島村さんならどんな捻くれ者も浄化できる。   作:バナハロ

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風邪は寝てりゃ治る、間違っても照れるな。

 翌日、誰かに体を揺さぶられる感覚で目を覚ました。何となくかったるい気分と、いつもより重く感じる頭を抑えながら薄っすらと目を開けると、島村さんが俺の顔を上から覗き込んでいた。

 

「あ、起きた?おはよ!」

「……どうも」

 

 なんかよく寝た気がする。寝過ぎて頭が痛いのと同じ感覚だ。……あれ、でもまだ8時半過ぎか、時間的にはそんな寝てないな。ていうか、むしろいつもより早く起きてる気がする。

 ……なんか、こう……ダルいな。いつもしない早起きなんてしたからか?

 

「どうしたの?なんか、ボーッとしてる?」

 

 島村さんがキョトンとした表情で、下から覗き込んで来た。確かに少しボーッとしてるかも。

 

「何でもない。今、朝飯作るから待ってて」

「あ、それなら大丈夫だよ」

 

 にこにこ微笑みながら、島村さんは「じゃーん♪」と楽しそうに机の上を指した。味噌汁に野菜炒めに白米と、素朴だが栄養バランスの良さそうなメニューが並べられていた。

 

「えっ、作ってくれたんですか?」

 

 なぜか敬語になってしまった……。

 

「うん。皐月くん、昨日は私のご飯用意してくれてたから、今度は私の番かなって思って」

 

 いや、うちに泊まってるんだからそんな気にしなくても良かったのに……とは思ったが、口にはしなかった。作ってからそんな事を言っても仕方ないし、何より料理をする気分ではなかったから有難い。あと、その、何?せっかく作ってくれたし、とか……女の子の手料理食べる機会なんてこの先は一生なさそうだし、とか……。

 

「………どうも」

 

 色々と頭の中で言い訳をしてしまったが、早い話が感謝してるという事なので、簡潔にボソッとお礼を言った。

 ……何故か照れながらになってしまったけど。そんな俺の気を知ってから知らずか……いや、多分知らないんだろうけど、相変わらずツィツィヤックより眩し過ぎる笑顔で「うん」と答えた。

 

「でも、皐月くん。冷蔵庫の中、少し少な過ぎるよ?ちゃんとお買い物しなきゃダメだよ」

「……今日行こうと思ってたんだよ」

 

 嘘ではない。どの道、朝飯作ろうとすれば冷蔵庫の中覗く事になってただろうし。

 

「さ、食べよう?」

「んっ」

 

 島村さんに言われて、机まで移動しようと立ち上がった。が、体がゆらりと揺れた。

 

「?」

 

 あれ、なんだ。力が入らん。ていうか、なんか身体の節々とか痛いし、頭も痛い。

 

「皐月くん?どうしたの?」

「いや、なんでも……」

「………」

 

 なんだ、風邪でも引いたか?考えてみれば、昨日は雨に濡れて帰って来てから島村さんをお風呂に入れて、体拭いて着替えて料理作って歯磨きして2人でガンプラ作ってようやく風呂入ってたっけ……。

 すると、いつのまにか再び俺の目の前まで移動して来た島村さんが、顔を近づけて来ていた。

 

「大丈夫?」

「何が?」

「……なんか、顔色悪いよ?」

「そ、そう?それより、さっさと飯に……」

 

 言いながら歩いたが、足元がふらついて前のめりに倒れかけた。前にいた島村さんの肩に顎を置いてしまった。

 

「っ⁉︎さ、皐月くん⁉︎」

「っ、ご、ごめん……!」

 

 やっべ、セクハラかよ。体を上げなきゃいけないのに、体に力が入らない。

 すると、島村さんが「ひょっとして……」と声を漏らしながら、俺の両肩に手を置いた。違うんです、セクハラじゃないんです。なんか身体の調子が悪いんです。

 と、思ったら、島村さんは手を置いた俺の身体を起こし、オデコを当てた。

 

「ちょっとごめんね」

「っ⁉︎」

 

 なっ、ななな何しやがんだこの野郎⁉︎近い近い近い顔から火が出る所か顔が太陽になる!

 

「……皐月くん、熱ある?」

「いやそれこっちのセリフ」

「どういう意味⁉︎心配してあげてるのに!」

 

 俺から離れながらツッコミを入れ、今度は自分と俺の額に手を当てた。最初からそうやって熱測れや。

 

「やっぱり……熱あるよ」

「そうですか……」

 

 それ今上がった熱じゃないだろうな……。今世紀最大級に緊張したぞこの野郎……。

 

「とにかく、ご飯食べてゆっくり寝なね?」

「えっ、でも昨日のガンプラ作りの続きは?」

「ダメ!大人しくて寝てなさいっ」

 

 言いながら、島村さんは机まで俺を運んでくれる。しかし、風邪引いたか……。まぁ、昨日は雨に濡れたのにすぐに体暖めたりしなかったからなぁ……。

 あ、ヤバイ。風邪引いたって自覚すると体調が一気に崩れて来てる気がする……。

 

「大丈夫?食べれる?」

「あーうん。一応ね」

 

 いただきます、と手を合わせて一口もらった。おお、美味い……。

 

「美味いなこれ」

「ありがと。でも、食欲なかったら無理しなくて良いからね?」

「いやいや、むしろ体調悪い時の方が食欲出ない?」

「ごめん、それはちょっと分からない」

 

 ああ、だよね。親からも気持ち悪がられてたわ。

 でもその方が早く治るってもんでしょ。別に悪いってわけじゃないよな。

 島村さんの作った朝食を食べ終えて、布団に戻った。島村さんは食器を片付けると、枕元で正座する。

 

「よし、じゃあ今日一日は私が面倒見てあげるからね」

「いや、その前に着替えとか良いの?」

 

 あんたそれ俺の服の上にノーブラノーパンだろ?いや、俺としてはそれでも良いけど、あなたとしては良くないですよね?

 俺の言わんとしてることを察したのか、若干顔を赤らめて島村さんは俯いた。

 

「う、うん……。でも、その……帰るには、外に出ないと…いけないから……」

「あ、そ、そっか……」

 

 今は島村さんの着替えは洗濯して外に干してるが、それまでは島村さんは外に出れないのか。なんか申し訳ないな。いや、下着にまで貫通するほど雨で濡れたんだからしゃあないっちゃあ、しゃあないんだが。

 

「……じゃあ、乾くまでうちにいるんだ?」

「洋服が無くても、今日は皐月くんの家にいるよ」

「えっ、なんで?」

「だって、皐月くん風邪引いちゃったから。誰かいた方が良いでしょ?」

「そ、そりゃまぁ……」

 

 なんか悪いな。しかし、島村さんは多分、出て行こうとしないし、帰らせようものならしゅんっと凹んでしまうだろうし、ここは甘えるしかない。

 

「はぁ……なんか悪いな……」

「ううん。困った時はお互い様だからね」

 

 ああ、天使や……。ここに、天使がおる……。

 かなり感動しながら、とりあえずさっさと食事を終えて歯磨きして布団の中に入った。

 

「何かして欲しいことあったら遠慮なく言ってね。私はここにいるから!」

 

 島村さんが枕元に座ってそう言った。……なんだろう、なんかすごいうずうずしてるんだけど。どうしたのこの人?

 いや、まぁでもいてくれるだけでありがたいものさ。あまり気にせずに目を閉じてるべきだろう。

 布団の中で目を閉じた。……なんか、視線を感じるな。島村さんがすごい見て来てる気がする。

 いや、気にするな。多分、島村さんは変な所で真面目でアホの子だから、俺から目を離さずに見張ってくれるつもりなんだろう。

 ……でもちょっと気になるな。

 

「あの、島村さん?」

「何?喉乾いた?」

「あ、いや……そのー……あれだ。部屋にある漫画とか読んでていいよ。必要な時に呼ぶからさ、それまではそんなにじーっと見てなくても……」

「あ、そ、そっか。分かった」

 

 少しシュンっと肩を落としてしまったが、眠れなかったら風邪が治らなくなるし、そこは仕方ない。

 言われるがまま、島村さんは本棚に挿さってるガンダムOOのマンガ本をとって読み始めた。

 さて、俺もこれでゆっくり眠れる……。……その前にちょっと喉乾いたな。水飲もう。

 そう思って起き上がり、台所に向かった。

 

「? どうしたの?」

「や、喉乾いたから」

 

 島村さんからの質問をしれっと答えると、水道水を汲んで布団の中に戻った。くいっと一口飲んで、残りは枕元に置いて寝転がると、島村さんと目があった。ぷくっと頬を膨らませている。

 

「……ねぇ、皐月くん」

「えっ、何」

「皐月くんはさ、おバカさんなの?」

「はいっ?」

 

 おそらく、最大限に丁寧に「馬鹿かお前は」と言おうとしたんだろう。その結果が「おバカ」ってもはや可愛いな。

 しかし、言おうとしてることに変わりはない。島村さんから飛んで来たとは思えない暴言だった。

 

「な、なんで?」

「言ったよね、何かあったら呼んでって」

「言ったけど……」

「なら、そういうのも言ってよ!私が水を汲むから!」

「いや、そんな事で頼むのもアレかなと……」

「言い訳しない!」

 

 い、言い訳なのか……?いや、でもなんか怒ってるし従っておくべきだよな……。

 

「す、すみません……」

「じゃあ、お水汲んでくるね」

「え?いや、もう汲んだし……」

「ダメです、私がやります」

「………」

 

 もしかしてこの子……むしろお世話したくて仕方ないのでは……?まぁ、そんな事を聞いても否定すると思うけど……。

 まぁ、でもとりあえず寝てよう。いずれにしても俺に出来ることは寝る事だけだ。

 

 ×××

 

 何時間くらい経過したのだろうか。目が覚めて辺りを見回した。薄眼を開けて壁の時計を見ると、12:37だった。

 もうお昼か……。そういや、腹減ったな……。とりあえず起きるか……。

 そう思って体を起こした時だ。おでこの上に何かが乗っていることに今更気がついた。

 俺が起き上がると、俺のおでこの上に置かれていたもの、島村さんの手はビクッと震えて空中で静止した。本人は、顔を赤くしてぼんやりと俺のことを眺めている。

 

「あっ、ご、ごめんなさい!寝顔が可愛くてっ、つい……その、頭を撫でて、しまって……。それで、起きちゃったよね……」

「いや、全然……」

 

 なるほど、それで異様に心地よい眠りだったのか。

 

「むしろ、その……お陰で、それなりに……その、何?良く眠れた」

「っ、そ、そっか……」

 

 ……なんか、最近島村さん顔を赤くする事多くなったなぁ。というか、照れ屋?っていうの?

 まぁ、俺もそれ以上に照れてる回数多いし、人の事言えないけど。

 

「お、お昼にしよっか。私、お粥作るね!」

「へっ?あ、いや俺あんまお粥好きじゃないから普通にガッツリ肉食いたいんだけど……」

「じゃあ、卯月特製のオムレツ作ってあげるね!」

 

 そう言いながら、台所に消えて行く島村さん。なんだろ、大丈夫かな。怪我とかしないかな。

 なんか不安に駆られながら、とりあえず食事を待った。

 

 

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