日曜日。今日は皐月くんとのお出かけの日だ。皐月くんは「全然デートじゃないからね」と言っていたので、デートでは無い。彼にそんな気はないからだ。
でも、私にとってはデートと一緒だ。今回のデ○ズニーでなるべく、皐月くんに私を意識させてみせます!卯月、頑張ります!
加蓮ちゃんと凛ちゃんと奈緒ちゃんに選んでもらった私服を着て家を出た。少しウキウキした気分で待ち合わせ場所の駅前に向かっていた。
待ち合わせ場所に到着した。……えーっと、あれ?もう皐月くんいる……。私、30分も早く来ちゃったのに。
とにかく、待たせちゃってるんだし走らないと。慌てて駆け寄った。
「さ、皐月くんっ!」
「……あ、島む……卯月」
「ど、どうしたの?集合時間より早いけど……」
「そのセリフ、そっくりそのままヤタノカガミシステム」
「ヤタノ……?」
あ、アカツキか!
「わ、わかりにくいよ!」
「知ってるよ。さ、行こう」
「も、もー!行こうって……!」
なんだろ、いつもと態度が違う気が……。怒ってるのかな……。
「……あの、皐月くん?何か怒って……」
「あっ、あの、卯月……」
「?」
「……その、何……。……やっぱ何でも無い」
「っ、な、なんですかっ?」
言おうとして言わないのはダメだよ。気になる。今の状況だと尚更。
だが、皐月くんは絶対言いたく無いようで、頬を赤く染めたまま目を逸らしている。
その皐月くんの腕を掴んで、ジーッと顔を睨みつけた。
「何っ?」
「……言わなきゃダメ?」
「ダメっ!」
もし、もし私が怒らせたのなら謝りたいし、体調が悪いとかなら言って欲しい。
とにかく言うまで睨んでると、観念したのか小さくため息をついた。
「……そ、その……」
「何?」
「……その私服、かっ……可愛いですね……って」
「………へっ?」
小声だった部分もハッキリと聞こえた。えーっと……「かわいい」って言った、のかな?かわいいってなんだっけ?聞き覚えはあるんだけど……どういう意味だったかな……?確か、可愛いっていうのは……こう、愛らしさ?とか、そのものに対して愛でたいなーとか感じるみたいな意味だよね。
つまり、皐月くんは私に愛らしさとか愛でたさを感じてるって事だよね。
そっか……。今の私、皐月くんから見て愛らしかったり愛でたかったりするんだ……。そっか……。
「ーっ⁉︎」
自覚した直後、顔が急激に熱くなるのを感じた。ぼんっと煙が出そうな程に熱を感じ、鏡を見なくても顔が真っ赤になってるのが分かった。
普段、ライブやサイン会みたいなイベントで何度も言われてる言葉なのに、皐月くんに言われるのはかなり嬉しさが違った。
皐月くんの腕を掴んでいた私の手の力はするっと抜けて、赤くなった顔を俯いて隠すことしか出来なかった。
「……」
「……」
二人して顔を赤くし、お互いから目を逸らす。そのまましばらく黙り込んでしまった。
……どうしよう、どうすれば良いんだろう。私も皐月くんを褒めた方が……いやでも、今褒めても今の状況が悪化するだけな気が……。
「……い、行こうか……。卯月……」
「あ、う、うん……」
皐月くんの方からそう言ってくれて、無言のまま出発した。凛ちゃん、奈緒ちゃん、加蓮ちゃん……私服、一緒に選んでくれてありがとう……。
×××
舞浜駅に到着し、私達はチケットを購入して入園した。相変わらず混んでいるが、今日は特に恋人同士の人達が多い気がした。
男女で手を繋いだり腕を組んだりしている。あ、キスしてる人達もいるし……。
「………」
ふと、皐月くんの空いてる左手を見た。普段はポケットにしまってるのに、今日はだらんと垂らしていた。
もしかして、私が繋げるように待っててくれてる?それなら、そっちから繋ぎに来てくれれば良いのに……。
……待った。もし、今日は何となくポケットにしまってないだけだとしたら?でも、違ったら恥ずかしいし……。
いや、そんなんじゃダメだ。少しでも私を意識させなきゃいけないんだから!昨日、洋服を買ってる途中、凛ちゃんには絶対言われたくなかったけど凛ちゃんにも言われたでしょ、女は度胸だって!えーい!
「あっ」
勇気を出して皐月くんの左手を取ろうとした。その直後、無理してヒールの靴を履いたからか、転びそうになった。
その結果、大胆な事に皐月くんの腕に抱きつく形になってしまった。
「……う、卯月?大丈夫?」
「ーっ、う、うん……」
勇気を出した結果、手を繋ぐ以上の事をしてしまった。なるほど、女は度胸とはこういう事か。
恥ずかしさを嬉しさが追い抜き、口から「えへへ」と笑い声が漏れた。
「皐月くん、良かったらこのままでも良いですか?」
「えっ?い、良いけど……」
許可をくれたので、そのまま歩き始めた。
さて、せっかくデ○ズニーに来たんだし、乗り物に乗らないとね。
「皐月くん、何か乗りたいものある?」
「卯月の好きなもので良いよ」
「……こういうのは男の子がエスコートしてくれる所でしょ?」
「や、俺デ○ズニー来たこと無いから分からないんだよね」
「……え、な、無いの?」
「無いよ」
そうなんだ……。何だか意外……でもないかな?皐月くん、私以外のお友達いないって言ってたし。
「じゃあ、今日はめいっぱい楽しまないとね!」
「……そーね」
少し照れたように目を逸らす皐月くん。そういう所が可愛いんだよなぁ。
とにかく、こういう時は私がエスコートしないとね。
「じゃ、まずはデ○ズニーっぽい格好をしないとね!」
「はい?」
「こういう所では、必ずと言って良い程、身に付けなきゃいけないものがあるんだよ」
「チケットでしょ?」
「そういうのじゃなくて……」
「じゃあ金?」
「世知辛すぎるよ!もう少し発想を夢の国に寄せてよ!」
思考がリアル過ぎるよ!あながち間違ってない辺りがまた少し腹立たしいし……。
でも、今私が求めてる回答は違った。皐月くんはそれをつけるのは絶対嫌がると思うので、勝手に買っちゃう事にした。
「じゃ、答え合わせね。お店に入ろう!」
「え、お土産屋は帰りに寄るものでしょ?」
「デ○ズニーのお土産屋さんはお土産以外にも色々売ってるんだよ」
そう言って、半ば強引にお店に入った。物珍しそうに中を見回す皐月くんの腕を引いて、カチューシャコーナーに来た。
「さ、これ買おう」
「あー……良いんじゃない?」
「皐月くんもだよ?」
「えっ?」
他人事みたいに言っていたのでしれっと当然のことを伝えると、今度は間抜けな声が聞こえてきた。
「……な、なんで?」
「当たり前だよ?皐月くんだってデ○ズニーにいるんだから」
「嫌だよ、俺がこんなのつけたって……!」
「大丈夫、似合わなくても面白ければ良いんだから!」
「俺は芸人か⁉︎」
「ノリっていうのはそういうものだから!じゃあ、私はミ○ーで皐月くんはミ○キーね!」
「えっ?あ、あー……まぁ、良いけど……」
あれ、割とあっさり……。なんでかな?まぁ、つけてくれるならそれで良いかな。
「じゃ、これは私が買うね」
「え、いや良いよ。それくらい自分で……」
言いながら、皐月くんは値段を見た。直後、固まった。そう、高いんだよね。遊園地のお土産屋さんって。カチューシャ一つで1400円、一人暮らし高校生には少しキツい値段かもしれない。
その点、仮にもアイドルの私なら二人分買うくらいなんて事ない。そう思ったのだが、皐月くんは奥歯を噛んで財布を出した。
「……買うよ」
「えっ?で、でも……」
「このくらいなら何とかなる、はず……! 女の子に奢られるよりマシだ」
「そ、それなら無理して買わなくても良い、けど……」
「でも、卯月はつけて欲しいんでしょ?」
そ、それは一応……。
「なら買うよ。……ほら、その、何? こうした方が……卯月も、楽しめるだろう、し……」
「……皐月くん……」
……そういう事を言われると、嫌でも嬉しくなってしまう。
「……ありがと」
「いいよ。どうせなら、卯月の分も俺が買うけど」
「そ、それはいいよ!じゃあ、レジに行こう?」
二人でカチューシャを持ってレジに並んだ。
……あれ?今更だけど、カチューシャって男の子もつけても変じゃない、んだよね……?
ふと店の外を見てカップルの様子を見るが、男の子でつけてる人の姿は見えない。これ、皐月くんに恥をかかせてしまうんじゃ……。
そんな事を思ってると、私の前の前に並んでる、何処かで見た男の子が一人でカチューシャを持って並んでるのが見えた。良かった、全然普通のことだった。
「……ほっ」
「? 卯月?どうかしたのか?」
「えっ?う、ううん!何でもないよっ」
言えない、勧めたものを買わせようとしてる上に、その買い物が不安になってるなんて言えない。
なるべく話を逸らそうと思って別の話題を上げた。
「そ、そういえば、皐月くんって夏休みの課題とかあるの?」
「終わったよ」
「……えっ?」
お、終わった……?は、早くない?
「あんなもん、後になればなるほど面倒になるからな。答えがあってようが間違ってようが終わらせりゃ良いんだよ」
「……ま、真面目なのか真面目じゃないのか……」
「そう言われても、答えを配らない教師が悪いからなぁ……。卯月は?」
「……えへへ」
「……空いてる日あったら手伝ってあげる」
「ご、ごめんね……」
撮影とかで忙しくて……。
でも、皐月くんって確か英語が苦手なんじゃなかったっけ……?いや、あまり考えないようにしよう。他の科目を手伝ってもらえば良いんだ。
……あれ?それ、私の家に皐月くんが来るって事……?あ、どうしよう。そう思うとなんか恥ずかしくなってきた……。見られて困るものがあるわけでもないのに。
「……き、卯月」
「は、はいっ?」
「レジ」
「あ、そ、そっか……。ごめんね」
慌ててカチューシャを買いに行った。……とりあえず、今日は帰ったら部屋片付けないと……。
お店から出て、早速カチューシャをつけた。お店の窓を鏡にして、変な所は無いか自分で確認してから皐月くんの方を見た。
「皐月くん、どう?」
「ん?」
「……えっ?」
……皐月くんのミ○キーカチューシャ、予想に反して少し似合ってるんだけど……。ぶっきらぼうな表情なのにミ○キーのカチューシャつけてるってギャップが……。
一方の皐月くんも、私の顔を見るなり顔を赤くして背けた。どうやら、私は私で似合ってるようで何よりだった。
そんな顔を赤くした皐月くんは、照れながらも私に言った。
「……その、なんだ……? 似合ってる、んじゃねぇの……?それ」
今度は自分から褒めてくれた。それが嬉しくて、微笑みながら返した。
「ありがと。皐月くんもとても可愛いよ?」
「……そいつはどうも」
何故か不貞腐れたように皐月くんはそう言った。でも、今回は照れているというのは分かっている。
そんな皐月くんの左腕に再び掴まり、デ○ズニーデートを再開した。