学校が本格的に始まったけど、結局私と皐月くんの関係は変わらなかった。放課後になって仕事のない日は、ほぼ毎日のように皐月くんの部屋に遊びに行って、二人でプラモを作る。
まぁ、今日は私はプラモを買っていないので、一人でプラモを作る皐月くんの背中を背もたれにしてガンダムの漫画を読んでいるんだけどね。
……でも、飽きたなぁ。というか、せっかく私といるのになんで皐月くんはガンプラに夢中なのかなぁ。
何だか気に食わないので、漫画を畳むと後ろから皐月くんの背中にくっついてみた。背中をツンツンと突くが反応はない。静かにパチンとニッパーがパーツを分離させる音が響くだけだった。
「……」
続いて、背中をなぞった。これでくすぐったくて少しは反応してくれるはず……と、思ったが、無反応。どうやら、くすぐりには耐性があるようだ。
……それでも気付いてるはずなんだから反応してくれれば良いのに……。もしかして、プラモに集中してるのかな……。それなら私に集中してよ。
「……むー」
肩の上に顎を乗せてみた。これなら鬱陶しいでしょ。私の全体重が肩に掛かるんだから。
しかし、それでも皐月くんは反応してくれなかった。微動だにしない背中に私の方の我慢が限界だった。
「むー!むー!」
皐月くんの肩甲骨の間におデコをグリグリと擦り付けて腰の後ろから手を回してギュっと抱き締めた。
すると、皐月くんはニッパーを持ったままおでこに手を当てた。
「……何この可愛い生き物……」
「あー!もしかして最初から気付いてた⁉︎」
「可愛かったよ、卯月」
「もー!何でそういうことするの⁉︎」
「いや、なんか構って欲しい猫みたいで可愛かったから」
「もー!もー!」
「牛かよ」
「女の子に向かって牛はないよ!」
むーっ!からかわれてたなんて……!
横からジロリと抗議の視線で睨み付けるも、皐月くんは平気な顔で私の頭を撫でた。
「はいはい。文句は後で聞いてやるから、今は一人で遊びなさい」
「もー!せっかく私が遊びに来てるのに……」
「ほら、これでじゃれてて良いぞ」
言いながら皐月くんは緑色にザクのモノアイと動力パイプが描かれたボールを放り、思わず私は手を伸ばした。
「あ、うん!ありが……って、ホントに猫扱い⁉︎」
「にゃー」
「にゃー。って、にゃーじゃないよ!」
ぜ、絶対バカにしてる!なんとか仕返ししたいけど……。でも、どうやって仕返ししようか……。
あ、そうだ。こういう時は大人の色気って美嘉ちゃんが言ってた!よーし、大人っぽいと言えば美嘉ちゃんや奏さんだよね……。確か、二人はいつも第二ボタンを開けてる。そういう所から試してみよう。
そう決めると、リボンを取って第二ボタンを外し、少し恥ずかしいけど皐月くんの腕に横から抱きついてみた。
「さーつきくん♪」
……えっと、なんて言えば良いんだろう……。誘惑するような言葉、だよね?えっと……。
「……わ、私と……プラモ作らない?」
……あれ、なんだろ。なんか違う。それいつもしてるよ。
なんだか痛烈に恥ずかしい思いをしてると、また皐月くんは私の頭の上に手を置いた。
「……卯月、お前に大人の色気で誘惑とか無理だ」
「っ⁉︎ど、どうして⁉︎」
「何しても可愛くなっちゃうから」
「なっ……⁉︎も、もー!どういう意味っ?」
カァッと顔を赤らめてポコポコと皐月くんの肩を叩く私を微笑ましそうな顔で眺めながらもプラモ作りの作業を進めた。
うう……ていうか、誘惑しようとしてるのも簡単にバレちゃってるし……。
すると、何を思ったのか皐月くんはニッパーと製作中のプラモと塗装用のガンダムマーカーとカッターとやすりを箱の中にしまって、私の方を見た。
「よし。で、何する?」
「! もう良いの?」
「キリが良かったからな」
やった!じゃあ、せっかくだし何をしようかな……。といっても、特にしたい遊びがあるんじゃないし……。
どちらかというと、お話ししたい事がたくさんある。
「最近ね、事務所の小早川紗枝ちゃんと塩見周子ちゃんって子がいるんだけど」
「アイドル?」
「そう!……ていうか有名だよ!今度、二人で『羽衣小町』っていうユニットで話題になってるんだから」
「テレビはガンダム以外で使わねえからなぁ」
そ、そうだよね……。皐月くんだもんね……。この前やったガンダムのゲームもう一回やりたいなぁ。
「その二人がどうしたの?」
「あ、うん。私のCMの収録終わったところでその二人と出会してね」
「CMって、あのTMの衣装着た超エロい卯月の?」
「は、ハッキリ言わないで!私だって恥ずかしかったんだから!ていうか、テレビ普通に見てるじゃん!」
「……まぁ、卯月が出てるCMだったしな……」
「あっ、そ、そっか……ありがと……」
……それは嬉しいけど、少し照れ臭いかも……。……でも、やっぱり嬉しいなぁ。えへへ……。
「で、その卯月のCMのスクショ動画がこれ」
「あー!なっ、なななんでスマホに保存してるの⁉︎」
「ようつべに上がってたからな」
「だからって保存しないでよ!」
もう!感動を返してよ!
「うう……あんなのもう一生着たくないよ……」
「で、その二人がなんだって?」
鏡を見なくても顔が赤くなってるのが分かるくらい顔が熱くなってると、皐月くんが話を戻したので慌てて答えた。
「あ、うん。その二人、今度仕事で京都行くんだって」
「へー。修学旅行以外で京都って羨ましいな」
「いや、二人は実家が京都だからね」
少し実家が京都って羨ましいかも……。毎日がデ○ズニーランドみたいで、
「というか、皐月くん京都好きなの?」
「まぁ、それなりに。一人か卯月と行ければ」
「あー……。そ、それでね、確か皐月くんって今年の修学旅行、京都なんでしょ?」
「そうだよ」
「それでね、美味しい八つ橋のお店教えてもらったんだ」
「わざわざ俺のために?」
「うん。だから、時間があったら食べに行って来たら?」
すると、皐月くんはしばらく考え込んだあと、何かピンと来たのか聞いて来た。
「……お土産買って来て欲しいのか?」
「……そ、そうです……」
ほんと変なとこ鋭いなぁ、この子。だってあんな風に「ほんま美味しかったなぁ」「うん。あれは最早至高の一品」なんて言われたら食べたくなっちゃうんだもん!
そもそも、女の子は総じて甘いものが好きだ。かな子ちゃんとか。
「てか、八つ橋くらい東京駅に売ってるだろ」
「そういうのじゃダメなの!」
「お、おう……」
分かってないなぁ。皐月くんが好きなラーメン屋だってチェーン店より個人経営のお店の方が好きな癖にぃ……。
「ま、お店さえ教えてくれりゃ買って来るよ」
「ほんと⁉︎」
「ほんと。どうせ自由時間は一人で回るハメになるから」
「ありがとう!ふふ、今から楽しみだなぁー」
その場で寝転がって足をパタパタと振った。ふふ、今から楽しみだし、なんなら修学旅行について行っちゃっても……。
そんな事を思ってると、皐月くんが床に転がってる財布とスマホをポケットにしまいながら立ち上がった。
「卯月」
「何?」
「たまには外出るか」
「へっ?」
「ほら、いつも室内じゃ不健康でしょ」
「でも……この時間から?」
「……卯月と行きたい場所があるんだ」
「良いよ!」
やった、今から楽しみっていうか楽しい事が今から起こる!
一緒に二人で玄関に向かった。靴を履いて玄関を開けながら皐月くんに聞いた。
「それで、皐月くん!どこに行くんですかっ?」
「ん?食材を買いに」
「……はい?」
「今日、特売なのさっき思い出してさ。お一人様お一つで卵が安いんだよね。今から行って間に合うかな」
「……私と行きたいって、そういう事?」
この人は本当に……!今のは流石にムカっとしたため、皐月くんをジトーッと睨み付けたが、皐月くんは弁解するように言った。
「いやいや、卯月以外に誰かいたとしても一緒には行かないから」
「どうせ他に友達いないからでしょ」
「お前今、酷いこと言った自覚ある?ないよね?自覚持ってお願い」
「普段、そういう言動してるのは誰⁉︎」
「や、そんな夫婦みたいな買い物の仕方、他の女の子とはしたくないって意味だったんだけど……」
「……」
……そういうことか。なんだか嬉しくて、でも不機嫌になりながらすぐ喜ぶのは簡単な女みたいで嫌で、必死に緩む口元を押さえながら、今度こそ仕返ししてやろうと皐月くんの腕に飛びついた。
「? う、卯月?」
「……な、なら、買い物に向かう途中も夫婦みたいにしないとねっ……!」
「……尊過ぎて死にそう……」
「し、死んじゃダメだよ!ほら、早く行こ?」
抱き締めてる腕を引いて、スーパーに向かった。
「ね、皐月くん」
「? 何?」
「しりとりしながら行こう!」
「卯月先手で良いよ」
「やった!えっとね……り、りんご!」
「ゴルドルフ所長」
「……何それ?」
「ん? FGOの……」
そんな事をしながら歩いた。
×××
「え、えーっと……う、う〜……」
「ほら、もうスーパー着いたから」
「うー!ズルイよ皐月くん!『う』で終わる文字ばかり!」
知らない間にスーパーに着いていた。ほんとに皐月くん意地が悪い。しかも、悔しがってる私を見て楽しそうにしてるんだから尚更酷い。
「しりとりってそういうもんだから。今度、神谷さん辺りに試してみなよ。あいつアホそうだから速攻で掛かると思うよ」
「うー……わ、分かった……」
そっか……しりとりってそういうゲームなんだ……。
スーパーに入り、カゴを持った皐月くんと並んで歩く。流石に買い物中は邪魔になると思うので腕から離れた。
入り口付近にあるのは野菜なので、そこから皐月くんは回った。顎に手を当てて二つのキャベツを持つ。両手に持って重い方を選んで行った。
やがて、決勝戦になったのか二つのキャベツを渡して来た。
「どっち重いと思う?」
「んー……こっち」
「じゃ、こっちだな」
「……そんなに変わらないと思うけどなぁ」
「主婦になれば分かるよ。割とこういうのが生活の苦労を決めるから」
「……もう主婦だもん」
「俺の方が主夫っぽいけどな」
「うっ……そ、それはまぁ高校生だから仕方ないけどね……」
「まぁ、卯月の収入を俺がもらってるわけじゃないし、一方的に俺が主夫なわけだが」
「も、もう!この口はすぐそういうこと言うんだから!」
皐月くんの頬を突いて抗議すると、皐月くんは私を落ち着かせるように頭を撫でた。……それだけでなんだか落ち着けて大人しくなっちゃうんだから、やっぱり私簡単な女の子なのかな。
私の頭を撫でたあと、皐月くんはじゃがいもを選び、カゴの中に入れた。せめて私にできる主婦っぽさを探し、皐月くんのカゴを持つ手を握った。
「カゴくらい持たせて」
「いやいや、重いもの持つのは男の仕事だから」
「で、でも……私も少しは女の子っぽい事を……」
「なら、このままで良いじゃん。二人で持とう」
「っ……う、うん……」
そ、それは少し恥ずかしいけど……。でも、皐月くんと同じ事出来るのは何となく嬉しい。
私達の間に買い物カゴを挟んで二人で手を繋ぎながらカゴを持って、続いて人参を買いに行った。
「……あら?卯月と皐月くん?」
不意に私達を呼ぶ声が聞こえ、振り返るとママが買い物カゴを持って立っていた。
「あ、マ……お母さん!」
「いつも通りママで良いのに。二人ともカゴを二人で持っちゃって、まるでカップルみたいね」
「そうかな」
「あ、どうも。島村さん」
「あ、あれ……?」
普通に返すと、ママは何故か狼狽えたような様子を見せた。
「ふ、二人とも随分と仲が良いのね……?」
「まぁ、なんていうか……もう毎日顔合わせてますから」
「ねー?最近、皐月くんってば私の学校の校門まで迎えに来てくれるんだよ?」
「そ、そうなの……」
? なんだろ。なんかママの様子がおかしいような……。どうかしたのかな。
すると、皐月くんは小さく会釈して言った。
「じゃ、俺達はこの辺で。8時までには卯月を家に送り届けますから」
「へっ?あ、う、うん。そう?ありがとう」
「またね、お母さん」
それだけ挨拶して、ママと別れた。さて、皐月くんとお買い物続けないと。
……それにしても、ママ何かあったのかな。具合悪いとかだと心配だし、帰ったら一応聞いておこう。