翌日、俺と卯月はデートを始めた。まぁ、もう既に何度も二人で出掛けてるから、今更ドキドキもトキメキもない。
なので、待ち合わせ場所では特に緊張感など持たずにぼんやりとガンダムのアプリをやっていた。
しばらく待ってると「お待たせ」と声が掛かる。いつもの3倍以上、オシャレした卯月が立っていた。
「よう、卯月」
「うん。よう」
卯月の「よう」可愛い。鼻血出そう。
そんな俺の気も知らずに、卯月はその場で横に一回転してみせた。
「どう? いつもより少し、その……気合い、入れてみたんだけど……」
「ああ、かわいいよ。一瞬、どこかのお姫様かと思った」
「も、もうっ……! 私はアイーダさんでもディアナさんでもないよ……!」
「そうだな、そいつらより可愛い」
「も、もうっ! 恥ずかしこと言うの禁止! それよりも行こ?」
卯月が微笑みながら手を差し出してきて、俺はその手を受け取った。
さて、お台場だ。二人で駅に向かった。改札口を通り、しばらく電車に乗ってからはモノレールに乗り換え。
モノレールの改札を通ると、思った以上に落ち着いた様子の卯月に聞いた。
「慣れてんの? モノレール」
「うん。お仕事で何度か来てるから」
なるほど。そういやそういうもんかもな。しかし、俺は初めてだ。お台場に来ること自体が初めてなんだから。
モノレールが来たので車両に乗りながら聞いた。
「じゃあ、ガンダムは見たことあんの?」
「うーん……あるにはあるけど、前はあんま興味なかったから流して見てたんだ」
「なるほど」
「だから、ガンダムっていう世界を私に広げてくれた皐月くんにはとても感謝してるよ。これで、またお台場での楽しみが増えたから」
「……そっか」
あまりに可愛かったので頭を撫でてあげると、すごい楽しそうに「ふふっ♪」とはにかんで俺の胸に頭をスリスリと寄せてきた。
うん、もう野生動物かな? ってレベルなんだけど……まぁ、可愛いから良いや。
次の駅に到着すると、前の席が空いたので二人で座った。卯月は俺の肩の上に頭を置き、俺は卯月のその頭を撫でた。
しばらくそんなことをしてると、お台場の前の駅に到着した頃には車両から人が消えていた。
「……あれ? 誰もいないね、皐月くん」
「ほんとな。なんかあったのか? 爆破予告とか」
「もう、映画じゃないんだからやめてよっ♪」
「その割に楽しそうに言うな、お前は……」
「……でも、二人きりなら……良い、よね?」
頬を赤らめながら卯月はそう言うと、そのまま俺に顔を近づけ、頬にキスした。
「……っ、な、なんだよ……。急に……」
「そ、その……今日の告白、楽しみにしてるね? って……」
……あー、畜生。可愛すぎかよこいつ……。何なの? どういう生き物なの?
再び顔を近づけてくる卯月の唇に、俺は人差し指を添えた。
「?」
「……そういうのは、俺が告白をしてからな」
「……そ、そっか。ありがと」
……こういうストレートな子だったから、俺の心の汚れとか浄化されたんだろうなぁ……。
そんな事を思ってるうちにお台場の駅に到着し、俺と卯月は降りた。別の車両から人がたくさん降りてきた。
「……なんだよ、人結構いたのか」
「ーっ……」
「どうした? 卯月」
ふと顔を赤らめたまま俯いてる卯月が目に入ったので聞くと、真っ赤になった顔のままポツリポツリと呟くように言った。
「……う、ううん……。その……人がたくさんいたのに私、皐月くんに……ちゅーしちゃったなって思って……」
「……」
……なるほど、見られてた可能性はあると。
「卯月ってば……公共の場で大胆だな」
「も、もうっ……! やめてよ皐月くん!」
「俺はそこまで大胆にはなれないかなー」
「も、もー! もー!」
ポコポコと俺の肩を叩く卯月を受け止めながら、とりあえずお台場に向かって歩いた。
さて、まず向かったのは海沿い。なんと船に乗れるらしい。二人で船の乗船チケットを購入した。
「やー、船だな」
「そうだねー。船だね」
「乗ったことある、んだよな? 多分」
「うん。というか、相当変なところじゃない限りほとんど来た所あるから……」
「ま、それなら行ったことなさそうな場所選ばなくて良かったよ」
「でも、こうして男の子と乗るのは初めて、だから……」
「まぁ、実際誰と乗っても一緒だと思うけどな」
「違うもん。皐月くんとなら、尚更……」
「そうだったな。俺も卯月とは違う」
「えへへ」
そんな話をしながら、船が来るまで海沿いで待った。乗船待機場の橋みたいな場所で海の中を見下ろすだけで魚が泳いでるのが見えて、あまり海の魚は見たことのない俺にとっては新鮮だった。
「……こいつら美味いのかな」
「食べる気⁉︎」
「や、俺小学生の時に家族旅行で沖縄行ったことあるんだけど、これがすげぇんだよ。なんだか名前のよくわからないもんでも魚ならとりあえず美味かったな」
「へぇ〜、良いなぁ……沖縄」
「……沖縄はせめて俺が大学に行ってバイトの時間増やせるようになるまで待ってくれない?」
「そうだね……。遠いもんね」
それに、行くだけで金が尽きそうなものだ。
「……や、待てよ? 卯月の水着姿が見れると思えば……」
「も、もうっ、この前見たじゃない」
「この前は事務所が選んだ水着だろ? そうじゃなくて、卯月の選んだ水着が見たいんだよ」
「わ、私の……?」
事務所の水着ってのは、早い話がその子に似合っていて且つ、男ウケする水着を選んでるわけだからな。
その点、卯月チョイスの水着の方が卯月らしさが出る気がする。
「……でも、他の男に卯月の水着は見せたくねーなぁ」
「さ、皐月くんってばあ……。そんなこと言ってたら、一緒に水着着なきゃいけないような所にいけないよ?」
そうなんだよなぁ……。何とかして卯月とお風呂に入る方法……。
「あ、じゃあアレだ。風呂一緒に入るか」
「っ⁉︎ お、おふりょ⁉︎」
「水着着て。それなら平気だろ。俺だけ卯月の水着見れるし」
「あ、そ、そういう……それなら良いかもねっ」
「……じゃ、帰ったら早速」
「今日⁉︎」
「そ、今日」
「……み、水着は?」
「今から買おうぜ」
「……」
頬を赤らめたまま俯く卯月。おそらく、卯月の中で葛藤しているのだろう。
が、やがて、小さく頷きながら呟いた。
「……仕方ないなぁ……」
「っしゃオラ! じゃ、もう帰るか!」
「それはダメ!」
「冗談だよ」
そんな話をしてると、乗る船が帰って来た。
「よし、行くか」
「うん……♪」
二人で船に乗り込んだ。
×××
船から降りた後は、水着を卯月が購入してる間、俺は別の店でぼんやり買い物し、合流した後はジョイポリスだのなんだのと回り回った。
で、いよいよガンダムの等身大。気がつけば夕方になっていて、ガンダムもようやく本気を出して目を光らせる時間だろう。
「おおー! が、ガンダム! 大きい!」
爛々とした目で卯月が見上げて言った。
「18メートルってこんなに大きいんだぁ……。……これが、動いて戦ってたんだ……」
そこまで言って、卯月は俺の方を見て言った。
「これは確かに怖いね、皐月くん!」
「だろ? こんなのに襲われたら俺達なんかネズミが二本足で立ったのと同じくらいのサイズだろ。これで同じ身長の兵器のマシンガン効かねえんだから」
「ジーンさんの絶望はどれだけのものだったんだろうね……」
俺がジーンなら間違いなく逃げてる。さて、そんな話はともかく言わせてもらうか。
「冷静に考えりゃ、すげぇよな。アニメがさ、三次元に出てきたってことだろ?」
「あー……確かにね」
「動かないとは言え、ガンダムって色んな人達の心を掴んできたっていうのがよく分かるよな……」
「うん。まぁ、私も皐月くんもその一人なんだけどね」
えへへ、と頬を掻きながら微笑む卯月。可愛い。
「そんなガンダムよりさ、俺はお前の方が好きだ。だから、付き合ってくれ」
「私もガンダムより皐月くんの方が……今、なんて?」
「ん、だから付き合ってって」
「……い、いまあ⁉︎」
あー、やっぱそうなるか。まぁ仕方ないね。
「しゃーないだろ。お互いに気持ちが分かってる以上、ロマンチックよりサプライズだと思ったから」
「そ、そうだけど〜……! う〜……」
まぁ、納得行かないだろうなってのは分かってた。だから、ここから先がほんとのサプライズだ。
「卯月、手ぇ出して」
「何?」
キョトンとした顔の卯月の左手薬指に、卯月が水着を選んでる間に購入したおもちゃの指輪を添えた。オモチャっつっても五千円くらいする奴だからな。
「……ふえっ?」
「何間抜けな声出してんだよ」
そこにツッコミを入れてから、少しやってることがキザ過ぎる自覚はあったので、目を逸らしながら頬をぽりぽりと掻いた。
「ま、まぁ……他の奴らから見たら俺達は恋人飛ばして夫婦に見えるみたいだし……それくらいしてても良い、んじゃないか? まぁ、オモチャだけど」
何とか照れを隠してそう言うと、卯月の頬も徐々に赤く染まって言った。
「……そ、そっか……。そう、だね……。えへへ」
そう小さく小声ではにかんだあと、ガバッとジャンプして俺の上半身に飛びかかった。
それを受け止めると、耳元で囁くようにボソッと言った。
「いつか、本物をくれる日を楽しみに待っていますね」
「……ああ、多分二十年後くらいになるけどな」
この日、俺達はようやく恋人になった。
〜完〜
×××
〜エピローグ〜
その日の夜。バスルームで水着に着替えた俺はシャワーの前で座っていた。
しばらくぼんやりしてると、ドアの向こう側から控えめな声が聞こえてきた。
「……さ、皐月くん……」
「おお、早く入れよ」
「……本当に入るんですか? ……い、一緒に……?」
「敬語に戻ってんぞ。てか、なんのために水着買ったんだよ」
「そ、そうだけど……。でも、その……思った以上に恥ずかしいなあって……」
「俺も同じ条件だけどな。むしろ俺は水着買うの忘れて学校指定のもんだぞ、俺の方が恥ずかしいわ」
「……うー」
すると、控えめにドアが開かれた。コンマ数秒で後ろを振り向くと、ピンク色のビキニを装備した卯月が顔を真っ赤にして立っていた。
「……おお」
「……何よ、その反応」
「……いや、割と大胆なの選んだなと」
「うー、えっちなんだから……」
男はみんなそうだ。
「じゃ、洗いっこしようか」
「……も、もうっ……!」
「嫌ならいいけど……」
「……嫌じゃないから困ってるんだよ……」
顔を真っ赤にしながら卯月は俺の背後に立ち、俺も立ち上がってシャワーの蛇口をひねった。
「じゃ、まずは俺から洗ってやろう」
「……よ、よろしくお願いします……」
俺の前に座る卯月の頭上で、シャンプーを手になじませて泡立てると、卯月の髪をシャコシャコと洗い始めた。
「っ……」
「卯月の髪、サラサラだなー」
「そ、そう、かな……」
「砂時計の砂みたい」
「それ、褒めてるの……?」
や、砂ってサラサラしてて気持ち良いでしょ。
「あ、つむじ」
「っ、ま、まじまじ見ないでよぅ……」
恥ずかしそうに頬を赤らめる卯月。なんだか可愛いな本当に。
洗い終えて、卯月はトリートメントをつけた。正直、そっちは使い方わからないので俺はパス。
その間に俺もシャンプーを済ませて、続いて卯月の身体……というか背中を洗い始めた。
華奢でかつ綺麗な背中を、うちにあるスポンジでゴシゴシと背中を擦る。流石に身体なので下手な場所は洗えない。
しかし、困って来たのは卯月の表情が徐々に色っぽくなって来てる事だ。呼吸なんか乱れまくってるし。
「……」
こ、この辺にしておこうか。
お互いに体を洗い終えると、ようやく湯船に浸かった。俺が先に入ると、卯月は何を思ったのか俺の足の間にチョコンと収まった。
「え、う、卯月……? 別に入る時はくっつかなくても……」
「……つーん」
……あれ、何か怒ってる? ていうか、そこまでくっつかれると俺の下半身が反応しちゃうんだけど……。
あの、ヤバい。俺全然こんなつもりじゃなかったのに……。
そんな俺の気も知らずに、卯月は俺の方に身を委ねた。俺の胸に頭を置き、ホッと一息つく。
「……えへへ、皐月くんも心臓ドキドキ言ってるね……」
「お、おう。まぁな……」
「自分から言ってきたくせにドキドキしてるんだ……。……可愛い」
っ、だ、ダメだ! なんか分からないけど怖い!
ザバァッと無理矢理立ち上がり、慌ててバスルームを出た。ちゃっちゃと着替えて布団を敷いた。今日は卯月は泊まっていくそうだ。
晩飯も済ませたし歯磨きもしたし風呂も入ったし……もう大丈夫だな! さて、寝よう!
そう決めて布団の上で寝転がろうと座り込んだ時だ。バスルームの扉が開いた。卯月が戻って来たようだ。
「……あ、卯月。もう寝よ……」
直後、卯月が俺の背中に抱きついて、俺をそのまま横に倒した。
「うっ、卯月⁉︎」
「……皐月くんのバカ」
「えっ、な、何……?」
「……あのね、女の子は…男の子の倍は性欲強いんだから……」
「は?」
「……皐月くんが誘ったんだから、責任とってよ」
え、ちょっ……嘘だよね卯月? 君はそんな子じゃないでしょ。君はもっとこう……顔を真っ赤にして狼狽えるタイプでしょ? それがなんでそんなグイグイ男勝りに俺初体験の時くらいは自分から行こうと思ってたのにあっ、ちょっ、待っ……。
このあと、メチャクチャ搾り取られた。
終わってから山田くんのこと忘れてました。というより、こんな馬鹿達の馬鹿なデート見たら邪魔する気なんて失せるだろ。邪魔するタイミング一切わからなかったわ。