島村さんならどんな捻くれ者も浄化できる。   作:バナハロ

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事務所では(1)

 メイド喫茶で働いた翌日、卯月は事務所に来ていた。本来はオフなのだが、こうして休みの日も一人でレッスンしている。

 そんな卯月の元に、奈緒が顔を出した。

 

「卯月、今日もレッスンしてるのか?」

「あっ、奈緒ちゃん!お疲れ様です!」

 

 ちなみに、奈緒も今日はオフなのだが、何となく卯月がいる気がして顔を出しに来た。と、言うのも別に百合展開とかそういうのではなく、昨日の男について聞きたかったからだ。

 

「お疲れ様は卯月の方だろ。昨日、プロデューサーさんに今日は休めって言われてたのに」

「そ、そうですね。プロデューサーさんには内緒にしておいてください」

「じゃあ、今日はもう休んであたしと少し表に出ないか?」

「へ?」

「そしたら、内緒にしてあげる」

「分かりました」

 

 明るく微笑み「汗を流して来ますね」と卯月はシャワーを浴びに行った。

 シャワーを終えてから、二人でとりあえずスタバに入った。好みの飲み物を注文し、席に座った。

 

「で、あの男は誰なんだよ」

 

 早速、奈緒は聞いた。その質問に、卯月はきょとんと首を捻った。

 

「あの男?」

「惚けるなよ。昨日、メイド喫茶にきてた奴だ」

「ああ、皐月くんの事ですか?」

「皐月って言うのか?」

「はい。少し前にお友達になったんです」

 

 そう言われ、奈緒は眉をひそめた。

 

「………それだけ?」

「はい!」

「わざわざメイド喫茶に呼んだ男が?」

「はい!初めての男の子のお友達でしたので!」

「………なーんだ、てっきり恋人か何かかと思った」

「さ、流石にそれはないですよー。知り合ったのは、この前のコンビニ一日店長の時ですよ?」

「え、その時から仲良くなったのか?」

「はい。とても良い人なんです。私のこと、とてもよく面倒見てくれて」

「ふーん………まぁ、そうだろうな」

 

 自分もガンプラを譲られたことを思い出し、何となく納得する奈緒。

 そんな奈緒に、今度は卯月の方から聞いた。

 

「というか、むしろ奈緒ちゃんこそ皐月くんとお知り合いだったんですか?」

「えっ?あ、あー……まぁな。知り合いというか、名前も知らないし少し話したくらいの仲なんだが………」

「………とてもそうは見えなかったんですけど」

「ほんとだって。ヨド○シのガンプラコーナーで、買おうと思ってたバスターのプラモを取ろうとしたら、同じタイミングで手を伸ばしててさ。なんかいきなり『どうぞ、俺ただ見たかっただけなんで』とか超欲しそうな目で言いながら去って行ったんだよ」

「………でも、昨日お店で会った時に大声上げてましたよね?」

「それは、その……いつかお礼言わなきゃなーって思ってたけど、もう会う事も無いだろうし、どうしようかなーって悩んでる時に突然目の前に現れたもんだから………」

「それで、お礼は言えたんですか?」

「………言えてない」

 

 その返事に、卯月は明るく微笑みながら言った。

 

「よし、じゃあお礼を言いましょうか」

「えっ」

「皐月くんに連絡を取ってみますね」

「ま、待てよ!いいよ別に今更!」

「いえ、お礼を言いたいなら言った方が良いですよ。私もお付き合いしますから!」

「い、良いってほんとに。そこまで気にしてないから」

「でも、そういうお礼はしっかりとするべきだと思いますよ」

 

 そう言われて、奈緒は少し狼狽えた。どうしたものか悩んだが、卯月の真剣な目には逆らえなかった。

 

「………わかったよ、また今度な」

「はい。じゃあ、今から……」

「いや、今からは無理だろ!向こうの都合もあるし」

 

 奈緒にそう言われて「確かに」と卯月は顎に手を当てた。

 

「じゃあ、今度皐月くんの予定を確認してみますね」

「そ、そこまでしなくても良いんだけどな………」

 

 若干呆れつつも、奈緒は話題を逸らす事にした。

 

「ていうか、卯月はなんでそんなにそいつに懐いてるんだ?」

「へ?懐いてるように見えますか?」

「見えるよ。大体、出会ったばかりの男を下の名前で呼ぶって………」

「変、ですか?」

「いや、なんつーか………何でもない。とにかく懐いてるように見えるって事だ」

 

 説明しても分からなさそうなので省いた。すると、卯月はきょとんと首を捻った。

 

「そう、でしょうか………?」

「ああ。あたしにはそう見えたけどな」

「まぁ、さっきも言いましたけど、初めての男の子のお友達ですからね。それに、面倒見が良いところがとてもプロデューサーさんに似てるので」

「そうなのか?」

「はい。仕事が終わって、プロデューサーさん達の到着が遅れるってなった時に、私の事を駅まで送ってくれたんですよ」

「…………」

 

 とても嬉しそうに語る卯月を見ながら、奈緒は心の中で「惚気んなよどいつもこいつも」と思った。

 

「………卯月はその人の事好きなのか?」

「はい、好きですよ?」

「マジでか!あっさり認めたな!」

「へっ?い、いけませんか………?」

「い、いや別にいけなくはないが………」

 

 自分で聞いといて顔を赤くする奈緒だった。そんな奈緒に、卯月は小首を捻って聞いた。

 

「奈緒ちゃんだって、加蓮ちゃんや凛ちゃんの事好きですよね?」

「あ、ああ……そういう………」

 

 今度は勝手に落胆し始めた奈緒に、キョトンとした様子で再度質問した。

 

「えっ、どんな意味で聞いてたんですか?」

「っ、そ、それは………!」

 

 純真に聞かれて、ドキッとする奈緒。目を逸らしながら、若干モジモジと体をよじらせつつ、ボソボソと呟くように小声で言った。

 

「……こ、恋人にしたい、とか…………」

「恋人、ですか?」

「そ、そうだよ!ていうか、男女間の好きって言ったら普通そうだろ!」

「うーん……私にはまだ恋愛とかはよくわからないので」

「そ、そうか………」

 

 ニコニコ微笑みながら言われて尚更、奈緒は恥ずかしくなり、誤魔化すように話題を変えた。

 

「いや、最近は凛がなんか男と仲良くゲーム実況までしてるらしくてさー。どう聞いても友達同士の距離感じゃないから、卯月もそうなのかなって思って」

「ああ、この前話してた奴ですね。お泊まりまでしてたみたいで、凛ちゃんも恋愛するんだなぁと思いました」

「そりゃ、あたし達だってJKだからな………。だから、卯月もしそうだなーと思って」

「でも、私は皐月くんと会ったのはまだ数十回くらいですから」

「………えっ?そんなに会ってるのか?」

「え?はい。私、たまに皐月くんがバイトしてるコンビニに行くんです」

「わざわざ?」

「はい。あと、毎日電話もするんです。お友達と電話で話すと、つい話し込んで長電話になっちゃいますよねー」

 

 卯月のそのセリフに「あれ、やっぱりどっちだ………?」と奈緒は眉をひそめた。

 そんな話をしてると、ヴヴッと卯月のスマホが震えた。

 

「あ、皐月くんからです」

「え、向こうからも連絡来たりするのか?」

「いえ、珍しいです。基本的に私からいつも連絡とかするので」

「………ほんとに卯月はそいつのこと好きじゃないのか?」

「だから好きですよ?」

「や、だからそういうことじゃなくて………いや、もういいや」

 

 奈緒が諦めたのを無視して、L○NEの画面を開いた。皐月からのL○NEにはビルドストライクのガンプラの写真とメッセージが送られて来ていた。

 

『 皐月 から写真が送信されました。』

 皐月『完成したガンプラ』

 皐月『昨日、出来たら言ってって言ってたから』

 

 そういえば、長電話の時にガンプラの話になり、そんな事を言った事を思い出していた。奈緒も隣から画面を覗き込む。素組みで塗装も墨入れだけだが、それなりに綺麗に作られているビルドストライクを見て、奈緒は小さく声を漏らした。

 

「おお……すごいな………」

「そうですね………。皐月くん、器用ですね………」

「いや、やる人はもっとすごいんだけどな。それどうやってんの?って気になるレベルでプラモ作る人もいるし」

「そうなんですか?」

「ああ。まぁ、皐月のプラモもすごいけどな。パーツの合わせ目処理とかゲート跡処理とか完璧だし」

「へぇ〜……私にはよく分からないですけど………」

「作ってみればわかるよ。まぁ、卯月はそういうの興味ないか」

「そうですね、ガンダムのロボットもガンダムとザクしか知りませんし」

「ロボットじゃなくてモビルスーツな」

「へ?は、はい?」

 

 ガノタの拘りを軽く流しつつ、卯月は返信した。

 

 島村卯月『すごくカッコ良いですね!』

 古川皐月『そ、そう?まぁ、そうだな』

 

「返信早っ」

 

 4秒もしないうちに帰ってきて、奈緒は軽く引いた。

 

 島村卯月『他にも皐月くんってガンプラ作ってるんですか?』

 古川皐月『ま、まぁ一応』

 島村卯月『今度見に行っても良いですか?」

 

「えっ」

 

 今度は声を漏らした。

 

「お、おい卯月。行くって、男の家に行くのか?」

「? ダメですか?」

「いや、ダメっつーか………いやダメだろ」

「でも、凛ちゃんもお相手の方の家に行って遊んでるそうですし、大丈夫ですよ」

「い、いや凛の相手は多分だけど、かなり特殊なだけでだな!とにかく男と二人で一つ屋根の下なんかダメだからな⁉︎」

 

 奈緒が説得してると、返信が来た。

 

 古川皐月『えっ』

 古川皐月『それうちに来るって事ですか?』

 島村卯月『そうですよ?』

 

「おい、勝手に返信するなよ!」

「何でですか。皐月くんはそんな人じゃありません」

「そんな人って………」

 

 ガンプラに興味津々な卯月を見て、奈緒はどうしたものか腕を組んで考え込んだ。

 すると、卯月が「あ、そうだ」と声を漏らした。

 

「じゃあ、奈緒ちゃんも一緒に行きましょうよ!」

「えっ」

「ほら、今度皐月くんにお礼も言わなきゃですし、ちょうど良いじゃないですか」

 

 な、なんでそうなるんだ………⁉︎と狼狽える奈緒を他所に、卯月は返信し始めた。

 奈緒がテンパっている間に、卯月と皐月の爆速のL○NEのやり取りによって、いつのまにか行く事が確定になってしまい、奈緒は小さくため息をついた。

 

 

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