島村さんならどんな捻くれ者も浄化できる。   作:バナハロ

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想像も妄想も口に出ないように気を付けよう。

 翌日、バイト先に向かっていた。なんだかんだ言って、もう夏休みも中盤、あと少しで憂鬱な学生生活が戻って来る。

 その反面、今の夏休みはそれなりに充実していたと思う。何せ、今年の夏は女の子と何日か一緒にいられたんだからな。それもアイドルと。それはもうテンション上がらない方がおかしい。

 昨日は結局、島村さんが起きてる間はほとんどL○NEしていたようで、会話が始まる時には「おはよ」、途切れる直前には「寝るね、おやすみ」のメッセージが送られて来ていた。

 しかし、なんというか、島村さんとの関係も随分と長くなった気がするぜ。本人を目の前にすると緊張の方が勝ってしまい、中々上手く話せなくなるけど、一人の時はそれはもう心も体もピョンピョンしてしまう。

 その所為か、柄にもなく今日のバイトも頑張ろうという気になってきてしまう。

 そんな事を考えながらコンビニに到着すると、工事の時によくしてある、布のカバーみたいなのに店が覆われていた。

 

「……はっ?」

 

 え、工事中?なんで?昨日と一昨日休んでた間に何があったんだ……?

 すると、スマホがヴヴッと震えた。バイト先の田中さんだ。

 

 田中@おっぱいに挟まれたい『悪い、連絡すんの忘れてた』

 田中@おっぱいに挟まれたい『今日からコンビニリニューアルの工事でしばらく休業だって』

 

 ……早く言えよこの野郎。

 はぁ、やる気も元気も全部無駄になった気分だぜ……。

 仕方なく「了解」と短く返事をして引き返した。しかし、これでしばらくする事なくなっちまったなぁ。

 まぁ、それならそれで作りかけのガンプラの続きができるし、別に良いか。

 ……いや、ダメだよ。来月はもう学校やぞ。金ないと困るわ。短期のバイトでも探そうかな。

 そんな事を考えてると、スマホがヴヴッと震えた。

 

 母親『あんた暇でしょ?山中さん家のプール、人手足りないみたいだから帰ってきて手伝ってあげなさい』

 

 そんなわけで、実家に帰る事になった。

 

 ×××

 

 山中さん家のプール、というのはうちの地元にある大型のプールのことだ。

 ウォータースライダーのなんかでっかいのとか波のプールとか流れるプールとか、とにかくたくさん色々な種類のプールがある。

 そこの監視員を頼まれたわけだ。その日のうちに荷物、というか部屋の片付けと洗濯モノの処理だけして、あとは財布とPA○MOを持って家を出た。

 

「……あっ」

 

 その前に島村さんにしばらく返信遅くなるとだけ言っとくか。

 そう思って電話をかけた。島村さんはメッセージより電話の方が喜ぶんだよな。

 

『もしもし?』

「島村さん?俺さ、これから……」

『……つーん』

 

 ……えっ、何?殺虫スプレーの香りの効果音?

 

「えっと……島村さん?どうしたの?」

『……卯月でしょ』

「はっ?」

『卯月って呼ばなきゃ返事しないもん』

 

 ……なんだそれ。可愛すぎかよ。なんて言ってる場合じゃない。すっかり忘れてたわ。

 

「うっ、卯月……」

『はい。何?皐月くん』

 

 嬉しそうだな。声を聞くだけでも分かるんですけど。

 

「いや、大したことじゃなくて。俺、しばらく実家帰るから」

『えっ?ど、どうして?』

「や、プール行くから」

『誰と⁉︎』

 

 うおっ、ビックリした。そんな驚く要素あったか?

 

「一人だけど」

『ひっ、一人でプール⁉︎………そ、それってナンパ?いや、皐月くんに限って……でも、皐月くんだって男の子だし……』

 

 なんかすごい風評被害受けてる気がするんだが……。

 

「だから、しばらくL○NEの返事とか遅れるかもってだけだから」

『………』

「しまむ……うっ、うじゅっ、卯月?」

 

 噛んでしまった。しかし、反応がまったくなかった。それはそれで寂しいんだけど……。

 ていうか、なんで島村さんがそんな深刻そうにしてるんですかね。なんかナンパとか言ってたけど……あ、もしかして「一人でプール行くなんて寂しい……可哀想……」とか思われてるのかな。

 だとしたら心配無用なので、なんかブツブツと小声で喋ってる島村さんにこちらから声をかけてみた。

 

「あっ、あのー……俺、監視員というか……バイトとして向こうに行くだけだから、ナンパなんてしないからね?」

『へっ?ば、バイト……?』

「うん。親の知り合いが経営してるんだけど、人手足んないらしいから」

『な、なぁんだ。それならそうと早く言ってよー。ついうっかり、私も仕事お休みもらって付いて行こうかと思っちゃったよー』

「なんでだよ……。てか、仕事休んでまで来るなよ……」

『あ、プールといえばね、私も明日プールでお仕事なんだー』

「へぇー。プールで仕事とかあるんだ。普通、海だと思ってたけど」

『うん。かなり大きい所みたいでね、バラエティ番組の取材みたいな感じで行くんだ』

 

 みたいな感じって……ちゃんと把握してなくて平気なのか?

 

「ふーん。一人?」

『ううん。プロデューサーさんと、あと川島さんと一緒』

「誰?」

『誰って、アイドルとアナウンサーの人だよ』

「ああ、あの人」

 

 可愛い、というより美人系の人か。……まるで若い親子だな。主に島村さんの精神年齢的に。

 

『……今、何か失礼なこと考えてたでしょ』

「えっ⁉︎い、いや何も⁉︎」

 

 割と鋭いなこの人。話をさっさと逸らそう。

 

「それより、風邪は治ったの?いや、仕事行くとか言ってたし治ったんだろうけど」

『うん。もうすっかり。皐月くんがくれたリンゴ、ママが剥いてくれたんだよ。リンゴ一個で医者いらずとはよく言ったものだよね』

「いや、リンゴで治ったわけじゃないと思うけど。てか、病み上がりなら今日くらいは仕事休んだ方が良いんじゃねぇの」

『ううん。昨日、一昨日はお休みだったんだし、風邪が治った今日は頑張らないと!』

 

 うーん……まぁ、島村さんは頑張り屋さんだし、こういう時は言っても聞かないだろう。本当は止めるべきなんだろうけど。

 

「まぁ、体調悪くなったらすぐに休むように」

『うん。……ふふっ』

「? 何?」

『ううん。ただ、皐月くんって優しいなって思って。なんだかんだ言って結局は心配してくれるから』

「………」

 

 おいバカやめろ。人をツンデレみたいに言うんじゃねぇよ。

 

「……もう切るぞ」

『あ、うん。私もお仕事だから、またね』

 

 それだけ話して通話を切った。さて、仕事だ仕事。一々、ドギマギしていられるか。

 

 ×××

 

 自宅に到着し、早速バイトに追い出された。あいつ3〜4ヶ月ぶりくらいの息子の顔に何一つの感想も寄越さなかったな……。

 で、監視員との事で椅子の上に座っていた。トランシーバーを持って辺りを見回し、飛び込みなどの危険行為の注意と溺れてる人を見かけた場合に浮き輪などで救助、それとナンパやトラブルなどの場合はトランシーバーで本部へ連絡との事だ。

 大型のプールなだけあって、地元民だけでなく県外からも遊びに来てる人がいて、当然女性も多い。

 別に下心はないが、こういう所で一番多いトラブルは事故、そして二番目はナンパと言えるだろう。つまり、女性を目で追っているべきだろう。別に下心はないが。

 しばらく監視をして、結局事故は起こらずにバイトが終わった。いやー、にしてもここに座ってたまに水分補給してりゃ良いバイトとか楽過ぎるわー。

 今日は半日しか入らなかったので多くはもらえなかったが、今年の夏はしばらくこっちで暮らす事になりそうだ。これは金貯まるぞおい。

 

「お疲れ様、皐月。本当、今日は悪かったな急に」

 

 オーナーが声をかけてくれた。

 

「いえ、ちょうど俺のバイト先が急に改装工事に入って暇でしたから」

「マジか。まぁ、明日からしばらく頼むよ」

「はい。お疲れ様です」

「おう、お疲れ」

 

 テキトーに返事をして、帰宅し始めた。

 考えたら、しばらく島村さんと会えなくなるのか。いや、まぁ前々から会うというよりL○NEとか通話の方が多かったけど。

 まぁ、普通にそういうこともあるよね。別に寂しくなんかないし。

 そんな事を考えてると、ヴーッとスマホが震えた。

 

「……あっ」

 

 島村さんからだ。夕方だから島村さんも仕事終わったのかな。

 

「もしもし?」

『あ、皐月くん?今、大丈夫かな』

「ああ。暇だよ」

 

 まぁ、いつもの長電話だろう。無料通話なら金かからんし、本当にL○NEって便利だなオイ。

 

『聞いてよ、今日クイズ番組の収録だったんだけどね!』

「へぇー、なんの?」

『ほら、なんだっけ……あの、勝ったチームが最後にトロッコに乗ってクイズに答えると商品もらえる奴』

「ああ、ネプナントカね」

『うんそれ。それに出たんだ』

 

 ナントカで分かっちゃうのかよ……。いや、まぁ島村さんだし仕方ないか。

 

「島村さんに解ける問題あったの?」

『ば、バカにし過ぎ!私だって、こう見えて高校生なんだからね』

「いや、そういうのって割と難しい問題出るんじゃないのって」

『そんなに難しいのは出ないよ。いや、問題のレベルにもよるんだけどね』

 

 そういえば、後になればなるほど難しいんだっけか。あの番組最後に見たの中学の時だしな……。一人暮らしを始めてからはテレビよりプラモだからなぁ。

 

『それに、私はそれなりに勉強出来るんだからね』

「じゃあ問題。同じ元素で異なる数の中性子を持つ原子をなんていう?」

『……運命共同体だっけ?』

「同位体な」

『そんなの分からないよ!文系だもん!』

 

 まぁ、文系なら仕方ないか。いや、にしてもその答えはアホまっしぐらだろ。

 

『じゃあ私から問題ね。日本地図を最初に完成させた人は?』

「おい、それ小学生レベルだぞ……」

 

 性格だけじゃなく難易度までやさしいとかどこまでも天使だな。

 

『じゃあ、徳川七代目将軍は?』

「えっと……吉宗の前……家継か」

『うっ……じ、じゃあ、秀吉のフルネームを三つ!』

「木下藤吉郎と羽柴秀吉と豊臣秀吉」

 

 さっきから難易度低いな……。これで難しくしてるつもりなのか?それとも反射的に優しさが出てしまってるのか?何れにしても可愛いなこの人。

 うんうんと頭を悩ませる島村さんにほっこりしてると、電話の向こう側から別の声が聞こえてきた。

 

『あれ、卯月?何してるの?』

『? あ、奏さん!良いところに!何か難しい問題下さい!』

 

 おっと、お知り合いですか?つーか、通り掛かった人に助けを求めるなよ。

 

『問題?というか、電話中なのに良いの?』

『電話中だからこそですよ!実は、皐月くんに問題を出してて……』

『皐月くん?男の子かしら?』

『はい、そうで……あっ』

『何、あなたも彼氏なんていたの?どんな子?』

『ちっ、違うんです!か、彼氏なんてそんなんじゃ……!』

『歳上?歳下?同い年?』

『も、もうっ!良いから難しい問題下さいよ!』

 

 何をしてんだこの子は……。助力をもらおうとした人に追い詰められてんじゃねぇよ。

 ていうか、あなたもって言った?俺と島村さんは付き合っていないが、他のアイドルは誰かしら彼氏がいるって事になる。やはり、アイドルって基本的にはリア充なんだな。

 

『じゃあ、難しい問題を一つあげるから、その度に私の質問に答えてくれる?』

『う〜……わ、分かりました』

『じゃあ、1問目。次の酸化物のうち、両性酸化物はどれか。Al2O3、MgO、P4O10、SiO2、SO3』

 

 いきなり難易度も問題形式も教科も変わり過ぎだろ。

 

『え、えっと……つ、次の?』

『酸化物』

『サンカブツのうち……』

 

 しかも覚え切れてないし。まぁ良いか、さっきの聞こえたしさっさと答えよう。

 

「Al2O3」

『あら、正解。頭良いのね、その子』

『あれぇ……?今の、英語だよね?皐月くん、英語出来ないって……』

「おい、出題者。今のは化学だ」

『し、知ってたもん!化学って言ったもん!』

『ごめんなさいね、次からは卯月ちゃんでも科目の分かる問題にするわね』

『謝らないで下さい!悲しくなりますから!』

「島村さん、まずは理系の基礎、算数から始めましょう」

『誰でも最初は1+1からよ』

『そこまで出来なくないですよ!というか、二人とも顔も合わせてないのにどうしてそんな息ピッタリでいじめるんですか!』

 

 涙目で頬を膨らませてる島村さんの姿が想像できる。いや、もしかしたら奏さんとやらの肩をぽかぽかと叩いてるかもしれないな。

 

『もう……皐月くん、駅に着いたから切るからねっ』

「ん、ああ。了解」

『また後で時間ある?』

「今日は基本的に暇だよ」

『分かった。じゃあ、また後でね』

『あら、もう良いの?あと2〜3問は考えていたのだけれど』

『い、良いんです!これから問題出してもいじられる気しかしな』

 

 そこで通話は切れた。さて、俺もさっさと帰ろう。明日は1日バイトだからな。

 

 

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