バイトが終わり、コンビニを出ると見覚えのある女の子が立っていた。
島村卯月、絶縁したと思ってた女の子だ。その子が俺を見つけるなり、ぺこっと小さくお辞儀をした。若干、頬が赤いけど、何かあったのだろうか。
「どうも」
小さく手を振った。すると、何となくホッとしたのかこっちに駆け寄って来た。
「あ、あのっ……皐月くん」
「あ、話はどっか店入ってしましょう。こんな所で立ちっぱなしで話すと疲れるでしょ」
「そ、そっか……」
とりあえず駅に向かって、駅周辺のスタバに入った。2人で飲み物を購入し、席に座った。
「それでどしたの?」
「……うん。その、謝りたくて」
「……え、謝られるようなことされたっけ?」
「メールとか、無視しちゃってたから……」
「ああ、そんなこと。気にしなくても良いのに」
そんな事、普通の学生間の中ではよくある話だ。
「いえ、でも……かな子ちゃんや響子ちゃん達から『とても傷ついてるように見えたよ』って言われて……」
「あいつら……」
そんな謝らせるような事を……。実際、少し傷付いたっちゃあ傷付いてたが、わざわざ言わんでも良いのに。
「あの時、皐月くんと顔の距離が近くて……。その、とても恥ずかしかったから……話すのも、恥ずかしくなっちゃって……」
まぁ、島村さんは良くも悪くも距離感なんて考えずに、友達にはグイグイ行くタイプだからな。ある意味ではそういう、恋愛的なシチュエーションに慣れていないのだろう。
それなら、耐性が付かないのも当然だ。
「俺こそ悪い。あの場面は別に一緒に飲まなくても、お互い別々のタイミングで飲むべきだった」
「そ、そんな……!そもそも、ちゃんとチケットを見てなかった私が悪いんだし……」
珍しく羞恥心で顔を真っ赤に染めた様子の島村さんは、目を逸らしながらボソリボソリと呟くように続きを言った。
「……そっ、それに……皐月くんだって、嫌だったよね……。私なんかと、恋人役なんて……。今まで、結構紛らわしく思わせちゃってたみたい、だし……」
「………」
どうやら、三村さんか小日向さんか五十嵐さんか……いや、3人にか?自分の行動を少し指摘されたようだ。
まったくこの人は一体、何を言ってるのか。自分がアイドルだってこと分かってないのか?それに、外見のことやアイドルのことがなくても、そんなことは気にする必要がない。
「別に、嫌じゃないから」
「………えっ?」
「今更、島村さんの男を勘違いさせる行動なんて気にしてられないから。嫌だったから、そもそも水族館に行かないよ」
むしろ、島村さんの恋人に見られるなんて超ラッキー……いや、周りの男の嫉妬の視線に焼かれそうだからラッキーではないな。
「島村さんは反省なんかしなくて良いよ。今更、されたってギクシャクするだけだし。今まで通り、俺の心臓に負担をかけてくれたら良いから」
「心臓に負担までかけてたの私⁉︎」
「あ、いや、とにかくそんな気にしないで良いから」
言いながら、コーヒーを啜った。うわ、スタバ初めて入ったけどコーヒー美味いな。高いけど、これはそれだけ値段するわ。
若干、感動しながらコーヒーを机に置くと、島村さんが少し驚いた様子で俺を見てるのに気づいた。
「……皐月くん、良い人だね」
「え、何急に」
「いや、前々から思ってたけど……ううん、何でもない。じゃあ、これからもよろしくね、皐月くん」
「……んっ」
……それに、島村さんの笑顔は控えめに言って輝き過ぎてるので、それだけで心臓に負担が掛かるわ。今更、どんなことされたって動じはしない。
「じゃあ、これからビ○グカメラさん行かない?私、少し気になるモビルスーツがあるんだ♪」
まぁ、少しは自重して欲しいんだが。大体、JKの気になるモビルスーツってなんだよ。
×××
プラモ売り場に到着し、店の中のガンプラを見回した。相変わらず、モビルスーツの絵が描いてある箱が大量に並んでる光景はいくつになっても男を興奮させやがるぜ。どんなクソダサモビルスーツでも、あの群れの中に入ってればカッコよく見えるんだから不思議。
それで、島村さんの気になるあの子はどれなの?そう思って隣の島村さんを見ると、島村さんの姿はなかった。勝手にプラモを探しに行っていた。
行くなら一声かけて欲しかったってばよー。それとも何も言わずに黙って俺について来い的な意味か?何その島村さん(イケメン.ver)ちょっと気になる。
「おーい、皐月くん!こっちこっち!」
元気に手を振って来た。島村さんは相変わらず元気だ。立ち直るにしても早過ぎる気がするが、まぁそれは島村さんの長所なんだろう。
早くー、とか言ってたのでのんびり歩いて合流すると「これです!」と元気良く箱を見せて来た。
手に持ってるのはインフィニットジャスティス、隠者と呼ばれるモビルスーツのガンプラの箱だ。ああ、確かに島村さん好きそうだもんな、隠者。
「これです!気になる子!」
おいおい、本当に気になるあの子になっちゃったよ。
「乗ってる人はともかく、カッコ良いよね!デスティニーをやっつけた時なんかすごかったもん」
おおっと、さらっとディスられましたよ、アスラン。まぁ、俺もアスラン好きじゃないし、島村さんの意見も頷けるので何も言わないが。
「ああ、まぁ機体は良いよな。足にサーベルついてるあたりとか」
「はい!あのデスティニーの足を蹴り斬った所とか良かったです!」
蹴り斬る、という単語は聞き慣れないが、多分褒めてるので黙っておこう。
「武装は完全にアスランに合わせてるけどな」
「はい。でも、ちゃんと外見と武装が合ってて、私は良いと思うよ」
そう言われりゃそうなんだがな。まぁ、種に出て来る主人公格は全員リア充だし、そんな事で機体が好きになれないのはおかしいか。
「まぁ、俺はそもそも種死のモビルスーツがインパルス以外好きでもないからなぁ。どちらかというと種の時の方が好き」
「それはちょっとわかるな。デュエルのデザインとか本当に好きだったから」
「あれ、意外。イージスかジャスティスだと思ってた」
「それ色で言ってるでしょー。ちゃんとデザインで見てるよ」
まぁ、そりゃそうか。それでも、ガンダム系が好きなんだな、やっぱ。SEEDのガンダムは厳密にはガンダムではないが。
「他のガンダム見れば、ガンダム系モビルスーツ以外も好きになれると思うんだけどな」
「一番好きなのはガナザクだから」
「それなら元のザク見ればそっちの方が好きになりそうだな。元のザクはそれはもうカッコ良いから。ガノタの神だから」
「? ザクはカッコ良いというより可愛いんだよ?」
たまにこの子の感性がよくわからないわ。いや、壮大な想像力を持てば可愛く見えなくもないのか……?
でも、モビルスーツで可愛いって言ったらアッガイとかだよな……。
「そ、そっか……。まぁ、とにかくガナザクがパチモンに見えるレベルでは初期のザクは良いから」
「そっかー。どんなの?」
そういや、ここプラモコーナーだったな。まぁ、ザクの売ってないプラモ屋なんてないだろうし、すぐに見せられる。
宇宙世紀のプラモの方に向かい、ザクのプラモを探した。
「ああ、これこれ」
言いながら、量産型のザクの箱を見せた。すると、キョトンとした様子でザクの箱を眺めた。
「……赤くない?」
「ガナザクだって量産機は緑でしょ」
「……私は、赤い方が好きだけどなぁ」
「ならこれ。シャアザクかジョニザク」
別の箱を差し出すと「おお……」と島村さんは声を漏らした。
「なんか、スッキリしてるね」
「まぁ、ガナザクに比べたらな。正直、俺はザクの性能は高くない方が好きなんだよね。高くないのにパイロットによっては強くなる、みたいな」
「ガナザクってそんなに強かったかな……」
「アレ、ストライクと同等レベルの性能らしいよ」
「えっ、そ、そうなの⁉︎」
トライエイジのカードの裏に書いてあった。コモンのガナザクだったっけか。そこまでは覚えてないや。
「だけど、このザクはマシンガンをガンダムに直撃させても傷一つつかないんだよ」
「ええっ⁉︎」
「こんな機体でシャアはガンダムと互角以上に戦ってたんだから本当にもう」
「……ガンダムの人が弱かったんじゃ」
「まぁ普通の男の子だからな。まぁ、ランバラル辺りから化け物になるんだが……」
「キラさんとどっちが強いの?」
「いや終盤になるとアムロのが強いんじゃね。逆シャアのアムロになったら多分、相手にならんし」
まぁ、逆シャアのアムロと比べたらダメか。ていうか、そもそも世界観の違うキャラの強さ談義自体あまり意味ないわ。そういう話は好きだけど。
「……ふーん。キラより強い人いるんだ」
「まぁ、見れば分かるよ。特にアムロは少年期から化け物だから」
機体の方がついて来れないってなんですかね。アムロとかがガンダムのゲームやったらどうなるんだろうな。そこでもニュータイプ発揮すんのかな。
「じゃあ、次は初代ガンダムだね」
「今は何見てんの?」
「SEED Destinyの終盤」
もうそこまでいったか。そして種死を見てしまったか……。絶望しないことを祈るだけだ。
「とにかく、今日はインフィニットジャスティスにしておくね」
「好きなのにしなよ」
「……あ、そうだ。せっかくだから、皐月くんも買おうよ」
「あー……そうだね。何買おうかな」
「ストライクフリーダム!」
「いや、宇宙世紀のモビルスーツにするわ」
「そ、そっか……」
ショボンと肩を落とす島村さん。
「………と、思ったけど、SEEDのMSも良いかなー」
「ほんとですか⁉︎じゃあ、ストライク……!」
「ストフリはいいです」
別に好きじゃないし。
「とりあえず、フォビドゥンにしよう」
「……思いっきり敵モビルスーツだね」
「だってカッコ良いじゃん」
「ま、まぁね」
「それに、俺あの三馬鹿好きなんだよね。強いし、SEED系の三馬鹿で一番個性的だから」
「私はあまり……なんか『死ね、死ね』って言うし……。あまり口の悪い人とか……そ、そのっ……怖い人は……」
本当にこの人かわいいな。アニメのキャラに怖いっていう感情を抱くとか……。ヤンデレとかならともかく。
とにかく、機体は決まったしさっさと買いに行こう。
「この後、うちで一緒に作る?」
「うん♪」
2人でガンプラを購入した。
いやー、楽しみになって来た。誰かと作るガンプラってのは割と楽しいもんだからな。なんか新しい発見とかあるかもしんないからな。
楽しみなのは島村さんも同じのようで、鼻歌を歌いながら言った。
「なんだか久しぶりだね。2人でプラモ作るの」
「そうな。最近は連絡も取ってなかったし」
「うっ……ご、ごめんね……」
「あーいや、そんなつもりじゃなかったんだけど……」
少し軽率な発言だったな。
「まぁ、そんな気にしないで。元々、俺は一人だったし別に気にしてなかったから」
「………」
あれ、今度はなんか不機嫌になったぞ。ぷくっと頬を膨らませて、下から俺を睨んでいる。でも怒った顔も可愛いのが狡い。
「……皐月くんは、私とお友達じゃなくなっても平気ってこと?」
「へっ?あ、いや……そういうわけじゃないから!一人ぼっちなのが慣れてるだけで、島村さんと連絡取れなくなるのはキツいから!」
「えっ?そ、そっか……」
今度は顔赤らめるんだ。なんて言えば正解だったんだよ……。
ていうか、今になって思ったけど結構恥ずかしいこと言ってんな俺……。
なんか純愛カップルみたいに2人して顔を赤らめながらエスカレーターを降りて、そのままビ○グカメラを出た。
天気はさっきまでと違ってあまり良くない。雨が降って来そうな感じだ。
とりあえず、雨に降られないように早歩きで俺の家に向かう。その間、俺と島村さんの間に会話は無かった。
もう少しで俺の家に着きそうな辺りで、島村さんが突然足を止めた。
「あの、皐月くん」
「? 何?」
「やっぱり、今日は帰りますね」
「へっ?」
「き、急に行っても迷惑かもしれないし……」
「いや、迷惑じゃないけど……」
「じゃあね!」
それだけ言って、島村さんは別の道を進もうとした。その直後、ポツッと鼻の頭に何かが当たって足を止めた。島村さんの体の一部にも当たったのか、足を止めた。
やがて、ポツッポツッと勢いは増し、ザアァァッと思いっきり雨が降って来た。
「降って来やがった……!」
「い、急がないと。またね、皐月くん!」
「あ、ちょっ……!」
走り出す島村さん。まぁ、でも慌てて走り始めた時の人間なんて、歩き始めの赤ん坊と変わらない。
「ひゃっ!」
ステンと前のめりに盛大に転んだ。
小さくため息をついて、涙目になってる島村さんを自宅まで運んだ。