人懐っこい女の子ほど男を勘違いさせる。
さて、一体全体どうしてこんなことになったのか。考えれば考えるほどわからない。ホントなんでこんな事になってんの?神様って奴はふざけてんのか?
いや、ここでいくら愚痴っても仕方ないので、一文で状況を説明しよう。
うちに、島村さんが来ている。
事の発端は一週間前だった。神谷奈緒を連れて島村さんがうちのバイト先に来た。なんか突然、この前バスターを譲ったお礼とか言ってお礼言われた。そのついでに俺のガンプラを見たいとか言って、うちに来て飾ってあるプラモを見学して行った。二人ともバカみたいに目を輝かせてたっけ。
その結果、島村さんがプラモにハマった。なんでだろう。そこが分からないんだ。ハマる要素あったか?
で、現在。プラモを買った島村さんがうちに来ている。
「作りましょう!皐月くん!」
「えっなんでうちに来るの?」
「教えてもらおうと思って」
「……………」
いや、教えてもらうも何も説明してくれる書があるじゃん。俺が教える事なんてあるのか?
「ダメ、かな?」
「いや、ダメ、では……ない、けど………」
前の時は女子2人いたから良かった。だってハーレムなんて現実じゃ絶対ありえないもの。
だが、マンツーマンで部屋の中にいると、こう……変に意識してしまう。それも一つ屋根の下で、だ。
「じゃあ、お邪魔するね」
元気にうちの中に上り込む島村さん。うーん、流石アイドルなだけあって可愛い。でもさ、もう少し異性の部屋を意識しようぜ。
ドギマギにしながら、とりあえず台所に来てお茶を淹れた。
「どうぞ」
「わっ、ありがとう」
お茶を置くと、お礼を言いながら口を付ける島村さん。で、手に持ってるビニール袋から買って来たプラモの箱を出した。
出て来たのはルナマリアのガナザクのプラモだった。
「………えっ、なんでこれ?」
「ピンクのガンダムもいるんだね。可愛くて、私この子大好きになっちゃった」
ガンダムじゃないんだけどな、なんて言っても、ガンダム好き以外でモビルスーツの違いなんて分からないだろうし、不粋なことは言わないでおく。
「まぁ、乗ってる人も可愛いからね」
「? そうなの?」
見てないのかよ………。側面に描いてあるじゃん。まぁ、俺はルナよりメイリンのが好きだがな。
「で、ニッパーとかヤスリは買ったのか?」
「にっぱー………?」
おい、今のお婆ちゃん発音だったぞ。ニッパー知らないってマジかよ。最近の女子高生はプラモとか作らんのか。………作らないよね。
「買ってないってことね………」
「う、ご、ごめんなさい………」
「いやいや、別に怒ってないから。俺のニッパー貸すから、今日はそれで作ろう」
「はい」
素直な返事とともに、ガンプラの箱を開けた。俺は種死は別に好きでもなんでもないから、種死のプラモは作った事ないけど、やっぱルナザクのパーツはどれも赤いわ。
「じゃあ、まずは説明書開こうか」
「はい、先生!」
「先生はやめて」
そんな大層なこと教えるわけでもないし。何よりそういうの照れ臭いです。
×××
で、まぁ手取り足取り教えた。ニッパーの使い方から始まり、やすり、二度切り、パーツの合わせ目などなど。だが、島村さんは決して器用というわけではなかった。
例えばポリキャップ、予備の分を全部台無しにした。
例えば右肩、左腕が付いてた。
例えば盾に生えてるツノ、一本接着剤でついてる。
まぁ、そういうわけでゲート跡とかは初心者にしては上手く処理してあるが、割とグダグダなガナザクになった。
だが、それでも島村さんにとっては初めての作品だ。完成させたのがよほど嬉しいようで、ニコニコしながらガナザクを眺めていた。いや、多分ニヤニヤしてるんだろうけど、島村さんがニヤニヤしてると擬音がニコニコに感じるのがほんと不思議。
「ふふふっ、ロボットもこれくらいのサイズだと可愛いね」
「右手にM1500オルトロス高エネルギー長射程ビーム砲なんていう物騒なもん持ってるけどな」
「そ、そんなに長い名前の武器なんだね……」
「まぁ、ルナザクと言ったらその武器が一番似合うから。逆に物語で他の武器使ってたっけ?って感じだから」
インパルスに乗ったらルナマリア超強かったなぁ。いや、ていうかルナマリアに無双されるデストロイ軍団がゴミだっただけか。
「物語、かぁ………」
島村さんが意味深に呟いた。おい待て、まさかとは思うけど………。
「ガンダムって面白いの?」
そっちにも興味を持ったかぁー………。俺は額に手を当ててため息をついた。
さて、どうしようかな。面白い、というのは簡単だが、それでもし島村さんがガノタになってしまったら………。考えるだけでも恐ろしい。神谷奈緒なら速攻で俺の仕業だと気付くし、そうなったらアイドル全体に嫌われる羽目になる。
だが、ガノタである俺の口から「つまらない」と言うことは出来ない。ほんと、どうしたものか………。
「皐月くん?」
や、待てよ?そもそも、島村さんはなんでガンプラにハマった?俺の作品を見たから、というのもあるかもしれないが、それだけじゃ女子がガンプラにハマる理由にはならんだろ。
もっと、こう………他に理由があったと考えてみよう。例えば、ビルドファイターズみたくガンプラアイドルみたいなのに選ばれた、とか。だとしたら、島村さんがこうしてガンプラに興味持ってることも頷ける。基本的にどんな仕事でも全力全開だからなぁ。メイド喫茶ですらノリノリだったし。
いや、まぁ何事も決めつけは良くないか。一応、聞いてみよう。
「あの、島村さん」
「? なんですか?」
「もしかして、仕事でプラモ関係のものがあったりすんの?」
「ないよ?」
1発で俺の考えていたことは吹っ飛んだ。
「え、じゃあなんでガンダムに興味を?」
「皐月くんが好きなものだから私も知りたいなって思ったからだよ」
「…………」
え、この子何?なんでこんな恥ずかしいことをストレートに伝えて来るの?天性のキャバ嬢なの?
「そ、そうか……」
「はい、そうです。それで、ガンダムって面白いんですか?」
「………まぁ、俺は大好きですけど」
「!じゃあ、私も見たいです」
「あーでも、見るならガナザクが出て来る奴のが良いですよね?」
「ガナ……?」
「ガナーザクウォーリア」
「あっ、は、はい。この子が出るのが良いです」
さっきから気になってたけど、モビルスーツを「この子」と呼ぶ女子高生は多分、君だけだよ。
しかし、ガナザクが出る作品となるとSEED Destinyなんだよなぁ……。俺は別に好きでも嫌いでもないが、種死とか言われてる作品だしなぁ。
「でもガナザクが出るのって続編だから、その前に1シリーズ見る必要があるけど」
「面白いのなら大丈夫だよ」
………まぁ、本人がそう言うなら良いか。教えちゃおう。
「ガンダムSEEDだよ。50話あるから見るの大変だと思うけど」
「がんだむしーど、だね。わかった!」
発音がおぼつかないどころの騒ぎじゃなかったんだが。本当に分かったんだろうな。
「あの、長いから本当オススメはしないけど」
「うーん……じゃあ、皐月くんも一緒に見ようよ!」
「えっ」
「予定のない日があったら皐月くんの家に来るね!」
えっ、何その家デートみたいな奴。いや、考え過ぎるな。島村さんはガンダムを見たいってだけだ。変な意識するとどん引きされるかもしんないし、なんかキモいよなぁ………。
「分かったよ………」
「じゃあ、早速今から見ようよ!」
「えっ、い、今から………?」
「うん、TU○AYA行こうよ!」
「…………」
俺に、この溌剌とした笑顔を浮かべてる島村さんのお願いを断る術は無かった。
二人で家を出て、近くのTU○AYAに向かった。元気良く前を歩く島村さんと、その後ろをのんびりと歩く俺。まるで妹と出掛けてる気分だ。
すると、前を歩いてる島村さんが振り返って俺に大きく手を振った。
「皐月くん!早くー!」
その早く、というのはどういう意味なんだろうか。隣に来いって事?だとしたら、女の人と二人で外を歩くと照れ臭いので隣を歩けません。まぁ、そんな心配は杞憂だろうけど。
「焦らなくてもTU○AYAは逃げないから………」
「そうじゃなくて、せっかく一緒に出かけてるんだから隣を歩こうよ!」
「…………」
この子は本当に………。なんかお世話になってる人へのプレゼントに肩たたき券とかプレゼントしそうなくらいピュアな人だな………。
しかし、マジで女の子の隣を歩くのはちょっと俺にはハードル高いんだけど………。いや、一つ屋根の下で一緒に遊んでる時点で今更何言ってんの?って思うかもしれないけど、人目の付かない場所なら二人しかいないから照れるも何もないんだよ。人目がつくからこそ照れ臭いというか………。
男らしさなどカケラもなくウダウダと悩んでると、いつのまにか島村さんが目の前に来て俺の腕を握っていた。
「っ⁉︎」
「ほら、早く行こう!」
「いやあのちょっとぉ⁉︎」
人懐っこいにもほどがあるだろこの人!
俺の腕を引っ張って歩き、俺も一緒に歩くというより引き摺られてる気分で後に続いた。
×××
SEEDの1巻だけ見終わった。まぁ、時間も時間だから4話見るのが限界だし、仕方ないと思う。
で、最初の4話しか見てないというのに島村さんと言えば………。
「わぁー!すごい、次どうなっちゃうんだろうね⁉︎」
「いや俺は知ってるけど………」
「あ、そ、そうだよね。にしても楽しみだなぁ。次はいつ見れる?」
「いや、続きが気になるなら自分で見ても良いよ別に。俺は全部知ってるから」
「ダメだよ。せっかくだから一緒に見ようよ」
………続きが気になるんじゃないんかい。まぁ、もうなんでも良いや。
「来週の土曜なら空いてるよ」
「じゃあ、次は来週の土曜日だね!」
明るく元気にそう言うと、島村さんはDVDを抜いてケースにしまった。
「じゃあ、今日は帰るね」
「駅まで送るよ」
「ほんと?じゃ、一緒に行こう!」
「おお」
二人で家を出た。
この時の俺は知らなかった。まさか、俺の軽率な行動が、すでに島村さんをガンオタへの道へ誘い込んでるという事に。