島村さんならどんな捻くれ者も浄化できる。   作:バナハロ

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コミュ障はつまらない事で悩む。

 さて、困った事になった。服装は何とかなったものの、やはりカップルはどんなことをしているのかが分からない。調べても、デートコースだの話題に気をつけるべきことだの載ってるが、話すべきことは載っていなかった。ていうか、例え載っていたとしても、やっぱり俺が興味ある事じゃないと話してても楽しくないよなぁ。

 いや、そもそも俺と島村さんはカップルじゃないけど「男女 二人でお出掛け 会話」で検索するとカップルのことしか出て来ないんだもん。

 まぁ、とにかく少し表に出てみるか。カップルのいそうな場所でそいつらの事見張ってみよう。人の話の盗み聞きは俺の特技の一つだ。スパイか俺は。

 そんなわけで、部屋を出て駅前に向かった。大体のカップルはここで待ち合わせするだろ。案の定、チラホラと待ち合わせに集まってる連中が溜まってきていた。

 しかし、アレだな。待ってるのは男の方が多い。やっぱり、女子ってのは準備が遅れたりするものなのか?

 そんな事を考えてると、一人の男が駅に向かい、その後ろをつけるように女の子が歩いてるのが見えた。一番早く合流したカップルはあそこのようなので、そこの後をつけることにした。

 しかし、標的を間違えたかもなぁ。電車に乗るまで一切会話なし。てか、この人達本当にカップルか?

 男の方が席に座ろうとしたら、ちょうど別の入り口から乗ってきた人と目が合った。すると男は目を逸らして立ったままスマホをいじり始めた。反対側の人は軽く会釈して席に座った。

 もしかして、席を譲ったのか?リア充なんて自分達が楽しけりゃ後はどうでも良い自己中ばかりだと思っていたが、ああいう奴もいるんだな。

 少し感心してると、女の方がようやく第一声を発した。

 

「優しいとこあるじゃん」

「いやいや、人として当たり前の………えっ、なんでいんの?」

 

 えっ?なんでいんのって……お前ら約束してたんじゃないの?

 

「ん?私もお出かけ」

「………なんでスーツケース持ってんの?」

「泊まり掛けなの」

「うん、もうストレートに聞くわ。どこ行くの?」

「青梅の方」

 

 青梅⁉︎そこまで行く金無ぇよ!ていうか、男の方も今の今までつけられてんの気付いてなかったのか⁉︎

 

「えっ、ついて来る気?」

「え?うん」

 

 なんだ?なんか話が飲み込めないんだが。カップルって話が噛み合わないもんなのか?そんなわけあるか。

 女の方のあっさりした答えに、男は若干呆れたように半眼になった。

 

「いや、来ても良いけどうちで何すんだよ………」

「特に何かしたいとかじゃないよ。ただ、ナルと一緒にいたかっただけ」

 

 ………あ、なんだ。やっぱりカップルか。てか、うちってなんだよ。もしかして、里帰りでもすんのか?高校生で一人暮らししてる奴なんて俺くらいだと思ってたが。

 まぁ、カップルならここでしばらく聞き耳立てていよう。あの二人がこの電車から降りたら、俺もそこで降りてその駅で別のカップルを探そう。

 

「………まぁ来るのは良いけど、気を付けてね」

「? 何が?」

「うちの連中、色々とアレだから」

「えっ………?」

 

 あれってなんだよ、怖ぇよ。大体、「うち」ってのが家族の事だとして「連中」呼ばわりって………。反抗期かあいつは。

 ていうか、帽子で顔よく見えないけど、女の子の方メチャクチャ可愛いな。

 

「………でも、W○i無いよ?俺の部屋にあるゲーム、全部実家から持って来た奴だし」

「大丈夫、持って来た」

 

 なんでいきなりゲームの話?てかあの女の子も家庭用ゲーム機持ってきちゃうのかよ。なんなんだ、このカップルは。

 しかし、彼氏、或いは彼女がいる奴でも、ゲームくらいやるんだな。恋人がいるのとゲームをやるのは関係ないってことか?

 

「凛」

 

 男の方がまた女の子の方に声を掛けた。ていうか、彼女の方は凛って言うんだ。

 

「何?」

「数字やるか」

「何それ?」

「お互いに1から連続した数字を三つまで数えて、30って最初に言った方の負け」

「良いね、やろう」

 

 へぇ、そんなゲームあるのか。面白そう………あれ?それ、先手必勝じゃね?何そのクソゲー。何が楽しいんだ?

 そんな事を思ってる間に、2人はゲームを開始した。

 

 ×××

 

 結局、次の乗り換えが終わるまで、ずっと2人はそのゲームをしていた。それまでの間、男は完封で勝ち切っている。てか、あの凛って人は割とバカなのか?先手譲ってもらってるのに勝てないとかアホだろ。

 まぁ、お陰でカップルのことは少し分かった。電車に乗ってる時はあの手の口だけで遊べるゲームがウケるんだな。女の子の方、超楽しそうだったし。一回も勝ってないけど。

 改札口を出て、次のカップルを探し始めた。

 

「さ、皐月くん!」

 

 そんな声が聞こえ、振り返ると島村さんが立っていた。

 

「あ、島村さん。どうも」

「何してるの?こんな所で……」

「何って………」

 

 あれ?俺何してるんだろ?カップルをストーキングしてる上に会話を盗み聞きしてたなんて言えないよな………。

 

「ひ、暇潰しに……たまには、外に出ようかなって思って………」

 

 苦しまぎれにそう言うと「そっか!」とあっさり島村さんは信じた。この子、本当宗教とか簡単に引っかかりそうで心配だ。

 

「じゃあ、今暇なの?」

「あー……まぁ、暇だね」

「良かった。私もレッスン終わって暇なんだ。一緒にお昼食べない?」

「良いけど」

「よし、決まり」

 

 ホンットにこの子の笑顔は素敵だなー。可愛らしいを通り越して眩しい。この笑顔を見ると、心の汚さとか全部浄化されてる気がする。

 

「何か食べたいものはある?」

「何でも良いよ。安けりゃ」

「じゃあ、マックで良い?」

「えっ、良いけど……逆に良いの?」

「うん。安い方が良いんだよね?」

「…………」

 

 そいえば、ググった時にやっちゃいけないことの中に「なんでも良い」はダメって書いてあった気が………。それと、彼女の方に店を決めさせるのもダメだって。あ、いや別に島村さん彼女じゃないけど。

 

「あ、や、やっぱりこう……肉が食いたいかも………」

「お肉?」

「ああ、超腹減ってる。むしろ腹しか減ってないわ。ファミレス辺りで良い?」

「分かった。じゃあファミレスね!」

 

 ふぅ、これで良いのかな?女の人と出掛けるのって神経使うなぁ。

 まぁ、ファミレス程度なら良いとこ千円くらいで済むだろうし、割と上手く躱せたと思う。

 

「しかし、この辺って近くにファミレスあんのか?」

「うん。駅の近くに………ほら、ガ○ト」

 

 ふむ、ガ○トか。値段はジョナよりマシだな。

 島村さんの案内の元、ガ○トに向かった。店に入って店員さんに案内され、一席に座ると、早速メニューを開いた。

 

「何にしようかなー」

「島村さんって好きな食べ物とかあんの?」

「はい。生ハムメロンです!」

「………は?な、生……?」

 

 何言ってんのこの人。

 

「知らないの?生ハムメロン」

「ちょっと存じ上げないですね。どこの世界の食べ物?」

「この世界だよ!メロンに生ハムを巻いて食べるの。美味しいんだよ?」

「………それ最初に試した奴絶対頭おかしいだろ……。バナナに牛肉巻いてしゃぶしゃぶするようなもんじゃね」

「全然違うよ!皐月くんも食べてみれば分かるよ!」

 

 いや、そんな黒魔術の実験に参加したくはない。

 

「機会があればな。それより、さっさと注文しよう」

 

 さっさと話を切り上げた。俺から振っておいて話を切り上げるのは申し訳ないけど、ほんとに食わされそうだったから。

 

「俺、この鶏肉で良いや」

「あー、美味しそうだね」

 

 ガ○トに来たら毎回これなんだよな。肉で一番美味いのは鶏だし。

 

「でも、ステーキって言ったら牛肉ってイメージあるけど……」

「いやいや、牛も豚も肉じゃないでしょ。すぐに喉乾くし」

「それ、鶏も一緒だと思うけど………」

 

 分かってないなぁ。牛や豚も脂っぽいし中々噛み切れないし、何より牛と豚って味同じでしょ。鶏みたいな個性的な味がないよね。

 が、俺の言うことに納得してないのか、苦笑いを浮かべつつ、島村さんはメニュー見ながら指を指した。

 

「私は和風パスタかなー。それとドリンクバーかな」

「あ、それなら俺、ガ○トのクーポン携帯にあるから安く出来るよ」

「良いの?」

「ああ。俺、基本的にパスタ食わんし」

「やった。ありがと」

 

 よし、決まったな。ピンポーンとボタンを押して店員を呼び出した。若鶏のグリルと和風パスタ、ドリンクバーの他にポテトも注文し、ようやく息をついた。やっぱり、店員さんに注文するのにも少し勇気がいる。

 

「皐月くんはパスタ嫌いなの?」

「えっ?なんで?」

「基本的にパスタ食べないって言ってたから」

「ああ、いや好きだよ。ただ、パスタくらいなら自分で作れるから」

 

 茹でるだけだからな。余り料理は得意じゃないんだが。

 

「てか、島村さんはパスタ好きなの?」

「はい。私、余り嫌いな食べ物とかなくて」

 

 まぁ、生ハムメロンが好きな人だからな。俺みたいに好き嫌い激しそうじゃないし。

 しかし、今ふと思ったけど、島村さんと偶然出会うなんてすごい確率だよな……。島村さんは何してたんだろう。

 

「島村さんはさっきまで何してたの?」

「レッスンだよ。今日は午前中で終わりでしたので」

「ああ、なるほど………。てことは、事務所ってこの近くなの?」

「うん。ほんとはさっきまで響子ちゃん……あ、この前勝手に私のスマホを使って皐月くんに電話した子と一緒にいたんだけど」

 

 ああ、あの時の子か。

 

「分かるよ。五十嵐響子さんでしょ?」

「はい。その子と美穂ちゃんと一緒にいたんですよ。だけど、私が皐月くんを見つけたら、2人とも『一緒に食べてきなよ!』って言われて………」

「は?なんでまた………」

「さぁ………」

 

 もしかして、五十嵐さんは俺と島村さんが恋仲になるとでも思ってるのか?だとしたら、それはちょっとあり得ないかな。だって、島村さんにその気はないもの。唯一の男友達として俺を見てるわけだし。

 そういえば、島村さんはこんなに純粋なわけだが、恋とかしたことないのかな。いや、無さそうだけども。ちょっと聞いてみようかな。

 

「島村さんってさ」

「? 何?」

「好きな人とか出来たことないの?恋愛的に」

「恋愛、ですか……」

「まぁ、アイドルになれるくらい……そ、そのっ、かわっ……可愛いんだし、告白とかされたことありそうだなって思って」

 

 ………アイドルになれるくらい、っていう言い訳を付けても女の子に可愛いって言うのは勇気がいるな。どこまでチキンなんだよ俺は。

 

「私は恋愛とかよく分からないから。告白されたことは一回だけあるよ」

「………へぇ、あるんだ」

 

 スゲェなそいつ。よく島村さんに告白する勇気があったな。水族館のチケットをくれた人といい、多分アプローチはたくさん受けてたんだろうな。まぁ、島村さんが鈍過ぎて気付かれなかったんだろうけど。

 

「皐月くんはそういう話は無いんですか?」

「………恋愛話どころか友情話もありませんが」

「…………あ、あはは。で、でも、私とこれから友情話を作っていけば良いよ!」

「………そいつはどうも」

 

 そこは冗談でも恋愛話って言っとけや。別に俺が島村さんのことが好きか、或いはその逆は置いといても異性だぞ。いや、まぁ恋愛話とか急に言われても勘違いしちゃうから困るんだけどさ。

 

「そ、そうだ!せっかくだから、これからガンプラ買いに行かない⁉︎それで一緒に作ろうよ!」

「ああ、そうだな………」

 

 全力でフォローされ、何となく何とも言えない気分になった。

 すると、料理が運ばれて来て、俺と島村さんの前に置かれた。そういや、ドリンクバーの飲み物取りに行ってないな。

 

「島村さん、何か飲む?ドリンクバー頼んでたよね」

「へっ?あ、良いよ。自分で取りに行くから」

「いやいや、ついでだから気にしないで」

「うっ……じゃあ、スプライトで」

「りょかい」

 

 ドリンクバーに戻り、スプライトを注ぎ始めた。

 ………あれ?そういえば、割と島村さんと話せてるな、俺。これなら別にカップルをストーキングする必要なんか無かったんじゃないか?

 考えてみれば、友達と遊ぶのにわざわざ話す内容を考えておく必要なんかない。その時にふと話したいと思ったことを話せば良いのだ。無ければ、向こうの話を聞くのもアリだろう。

 ………となると、俺は今日一日、交通費を無駄に使ったってことになるな………。

 そう自覚した直後、なんてアホな真似をしてたんだと後悔し始めた。ため息をつきながら自分の席に戻ると、島村さんが小さく手を振っていた。

 

「食べてなかったの?パスタ冷めるよ?」

「だって、皐月くんと一緒に食べたかったから」

 

 そう笑顔で言う島村さんの前に、注文のスプライトを置いた。

 ………まぁ、島村さんと飯食えてるし、別に良いか。

 そう思う事にして、とりあえず昼飯を食べ始めた。

 

 


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