蔵はふと今まで打ちのめした者達の事を思い出していた。構図は全く逆ではあったが、妖夢の目はまさしく弦蔵自身が敗者に向けていた目そのものであった。

 

(こういう目をしていたのか……俺は)

 

――実に不愉快だ。そう思い深く息を吐いた。自分の力が全身に行き渡る様に深く深く。

 

「……トドメを刺せ……お前の様な者にやられるなら、本望だ」

 

「潔いですね。――貴方のそういう所結構好きでした」

 

刀を振り下ろした瞬間、妖夢の足を掴み力の限り振り回した。突然の事で驚愕した妖夢だったが腕の力だけで、刀を無理やり振り切る――

刀は弦蔵の顔を掠め、薄く頬を斬る。

 

まだ行ける。取り敢えず血は塞がった。その場で大きく跳躍して妖夢と距離を取る。

対する妖夢は唇を噛み此方に大仰な殺意を向けていた。

 

刀を抜きジッと妖夢を観察する。相手は昂ぶり、此方は冷静。傷は重症……やや不利と言ったところか。

 

「貴方は……どこまでも!」

 

「お互いに生きねばなるまいて。それにどちらかが死ぬのなら……これぐらいの抵抗は当たり前だ」

 

それを皮切りに弦蔵は大きく動いた。妖夢の使う縮地とは全く違う、音を置き去りにして一瞬で妖夢の背後に立ち、袈裟を放った。

 

――斬――

 

後ろで風が吹いたと思っていたら、刹那背中から激痛が体中を駆け巡る。呻き声をあげるが、倒れまいと必死に踏ん張る妖夢。此方を向こうともしない妖夢に対して大きくため息を吐ついた。

 

そこから更に追い討ちをかける。血が吹き出している所に容赦無く掌打を喰らわせた。

 

「終わりか? お前が継いだモノはたかが二本の刀だけか?」

 

「……黙れ!」

 

刀を杖にして力を振り絞って立ち上がる。傷は思ったより深くは無い、だが二度の掌打で骨が何本も折れている。

状況は最悪、だがこんな所で諦めている場合ではない!

 

気を高めて自分の半霊に力を注ぎ込む。やがて半霊が形を変えてもう一人の妖夢が出来上がった。

 

「……分身か。成る程さっきのは……面白い」

 

最早声にならない声を上げて縮地を極限までに高め一気に肉薄する。音を置き去りにして正面と背後から襲いかかる。

弦蔵はギリギリで反応する――が背面の攻撃は受けられそうに無い。

 

「やるなぁ……妖夢」

 

「――ズァ!」

 

――閃――

 

二筋の剣筋は音を超えて一つになり弦蔵の体を切り裂いた。その量は尋常では無く、常人では倒れてもおかしくはない。

 

「……ゴホッ、さあまだだ」

 

渾身の一撃を見舞ったにも関わらずそれでも続ける。妖夢もまだ終わらせないと、大きく首肯してみせる。

分身はいつの間にか消えている。残されたのは手負いの獣が二匹だけ。

 

「「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️」」

 

互いに雄叫びを上げ庭を鮮血で染め上げて行く。一合二合と剣を交えて、

 

「そうだ! いいぞもっと打ってこい! 伊織!」

 

「ダアアア!」

 

今の妖夢には弦蔵の言葉など届いてはいない。極限状態だからこそなせる業が弦蔵との打ち合いを果たしていた。

いつの間にか二人が立っている場所は真紅に染まっていた。

お互いの血が混ざり合い血の池を作る。

 

「お前と……こうして打ち合いが出来るのか……今日は本当に良い日だ。お前もそう思うだろう?――なあ伊織」

 

今まで聞いたことの無い様な優しい声で話しかける、誰に向けてかは分からない――だがそんな事を気にしていられる程気が回らない。

妖夢は小太刀を抜き、太刀で弦蔵の刀を受けてこの勝負に終わらせようとしていた。

 

「不粋な……親子の語らいに入ってくる。塵が……!」

 

小太刀の軌道を完璧に見切り、胸に刺さる直前で左の掌で受け止めた。貫通はしたが、届いてはいない。

弦蔵は片腕だけで、受けている太刀事妖夢を斬ろうとする。

 

「……グッ! なんて」

 

「消えろ」

 

腕力だけで押し切りまた一つ深い手傷を負わされる。もう呼吸をするだけで全身が痛い。目の前にいる壁が余りにも大きく、心が折れそうになる。

だがここで仕留めなければ、負けるのは必然。

 

「さあ続きだ……伊織。俺にもっと見せてくれ……剣を――その才能をっ!」

 

「……伊織?」

 

聞き慣れない名前に思わず首を傾げてしまう。だが今は立ち合いの場。そんな事に気を取られてはいけない。

楼観剣を強く握りしめる、今はもういない妖忌との繋がりを感じる

 

「斬れないモノなどアリはしない」

 

剣に力が伝わる。そして剣が力を貸してくれている。

 

――迷津慈航斬――

 

刀身が妖力によって伸びそのまま肉薄してくる弦蔵に対して薙ぎ払う。

 

「――貰った!」

 

勝利を確信したが、斬った感触は無い。弦蔵の姿も見当たらない。

 

「……やはり妖忌は良い弟子を持ったな」

 

後ろから声が聞こえた思うと、背中に重い衝撃が来た。何が何やら分からず、気力が尽きて意識を手放してしまう。

 

「……もうまともには打ち会えぬか……全く成長とは空恐ろしいものよな」

 

正気を取り戻した弦蔵は妖夢を抱えて幽々子の元へ向かう。

 

「……羨ましいものだ。俺は幽々子殿が心底羨ましい」

 

「あら……もう宜しいのですか?」

 

「この才を見せつけられて手折るのは余りにも勿体ない……貴方はそう思いませぬか?」

 

「そーねえ。家族が居なくなるのは……やっぱり寂しいわ」

 

少し的を外した答えだが、弦蔵は頷き妖夢を幽々子の側に寝かした。

 

「弦蔵さんは大丈夫なんですか? それなりに怪我を負っていますが」

 

「元々治りは早いのだ。もう傷は塞がっている」

 

見るとさっきまで血が吹き出していたのに既に止まっており、血で汚れた服だけが、不自然だ。

 

「化け物じみた再生力です事……」

 

「褒め言葉として受け取っておく。俺は庭を掃除しておく、何か入り用なら声を掛けるといい」

 

弦蔵は最後に着替えて来ると良いその場を立ち去った。

 

 

 

 

 




ご指摘待ってます。次からは原作入りしますのでお楽しみに。
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