「いやいや、おかしーだろ」
休日、その日を利用して、私と皐月くんは奈緒ちゃんに相談した。相談内容は主に私のお母さんのこと。なんか最近、毎日のように「え?告白してないのにあの距離感なの?」みたいな質問をして来るので、とりあえず最近の私達の関係も含めて奈緒ちゃんに相談したら今の返事が返ってきた。
「そんなに変ですか?」
「変だしおかしいし頭もおかしいわ。え、告白してないのに普段の会話に『夫婦』とか『新妻』とかいうワードが出てくんの?」
「え、ダメ?」
「表現の自由だろ」
「お前らの場合、比喩表現で済んでないからダメなんだよ!」
二人で反論すると、声を荒げて反論して来た。
え?ていうかそれって……。
「皐月くん、今私達夫婦に見えるって言われちゃったね」
「まぁ、第三者にそう言われちゃうって事は本当に夫婦っぽいんだろうな」
「オイ、そのテンションやめろ。酷くウザったい」
そう言われても、これが素だし……。
「というか卯月。そもそも古川の腕に抱きつくのやめろ」
え、何で今更そんな事注意するんだろう。さっきからずっと皐月くんとくっ付いてるのに……。
「離れろ」
「なんでですか?」
「良いだろ別に」
「あたしがいづらいんだよ!」
「神谷さんもくっつけば良いじゃん」
「は、はぁ⁉︎何言い出すんだお前は⁉︎」
「……皐月くん?」
「じ、冗談です……。卯月様……」
「嫉妬もするのかお前ら!」
まったく、私も一緒にいるのに失礼な!普通、女の子の前でそういうの事言わないでしょ。
「もう一度聞くけど、告白はしてないんだよな?」
「してないですよ」
「しなくても、こう……お互いに通じ合っちゃってるっつーか……最早イノベイターかニュータイプだよな」
「もう……皐月くんったら……!あ、それならカテゴリーFとかどうかな?」
「……兄弟になるのか?」
「違うよ。……二人だけが、通じ合ってるみたいな……」
「う、卯月……」
「……なんだこれ。内容は甘ったるいのになんか怖い……」
私と皐月くんが二人して頬を赤らめてると、奈緒ちゃんが全く空気を読めない事を言い出した。
「奈緒ちゃん、そこは黙って見届けるところですよ」
「メイジンかテメーは」
「すぐにガンダムに例えるのをやめなさい」
……むー、奈緒ちゃん機嫌悪いのかな……。なんでそんなに怒ってるんだろう。
「あのな、そりゃ卯月のマ……お母さんも困惑するぞお前ら。告白してないでそういう関係なんだろ?」
「……別に告白しなくても仲良くするのは良いと思いますけど」
「ガンダムのキャラだってほとんど明確な愛の告白シーン無いだろ。それなのにみんななんか上手く付き合ってんじゃん」
「じゃあ聞くけど、お前ら付き合ってるのか?」
言われて、私も皐月くんもドキっと心臓を震わせた。確かに、付き合ってる……のかな?
「別に、告白しなきゃ付き合えない、ってわけじゃないだろうしその辺に定義があるとは思えないけど、告白くらいしっかりしないと卯月は他の男を勘違いさせるぞ」
「おい、なんで俺をハブった」
「……私が、ですか?」
「卯月のその性格なら他の男にも人当たり良くしてそうだし、勘違いさせて告白されて相手を傷つけるかもしれないんだからな」
「あの、奈緒ちゃん……。別に、私は男の子にモテるってわけでは……。告白された事だって無い、ですし……」
……というか、なんだかモテるモテるって言われてるみたいで少し照れちゃうんだけど……。
「古川だってそうだ」
「あ、やっぱり?俺もモテそうに見える?別にモテたいわけじゃないけ……」
「他に好きな女の子出来てその子に入れ込んでも、別にそれ浮気ってわけじゃなくなるし、卯月との関係を見られると『何こいつ、色んなところに女作ってんの?』って思われるぞ」
「……なんで俺だけクズっぽい例えなんですかね……」
奈緒ちゃんのその例えに冷やっとすると同時にカチンと来た。で、皐月くんの腕から離した手を皐月くんの服の襟に移して問い質した。
「ち、ちょっと皐月くん⁉︎浮気なんてしてないよね⁉︎」
「な、なんでそう言う話になるんだよ⁉︎するわけないだろ!」
「もししてたら許さないから!ママにお説教してもらうんだから!私のママ、怒るとパパに土下座させる程度には怖いんだからね!」
「し、しないってば!……か、仮にしたとしても……卯月に説教してもらいたいけどな……」
「ーっ、そ、そうやって誤魔化してもダメなんだからぁ……!」
「……なんでそこから惚気になるんだよ。ていうか、浮気って言っちゃってるし……」
他人事のようにツッコむ奈緒ちゃんもキッと睨み付けた。それに気付いたのか、背筋を伸ばす奈緒ちゃんに私は言った。
「奈緒ちゃんも不安にさせるような事言わないでっ」
「お、おう……。ごめん……」
まったく……。私は一息つきながら皐月くんから手を離して飲み物を一口飲んだ。
「ま、神谷さんの言うことも分かるし、告白しておくか」
「そうだね」
……うっ、そういえば、告白されるのって初めてなんだよね……。せっかくだから、こう……デートの後とかにロマンチックに告白してもらいたいな……。
高層ビルの屋上、なんて高校生離れした場所じゃなくて、こう……夜のお台場あたりでガンダムの等身大が見える二人きりになれる穴場みたいな場所で……。
「卯月、好きだ。……ゴクッ、ふぅ。付き合ってくれ」
「……」
……コーヒーを飲みながら、他の女の子もいるのにさらっと言われてしまった。
奈緒ちゃんもドン引きしながら「うわ〜……」と声を漏らしている。当然、私も少しむかっとした。
「……むー!」
「えっ、何?なんで怒ってんの?」
「何でそんなサラっと言うの⁉︎もっとこう……雰囲気とかあるでしょ⁉︎」
「や、もうお互いカテゴリーFなんだし、今更改まっても茶番感が……」
「すぐガンダムに例えるのをやめなさい!」
「えぇ……お前さっき散々……」
「口答えしない!」
まったく、こういうところは無神経なんだから……!大体、何飲みながら告白って何なの?凛ちゃんだったら半殺しにしてるレベルなんだけど?
「……でも今更ロマンチックにとか言われてもな……」
「……まぁ、確かにな。結果は分かりきってるのにロマンチックな告白とかある意味普通の告白より難しいぞ」
「うう……」
確かに二人の言い分も分かる。今更告白なんてされても「ドキッ」どころか「ビックリ!」もしない。
……でも、それでも最初の彼氏が告白無し……いや、さっきされてたっけ。さっきの0点の告白じゃ嫌だ。
「……なら、せめて卯月の要望通りに告白すれば良いんじゃないか?」
「そうだな、それが良い。じゃ、告白の日程決めようぜ」
この時点でロマンチックさの欠片もないんだけど……。
いや、逆転の発想なのかな?ロマンチックはどう足掻いても無理だから、せめて私の要望通りにしてくれる、ということかな。それなら少し嬉しい。
「とりあえず、卯月の意見は?」
「……そうですね、色々あるんですけど……」
正直、出来レースだからなぁ……。出来レースな告白の場合、要望に合わせれば合わせる程、茶番になってしまうような……。
……うーん、あまり変に望みを高くするのは良くないよね……。最低限のことだけ伝えた方が逆に良いかもしれない。
「じゃあ私の要望は一つかな」
「一つで良いのか?」
「はい」
皐月くんの確認に微笑みながら答えた。
「私を、ドキッとさせて下さい」
「……ドキッと?」
「うん。サプライズ的な……この際、ロマンチックでなくて良いから、告白されるのを分かった上で私をドキッとさせるような告白をして欲しいな」
「……なるほど」
「あれか、ドッキリみたいな?」
「奈緒、空気読め」
「奈緒ちゃん、空気読んで下さい」
「いきなり辛辣になるなよ⁉︎」
そう言われても、今は真面目に話してるんだから。
「分かった。まぁ、ようはドキッとさせれば良いんだな?」
「うん。なるべくデート中に」
「じゃ、来週の日曜にガンダムの等身大でも見に行くか。何だかんだ見に行ったことなかったし」
「あーそうだね。その時に?」
「ああ」
やった!まさかデートまで出来るなんて!来週が楽しみになってきたなー。
「……じゃ、とりあえず今日はお開きにするか」
「うん。奈緒ちゃんにもアドバイスもらえましたしね」
「いやー、ありがとな。神谷さん」
「はい。今度、何か奢らせて下さい、奈緒ちゃん」
「……お前らとは一生出掛けないからな。例えガンダム関係でも」
それだけ話して、私達はお店を出た。奈緒ちゃんが何故かゲンナリした様子で駅に向かうのを見ながら、皐月くんは私に声をかけてきた。
「……で、どうする?これからどこか行くか?」
「うん。今日はカラオケ行きたいなー」
「えぇ……アイドルと?」
「ダメ?」
「や、良いよ。行こう。……今日はネタ曲だけで良いや」
そんな話をしながら、皐月くんと手を繋いでカラオケのある駅周辺に向かった時だ。後ろから「卯月ちゃん」と声が聞こえた。
振り返ると、どこかで見た男の子……あ、前に水族館のチケットくれた人だ。その人が立っていた。
「あっ……えっと……」
名前なんだっけ、まぁ良いか。とりあえず挨拶しておこう。
「こんにちは」
「う、うん」
「卯月、この人は?」
「水族館のチケットくれた、前にバラエティ番組で一緒に出た人だよ」
名前はー……あ、確か山田さんだっけ?
「ふーん……」
「そ、それより卯月ちゃん。この人は?」
「お友達の古川さんですよ」
「へ、へぇ〜……何、二人は付き合ってるの?」
「んー」
なんて答えようかな……。本当はもう私の中では結婚しちゃってるんだけど、せっかく来週告白してもらえるんだし、ここは付き合ってないって答えておこうかな……。
「まだ付き合ってないですよ?」
「ちょっ、卯月……!」
皐月くんが狼狽えたような様子で声をかけてきたのと同時に、山田さんは「そ、そっか……」とホッと胸を撫で下ろした。何をホッとしてるのか分からないけど、とりあえず今はカラオケに行かないといけない。
「じゃあ、私達はこれで」
「えっ、あ、ま、待って!」
「? なんですか?」
なんだろ、もしかしてまた仕事で一緒になったのかな。それなら失礼のないようにしたいけど……。
「ら、来週の日曜日空いてる?もし良かったら……」
「あ、ごめんなさい。来週の日曜はこの人とガンダム見に行くんです」
「おい、卯月」
「へ?が、ガンダム……?」
「お台場の等身大です」
「あ、あー……そ、そっか……」
「すみません、もしかしてお仕事とかですか?」
「いや、なんでもないよ。じゃあね」
それだけ言って山田さんは立ち去って行った。なんだろ、何の用だったんだろ?
ボンヤリと足早に立ち去る山田さんを眺めてると、少し真面目な声音で「卯月」と皐月くんが声をかけてきた。
「お前……今のは嘘でも付き合ってるって言っとけよ」
「? なんで?」
「……本来、こう言うこと言うべきじゃないんだけど言うわ。あの人、完全に卯月の事狙ってたぞ」
「狙う?」
「お前のこと彼女にしたがってるって事」
「ええっ⁉︎」
そ、そんなまさかぁ……。わ、私そんなにモテる女の子じゃないし……。
「まぁ、俺の見た感じの主観だから本当かどうか分からないけど、そういう人をあまりその気にさせるなよ。特に、あの人学生だろ?」
「う、うん……。確か大学生だけど……」
「なら、若いから思慮は浅いし芸能人だからプライドは人の倍はある。何してくるか分かんないんだから」
「……ま、まぁ、皐月くんがそう言うなら……」
「ん。じゃ、カラオケ行くぞ」
「うん!」
まぁ、今の話は本当にあの人が私を好きだったら、の話だし……それに、来週には皐月くんとお付き合いするんだから、それまでの間気を付けてれば大丈夫、だよね。
それよりも、今は皐月くんとのカラオケのが重要なので、それにウキウキしながら歩いた。