島村さんとの水族館の2日後、今日もバイトしていた。この前の水族館は、なんかダメだったかもなぁ。島村さん、途中から完全に黙り込んじゃったし、やっぱ俺なんかが女の子と2人で出かけるのなんて身の程知らずにも程があったかもしれない。あの日以来、島村さんから連絡こなくなったし。
ま、人生こんなもんさ。出会いと別れが人のメンタルを強くするんだよ。主に別れで。………あれ?それ卑屈になってるだけでメンタル強くなってるわけじゃなくね?
しかし、島村さんとお別れなのはちょっと応えてるなぁ。島村さんとは少し親密な関係になり過ぎた。だから、別れとなってしまった今でも継続ダメージが入っている。
まぁ、これから先は人と付き合う時は別れる時を考えて距離感を考えることにしよう。
なんて事を考えながらタバコの補充を終えて、おにぎりの陳列に向かうと、自動ドアの開く音がした。
「いらっしゃいませ」
いつも通り先制攻撃のつもりでそう言うと、店に入ってきたのは見覚えのあるアイドル3人だった。五十嵐響子と小日向美穂、そして三村かな子だ。
最後の1人の時点で既に嫌な予感がした俺は、集中しておにぎりの陳列をするふりをした。こっち来るなよ、頼むから。
左上の天井の鏡を見ると、3人は迷い無くこっちに歩いてくる。あの3人はきっとおにぎりを買いに来たに違いない。なら、俺は退かなきゃいけないので、しれっとその場から立ち去ろうとした。
「古川くん、ちょっと」
逃げられない!
「………な、なんでしょうか……」
ビクビクしながら聞き返すと、いつの間にか3人に退路を塞がれていた。
「ちょっと良い?」
「………あと12分で休憩ですのでそれまで待っていただけませんか」
「分かった」
さて、遺書でも書いておくか。
×××
休憩になり、イートインにいるアイドル3人と合流した。なるべくなら五十嵐響子と小日向美穂に関してはそっくりさんだと信じたいが、三村さんと一緒にいる時点で多分本物だろう。
あー……やだなー。あの中行きたくないなー。だって絶対島村さん関係じゃん。男女間の揉め事において、男は女に勝てないのは世の定めであり、なんなら理りでもある。いや、別に揉めてはないけど。
と、いかんいかんいかん。ビビるな、俺。仮にも男だろ。何を言われるのか知らないが、仮に文句だとしたら主導権を握られたら終わりだ。男らしく堂々としろ!
「お待たせ」
なるべくビビってるのを察されないように、しれっと3人に声をかけた。直後、3人は同時に顔を上げて俺を見た。その集団行動並みに揃えられた動きが怖くて怖くてついうっかりひよってしまいました。
「座って」
三村さんに言われ、小日向さん、五十嵐さん、俺、三村さんという順番で座らされた。アイドルキャバクラという言葉が生まれそうな状況だが、何故か全然嬉しくない。というか超怖い。
休憩時間は15分。どこまで俺の精神が保つかだよなぁ……。ていうか、そもそも俺が攻められる理由なんてないよな。
ドギマギしてると、柔らかい声が聞こえてきた。
「あ、古川さん、ですよね?私、小日向美穂です」
「私は五十嵐響子です。よろしくお願いします」
「え?あ、は、はい。古川皐月です。よろしくお願いします……?」
初対面の2人と挨拶した。なんか割とフランクな感じだったので、少しホッとした。別に文句を言いにここにきたわけではないのか……?
だとしたら少し安堵できる。女子3人に袋叩きにされたら島村さんどころか女性不信になるわ。
「古川くんさ」
三村さんに「本題に入るよ?」みたいな感じで声をかけられ、ビクンッと肩が震え上がった。落ち着け、まだ名前を呼ばれただけだ。
落ち着けと言い聞かせながらも内心はドギマギしてると、第二声が発された。
「卯月ちゃんと何かあった?」
やっぱその話か……。だが、それほど怒ってるような声には聞こえなかったな。
「いや、特には……カップルジュースを飲んだくらい?」
「うーん……卯月ちゃんの言ってた通りかぁ」
「えっ、本人に話を聞いてるの?」
あれ、じゃあこの3人はどういう理由でここに来てるんだ?
俺の心境を察してか、五十嵐さんが説明してくれた。
「うん。いや、卯月ちゃんがこの前軽く壊れかけたから、もしかしたら古川さんはもっと大変なことになってるんじゃないかなって」
「あっ、それで何で初対面の五十嵐さんと小日向さんが……?」
「あ、私達は卯月ちゃんと古川さんの関係を知るメンバーですので」
関係って何だよ。なんかやましい関係があるみたいな言い方すんなや。
五十嵐さんの説明の続きを言うように三村さんと小日向さんが続けた。
「だから、古川くんは大丈夫かなって確認しに来たのと」
「私達は卯月ちゃんの相手の男の子がどんな子なのか見てみたくて」
「俺は動物園の希少動物ですか……」
そんな記念みたいなノリで言われてもなぁ……。ていうか、卯月ちゃんの相手ってなんだよ。恋人みたいな言い方すんな。
そもそも、俺は別に壊れるなんて程じゃない。そんな事で壊れてたら島村さんと友達やってく事なんて出来ない。
「それで、島村さんの破損は治ったのか?」
「破損って……人を精密機械扱い?」
「いや壊れたとか言ってたお前らが言うか……」
「卯月ちゃんのこと、気になるんだ?」
「まぁ、俺に原因がないとも言えないからな。ほとんど絶縁状態になってるとはいえ、少し前まで友達みたいな感じになってた人だし」
「えっ、ぜ、絶縁………?」
「島村さんからL○NE来なくなったし、送っても返事来なくなったし。高校も違うから会う事もないし。そもそも、たまたまバイト先にやってきたアイドルとよく1ヶ月ちょっとも連絡とってたと思った方が……」
そこまで矢継ぎ早に口を動かしてると、3人が意外なものを見る目で見てきていた。いや意外なもの、というかキョトンとした顔?それもちょっと違うか。なんか色んな感情が渦巻いて、結果的に少し驚いてるような顔になってる感じ。
「えっ、何?」
3人揃って同じ顔してるのに驚いて思わず聞き返すと、三村さんが口を開いた。
「……もしかして、古川くんさ」
「?」
「拗ねてるの?」
「…………はい?」
こいつ今、なんて言った?何で俺が拗ねる必要があるんだよ。
「拗ねてないよ。そんな子供みたいな……」
「えー、だってなんか不機嫌そうだし」
「言い訳するみたいに文句を羅列するし……」
「語尾が拗ねてる時の子供みたいだし」
「………」
こいつら打ち合わせでもしたのか?ってレベルで声を揃えられた。
「い、いやいや!拗ねてないから!大体、何で俺が拗ねるわけ⁉︎」
「うーん……卯月ちゃんに構ってもらえなくて、ですかね?」
「なっ……!」
ほぼ初対面の五十嵐さんにそう言われ、思わず恥ずかしくて顔が赤くなった。だって別に拗ねる必要がないでしょ。たかが女の子と一生会わなくなるくらいで……。
「うん、古川くん拗ねてるよ」
俺の心境とは真逆の感想を持った三村さんだった。
「いやいや、拗ねてないって。大体、島村さんに構ってもらえないからって拗ねる理由が分からないんだけど」
「そんなの決まってるよ」
えっ、俺でもわからない事を三村さんがわかるの?俺の心情に関しての事なのに?ニュータイプ?
ただでさえ焦ってるのに、三村さんはさらに信じられないことを言った。
「多分、古川くんは卯月ちゃんの事好きなんだよ」
そう言われた直後、俺はポカンとし、五十嵐さんと小日向さんは「ひゃーっ」と小声を漏らした。
「なっ……何をいきなり……!」
「だって、そうとしか考えられないもん」
「い、いやいやいや!それはないから!」
「いや、あるよ」
「何で当の本人より俺の事分かってんの⁉︎俺が違うって言ってるんだから……!」
「うーん……数回しか会ってない私でも分かるけど、古川くんってアレでしょ。島村さんを好きになっちゃいけない、とか思ってるでしょ」
「………えっ」
な、なんでわかんの……?マジでニュータイプなのか?
「古川くん、分かりやすいもん」
「あ、いやでも実際好きになっちゃダメでしょ。だって島村さんアイドルだし……」
「まぁ、そうかもしれないけど……でも、結構この事務所で恋愛の噂とか聞くよ?」
「えっ、そ、そうなの?いや、仮にそうだとしても恋愛ダメならルールは破るべきではないから。島村さんは特に仕事には熱心だし」
「そういうのも分かるけど、でも卯月ちゃんも古川くんもまだ高校生でしょ?年齢的には恋愛の一つや二つくらいしても良いと思うけどなぁ」
「……まぁ、そう言われりゃそうなんだが……。でも、それで島村さんの足を引っ張るような事があるのは一番嫌だし」
「あ、今卯月ちゃんの事好きなのを認めた?」
「…………」
こいつ、今完全にカマかけてたよな。まさか、俺が抜かるなんて……いや、結構島村さんに想定外のことされてドギマギさせられてるけど。
「ねぇ、認めた?」
あ、こいつすごい意地悪そうな顔してる。三村さんもこんな顔するのか。気がつけば小日向さんも五十嵐さんも同じ顔してるし……。なんかもう何でも良いや。
「‥…わかったよ。それで良いよ………」
「うん。じゃあ、私達が協力してあげる」
「はっ?」
協力?っていうと?
「卯月ちゃんと古川くんが付き合えるように、色々協力するよって」
「いや、いいよ別に」
「は?なんで……?」
そりゃそうでしょ。答えるまでもないわ。
「島村さんが俺を好きになるとは思えないし、告白なんかされても困らせるだけでしょ。告白なんかしないよ」
何より、告白する勇気なんか俺にはないし。
それよりも現状、島村さんからの返信がないことを何とかするべきでは?
「……古川さんってアレですね。ヘタレなんですね」
「ふぁひっ?」
五十嵐さんが半眼になって俺を睨みながら毒を吐いた。突然の毒舌に思わず変な声を上げてしまった。
「振られるのが怖いだけですよね?それ」
「えっ、いやまぁそれもあるけど……」
「いや、それが大半でしょう」
俺の考えてることってそんなに分かりやすいのかな……。ほぼ初対面の人にも見透かされるなんてなぁ……。
どうしようか考えてながらふと時計を見ると、もうあと2分くらいで休憩は終わりだった。
「ごめん、時間だわ」
そう言って店の奥に戻ろうとする俺の背中に、三村さんが声をかけてきた。
「卯月ちゃんに告白するなら、私は協力するからね」
「………そいつはどうも」
それだけ返して戻った。確かに、島村さんに告白するのを回避するために並べた言い訳かもしれない。
だが、俺が言い訳として言った言葉は決して間違いではないはずだ。やはり、下手に告白するべきではない気もする。でも、三村さんは協力すると言ってくれている。この機を逃したら、三村さんの協力は無くなるということだ。
「………はぁ」
まぁ、その……なんだ。その前に島村さんとの関係修復を考えよう。結論を出すのはこれからにするべきだろう。