島村さんならどんな捻くれ者も浄化できる。   作:バナハロ

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何を癒すつもりでそれをくれたんですかね?

 島村さんと知り合いになって、二週間が経過した。それなりに会話は出来るようになって来て、徐々に俺にも「友達」というものを理解できるようになって来た。まぁ、向こうにとっては数多くいる友達のうちの一人なんだろうし、自分が特別だと思わない方が良いかもしれないけど。

 だが、島村さんとよく話すようになったからだろうか。学校にいる間がとてもつまらなく感じる。だって、誰とも話さないで、ただぼんやりしてるだけだからなぁ。授業もつまらんし何もする事ないんだよね。まぁ、以前からつまらなかったんだけど、最近はより増してつまらない。

 まぁ、でもこの六限が終われば、バイトの時間だ。バイトなら基本的にやる事があるし、楽しみもあるので退屈ではない。たまに島村さんがうちのコンビニに来るので、それが少し楽しみだったりする。

 そんな事を考えながらノートに絵を描いてると、授業が終わった。ノートと教科書を鞄にしまってる間にHRが始まった。基本的にHRの話は聞かないので、その間は一人でスマホゲームをしている。と、いっても最近はログ○スもパズドラも飽きて来た。何か他に面白いゲームないかな。

 そんな事をぼんやりと考えながら、とりあえず10コンボ決めてると、HRが終わったのでスマホをしまって自宅に向かった。

 学校が終わるのが15時40分、バイト開始時刻が17時。だが、15分前にはバイト先に到着していなければならないため、実質16時45分開始時刻だ。

 つまり、ここでどれだけ早く帰れるかでバイトまでの時間の休み時刻が決まる。そんな俺は教室を飛び出すと、自転車のギアを全力全開にしてぶっ飛ばす。

 1年間と2ヶ月半の研鑽により、俺の帰宅スピードは3分を切っている。普通に走れば7分は掛かる道だ。

 今日はさらにその最速ラップを叩きだせそうだ。そう確信しながら自転車を走らせてる途中の事だった。スーパーから出て来たおばさんが、フラフラした足取りで重そうな荷物を抱えていた。

 

「……………」

 

 ………いや時間無いんで本当に。30分でも体力を温存したいんで。

 

「……………」

 

 それにほら、今日は揚げ物全品10%オフでいつもの1.5倍くらい客が来るし。

 

「……………」

 

 それにあの人の家どこだか分からないし、遠い所だったら最悪バイトに間に合わない可能性だってある。そうなったらそれこそ本末転倒………。

 

「あの、良かったら荷物持ちますけど」

「あらほんと、悪いねぇ」

 

 うん、無理。親の教育が良かったからか、ああいう人見過ごせないんです。まぁ、中学の時も同じ事してたらクラスメートに見られて「偽善者かよクソ真面目死ね」って一時期いじめられたが。お陰で俺のメンタルは通常の人間の三倍は強いぜ。

 まぁ、とにかくさようなら俺の休憩時間。

 

 ×××

 

 結局、バイトに到着したのはギリギリになってしまった。案の定あのバーさんの家遠いから、家に帰る暇すら無し。自転車をすっ飛ばしてなんとか3分前に到着した。

 さらに畳み掛けるように、揚げ物商品10%オフに大量の人が並んだ。今日に限ってこの2連コンボである。

 

「………それで、そんなに疲れてるんだ……」

 

 ようやく客が引いて、品出し中の俺に島村さんが同情したように言った。

 

「………死ぬかと思った」

「お、お疲れ様………」

 

 これで明日もバイトとかふざけてる。俺に死ねと言ってるのか?

 しかし、こんな俺よりも、おそらく島村さんの方が忙しいんだろうな。何せテレビでよく見るほどのアイドルだ。さぞ色んなテレビ局から引っ張りだこなんだろう。しかも、それがほぼ毎日だ。

 

「島村さんの方がお疲れなんじゃねぇの」

「私はもう慣れたから大丈夫だよ」

 

 しかし、その忙しさの中に俺に会いに来る時間まで作ってるんだからなぁ。ていうか、なんでわざわざここに来るんだろ。もしかして、ファンを一人でも増やそうとしてるのか?

 ちょうど良い機会だし、聞いてみるか。

 

「てか、島村さんは何でよくここに来るの?」

「へっ?」

「いや、忙しいのに最近は毎日のようにここに来てるじゃん」

 

 聞くと、島村さんは少し申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 

「め、迷惑だったかな………」

「いや、そういうんじゃないんだけどね」

 

 こっちは人と話す機会がないから。こういう誰かと話す機会は貴重なのでありがたい。ただ、無理して来てるなら少し申し訳ないだけだ。

 

「……その、私にとっては初めての男の子の友達だったから、少し嬉しくて………」

「………えっ、それだけ?」

「うん。アイドルの友達も学校の友達もいるけど、みんな女の子だから………」

「…………」

 

 営業のため、とか思ってたさっきまでの俺を地球7周半分くらいぶっ飛ばした。この人マジで天使かよ。

 

「でも、古川くんが迷惑なら、もう来ない方が良い、よね……」

「いや全然迷惑じゃないです。むしろ、常連が増えて店長から超感謝されてます」

 

 嘘だが。

 

「本当?なら、また明日も来るね!」

 

 クッ……笑顔が眩しい。どこまで純粋なんだこの子は。

 

「い、いやでも無理にお金使う事ないからな。コンビニってぶっちゃけスーパーとかより高いし」

「うん。大丈夫、ちゃんと必要なものしか買ってないから」

 

 ほんとかよ。俺がオススメしたものとか全部買ってってんだろ。

 そんな考えが表情に出てたのか、島村さんはぷくっと頬を膨らませた。

 

「むっ、ほんとだもん」

「いや、疑ってはないから。所で、今日のオススメの商品はこれなんだけど」

 

 言いながら、ジャンプを雑誌コーナーから手に取った。

 

「か、買わないよ流石に!バカにし過ぎだからね⁉︎」

「はいはい、分かったから怒るな」

 

 そんな事をしてると、別のお客さんがレジに並んだのが見えたため、ジャンプを元の場所に戻した。

 

「ごめん、行ってくる」

「あ、うん」

 

 慌ててレジに戻った。お客さんが商品を台に置き、財布の中を漁りながら言った。

 

「あとメ○ウスの3ミリ」

「畏まりました」

 

 返事をしながら、タバコの箱を取ってバーコードを読み取り、続いて飲み物とかの食品をバーコードに読み込ませる。

 

「お会計951円でございます」

「おい、これタバコ違ぇぞ」

「えっ?」

「これ5ミリだぞ」

「あっ、し、失礼致しました」

「チッ」

 

 やっべ。ボーッとしてた。やっぱ今日は疲れてんのかな………。慌てて3ミリを取り出し、打ち直した。

 お会計を済ませて、「ありがとうございました」と頭を下げ、お客さんが帰ったのを確認すると、小さくため息をついた。

 

「本当に疲れてるみたいだね」

 

 島村さんが慰めるように声をかけながら、レジに午後ティーを置いた。

 

「もう帰るの?」

「古川くん、あと5分で上がりだよね?イートインの所で待ってるよ」

 

 ………もしかして、俺のミスを自分の所為だと思ってる……?いや、マジそうじゃないんだけど………。

 会計を済ませて、島村さんはイートインに向かった。まぁ、後でフォローしておこう。

 

 ×××

 

 バイトが終わり、俺と島村さんは帰宅し始めた。………ていうか、何これ?なんでわざわざ一緒に帰ってんだ俺と島村さんは?

 いや、まぁ島村さんが来た時間帯が終業直前辺りだったからなんだろうけど………。いや、まぁあんま気にしなくて良いか。島村さんにとって俺は男友達だし、考えるだけ男子特有の妄想をして恥ずかしい思いをするだけだ。

 

「そういえばさ、古川くん。今日ね、私アレに出てたんだ。VS○」

「へぇー、あれに?」

「うん。+1ゲストで」

 

 うわ、いいなー。別にあのアイドル達に興味はないが、あのアトラクションが面白そうな奴ばっかだから。

 

「で、どうだった?」

「あれ難しいね〜。特にあのキ○キングスナイパーとかいうの。倒せる倒せないとかの前に当たらないんだもん」

「あー、だろうね。女子にあれは難しいよ」

「しかも、+1だから一番最初に蹴らなくちゃいけなくて………。前の人を参考にも出来なかったんだよ」

「今更言っても遅いけどさ、あれ先手で蹴るならインサイドキックで倒す事よりも当てに行った方が良いよ」

「? 倒れないんじゃ意味ないのでは……?」

「いや、当てて少しでもバランスを崩してやれば後の人が当てた時に倒れる可能性が高まるでしょ」

「………なるほど」

 

 俺が思うに、あれはスマホゲーのレイドボスと同じだ。当てるだけで後の人が楽になる。

 

「なるほど………。次あったら試してみるね」

「うん」

「ところで、インサイドキックってなんですか?」

「ああ、それ分かってなかったんだ」

 

 よく試してみるね、と言えたなおい。

 

「足の内側で蹴るんだよ。サッカーやる人はこの部分で球を転がしてパスを出すんだよ」

「なるほど………。パターゴルフみたいな感じ」

「ゴルフはやったことあるんだ」

「お仕事でやる機会があったんだ」

 

 なるほど。アイドルってゴルフの番組に出たりもするのか。意外だな。ゴルフってめちゃくちゃ難しいって聞いたが。

 

「色々やるんだな、アイドルの仕事」

「はい。デレラジっていうのもやってるんだよ。美嘉ちゃんと凛ちゃんと」

「へー、でもうちラジオ無いから」

「あーそっか。一人暮らしだもんね」

「まぁな」

 

 ラジオかー。興味ないことはないんだが、お金無いんだよ。機会があれば、と言わざるを得ない。

 

「そういうのってようつべとかで聞けんの?」

「あーどうだろ。分からない。私、あまりパソコンとかやらないから」

「ふーん……。まぁ、俺がよく行くラーメン屋はラジオ流してるから、そこで聞けたら聞くよ」

「うん、聞けたら感想聞かせてね!」

 

 いや、そこは「それ何億分の一の確率?」ってツッコむところなんだが。どうやら島村さんにツッコミ属性はないようだ。

 そんな話をしながら歩いてるうちに、駅に到着した。ここからは、島村さんは電車で、俺は家に帰らなければならない。

 

「じゃ、また今度な」

「うん、また………あっ、待って古川くん」

「?」

 

 呼び止められて足を止めると、島村さんは鞄の中を漁り始めた。

 

「今日はこれを渡そうと思ってたんだ。プロデューサーさんがこの前お世話になったから渡して来なさいって。古川くん、疲れてるみたいだし、もしかしたら良い癒しになるかもしれないよ」

 

 解説しながら、鞄から何か封筒を差し出して来た。

 

「何これ?」

「今度はそこで仕事なんだ。一日店長」

「またかよ、バリエーション少な過ぎるだろ………」

「今回のはコンビニとは違うの。今週の土曜日だから、絶対に来てね」

 

 言いながら島村さんは小さく手を振って走り去って行った。

 うーん………これは営業と受け取るべきなのか、それとも友達をバイト先に誘ったと見るべきなのか………。

 まぁ、あんま気にしても仕方ないか。偶然にも土曜日はバイト無いし、行ってみても良いかもしれない。

 そんな事を考えながら封筒の中を見ると、何かのチケットのようなものが入っていた。

 コンビニの優待券か何かか?と思いつつチケットを見ると、メイド喫茶の優待券だった。

 

 

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