島村さんならどんな捻くれ者も浄化できる。   作:バナハロ

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明るい子ほど凹むとネガティブ。

 自宅に到着し、島村さんはお風呂に入った。その間、俺も着替えて洗濯機を回して料理を作り始めた。

 真夏とはいえ、雨に濡れたら風邪引くから暖かいものをと思い、とりあえず味噌汁とカレーを作っておいた。

 しかし、どうしたものかな。何というか……島村さん、怒ったのか何なのか知らないけど、急に帰ろうとしてたなぁ。俺、なんかしたかな。

 風邪引くとヤバイとか濡れたまま電車はヤバイとか色々言ってうちに連れて来てしまったが、もしかして迷惑だったかな。

 

「はぁ……」

 

 いや、でもなぁ……何というか、こう……どうしよう。やっぱり怒ってるのかな。島村さんと会話が無くなり、最後に俺が言ったのは、あの小っ恥ずかしいセリフだけだし……。

 ……もしかして、「えっ、何こいつ。恋人気取りかよ」みたいな事を思われたんかなぁ……。

 ていうか、島村さんが怒ってるんだとしたらそれくらいしか理由は思い付かない。怒ってなかったとしたらー……なんだろ。軽く引いたとか?それはそれでキツイわ。

 しかし、せっかく仲直り……いや喧嘩してたわけじゃないが、関係が修復されたと思ったのに、また何かやらかしてしまったようだ。

 

「はぁ……」

 

 まぁ、人間関係はそんな簡単に修復されるもんじゃないってことか。とりあえず、島村さんに夕食を作ったら親御さんなりプロデューサーさんなりに連絡しよう。

 そうこう考えてるうちに、カレーが完成した。島村さんはお風呂からまだ出ないようなので、暇潰しにトライエイジのカードを整理することにした。テレビの下の棚から箱を引っ張り出し、中に使わないカードを入れる。

 まぁ、どのカードも結構愛着湧いてるから中々終わらないんだけどね。例えば、最初に当てたPレアのサイサリスは使いもしないのに未だに持ち歩いてたりしてます。

 床に座ってボンヤリとカードをいじる事、数十分が経過した。

 

「………」

 

 ……遅くね?島村さん。長風呂過ぎでは?真夏ですよ?

 しかし、ここで心配になって見に行った所で着替え中と遭遇なんてアホな目にも遭いたくない。そんなアニメみたいなことにはならない、と思うこともあるかもしれないが、中学の時に内科検診の準備中の女子がいる教室を開けた事があるので油断はしない。アレ、気まずいだけで何一つラッキーとか思えないからね。

 でも、何かあったら、それはそれで困る。こういう時、どう転んでもフラグにしかならないのが、もはやセコイよね。

 だが、こういう時にフラグにならない方法を知っているのが俺だ。フラグを壊すためには「こいつバカじゃないの?」と思われるほどに臆病になれば良いのだ。

 石橋はバズーカで撃って渡れ、確か逃げの小太郎もこんなこと言ってたはずだ。

 こういう場合、文字通り叩いて渡れば良いのだ。今回叩くのは石橋ではなく、洗面所の扉である。たかがノック、これを疎かにするから世の中にラッキースケベは生まれるのだ。いや、むしろラッキースケベ主人公はノックをわざとしてない可能性まである。

 とにかく、ノックをして中の様子を確認しよう。ドアを二回叩いて声をかけた。

 

「島村さん?」

 

 ……返事はない、ただの屍のようだ。いや屍じゃないけど。まだ湯船に浸かってるのか?

 いや、早とちりは良くない。ここで入れば、頭を拭いてたりドライヤーを使ってたりして俺の声とノックが聞こえていなくて返事していなかった島村さんとかち合う可能性もある。いや、ドライヤーの場合は問題ないか。全裸でドライヤーやる奴なんていないだろうし。

 ここは5分ほど待機した方が良いだろう。

 扉の前で新作ガンプラ情報を覗いてると、すぐに5分経過して再びノックをした。

 

「島村さん、ご飯できたけど……」

 

 ……やはり返事がない。まだ湯船か?にしても、長風呂過ぎでは?ご飯冷めちゃうんだけど……。

 お風呂に入ってる異性に声を掛けるのは失礼だろうか。でも、ご飯冷めちゃうし……。

 

「へぶしっ!」

 

 ……それに俺もお風呂入りたいし。いや、ここ数年は風邪引いてないから、風邪引くかもなんて思っちゃいないが、単純に寒い。なんか髪もごわごわして気持ち悪いし。

 一応、声掛けるだけ掛けてみようかな。洗面所に入り、まずは島村さんが着替え中でないことの確認、辺りを見回してると、島村さんのピンク色の下着が目に入ったので、視界から削除しました。

 で、扉一枚挟んで聞いてみた。

 

「島村さん?」

「っ⁉︎がぼっ、ゴボボッ⁉︎」

 

 急に声掛けられて驚いたのか、なんか溺れてる人の声が飛んで来た。悪かったな、急に声かけて。でも目を合わせてからだと目以外にも視界に入っちゃうから急に声掛けざるを得なかったんだ。

 

「ェホッ、エホッ!っ……さっ、皐月くん⁉︎どうしたの⁉︎私、入ってるよ⁉︎」

「いや分かってるよ。ご飯出来たよって。あと何分くらいで出るか教えてくれれば温め直せるから」

「えっ⁉︎い、いいよいいよ!すぐに出るから!」

「そう?じゃあ、待ってるから……」

 

 あれ、なんかザバァッて水が返り打つ音が聞こえたんだけど。え、おいちょっと待て。まさか、まさか立ち上がってるんじゃ……。

 湯船に浸かってる中、立ち上がった後の行動なんて一つしかない。身体を軽く拭いて風呂場を出るときだ。いや、人によっては拭かない人もいるかもしれない。

 そして、そこまで結論が出た時にはすでに遅かった。島村さんはガッツリお風呂場から出て来ていた。

 

「……あっ」

 

 島村さんから「うわやっべ」みたいな声が漏れた。が、ここで「目が合う事数秒」的な事を回避した。俺は速攻で目を背けて出口に向かった。よし、これで変なトラブルは回避され……。

 

「きゃああああああああ‼︎」

 

 後ろから濡れた事と丸めた事によって威力が高まったタオルが後頭部に直撃した。

 どうやら、どう回避しようと制裁は免れなかったようだ。

 

 ×××

 

「ほんとのほんとに見てないんだよね?」

「ああ、すぐに目を背けたからな」

 

 飯中、顔を赤くした島村さんから、裸を見たかどうかを問い詰められていた。まぁ、そっちからしたら気になるよな。でもな、そういう事はタオル投擲をやる前に確認しような。

 

「ほんとのほんとね?」

「ほんとのほんとのほんと」

 

 ほんとは右胸の乳首と股間のとこのイン毛がチラッと見えたけど。……思い出すと顔が熱くなってくるな……。それと、あと、1秒くらい見ておけば良かったという後悔も。

 

「あ、や、やっぱり見たんでしょ⁉︎」

 

 顔を赤くした俺に島村さんが食いかかってきた。あ、いや今のはそういうんじゃないんだってばよ。

 

「見てないって……。ホント、一瞬だったから見えなかったんだよ。残念ながら」

「残念ながらってどういう事⁉︎」

「冗談だよ」

 

 それよりも問題は山積みだ。これからどうするのか、とか。島村さんの服は一応、干してはいるものの濡れている。とても乾きそうにない。

 今は一応、俺のスウェットとパーカーを着てるけど、多分本人は恥ずかしくて死にそうなんだろうなぁ。別に俺の服を着てるからとかじゃなくて、下着も濡れて干してるから今、ノーブラノーパンだし。

 泊まりの可能性も無いことは無いが、泊まらせたら真っ赤な顔が破裂して死んじゃうんじゃないか。

 なんにしても、親かプロデューサーさんに連絡して迎えに来てもらうのがベストだろう。

 

「あの、島村さん」

「本当に見てないのね⁉︎」

「いや見てないってば。お願いだから会話しよう」

 

 まずそこを注意してから話を続けた。

 

「で、今日はどうすんの?誰か迎え呼ぶ?親御さんとかプロデューサーさんとか」

「うーん……でも、プロデューサーさんはお仕事忙しいと思うし、パパもお仕事だし、ママは免許持ってないし……」

 

 両親をパパママ呼びか、可愛いなオイ。

 

「ならタクシーでも呼ぶか」

「あの……ガンプラ買っちゃって、お金下ろさないと無くて……」

「コンビニまでなら傘で歩いて行けるでしょ。送るよ」

 

 直後、ピシャアァァッッッとすごい音が外から聞こえた。いつの間にか、雷までゴロゴロと鳴っていた。避雷針先輩がいないから傘をさすこともできないよね。どうやら、神様は意地でもうちに島村さんを泊まらせたいようだ。

 

「………泊まっていくしかなさそうだな……」

 

 そう言うと、島村さんはまた顔を真っ赤にしてカレーを口に運んだ。冷静ぶってるものの、俺もかなりテンパっている。だって、アイドルを自分の狭い1人ぐらしのアパートの一室に泊まるんだよ?

 部屋なんてトイレと洗面所しかないし、別々の空間で寝るのは不可能だ。健全な男子高校生ならそりゃテンパるさ。

 

「……ごめんね、皐月くん」

「いやいや、別に良いよ。寛いでって」

「いや、そうじゃなくて」

「?」

 

 なんだ?他に謝られる事なくね?この現状だって別に謝られるような事じゃないし。

 キョトンとしてると、島村さんが相変わらず顔を赤くしながらボソリボソリと呟くように言った。

 

「……ごめんね、その……さっき、態度悪かったよね……」

「はっ?」

「だって、その……やっぱり帰るね、なんて言って……。ずっと黙ってて、少し良くなかったよね」

「いやいや、それは俺も一緒だから」

「ううん、皐月くんが静かなのはいつもの事だもん」

 

 それはそれで問題がある気がするんだけどな。

 

「でも、私がさっき黙ってたのは……その、皐月くんがいつも黙ってるのと違うんだよ。恥ずかしさとか、照れとか……そういうのが頭の中を真っ白にしちゃって……それで……」

「あーいや、別に気にしてないから謝らなくて良いよ」

「でも……」

「それより、いつも通りアホの子みたいな笑顔浮かべてくれてた方が俺としては助かる」

「あっ、アホの子⁉︎」

 

 それは本当だ。正直、気にしてなかったと言えば嘘になるが、それでも島村さんにショボンとされてると何故か罪悪感が芽生えてしまうため、いつもみたいに笑っていて欲しい。

 こんな事は口が裂けても言えないため、悪口を挟んでしまったが。お陰で島村さんはぷくっと頬を膨らませて不機嫌そうな表情を浮かべてしまった。

 

「も、もー!アホの子ってどういう事⁉︎」

「あ、いやそれは……」

「私のパパもママもアホじゃないよ!」

「そういう意味じゃねぇよ」

 

 アホの子、という言葉の意味も分かってなかった。本当、良い意味でも悪い意味でも純粋な娘さんですね。

 

「とにかく、いつも通りにしてて下さい。ごっそさん」

 

 さっさと食べ終えて手を合わせた。これ以上のやり取りは無駄だと理解した為、食器を片付けに行った。島村さんも元に戻ったみたいだし。

 

「あ、皐月くん」

 

 食器を戻して、ついでに洗い物を始めた俺に島村さんから声が掛かった。

 

「ありがとう」

 

 そう言ってにっこりと微笑まれ、思わず「お、おう」と半端な返事をして目をそらした。ダメだ、やはり島村さんの笑顔は俺には直視出来ん。

 照れた顔を島村さんに見られるのを隠すように、俺は洗い物を無駄に長く続けた。

 

 

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