主人公が全員ボッチなのはオリキャラを出すのが面倒なだけだから。作者に友達がいなかったとかそういうのじゃないから。
6月、中間試験という過酷な試験が終わった季節で、それと共に雨の多い季節、或いは祝日が一切ない季節だ。最後のは季節じゃないわ。
部活のある奴は今日から部活が復活し、帰宅して勉強という時間が部活にチェンジされ、毎日のように「マジだりー」「めんどくせー」「顧問うぜー」の三連コンボを日課の如く愚痴っている。そんなに嫌ならやめりゃ良いのに、別に強制されてるわけじゃないんだから。
そんな俺は一人暮らしの身であるため、部活ではなくバイトを選んだ。どうせ時間潰すなら金になる方が良いでしょ。
バイト先はコンビニ。去年からやってるので、もう一年になる。時の流れとは早いものだ。
………そういえば、今日は新人が来るんだっけか。多分、去年の俺以来の新人さんだ。まぁ、新人って言っても一日くらい店長やるとかいうアイドルとのコラボらしいが。
正直に言って、俺はアイドルに興味はない。だって、中身を知らないもの。顔だけ見りゃ可愛いのはわかるが、顔だけで人を判断する気にはならない。うちのクラスの女子は可愛ければ可愛いほど性格が悪いからな。その顔の可愛さで金を稼いでる連中なんて、それはもう性格悪かろう。いや、憶測でしかないんだが。
とにかくアイドルが相手だろうと関係ない。一日だけとはいえ、足を引っ張られないように仕事は普通に教える。……まぁ、一番新人の俺にアイドルを任せるとは思えないし、そもそも一日店長なら既に仕事くらい覚えてそうなので俺が教えることなんて無さそうだが。
そんな事を考えながら店に到着し、挨拶しながら店の奥に入った。
「はざまーす」
「ああ、来たね。古川くん、ちょっと来て」
「? なんスか?」
手招きで呼ばれて近付くと、スーツを着た男の人とどっかで見た事ある女の子が座っていた。
「こちら、今日一日だけ働いてくれてる、島村卯月さん」
紹介された島村さんは丁寧にも椅子から立つと、とても明るい元気な笑みを浮かべて挨拶した。
「島村卯月です、よろしくお願いします」
「…………」
アイドルって生で見るとメチャクチャ可愛いな、この子は性格まで良いに違いない(手の平返し)。
ボーッとその笑顔を眺めてると、店長に睨まれたためハッと意識が戻った。
「あ、どうも。古川皐月です」
他に何か言った方が良いかな、いややめとこう。下手なこと言ってアイドルの前で滑るような事があったら一生拭えないトラウマになりそうだし。
しかし、アイドルってテレビで見るのと生で見るのじゃ全然違うな。やはり3次元だからかな?2.5次元のテレビとはわけが違う。
「346事務所プロデューサーです」
「へ?あ、はい。どうも」
続いて、島村さんの後ろのスーツの人が名刺を差し出して来た。いや俺にまで名刺配ってどうすんだ、とも思ったが、まぁ社会人の名刺もらえる機会なんてそう無いし、一応もらっておいた。
すると、店長が俺にサラッと言った。
「古川くんには今日、卯月さんのサポートしてもらうから」
「えっ、俺が?」
「うん」
うん、じゃねぇだろ。
「待って下さいよ、俺新人ですよ?」
「入ったの一年前でしょ」
「他の先輩達の方が教えるの上手いでしょ」
「教える事は朝の人達が教えたから、君は近くで見てあげて万が一、変なお客様が来たらヘルプしてあげれば良いから」
「いやでも俺は」
「古川くん」
店長は真面目な顔で俺の両肩に手を置いて語り始めた。
「今日の他のメンバーを考えてみて?まずベテランの田中くん」
「変態ですね、この前休憩中にエロ本買って読んでました」
「山田くん」
「変態ですね、この前秋葉で買ってきたフィギュアの服を全部剥いでました」
「酒井くん」
「変態ですね、脱衣麻雀界の伝説です」
「その点、君は誠実だし紳士じゃないか。それに、中学まで護身術を習ってたんでしょ?君しか頼れる人材がいないんだ。いわば、最終兵器なんだ」
最終兵器、だと……?俺が?新人にして最終兵器?そこまで言われちゃあ仕方ないな。
「良いでしょう、引き受けます」
「はい、決まり。じゃ、卯月さんもうすぐ休憩終わるから着替えてきて」
「了解しました」
ふ、そうかそうか。俺はこの店の最終兵器か。
少しご機嫌になってきて、鼻歌を歌いながら着替えた。戻ると、島村さんはわざわざ更衣室の前で待機していた。この子は忠犬か何かなの?
「では、よろしくお願いします。古川くん」
「あ、はい。こちらこそ……」
挨拶され、その素敵な笑顔に押されて変な挨拶を返してしまった。生アイドルほんと可愛いな。ドルオタが騒ぐのも分かるわ。何ならドルオタの気持ちすら分かるわ。
………って、落ち着け俺。どうせこの人とは今日一日、いや俺が帰るまでの五時間しか会わないんだ。その五時間の間で変な真似してこれから先アイドルに変に思われるくらいなら、良い仕事する奴がいる、と思われた方が良いだろう。しっかりやろう。
島村さんと他のバイトと一緒に表に出た。やはりというか何というか、結構店は混んでいる。
島村さん専用のレジがあるようで、俺と島村さんはそっちに向かった。
「いらっしゃいませー、ご来店ありがとうございまーす」
楽しそうな声と素敵な笑顔で島村さんは接客し始める。その後ろで、俺はいつでもフォローできるように控えていた。
急いでる人や、アイドルに接客してもらわなくて良い人は隣の普通のバイトの所で買い物をしていた。
………一人だけ仕事してない罪悪感半端じゃないな。少しいづらいんだが………いや、まぁ俺を指名したのは店長だし、俺の所為ではないんだが。
「畏まりました、揚げ鶏ですね。188円です」
島村さんはそう言うと、揚げ鶏を摘んで袋に入れ始めた。ホント、楽しそうにやるなー、この人。
そんな事を考えながら、ぼんやりと島村さんの仕事してる姿を見てると、店の奥からプロデューサーさんが出て来た。
「じゃ、卯月。しっかりな。俺はもう一箇所の美穂の所行ってくるから」
「はい、頑張ります!」
そう言うとプロデューサーさんはコンビニを出て行った。他の場所でもアイドル達が頑張ってるのか。そしてそれを一人でサポートしてるのか、あのプロデューサーさん。大変だな。
しかし、これから忙しくなりそうだ。17時といえば定時で上がるサラリーマン達が帰り始める時刻だ。つまり、金が中途半端にある大人の男達がたくさん現れる事だろう。
それに追加し、島村さんは休憩を挟んでいたとはいえ、朝から仕事してるから、かなり疲れてるだろう。明日は昼まで寝てそうだ。
………もう少し分かりやすく手伝ってやるか。と、言っても具体的に何をすれば良い?おそらくだが、アイドルがレジを打ち、商品を袋に入れ、客に手渡すまでが島村さんの仕事であり、やる意義なんだろう。
そこに俺の介入する余地はない。やる事といえば……袋やフライヤー商品の補充くらいか。しばらく待機してるしかない。
何も出来ない事に何となくモヤモヤしてると「きゃっ」と島村さんから声が漏れた。見るからにやばい奴が商品を渡そうとしてる島村さんの手を掴んでいた。
「ふへへへ、俺は商品よりこっちの方が欲しいわ」
「あ、あの、困るのですが………」
なるほど、こういう奴がいるから俺がいるのか。業務開始から10分も経たないうちにこれなら、俺の仕事もハードなものになりそうだ。
小さくため息をついてから、押すだけで警備会社にヘルプ要請できるカードを首に垂らして男の手首を掴んだ。
「お客様、そのようなサービスは当店では実施しておりません。ご遠慮下さい」
「ああ⁉︎………あっ」
喧嘩腰で俺の事を見て来た割に、俺の首元にぶら下がってる防犯ブザーを見て、大人しく商品を持って引き返した。
「ありがとうございます、古川さん」
「いえ、別に………」
仕事だし。ていうか一々、お礼言わなくて良いから。まぁ、そんな事言えないんですけどね。俺ってアイドルに関わらず女の子と話すの苦手みたいだ。
まぁ、今の奴は防犯ブザーに気付いただけ冷静だったといえよう。他に厄介な奴はいくらでもいそうだし、気を抜かずに島村さんのサポートをさせてもらうとしよう。
×××
時刻は10時。終業時刻であり、深夜夜勤の人と入れ替わりの時間だ。島村さんも今日の業務は終わりのようで、一緒に店の奥に戻った。
戻ると、店長が顔を出した。
「ありがとね、古川くん。大丈夫だった?」
「はい………」
超疲れたんですけど………。何なの?最近の男どもってみんなあんな盛ってんのか?頼むからもう少し自制する事を知って欲しい。
「古川さんのお陰で助かりました。色んな人に手を掴まれたりして大変だったです〜……」
島村さんも疲れていたようで、元気な笑顔は若干苦笑いとなっている。
「卯月さんもお疲れ様。着替えて上がっちゃって良いよ」
「いえ、プロデューサーさんが来るまで待たないといけないので」
「そっか。じゃあその辺の椅子使って良いからね」
「ありがとうございます」
そう言って、島村さんは着替えに行った。それに合わせて俺も着替え始める。
いや、本当に疲れた。死ぬだろこれ………。何人かの人には胸ぐら掴まれたりもしたし、かといってこっちが手を出せば怒られるし……。まぁ、そういう人たちには防犯ブザーを見せれば大人しくなるんだが。
でも一日店長なんだからそれも今日で終わりなんだ。今日は帰ったら即寝よう。
着替え終わって更衣室から出ると、島村さんが店長と何か話しているのが見えた。女子って着替えるの遅いもんだと思ってたけど、アイドルはそうでもないんだな。
「………そうなの?」
「はい、道が混んでるみたいで駅前で集合になったので、私はこれで」
「そっか、分かった。ちょっと待っててね」
「? はい」
店長はそう言うと、俺に目を向けて手招きした。あ、これは知ってるぞ。面倒ごとを頼まれる時だ。
「古川くん、悪いけど島村さんを駅まで送ってくれるかな?」
ほら見た事か。
「何で俺が……」
アイドルと二人で歩く機会なんて滅多に無いが、それ以上にさっきまで二人で働いてたし、今日はもう疲れたので帰りたいんだが………。
すると店長はポケットから財布を取り出した。
「はい、ボーナスあげるから」
「オッケェ、我が命にかえても」
千円札をいただいて、島村さんとコンビニを出た。
他の人にバレないように裏口から出て駅に向かう。すると、島村さんは元気な笑みを浮かべて言った。
「今日はありがとうございました、古川さん!」
「え?あ、は、はい。い、いえ、仕事でしたので………」
「コンビニには結構、変なお客さんが来るとプロデューサーさんから聞いていたので、少し不安だったんです。でも、古川さんはちゃんと止めてくれたので助かりました」
「い、いえ………」
ていうか、昼勤と早朝の人達も同じ事してたんじゃないの?
「朝とお昼の時はあまりそういった方はいらっしゃいませんでしたし、変な方が来ても店長さんを呼びに行くだけで、直接止めさせてくれる人はいなかったんです」
おい、マジかよ。それはちょっと酷いな。いやまぁ、変なのには誰だって関わりたくないし仕方ないとは思うけど。
「ですから、古川さんはすぐに助けてくれたので、本当に安心しました!」
「っ……。そ、そうですか………」
その眩しい笑顔やめろ。心が浄化されてる気がする。なんなら直視出来ないまである。
「古川さんは何年生なんですか?」
「えっ、こ、高校二年ですけど」
「あ、じゃあ同い年ですね」
「そうなんですか?」
「はい!私も高校二年生です」
それは少し意外だ。あまりに純粋過ぎるので、てっきり歳下なのかとばかり………。
「あ、そうだ」
島村さんは何かを思い付いたのか、ポケットからスマホを取り出した。
「L○NE交換しませんか?」
「えっ」
「私、男の子の友達って初めてなんです!せっかく、同い年だったんですから、私とお友達になってくれませんか?」
お、おいまじかよ。俺は女友達どころか友達が初めてなんだが……。いや、そういうんじゃなくて。
アイドルと?俺が?L○NEを交換して友達に?え、ていうかそんなことして良いの?
「本当はこういうのダメなんですけど………。でも、この機会を流すのは惜しい気がして。ダメですか……?」
くっ……上目遣いは卑怯だろ………。
「………いや、俺は良いです、けど……」
「ありがとうございます!QRコードで良いですか?」
「あ、はい」
そんなわけで、俺の家族しか登録されてない連絡先に、アイドルの名前が追加された。