あべこべ世界で生きてます~剣と拳と男と女~   作:風神莉亜

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短いスパンでポンポン投げていきます。


1~美剣士、始動~

「残念だけど、今はまだ認められない」

「…………」

 

 主治医である先生に告げられた言葉に、まぁですよねーと内心で頷いた。自分で言うのもなんだが、前世の記憶が戻る前の自分は重度の女性恐怖症だ。何もされなくても近くにいるだけで血の気は引くし、接近されればパニックを起こす。身体接触等もっての他だ。半狂乱の後におう吐を繰り返し、最後には気を失ってしまう。

 だが、それは前までの話。今なら恐らく平気なのではないか、と楽観的に考えている。

 これが良いことなのかは正直微妙なところではあるが、今の人格は完全に前世の時のものである。立ち振舞いや言葉使いにこそ影響はあるものの、女性を苦手としていた水瀬夏波はほぼ消えてしまっているのだ。

 問題があるとするならば、この身体が意思に関係無く拒否反応を起こした場合のみであろう。

 

「でも、このままじゃ駄目だと思って」

「あれだけ塞ぎこんでいた君が、そうやって前向きになってくれただけでも私は感動しているよ。一時期は失語症だとすら言われていたというのに……」

「それは……すみません」

 

 眼鏡を外し、目頭を押さえる先生に謝罪する。わかっていたけれど、やっぱりこの先生すっごい良い人だ。あの妖怪爺とは大違いである。

 ひとつ話をあげるとするならば。あの爺は、俺が足を捻って稽古どころじゃない、と告げてやると、

 

 ――足が痛い? どれ、これなら足の痛みは感じないじゃろ?

 

 などと木刀で腕をしばこうとしてきたものだ。実際本当にしばかれた時はぶちのめしてやろうと思った。

 ――あえなく返り討ちにあったが。

 怒りに燃えれば多少の痛みは無視できるとそこで理解出来たのは良いことではないと思います。

 

 ……まぁあの爺の話はともかく。

 

 目の前でレースのハンカチにて目元を拭っているこの先生は、完全に心を閉ざしていた俺に対しても親身になって接してくれていた。

 恐怖症で家族にも近寄れなくなってしまい、自己嫌悪から誰にも接することが出来なくなってしまっていた俺。それを、男性限定とはいえそれなりにコミュニケーションがとれるまでに回復することが出来たのは、間違いなくこの人のおかげなのだ。

 その先生を悲しませるようなことはしたくない。だからこそ、今の状況を早めに打破したいところなのだが……。

 

「まぁ、そう急がないことさ。夏波君がその意思を持ってくれたなら、此方も打つ手があるというものだ」

「打つ手……?」

「当初の君は重度の女性恐怖症から対人恐怖症の域にまで入りかけていた状態だ。それが、これまで続けてきた君の努力が実り、今ではこうして同性相手なら普通に接せられるまでに回復した。しかし、女性恐怖症そのものへの対処は避けてきたのだが」

 

 ハンカチを丁寧にたたみながら、そしてそれをデスクの上に乗せて、眼鏡をかけ直した先生の目が、力強く此方を見据える。

 

「これから本格的に、それと向き合い治療していこうと思う。今の君なら、きっと良い方向に向かうはずだ」

 

 そう言って朗らかに笑う先生。開けた窓から風が入り込み、カーテンと先生のサラッサラな黒髪を揺らす。どうでもいいけどそのキューティクルどうやって維持してるんですか。

 

「取り敢えず、今日のところは部屋に戻りなさい。精密検査では何にも異常はなかったけれど、頭を打って気絶していたんだから」

「あの、何で頭を打ったんでしたか」

「覚えていないのかい? ……まぁ、それも明日話そう。それも含めて、明日から治療を始めるからね」

 

 俺の質問に、キョトンとした顔で此方を見てくる先生。

 いや本当に覚えてないんですよね。あれか、女性の影が見えた、とかで焦って転んで頭打ったとかか。死ななくて良かった。そんな最後は流石にごめんである。

 その後、あまり先生の邪魔もしたくないので、話も落ち着いたところでその場を後にしようとして、

 

「――あぁ、一応聞いておこう。何か入り用なモノはあるかな? 用意しておくよ」

 

 半分デスクに向けていた身体を、再度此方に向けて先生が聞いてくる。

 半月に一度ほどこの質問をされるのだが、今までは何も必要ないと返してきた。が、軽く閃いた俺は、遠慮なく必要なものを口にする。それは――

 

「木刀が欲しいです」

「わかったよ、木刀だね。木刀……木刀?」

「木刀。出来れば二本。桐と赤樫を一本ずつ」

「……わ、わかったよ。出来たら、明日までに準備しておくね」

「ありがとうございます」

 

 礼を言って、その部屋を後にする。先生の二度見は面白かったが、こっちは生憎大真面目である。

 身体が変わったとはいえ、知識と精神力は無くしていない。

 前世の俺の剛剣は無理だとしても、護身の手札として培った剣術は繋ぎ止めておきたい。この身体で、まずはどれだけ出来るのかを確かめておかなくては。

 斎藤流……いいや、この世界に斎藤流なんてものはないから、水瀬流? ちょっと格好つけて斎藤神影流とか? ……とにかく、文字通り骨の髄まで叩きこまれた剣術だ。第二の生を持って、今度こそあの妖怪爺を切り捨てるだけの剣を身に付けてやる。夢は美少女剣士に介錯されることだとかほざいていたからな。半分くらいは叶えてやろう。

 後は……。

 

「髪も伸ばしっぱなし……。バッサリいくのは勿体ない、かな」

 

 腰まで伸びた灰色(・・)の髪を手で弄びながら、自分の部屋へと歩を進めていく俺であった。




主人公の剣はファンタジッてます。
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