島村さんならどんな捻くれ者も浄化できる。   作:バナハロ

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逆ナンされたら黙って逃げろ、間違っても口を開くな。

 翌日、今日も今日とてバイトである。2日目なので若干リラックスしていたが、甘かった。まぁー、昨日より人多いこと多いこと。考えてみりゃ一昨日は俺は昼過ぎから参戦したわけだし、朝からやってる今日の方が混んでるように感じるのは当然だ。

 で、当然ナンパとかも発生するわけで。

 

「こちら流れるプール第二コーナー。ナンパ発見しました。青の海パンに紺色のムカつくサングラスとムカつく金髪、身長170cm程度の男に、ピンクと白の水玉の水着に茶髪、BWHは85-53-80程度の女性が絡まれています」

『ムカつく青の海パンにムカつくサングラスとムカつく金髪、ムカつく身長170cm程度の男と、ピンクと白の水玉の水着に茶髪、BWHは85-53-80程度の女性、了解。今すぐ向かいます』

 

 と、まぁこんな具合で頑張っていた。え?説明に憎しみが漏れてるって?良いじゃん別に。

 一応、護身術をやっていた俺が仲裁しても良いんだが、あくまで護身術なので相手がボクシングやら柔道やら空手やらをやってたら勝てない。俺が怪我をしたら責任を問われるのはオーナーだ。それだけは避けたい。

 

「……ふぅ」

 

 やがて、俺が呼んだ警備員が集まって来て、男は厳重注意を受けていた。

 心底ザマァ味噌汁とか思いながら再び水分補給。

 そういえば、今日はテレビ番組が取材に来るんだっけか。まぁ、別に俺には関係のない話だが、万が一にも俺がテレビに映ることがあったら、その時はカメラから全力で目を逸らそう。鼻毛とか出てたら恥ずかしいし。

 まぁ、仮にテレビに映る瞬間があったとしてもこの忙しさだとピース一つする余裕も無さそうだし、あまり気にしなくて良いか。

 そんな事をぼんやり考えながら仕事する事、大体2時間が経過した。テレビ番組の取材の人達が流れるプールの所に来た。

 うお、すっげー。テレビの撮影って本当にああいう、こう……カメラ以外にも機材使うんだ。って、いつぞやのプロデューサーさんじゃん。なんでここにいんのあの人?もしかしてアイドルの撮影でもやるのか?

 ……つーかあの人、なんで撮影現場に群がる巨乳野次馬お姉さんよりも、プールではしゃいでる幼女に目を向けてんだ?ロリコンなの?

 謎は色々と残るが、それどころではない。仕事しないと。テレビなんかに目を向けてる場合じゃない。野次馬が集まってると言うことは、その人混みを利用してセクハラやナンパ、盗撮をする輩が増えるかもしれない。

 心を入れ替えて目を光らせ始めた。いや、テレビに自分が仕事をしてるところを見せたいわけではなく。

 ボンヤリしながらプールサイドを見下ろしてると、ゴヌッと顔面にビーチボールが飛んできた。

 

「ふぁぐっ」

 

 ってぇ……いや、痛くはないけど。何、下克上?

 辺りを見回すと大学生くらいの女の人達がビーチボールを探してるのか、キョロキョロしてるのが見えた。

 人の顔面を狙撃した奴に親切にする理由はないが、仕事なので仕方なく地面に落ちたビーチボールを拾ってやった。女子大生達は流れるプールの向こう側にいる。投げて渡すのは失礼なので、渡しに行かなければならない。

 突っ切った方が早いが、海パン濡れると椅子に座ってる時寒いので橋を使う事にした。

 

「すみません、これ違いますか?」

 

 声を掛けると、女の人達はこっちを振り向いた。

 直後、コンビニ店員の俺より立派な営業スマイルで微笑んで駆け寄って来た。

 

「すみませ〜ん♪ありがとうございまぁす」

「あのっ、お一人ですか?良かったら私達と遊びません?」

「私達も女だけで来てるからちょうど良くないですか?」

 

 おいおいおい、こいつらマジか。逆ナン嬉しいというのも正直、40%くらいあったが、それ以上に発言から読み取れる頭の悪さが、自動的に俺の嫌悪感を溢れ出そうとしていた。

 つーか、女3対男1とかバランス取れてねーだろ。ビームマグナムを無理して撃って腕に火花が走ってるデルタプラスか。いや、今の例えはわかりにくいな。

 

「あの、俺スタッフなんで仕事中なんですよ」

 

 一応、支給されたパーカーと帽子を装着ているし、そのパーカーにも帽子にも「スタッフ」の刺繍が入っている。

 だが、この女達はその程度じゃ怯まなかった。

 

「だーいじょぶだって、どうせバイトでしょ?」

「それより遊ぼうよ。ちょうど2対2でビーチバレーも出来るし」

「おっ、意外と腹筋硬いね。大胸筋も……あれ?心臓ドキドキしてない?」

 

 最後の一言がきっかけで、他二人までボディタッチが激しくなる。てか、テメエ。何勝手に人の身体ベタベタと……あっちょっ、良い匂い良い香り。

 

「ほんとだー。かわいいー」

「何々、彼女いないの?」

「もしかして童貞?」

 

 ちょっ、やめて下さい!そのワガママボディを腕に擦り付けないで!

 な、なんてこった……!この人達が何歳か知らないが、学生である事は間違いないだろう。

 最近の学生はこんなビッチしかいないのか……!ていうか僕の腹筋は護身術やってた頃に少し鍛えただけなんです!大胸筋なんて鍛えた覚えないし、触って分かるほどありません!

 ちょっ、誰か助けっ……!オーナーに怒られる……!

 その直後だった。後ろから俺の肩にボンッと手を置かれた。ふと振り向くと、プロデューサーさんが立っていた。

 

「失礼します。彼、困ってるのでその辺りにしてもらえませんか?」

「ぷ、プロデューサーさん……」

「久しぶり、古川さん」

 

 うおっ、話したこと無いのに名前も覚えてくれてたのか。この人、良い人なの?

 

「はぁ?何あんた」

「てか、なんならおじさんも遊ぶ?」

「おじさん審判ね」

 

 それでも怯むことなく話を進める女ども。

 その直後だった。後ろから可愛らしい怒気を感じた。俺ではなくプロデューサーさんの後ろの女性、川島瑞樹さんの背中に隠れながらも俺を睨んでる島村さんだった。

 えっ?この人なんでここにいるの?という感想の前に、一生懸命俺を睨んでる島村さんの顔が怖可愛かった。あんなに怒ってるのになんであんな可愛いんだろう……。いや、それ以前になんであんな怒ってんの?

 だが、後ろに控えてるアイドルがかなり怒ってることにようやくヒヨってくれたのか、女子達は立ち去った。

 

「す、すみません、プロデューサーさん」

「いやいや、気にしなくて良いよ。それよりも卯月に……」

「じゃ、俺は仕事なんで!失礼します!」

 

 走って監視員用の椅子に戻ろうとした直後、襟を島村さんに掴まれて喉が締まり「クェッ」と鴨みたいな声が漏れた。

 そんな俺に気を使うこともなく、島村さんは俺に聞いてきた。

 

「……なんでいるの」

「えっ?あ、いや……」

「遊んでたの?あの人達と」

「い、いやいや!あの人達知らない人だし。ていうかなんで怒って……」

「………」

「………」

 

 え、なぜそこで黙る。

 すると、その空気を読んでか、川島瑞樹さんが俺と島村さんの間に入ってフランクに声をかけた。

 

「まぁまぁ、話は後にしましょう。ふ、ふる……古川くんだってバイト中なんでしょう?私達は撮影終わったら自由時間あるから、その時に話す時間があればお話ししましょう?」

 

 流石、大人だわ。こちらの事情も自分達の事情も踏まえた上での提案をしてくる。

 それには俺も乗るしかない。

 

「分かりました。では、俺はこれで」

「あっ……」

 

 島村さんの切なそうな声から逃げるように職務に戻った。さて、今日は休憩抜きで閉園まで頑張ろうかな。

 

 ×××

 

 昼飯の時間。休憩いらない言うたのに労働基準法だなんだと言われて、飯を食うことになってしまった。

 これから一時間ほど休憩。プールにいるのに一切濡れてない海パンのまま、昼飯を一人で食いにきた。

 ラッキーなことに、オーナーがお昼のお金を出してくれた。このオーナーには感謝せねばならない。その恩は勤務態度で示す他ないな。

 そんな事を考えながら飯はラーメンで済ませてると、相席に誰かが勝手に座ってきた。

 いや、許可取れよ、と思って顔を上げると、島村さんが座っていた。さっきは隠れられていて気付かなかったが、パーカーの下に水着を着ている。

 

「……良い?」

「い、良いけど……撮影は?」

「今は休憩中」

「ならお昼は……」

「お昼は取材中に食べたの」

 

 な、なるほど……。まさか2〜3箇所ある出店からピンポイントで当てられるとは……。撮影が終わるまで待つまでもなかったわ。

 とりあえず、こちらからお礼を言おう。どんな風に思われてるか知らないが、助かった事は確かだ。

 

「さっきはありがと。助かったわ」

「……ううん。私のために、やった事だし……」

「はっ?」

 

 島村さんのため?なんで?助けてくれたんじゃないの?

 

「……私の方こそ、ごめんね。遠くから見てたら、皐月くんが私に嘘ついて、女の人と遊びに来てるのかと……」

 

 まぁ、あの人たちボディタッチ激しかったからなぁ。あのエロい身体を恥じも外聞もなく押し付けてきやがったもんだから、周りから見たら仲良いリア充にしか見えなかったんだろう。

 ……柔らかかった。過程はどうアレ、女の人の胸が自分の身体の一部に触れる事はアレが最後だろうし、どうせならもっと堪能しとけば良かった。

 

「皐月くん、目が気持ち悪いよ」

「えっ、マジ?」

「……本当に何もないんだよね?」

「な、ないよ!大体、名前も知らないっつの」

「そっか……。なら、良かった」

 

 良かったって何が……と、思ったが何と無く聞かない方が良さそうな気がして黙っておいた。

 島村さんは今の話で元気が出たようで、急ににこにこと微笑み始めた。

 

「皐月くん、今日の16時くらいは暇かな?」

「仕事してると思うけど」

「うーん……じゃあ、仕事終わるのはいつ頃?」

「閉園時間」

「うー……」

 

 またまた表情を曇らせる島村さん。さすがに島村さんが何を言いたいのか、俺でも理解出来た。

 

「……今の休憩を30分早く切り上げれば、ラスト30分くらいなら遊べるかも」

「! ほんと⁉︎」

「もしかしたらだけどね」

「じゃあ、17時半にこのお店の前でねー」

 

 そう言って、島村さんは手を振って俺の前から立ち去っていった。もしかしたら、って言ったんだけどな……。

 まぁ、言っちまったもんは仕方ない。島村さんとの約束を果たすべく、俺はオーナーの元に向かった。

 島村卯月の名前を出したら二つ返事でオーケーもらった。サインと引き換えに。

 

 

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