皐月くんと出掛ける事になり、奈緒ちゃんと一度、私の家に来た。デート用の洋服を見るためだ。本当は買いに行きたかったけど、
そういえば、最近の買い物だと皐月くんと作る用のプラモばかり買っていて、全然私服は買っていなかったような……。
そもそも、私は今回が初恋なので、男の子とデート用の私服なんて持っていないし買ったこともない。私の好みの服ばかり入ってるタンスを見て、奈緒ちゃんは顎に手を当てた。
「……う、ん。これなら別に新しく買わなくても良いんじゃないか?」
「え、そ、そうですか……?」
「ああ。なんというか……どれもヒラヒラしてて、それでいて露出少なめだから上品だし、良いと思うぞ」
「で、でもほら、私あまり男性と出掛けた経験なんてないし、それ用に買っておいた方が……」
「や、だからそれ用にすれば良い服はそれなりに揃ってるから……」
奈緒ちゃんの言わんとしてることは分かる。なるべく、私にお金を使わせないようにっていう気遣いから来てるものだろう。
でも、私は全く別の理由で買いに行きたかった。それを言うのは恥ずかしいけど……多分、言わないと通じないから言うことにした。
「……その、皐月くんとの初デートだから……なるべく、他の誰にも見せたことの無い洋服を着たいなって……」
う〜……なんでこんな恥ずかしいことを暴露してるんだろ……。
恥ずかしくて、思わずモジモジしながら事情を説明すると、何故か奈緒ちゃんまで顔を赤くし始めた。
「……卯月、よくお前そんな可愛い事言えるな……」
「っ、そ、そうかな……」
「……あたしなら絶対言えない」
それは奈緒ちゃんだし、と思ったけど怒られそうだから黙っておいた。
「ま、まぁそういうことなら分かった。買いに行こう。でも、なるべくならそういうのは家に来る前に言ってくれるとな……」
「……だ、だって……恥ずかしかったんだもん……」
「うぐっ……!」
何故か悶えられてしまった。
「……卯月はあれだな。女にもモテそうだな……」
「へ?何ですか?」
「……いや、なんでも。行こうか」
はぐらかされたけど、とりあえず買い物に出かけた。
家を出て、駅に向かった。それにしても、どうしよう。奈緒ちゃんは特別なことはするなと言ってくれたけど、やっぱり不安だ。何かした方が良いような気もする。
「……うーん……」
「? どうかしたか?卯月」
「えっ?あー……なんでもないですよ」
でも、アドバイスをくれた奈緒ちゃんにそれを言うのも気が引けたので黙ってる事にした。
「そういえばさ、この前クローネの撮影だったんだけどさー」
「あ、はい。そうだったみたいですね」
凛ちゃんからおみやげ話を聞いた。なんか今度、その時のアルバイトの子の服を買いに行く事になっちゃったんだよなぁ。
「その時にさー。なんか文香さんがすごい機嫌悪くて」
「そうだったんですか?」
「ああ。なんか、こう……バイトの男子高校生がいたんだけどさ、その子、文香さんに好かれてたんだよ」
「文香さんに?」
「そう。恋愛的な意味で」
……あー、もしかしてこの前話してた、文香さんが告白する子の事かな。
「それをあたし、行きのバスの中じゃ知らなくてさ。ガンガン話しかけてガンダムの話で盛り上がっちゃったんだよね。加蓮と凛と一緒に」
「あー……それは」
「気まずかった……。すごい怖かった……」
察した。まぁ、そんなの私でも怖いと思う。
「……文香さん、怒ったら怖そうですからね。主にオーラが」
「ああ。私もうビビっちゃって本当に……」
「そ、それは災難でしたね……」
……ていうか、文香さんにアドバイスもらってたりしてたけど、文香さんは文香さんであんまり恋愛に関して余裕無い人なんじゃ……。
「……あな、奈緒ちゃん。もしかして、文香さんって恋愛経験は……」
「無いんじゃないか?すぐに嫉妬するし顔赤くするし照れるし……」
「……な、なるほど……」
「なんで?」
「……たくさんアドバイスをもらいましたから……」
「あの人は……。えっと、どんな?」
「えーっと……他の人に取られたくなければ告白するしかないとか、告白するときのセリフとか……」
「告白される側の人が何を言ってるんだ……」
「えっ、される側なんですか?する側、と聞きましたけど……」
「いやいや。詳しく言うと長くなるけど、文香さんはもう千秋……男の方が自分の事好きである事に気付いてるからな?その上で、向こうから告白させるんだから」
……聞いてた話と随分違う。いや、まぁ確かに恋する女性の気持ちは身を持って痛感してるし、見栄を張りたくなる気持ちも分かる。
……でも、その、なんだろう。何が「明日朝起きたら俺たちが恋人同士の関係になっていたとしたら面白いと思わないか?」なんだろう。道理で文香さんにしては男前過ぎると思った。
「……文香さん」
「ま、まぁ、見栄を張るのも分かるよな!多分、凛に相談しても同じ事するし!」
「た、確かにそうですよねっ」
「私が何?」
「いや、だから凛ちゃんに相談しても見栄を張って先輩振りそうだなーって思って」
「そうそう。すぐに照れて自分の失態を無かった事にしそうだからな」
「へー。私ってそういうイメージなんだ」
「そうそ……」
「………」
「………」
あれ?一人多いよ?と思った時には遅かった。私と奈緒ちゃんの後ろで凛ちゃんがニコニコ微笑んでいた。
「……り、凛ちゃん……?いつから、そこに……」
「さっき。二人で歩いてたから声かけようとしたんだけど……声かけなくて正解だったな」
「………」
「………」
この後、ご飯を奢った。
×××
ファミレスで凛ちゃんのご飯を奢り、さらには洗いざらい私に置かれた状況を全て白状した。
すると、凛ちゃんはこれでもかというほどにニヤニヤして、山手線のゲーム実況の時のような感じで言った。
「いやーそっかそっか!卯月も恋する乙女になったんだ!人に散々言っておきながら!」
「うぐっ……!」
「道理で最近は頬を赤らめることが多かったり、スマホに夢中になってたりしたわけだね。人に散々言っておきながら!」
「ひぅっ……!」
「私の猛烈なアタックに若干引いてた癖に、実は参考にするつもりだったんだね!人に散々言っておきながら!」
「そ、その長ったらしい語尾やめて下さい!」
「奈緒と加蓮と一緒に私をいじめながら、実は次は自分がいじめられるんじゃないかってビクビクしてたんだね!人に散々言っておいたから!」
「す、少し変えてもダメですよぅ……」
うぅ……油断したなぁ……。まさか、こんな元気溌剌な凛ちゃんにいじめられる時が来るなんて……。
恥ずかしさで涙目になり、顔は真っ赤になった状態でジュースを啜ってると、隣の奈緒ちゃんが口を挟んできた。
「ま、まぁまぁ凛。その辺で……」
「言っとくけど、奈緒も同罪だからね」
「えっ、な、なんでだよ?」
「隠してたんだから当たり前じゃん。罰として、この前奈緒の部屋を漁った時に出て来たフリフリのとても可愛らしいこの私服、346事務所グループL○NEに貼るから」
「おいぃ!やめろよってかなんで勝手に部屋漁ってんだよ⁉︎」
「ベッドの下って男子高校生がエロ本隠す時の場所だからね」
「やめろ!言うなよ!」
「まだ本棚にあったBLエロ同人のが見つけにくかったから」
「や、やめろってば!ていうか、結局そっちも見つけてるじゃんか!」
二人して仲良く言い合う中で聞きなれない単語が聞こえた。
「……あの、びーえるってなんですか?」
「ああ、卯月。BLっていうのはこういうの」
凛ちゃんが本の写メを見せてくれた。あれ?なんか絵の感じが前に見た「刺し穿つ死棘の槍」と絵が似てるような……。
ていうか、男の人同士がキスしそうな距離で見つめ合ってて……。
「へ?……えっ、お、男の人同士が……。……な、奈緒ちゃん……」
「写メまで撮ってたのかよ⁉︎ていうか、卯月離れるな!もう協力しないぞ!」
え、それは困る……。文香さんがヘタレだと分かった今、奈緒ちゃん以外に私の協力者はいないし……あ、かな子ちゃんとかもいるけど。
「ま、とりあえず卯月が今、非常に面白い事になってるのは分かったから、私も加蓮も同行するね」
「かっ、加蓮ちゃんもですかっ⁉︎」
「ヤッホー!散々、凛をからかってた癖に実は同じ立場に立っていた卯月の噂を聞きつけてやってきた加蓮でーす!」
「しかも来るの早い⁉︎いつ呼んだの凛ちゃん⁉︎」
とてつもない感染力!と思ったら、凛ちゃんの手元にはスマホがあった。いや、にしてもいつの間に打ったんだろう……。文香さんにしてもそうだけど、オタクになった人達は文字を打つのが早すぎるよね。
何にしても、情報感染を早速目の当たりにしてしまい、小さくため息をついた。
「ああ……早くもトライアドプリムス全員に知られてしまいました……」
「ま、まぁまぁ、協力者は少ないより多い方が良いだろ?」
「そうだよ卯月。大船に乗ったつもりでいな」
「? 何言ってんの凛?凛も協力される側だよ?」
しれっと加蓮ちゃんに言われて、凛ちゃんがピシッと固まったのが分かった。
冷や汗を流した凛ちゃんは、狼狽えた様子で加蓮ちゃんに分かりきった質問をした。
「えっ、な、なんで……?」
「当たり前じゃん。凛だって恋する乙女だし、せっかくだから一緒に
……あ、あれ?な、なんだろう……何か別の文が聞こえた気が……。凛ちゃんも同じように冷や汗をかいているので、多分同じ言葉が聞こえたんだろう。
二人揃って奈緒ちゃんに目を向けたが、全力で目を逸らしていた。まぁ、その、なんだろう。腹をくくるしか無さそうだ。
「で、卯月の男の子はどんな子なの?」
「まだ私のではないのですが……」
「良いから早く言ってよ。散々、凛の男の子の話は聞いたんでしょ?」
「……また話すんですか?」
奈緒ちゃん、凛ちゃんに一人ずつ話したから3回目だ。いや、文香さんとかを含めたら4回目かな。
まぁ、何回目でも良いけど、どの道逃してもらえないし話そう。
そのままガールズトークに花を咲かせてしまい、洋服を買いに行くのはだいぶ遅れてしまったが、何とかみんなの協力で買うことはできた。