あべこべ世界で生きてます~剣と拳と男と女~   作:風神莉亜

7 / 26
6~袴ではない。スカートだ~

「これもいいわねっ」

 

 …………。

 

「アタシはこの線がイカしてると思うなぁ」

 

 …………。

 

「これが一番」

 

 …………。

 

「いやぁーやっぱりこの辺りっしょ」

 

 …………。

 

「あの……そろそろ決めたいんだけど」

 

 水瀬夏波。絶賛着せ替え人形中である。

 何故にこんな状況になってしまっているかといえば、それは前日のブラ騒動からとしか言いようがない。

 次はこれ! と目を輝かせる母親から服を受け取りながら、遠い目をしつつ今朝の事を思い返す。

 

 

 

 

 

 俺の退院祝いから一夜明け。

 うわばみのごとく酒を飲み干していたはずの母さんは、翌日けろっとした顔で朝食の食パンを食べながら、

 

「さて、今日は夏波の服を買いに行かなきゃね」

「あれだけ飲んだのに覚えてたんだ……」

「忘れる訳ないじゃない」

 

 どや顔で胸を張る母親、瑞樹。

 実際あれだけ飲んで酒臭さの欠片もないのは超人的な肝臓をしていると言わざるを得ないが、その後の片付けをさせられている氷華姉のこともちょっとは考えて欲しい。

 泉姉はまだ飲みたいと駄々をこねる母さんを宥めながら寝かし付ける係。時雨はその間に軽いベッドメイキングを済ませた後に氷華姉に合流して片付け。氷華姉は一貫して洗い物や空き缶等の処理に追われる羽目になっていた。

 俺? 手伝おうとはしたが何故か手を出させて貰えなかった。いわく、水仕事なんかして肌荒れでも起こしたらどうするのか、とのことらしい。

 どうせこれから木刀の素振りやなにやらで痛むことになるのだが、まぁそこは言わないでおこう。

 

「二日酔いとかないの?」

「母さんの肝臓は人外だ。心配するだけ無駄ってもんさ。今日はアタシが運転するけどな」

「泉姉、免許あるんだ」

「十八ですぐに取ったさ。馬鹿にすんなよ?」

「馬鹿にはしてない」

 

 ぐりぐりと頭を撫でられながら、にかっと笑う泉姉を見上げる。改めて見ると本当に背が高い。百八十は無いにしろ、それに近いくらいはあるのではないだろうか。

 氷華姉も俺より大きいし、時雨だってあまり俺とは変わらない。きっと直ぐに抜かされてしまうのだろう。

 改めて、目に見える形でこの世界の男女の差を感じさせられた気分である。

 

「っと、少し気安かったか」

「気にしてない。大丈夫」

「ならいいんだけどよ。やっぱりちょっと雰囲気変わったよな」

「そう?」

「あぁ。氷華のミニチュア版みたいな」

「……ふっ」

「勝ち誇るとこではねぇからな」

 

 ぱっと少し慌てたように頭から手を離した泉姉だが、俺の言葉に頬を綻ばせると再度頭に手を置いてくる。

 因みに指摘を受けた雰囲気だが、この固まった表情筋と、少し素っ気なくも感じる口調が原因だろう。本当はもっとくだけた喋り方をしたいのだが、人を前にすると言葉が強ばってこうなってしまうのである。

 家族の前でこれなのだから、きっと初めて会う人間に対してはまだ硬い口調になってしまうのだろう。こればっかりは、恐怖症と同じように時間をかけて治していくしかあるまい。

 それにしても、氷華姉のミニチュア版か。確かに、髪の長さや多くを語らない口調、名を表したかのような冷たい雰囲気は、今の俺と多少似通っているのかも。そんなに悪い気はしないな。氷華姉も満更ではなさそうだ。

 

「んで、何時から出るのー」

 

 少し離れたソファにて爪をいじっていた時雨が、気の無い声を上げる。

 それに反応したのは、当然ながら母である。

 

「色々見て回るから、十時には出るわよ。貴女達ちゃんと準備してるんでしょうね」

「むしろ呑気に今朝飯食ってる母さんにそれを言いてぇわ」

「毎度のことながら飲むだけ飲んで後始末もせずに、翌日は九時過ぎまで寝腐って。感謝のひとつもして欲しいものだわ」

「学生の休みは貴重なんですけどー。予定崩すようならママと言えど容赦なくギルティ」

 

 ちなみに今は午前九時半。母さんが起きてきたのはほんの十分前である。

 他の三人は既に何時でも出れる格好になっており、俺もまた出発を待つだけだ。まぁ、個人的な荷物は木刀のみなので、身支度が終わればそれで完了なのだけれど。

 

「……さって、支度支度」

 

 分が悪いと判断したか、母さんは残ったパンを牛乳で流し込むと洗面台のある方へと消えていく。

 それを溜め息と共に見送った俺達は、各々適当に時間潰しを始めた。

 その内の一人、泉姉だけは、俺のそばから離れずにいる。視線を辿れば、どうやら木刀に関して何か言いたいことがあるようだ。

 

「コレがどうかした?」

「いや、それを護身具として登録でもすんのかな、と。スタンガンとか催涙スプレーの方がいいんじゃねぇの?」

 

 あぁ、と。そういえばそんな手続きもあったな、なんて今更ながらに思い出す。

 男性保護法の中には、単独で身の危険に陥った際に自己防衛出来るように、何かしらの武器を携帯することを推奨するものがある。

 大抵は、先程泉姉が言ったスタンガンや催涙スプレー等、隠し持てて速効性の高いものを選ぶ男性が多いらしいが。

 木刀をくるくると回し、首の後ろに抱えるように持ち替える。目を瞬かせて驚く泉姉に笑顔を向け、

 

「俺はこれが一番安全だと思ってるから」

「……おお。なんかカッコいいな、夏波」

 

 目を輝かせる泉姉。内心で木刀を取り落とさなくてよかったと安堵する。あそこで失敗してたら恥ずかしいなんてもんじゃなかった。……赤樫なら出来てないだろうな。

 まぁ、実際スタンガンや催涙スプレーはリーチが短くて不安点もある。隠し持てるという長所もあるが、むしろ俺的には武装がはっきり見てとれる方が狙われなくて済むと思っているので隠し持つようなつもりはない。それをやるとするならば、木刀を弾かれた時の為の小太刀程度のものだろう。寸鉄でもいいな。

 つまるところ、身を守るための威嚇である。

 

「でもま、今日はアタシがお前を守るから心配すんな。夏波に危害を加えるような野郎がいたら叩き潰してやるから」

「頼りにしてる」

「おう」

 

 再三、頭を撫でられる。そうこうしている内に母さんがビシッと決めて戻ってきたので、そろそろ出発するとしよう。

 

 

 

 

 

 

「色々回るんじゃなかったの……」

「おっとそういえば。もうお昼時なのねぇ」

 

 都合二時間近く着せ替えショーをやらされていた俺は、流石に疲れたと根を上げた。

 泉姉や氷華姉の持ってくる服は良い。何故なら前世でも普通に男でも着れるような服だからだ。

 泉姉のチョイスは全体的にカジュアルなもの。途中から趣味が入ってきてパンクスタイルが混じってきたが、今のビジュアルなら平気で着こなせる。何なら自分でもカッコいいとすら思えた。

 氷華姉は身体のラインが映えるタイトな服を僕に着て欲しいらしい。こちらもこの身体のスタイルを良い方向で強調出来るようなものなので、別に抵抗するようなものでもない。

 問題は他二人、つまり母さんと時雨である。

 

「母さん、俺ちょっとスカートは……あと、こんなヒラヒラ俺には似合わないと思う」

「似合ってるわよぉ。今のメンズトレンドなのよ?」

「トレンドが俺に合うかは別だと思う……。時雨も、これちょっと大胆過ぎる」

「えぇー。お兄ちゃんぐらいの男子ならこれくらい平気で着てるよー。オフショルダーとか超イカしてると思うな」

「まぁ肩口ならそこまで気にしないけどさ……」

 

 この有り様である。

 この世界ではスカートは基本的に男女での区別はない。基本的に男性が好む服で、普通に女性が履くこともあるよ、程度のものなのだが、実際自分が履くとなると抵抗が大きい。そのくせパンツスタイルも性別の区別がないあたりに微妙な理不尽を感じる。

 確かにこの世界の男性はホルモンバランスがおかしいのか、体毛は極端に薄い。しかしだからといって全員が全員俺のように性別未詳な見た目をしているわけではなく、普通に男だよね、といった男性も当たり前にスカートを着用しているのだ。

 ぶっちゃけ視覚の暴力である。

 取り敢えず服装は俺の常識よりもはるかに広くおおらかな世界であるのは理解出来た。理解出来たのでそれなりに無難なのでお願いします。

 まぁ、二人とも俺の身体の問題点を考えてはくれているようで、致命的に論外なものは持ってきていないのだが。

 具体的に言うと、あまり露出が多いものは色々あって着るのをはばかられる事情があるのだ。妥協しても、時雨の持ってきた肩口の露出くらいだろう。

 

「えー。似合ってるのに……」

「見たいなー。スカート履いてるお兄ちゃん見たいなー」

「まあ買っておいてもいいんじゃねぇの。いつか着るときもあるだろ」

「無い」

「夏波、往生際が悪い」

 

 えぇ。俺が悪いのこれ。

 結局押し切られ、母オススメのメンズファッション、そして時雨イチオシの大胆コーデも購入されることになった。

 いつか本当に着せられそうで怖い。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。