島村さんならどんな捻くれ者も浄化できる。   作:バナハロ

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この告白不在のカップルに祝福を!
一人暮らしの長期休みは感覚を失う。


 学校が始まった。皐月くんとほぼ毎日会える日々は終わり、今日からは会えない日もあるかもしれない。

 それでも、私はあまり寂しくはなかった。あのデ○ズニーデートが終わってから、ずっとL○NEしてくれたからだ。皐月くんの方からメッセージが来ることも多くて、少し嬉しかった。

 まぁ、そういうわけで離れ離れでもスマホがあれば連絡も取り合えるので寂しく無い。しかし、毎日のように連絡くれたけど、皐月くんにとって私ってどんな存在なんだろう……。

 まぁ、多分大した感情は持ってないよね、皐月くんだもん。どうせ「俺の唯一の友達だから手放せない」みたいな感覚なんだろうなぁ……。

 正直、今はそれでも構わない。まずは友達から、という言葉があるように、恋人になるには相手との関係を段階的に上げる必要があると思うから。

 さて、とりあえず今日からアイドル、学校、恋愛の三つを両立出来るように頑張らないとっ。

 むんっと気合を入れて、学校に向かった。登校中、何となくチラチラとスマホを見た。……普段なら朝起きると共に皐月くんから連絡来るんだけど、今日は来ないな……。もしかして、生活リズム戻ってないのかな?

 一人暮らしだし仕方ないと思い、なるべく気にしないようにした。

 

 ×××

 

 始業式が終わり、お昼に学校は終わった。それでも皐月くんから連絡は来ない。どうしよう、何かあったのかな。もしかして、何か事故とか……。

 そう思った直後、かなり不安になって来た。どうしよう、探しに行った方が……でも、私も今学校だし……アイドルで学校に行けないことも多い分、授業をサボるわけには……でも、皐月くんの命に関わることだったら……。

 考えれば考えるほど、思考はネガティブな方向に進んで行った。まずは本人に電話した方が良いかな……。そう思って、スマホを耳に当てた時だ。ヴヴッとスマホが震えた。

 

 古川皐月『今起きたわ。昨日の夜、遅くまでストフリの足細くするのに熱中し過ぎた』

 

 ……この人、もしかして今日から学校だって忘れてる……?

 とにかく、事故とかじゃなくてホッとしながら返信した。

 

 うづき『今日から学校なんだけど……ちゃんと学校行ったの?』

 

 答えの分かり切ってる質問をすると、しばらく返事が途切れた。

 スマホを見ながら昇降口に向かって靴を履くと、ようやく返事が来た。

 

 古川皐月『今から行く!』

 うづき『もうお昼だよ』

 

 まず間違いなく学校は終わってる。どの高校も始業式のはずだし。

 

 古川皐月『遅れたもんは仕方ないよね』

 うづき『ちゃんとしないとダメでしょ』

 古川皐月『明日から本気出すから』

 

 まぁ、そう言うなら私が怒るのは筋違いだよね。とりあえず、これから皐月くんの家に行こう。今日はオフだし。

 スーパーでオヤツと飲み物、それとご飯になりそうなおかずを買って皐月くんのアパートのインターホンを押した。

 

「あーい……」

 

 腑抜けた声とともに出て来たのは、未だにパジャマ姿の皐月くんだった。

 

「あーい、じゃないよ。もうお昼なのに何してるの」

「やー、生活リズム戻らなくてさー。今二度寝してたわ」

「もー!制服脱ぎっぱなし!ちゃんと畳むなりハンガーに下げるなりしないとシワになっちゃうよ!」

「さっきまで着替えてたんだけど、学校行かなくて良いと思うとめんどくさくなっちゃってな」

「まったく、ほらちゃんと立って。とりあえず、パジャマから着替えなさい」

「はいはい……」

 

 欠伸をしながら皐月くんは立ち上がった。まぁ、一日くらいそんな日もあるよね。

 しかし、さっき着替えたって事は、やはりお昼も食べていないようだ。ここは私の出番かもしれない。

 

「今からご飯作るから待っててね」

「おう……。悪いな……」

「ううん、こういう時はお互い様だから」

「食材は冷蔵庫に入ってるから。俺シャワー浴びてくる……」

「いや、買って来たから大丈夫だよ」

「あそう……え、わざわざ買って来たの……?」

「え?うん」

「あ、じゃあ後で金出しとくわ……」

「いいよ、勝手に買って来ただけだから」

「や、そういうわけにはいかないから……。後でレシートくれ……」

「もう、いいって言ってるからいいの。それより、早くサッパリして来て。寝癖ついてる」

「あそう……」

 

 ……なんか、いつもと感じ違うなぁ、皐月くん。もしかして、寝ぼけてるのかなぁ。

 なら、ちゃんと目が覚めるくらい美味しいもの作ってあげないとねっ。料理はあんまり得意じゃなくて、この前皐月くんが風邪引いた時以来だけど……。島村卯月、頑張りますっ。

 とりあえず、簡単で短時間に美味しく作れるって凛ちゃん、正確には凛ちゃんののろけ話に出て来た彼氏さんが言ってた炒飯を作ろう。

 エプロンを装備してから、まずはエビと長ネギとウィンナーを刻む、んだよね。比較的、難易度の低そうなネギを手に取った。

 長ネギなのであまり目に染みる事はなく、ゆっくりと時間をかけて刻んだ。続いてウィンナーを手にした。

 

「……」

 

 ヌルヌルしててあまり上手く切れないなぁ。それに加えて、円形でしっかりと形を保ってるものは切りにくい。前のオムレツの時は、元々ママにオムレツの作り方を教わってたっていうのもあったし、何より包丁使わなかったからなぁ……。

 でも、皐月くんのために美味しいチャーハンを作らないといけないし、こんな事でめげていられない。

 何とか頑張ってウィンナーを切ろうとした時だ。人差し指に小さな痛みが走った。

 

「っ……」

 

 痛みを感じたのと遅れて血が流れて来る。指を切ってしまったようだ。

 とりあえず、絆創膏貼らないと……。私の血を皐月くんに食べさせるわけにはいかないし……凛ちゃんは興奮するとか言ってたけど……。

 救急箱のありかはガンプラを一緒に作ってる時から知ってるので、それを開けて左手の人差し指に巻いた。

 早く続きを作らなければならないため、さっさと救急箱をしまおうと手に取った所で、洗面所のドアが開いた。

 

「……あれ?卯月?何してんの?」

 

 さっきまでとは違い、ハッキリした眼差しの皐月くんが出て来た。……なんか顔が赤い気がするけど気の所為かな。

 とりあえず、慌てて救急箱と切ってしまった人差し指を背中に隠した。

 

「っ、な、何でもないよっ」

「今なんか隠したろ」

「隠してないよ」

「何、ガンプラで遊んでて壊しちゃった?別に気にしなくて良いよ、接着剤あるし」

「あ、遊ばないよ!プラフスキー粒子も無いのに!」

「あったら遊ぶんだ……」

 

 言いながら近付いてくる皐月くん。何とか救急箱と左手人指し指は見せないようにしたが、座ったまま方向転換しようとしてたからか、腰が救急箱に当たって中から溢れてしまった。

 

「あっ」

「やっぱ怪我してたんか」

 

 淡々とそういうと、救急箱を片付けた。

 

「大丈夫?」

「う、うん……」

 

 そう声をかけると、台所に向かう皐月くん。もしかして、代わりにご飯作る予定なのかなと思って慌てて後を追った。

 

「なるほど、チャーハンね」

「あっ、ま、待って!私が作るから……!」

「いや、また怪我されたら困るし……」

「い、良いの!」

「良くないでしょ」

「でも、せっかくだから私が作りたいし……」

 

 そう懇願すると、少し困ったような顔をした後、「なら」と言葉を返した。

 

「俺が手伝うよ」

「へっ?で、でも……」

「二人で作れば問題ないでしょ」

 

 そう言うと、台所に向かってしまった。私も立ち上がって慌てて後を追った。

 そう言えば、最近は皐月くん随分と態度が柔らかくなったなぁ。前は優しかったけど少しぶっきらぼうな感じがした。まぁ、そこが可愛かったんだけど。

 その辺の棚から包丁を取り出すと、転がってるウィンナーを手に取って刻み始めた。それを見ながら、私も包丁を握ってウィンナーを切る。

 ……やっぱり、皐月くんの方が手慣れてるなぁ。テンポよくトントントンと音を立ててウィンナーを切る皐月くんを見てそんな事を思った。私もあんな風に料理が上手くなりたい。

 

「……あ、卯月。それ指切る、包丁の斬撃射程内に指が……」

「あ、う、うん」

 

 危なかった……。またやっちゃう所だった。

 

「……よし、切れた」

「じゃ、まずはフライパンに油敷いて。あったまったらウィンナーとエビを投入、焼けて来たらネギ、米をぶちまけてテキトーに炒めてテキトーに調味料加えて」

「わ、分かった……!」

 

 よし、頑張ろ。緊張気味にウィンナーとエビを入れて、菜箸でツイツイ突きながらフライパンを揺らした。

 その間に、皐月くんは換気扇のスイッチを入れてお皿とスプーンの準備をしてくれる。

 続いてライスとウィンナーを入れた。ここからが本番。さらにフライパンを揺らし、途中で塩とか胡椒とかを加えていく。

 

「味見した方が良いよ。何なら俺がするし」

「ダメ、私がする」

「お、おう……」

 

 皐月くんには本番まで食べて欲しくない。

 言われた通りに少量ずつ調味料を加えては味見を繰り返して、ようやく完成した。お皿に盛り付けて、さっきまでまな板のあった場所に置いた。

 ……あれ?まな板は?と、思ったら皐月くんが流しで包丁とまな板を洗っておいてくれていた。

 

「フライパン、水に漬けておいてな」

「あ、う、うん」

 

 流しに置いて水を溜めてから、エプロンを外して皐月くんのお向かいに座った。

 

「さ、食うか」

「あ、うん……。一応、美味しく出来たとは思うんだけど……」

「いただきます」

 

 ……淡々としてるなー。もう少し緊張感持って食べて欲しい。

 炒飯を一掬いして口に運び、もっさもっさと咀嚼する。ど、どうかな……。美味しくなくても食べられる程度にはなってるはずなんだけど……。

 

「ん、美味い」

「っ、よ、良かった……」

 

 ホッと胸を撫で下ろしながら私も炒飯を食べた。あ、ほんとだ、美味しい。とにかく、変なもの出さなくて良かった。本当に。

 これで少しは皐月くんのお世話は……あれ?ていうか、お料理手伝ってもらって危なかったら止めてくれて、助言を加えながら足りない部分は補助してくれて……お世話されたのは私じゃないのこれ?

 

「……」

 

 なんだか恥ずかしくなって頬を赤らめて俯いた。いつから立場逆転してたんだろう……。

 料理に挑戦する妹とそれを見守る兄みたいな状態に思わず自分で呆れてると、皐月くんが「それはそうと」と言葉を継いだ。

 

「その……いつ言おうか悩んでたんだけど……」

「? な、何?」

 

 なんだろ。もしかして、味見した時に頬にお弁当ついてたかな……。それとも私も人のこと注意しておいて寝癖がついてたり……?

 自分の顔や頭を触って容姿を確認してると、少し照れた様子の皐月くんがボソッと言った。

 

「エプロン姿が、その……とても新妻っぽくて、似合ってたです……」

「……」

 

 全然、兄妹なんかでは無かった。何というか……隣の家に住んでる幼馴染みたいな感じかな。

 

「そういう事は、早く言ってよねっ」

「……悪い」

 

 それだけ言って、二人で美味しく炒飯をいただいた。

 

 

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