メイド喫茶で働いた翌日、卯月は事務所に来ていた。本来はオフなのだが、こうして休みの日も一人でレッスンしている。
そんな卯月の元に、奈緒が顔を出した。
「卯月、今日もレッスンしてるのか?」
「あっ、奈緒ちゃん!お疲れ様です!」
ちなみに、奈緒も今日はオフなのだが、何となく卯月がいる気がして顔を出しに来た。と、言うのも別に百合展開とかそういうのではなく、昨日の男について聞きたかったからだ。
「お疲れ様は卯月の方だろ。昨日、プロデューサーさんに今日は休めって言われてたのに」
「そ、そうですね。プロデューサーさんには内緒にしておいてください」
「じゃあ、今日はもう休んであたしと少し表に出ないか?」
「へ?」
「そしたら、内緒にしてあげる」
「分かりました」
明るく微笑み「汗を流して来ますね」と卯月はシャワーを浴びに行った。
シャワーを終えてから、二人でとりあえずスタバに入った。好みの飲み物を注文し、席に座った。
「で、あの男は誰なんだよ」
早速、奈緒は聞いた。その質問に、卯月はきょとんと首を捻った。
「あの男?」
「惚けるなよ。昨日、メイド喫茶にきてた奴だ」
「ああ、皐月くんの事ですか?」
「皐月って言うのか?」
「はい。少し前にお友達になったんです」
そう言われ、奈緒は眉をひそめた。
「………それだけ?」
「はい!」
「わざわざメイド喫茶に呼んだ男が?」
「はい!初めての男の子のお友達でしたので!」
「………なーんだ、てっきり恋人か何かかと思った」
「さ、流石にそれはないですよー。知り合ったのは、この前のコンビニ一日店長の時ですよ?」
「え、その時から仲良くなったのか?」
「はい。とても良い人なんです。私のこと、とてもよく面倒見てくれて」
「ふーん………まぁ、そうだろうな」
自分もガンプラを譲られたことを思い出し、何となく納得する奈緒。
そんな奈緒に、今度は卯月の方から聞いた。
「というか、むしろ奈緒ちゃんこそ皐月くんとお知り合いだったんですか?」
「えっ?あ、あー……まぁな。知り合いというか、名前も知らないし少し話したくらいの仲なんだが………」
「………とてもそうは見えなかったんですけど」
「ほんとだって。ヨド○シのガンプラコーナーで、買おうと思ってたバスターのプラモを取ろうとしたら、同じタイミングで手を伸ばしててさ。なんかいきなり『どうぞ、俺ただ見たかっただけなんで』とか超欲しそうな目で言いながら去って行ったんだよ」
「………でも、昨日お店で会った時に大声上げてましたよね?」
「それは、その……いつかお礼言わなきゃなーって思ってたけど、もう会う事も無いだろうし、どうしようかなーって悩んでる時に突然目の前に現れたもんだから………」
「それで、お礼は言えたんですか?」
「………言えてない」
その返事に、卯月は明るく微笑みながら言った。
「よし、じゃあお礼を言いましょうか」
「えっ」
「皐月くんに連絡を取ってみますね」
「ま、待てよ!いいよ別に今更!」
「いえ、お礼を言いたいなら言った方が良いですよ。私もお付き合いしますから!」
「い、良いってほんとに。そこまで気にしてないから」
「でも、そういうお礼はしっかりとするべきだと思いますよ」
そう言われて、奈緒は少し狼狽えた。どうしたものか悩んだが、卯月の真剣な目には逆らえなかった。
「………わかったよ、また今度な」
「はい。じゃあ、今から……」
「いや、今からは無理だろ!向こうの都合もあるし」
奈緒にそう言われて「確かに」と卯月は顎に手を当てた。
「じゃあ、今度皐月くんの予定を確認してみますね」
「そ、そこまでしなくても良いんだけどな………」
若干呆れつつも、奈緒は話題を逸らす事にした。
「ていうか、卯月はなんでそんなにそいつに懐いてるんだ?」
「へ?懐いてるように見えますか?」
「見えるよ。大体、出会ったばかりの男を下の名前で呼ぶって………」
「変、ですか?」
「いや、なんつーか………何でもない。とにかく懐いてるように見えるって事だ」
説明しても分からなさそうなので省いた。すると、卯月はきょとんと首を捻った。
「そう、でしょうか………?」
「ああ。あたしにはそう見えたけどな」
「まぁ、さっきも言いましたけど、初めての男の子のお友達ですからね。それに、面倒見が良いところがとてもプロデューサーさんに似てるので」
「そうなのか?」
「はい。仕事が終わって、プロデューサーさん達の到着が遅れるってなった時に、私の事を駅まで送ってくれたんですよ」
「…………」
とても嬉しそうに語る卯月を見ながら、奈緒は心の中で「惚気んなよどいつもこいつも」と思った。
「………卯月はその人の事好きなのか?」
「はい、好きですよ?」
「マジでか!あっさり認めたな!」
「へっ?い、いけませんか………?」
「い、いや別にいけなくはないが………」
自分で聞いといて顔を赤くする奈緒だった。そんな奈緒に、卯月は小首を捻って聞いた。
「奈緒ちゃんだって、加蓮ちゃんや凛ちゃんの事好きですよね?」
「あ、ああ……そういう………」
今度は勝手に落胆し始めた奈緒に、キョトンとした様子で再度質問した。
「えっ、どんな意味で聞いてたんですか?」
「っ、そ、それは………!」
純真に聞かれて、ドキッとする奈緒。目を逸らしながら、若干モジモジと体をよじらせつつ、ボソボソと呟くように小声で言った。
「……こ、恋人にしたい、とか…………」
「恋人、ですか?」
「そ、そうだよ!ていうか、男女間の好きって言ったら普通そうだろ!」
「うーん……私にはまだ恋愛とかはよくわからないので」
「そ、そうか………」
ニコニコ微笑みながら言われて尚更、奈緒は恥ずかしくなり、誤魔化すように話題を変えた。
「いや、最近は凛がなんか男と仲良くゲーム実況までしてるらしくてさー。どう聞いても友達同士の距離感じゃないから、卯月もそうなのかなって思って」
「ああ、この前話してた奴ですね。お泊まりまでしてたみたいで、凛ちゃんも恋愛するんだなぁと思いました」
「そりゃ、あたし達だってJKだからな………。だから、卯月もしそうだなーと思って」
「でも、私は皐月くんと会ったのはまだ数十回くらいですから」
「………えっ?そんなに会ってるのか?」
「え?はい。私、たまに皐月くんがバイトしてるコンビニに行くんです」
「わざわざ?」
「はい。あと、毎日電話もするんです。お友達と電話で話すと、つい話し込んで長電話になっちゃいますよねー」
卯月のそのセリフに「あれ、やっぱりどっちだ………?」と奈緒は眉をひそめた。
そんな話をしてると、ヴヴッと卯月のスマホが震えた。
「あ、皐月くんからです」
「え、向こうからも連絡来たりするのか?」
「いえ、珍しいです。基本的に私からいつも連絡とかするので」
「………ほんとに卯月はそいつのこと好きじゃないのか?」
「だから好きですよ?」
「や、だからそういうことじゃなくて………いや、もういいや」
奈緒が諦めたのを無視して、L○NEの画面を開いた。皐月からのL○NEにはビルドストライクのガンプラの写真とメッセージが送られて来ていた。
『 皐月 から写真が送信されました。』
皐月『完成したガンプラ』
皐月『昨日、出来たら言ってって言ってたから』
そういえば、長電話の時にガンプラの話になり、そんな事を言った事を思い出していた。奈緒も隣から画面を覗き込む。素組みで塗装も墨入れだけだが、それなりに綺麗に作られているビルドストライクを見て、奈緒は小さく声を漏らした。
「おお……すごいな………」
「そうですね………。皐月くん、器用ですね………」
「いや、やる人はもっとすごいんだけどな。それどうやってんの?って気になるレベルでプラモ作る人もいるし」
「そうなんですか?」
「ああ。まぁ、皐月のプラモもすごいけどな。パーツの合わせ目処理とかゲート跡処理とか完璧だし」
「へぇ〜……私にはよく分からないですけど………」
「作ってみればわかるよ。まぁ、卯月はそういうの興味ないか」
「そうですね、ガンダムのロボットもガンダムとザクしか知りませんし」
「ロボットじゃなくてモビルスーツな」
「へ?は、はい?」
ガノタの拘りを軽く流しつつ、卯月は返信した。
島村卯月『すごくカッコ良いですね!』
古川皐月『そ、そう?まぁ、そうだな』
「返信早っ」
4秒もしないうちに帰ってきて、奈緒は軽く引いた。
島村卯月『他にも皐月くんってガンプラ作ってるんですか?』
古川皐月『ま、まぁ一応』
島村卯月『今度見に行っても良いですか?」
「えっ」
今度は声を漏らした。
「お、おい卯月。行くって、男の家に行くのか?」
「? ダメですか?」
「いや、ダメっつーか………いやダメだろ」
「でも、凛ちゃんもお相手の方の家に行って遊んでるそうですし、大丈夫ですよ」
「い、いや凛の相手は多分だけど、かなり特殊なだけでだな!とにかく男と二人で一つ屋根の下なんかダメだからな⁉︎」
奈緒が説得してると、返信が来た。
古川皐月『えっ』
古川皐月『それうちに来るって事ですか?』
島村卯月『そうですよ?』
「おい、勝手に返信するなよ!」
「何でですか。皐月くんはそんな人じゃありません」
「そんな人って………」
ガンプラに興味津々な卯月を見て、奈緒はどうしたものか腕を組んで考え込んだ。
すると、卯月が「あ、そうだ」と声を漏らした。
「じゃあ、奈緒ちゃんも一緒に行きましょうよ!」
「えっ」
「ほら、今度皐月くんにお礼も言わなきゃですし、ちょうど良いじゃないですか」
な、なんでそうなるんだ………⁉︎と狼狽える奈緒を他所に、卯月は返信し始めた。
奈緒がテンパっている間に、卯月と皐月の爆速のL○NEのやり取りによって、いつのまにか行く事が確定になってしまい、奈緒は小さくため息をついた。