学校が終わり、図書館に向かった。まぁ期末試験の勉強をする約束を島村さんとしたので、早速という感じだ。
しかし、まぁなんでも良いんだけど、島村さんって教えられるほど英語出来んのか?いや、教わる立場で偉そうに言うのもどうかと思うが、あの人そんなに頭良さそうに見えねーんだよなぁ。超純粋だし。
その点、俺は英語以外なら何でも教えられる自信がある。要領と運だけは無駄に良いから、何となくテストに出そうな場所を山張れば大体当たる。いや、要領良いのに文系理系どちらにも出て来る英語ができないのはどうかと思うが。
しかし、思えば誰かと一緒に勉強するのは初めてだ。今までは家で一人で勉強してたから、何と無く新鮮な気分だ。まぁ、やる事はいつもと同じなんですけどね。ウフフなイベントがあるなんて期待はするな。
図書館に到着し、中を見回した。島村さんの姿は見えないため、先に勉強を始める事にした。鞄から教科書を取り出して、とりあえず数学から始めた。
ノートを開いて、耳にイヤホンをぶち込んで、音楽を聴きながら片っ端から問題を解く。しかし、数学って解けば解くほど思うけど、絶対に考えた奴は厨二病だよなぁ。なんでxなんだよ。別に記号なんて○とか△でも良いだろ。アルファベットにするにしてもxってなんだよ。容疑者かよ。
「皐月くん」
ていうか、そもそもアルファベットの「X」だけ異様だよな。名前に本気出し過ぎでしょ。日本語に直すと四文字だぞ。ああ、同じ意味では「Z」もすごいよな。いや、まぁカッコ良いけどね。
ちなみに、個人的には「K」が好きかな。ほら、なんかシンプルな割に発音の響きが良いじゃない。
「皐月くん?」
何より、Kって強そうだよね。悪性って感じも神性って感じも無くて、なんか、こう………強そう。人間の中では最強みたいなのがKだよね。XとかZはラスボスオーラ強いけど。あ、Yはラスボスっていうより最強の幹部のイメー………。
「さーつーきーくん!」
「いだだだだだ!頬取れる取れる!」
突然、頬を引っ張られた。え、何?と思ってイヤホンを外して横を見ると、島村さんがぷくっと可愛らしく頬を膨らませて立っていた。
「あ、島村さん。いつ来たの?てかなんで襲撃して来たの?」
「声掛けても無視するんだもん」
あ、声かけてたの?それは気付かなんだ。
「ご、ごめん」
「別にいいよ。それだけ集中してたんでしょ?」
ま、まぁ一応。アルファベットの厨二病性について思考しながら、数学の問題を2ページ分解いてた。
それより問題なのは、島村さんの隣にいる見覚えのある女の子だ。なんで連れて来たの?
「えっと、島村さん?隣の子は?」
「あ、はい。お友達の三村かな子ちゃんです」
「は、初めまして………」
「いやそうじゃなくて。なんで?」
なんで呼んだの?俺なんも言われてないしなんも聞いてないんですが。
「はい。実は私、人に教えられるほど勉強が出来るわけではなくて………それで、かな子ちゃんに来てもらいました!」
「あの、私も成績普通なんだけどね………」
「良いじゃないですか。かな子ちゃんも期末テスト近いんですよね?」
「それはそうだけど………」
おい、まさか成績普通って言ってる上に初対面のアイドルに英語教われって言ってるおたく?冗談だよね?
「じゃあ、勉強会始めよう!」
1人、ノリノリの島村さんがそう言い、それを聞いた俺と三村さんはため息をつくしかなかった。まぁ、純粋さは罪ではあるまい。
再びイヤホンを装着して勉強再開。また黙々と数学の問題を解き始め………ようとしたところでイヤホンが勝手に外された。隣に座ってる島村さんが不満そうに俺を睨んでいた。
「え、何?」
「なんでイヤホンするの」
「勉強するときはイヤホンするでしょ。周りの雑音消すために」
「ダメだよ。今日はわからないところ教え合うんだから」
ふむ、まぁそう言われたらそうなんだろうけど………。でもイヤホンないと集中出来ないんだよなぁ。
まぁ、別に良いか。今日は集中しての勉強はしないって事で。
「分かったよ」
「うん。じゃあ数学からやろっか!」
結局かあ。島村さんと三村さんが教科書を出して勉強し始めたので、俺も再開した。指数対数ホント楽だわ。
小さく欠伸をしながら問題を解いてると、肩を突かれた。
「?」
「あの、皐月くん。ここの問題なんだけど………」
ああ、わかんないとこね。任されよ。
「どれ?」
「この練習5………」
「ああ、それね。それは………」
………あれ、この問題ちょっと知らないなぁ。えっ、何これ分かんないんだけど。何だよ三角比って。
「………ち、ちょっとタンマ」
「? どうしたの?」
サインってなんだよ………。これ教科書読まなきゃ分からないんだけど。高校によって進める範囲が違うのか?
「………皐月くん?」
「…………」
だが、出来ないとは言えない。アレだけ出来ますアピールしといて出来ないとか笑えないでしょ。
「10分くれ」
「へ?」
「基本は全部理解するから」
「………もしかして、分からないの?」
「いや違うんだよ。俺の高校と範囲が違うんだよ。うちの高校は指数関数やってて………」
「じゃあかな子ちゃん、教えてくれませんか?」
「…………」
クリティカルヒットした、今の。ふん、まぁ良いよーだ。それなら俺も自分の勉強出来るし。
仕方ないので、目の前でお勉強会が開かれてる中、俺は問題を解き続けた。
「………だからね、つまりその問題は……」
「……なるほど。sin30°を当てはめれば」
「そゆことですよ」
………なんか、せっかく誘ってもらえたのにほっとかれて、申し訳ない気分と少し気に入らない気分になって来るんだけど。何これ、どういう感情なんだこれ。
………まさか、寂しいとか思ってる?いやいやいや、ありえないから。別に1人でいられる事に今更不安も何も無い。むしろ、島村さんとよく今まで友達といられたと思うよ。
ってか、別に島村さんに勉強を教えられなかったからって縁が切れるわけでも無いし、なんでまるでこれで終わりみたいなこと考えてんの。アホか俺は。
だー、くそ。なんだよこの感覚。まるで、こう………俺も混ぜてよ、みたいな。って、カマちょか俺は。
「そうそう、卯月ちゃん出来るじゃん」
「この説明を私の先生、とても難しく説明するんですよ」
「あーいるよね、そういう先生」
ズババババッと問題を解き続けながら、チラッと隣を見ると、島村さんと三村さんは仲良く勉強会を続けていた。
………楽しそうで良いなぁ。なんか、友達っぽい人が一人できると、その人が他の人と仲良くしてると何となく羨ましくなってしまう。こんな感覚初めてだ。
そんな事を考えながら、島村さんの向かいから勉強を教えてる三村さんを見ると、机の上に置かれている胸に目がいってしまった。
………デケェなこの人。巨乳なんてアニメの世界にしかいないもんだと思ってたが、本当にいるんだ。って、いかんいかんいかん。見るなよ、俺。そういう目線に女性は敏感だと聞くし、あまり見てるとアイドルにドン引きされるという悲惨な事になる。
「……………」
集中出来ねぇ………。くそう、やっぱ一人で勉強するべきだったか。まぁ良いか。ちょうど良いから気分転換でもして来よう。
2人の邪魔にならないよう、スクッと立ち上がって本を読みに行った。こういう図書館には必ず………ああ、あった、あ○ち充作品の総集編。
その中の一巻を持って席に戻った。2人が勉強してる中、タ○チを読み始めた。しかし、普通に面白いよなぁ、あ○ち充作品。クラスのアニオタの話に耳を傾けてると、なんかよくdisられてるけど。アレなんなんだろうな。
「コラッ」
「えっ」
読んでた漫画が手元から消えた。辺りを見回すと、隣の島村さんがまたまた頬を膨らませていた。
「えっ、何?」
「ダメだよ、皐月くん。勉強中なんだから集中しないと」
「あ、いや………」
言い訳しようとしたが、構って欲しい、或いは三村さんの胸に気を取られていた、とは言えなかった。なので、ここは素直に謝るしかない。
「………すみません」
「もう、すぐに集中力切らすんだから」
「プラモ作ってる時は5時間でも保つんだけどな」
「その集中力を勉強に活かさないとダメだよ」
「いや、それみんな言うけど無理だから。そんな簡単に集中力を応用することなんて出来ないから」
「それでもやるの!」
………なんか、母ちゃんに怒られてる気分だ。島村さんってオカン属性もあったのか?
何となく、構ってもらえたことに嬉しくなってると、三村さんが口を挟んだ。
「2人は仲良いんだね?」
ふむ、仲良いのか?まぁ、過去に俺が出会った人の中では一番仲良いけどな。
しかし、そう聞かれて肯定する人を俺は見たことが無……。
「はい。一緒にガンプラ作ったりもしてるんですよ」
平気で肯定して来たな………。ほんと、島村さんのこういう所は男を勘違いさせるのでやめて欲しい。
「へぇー、卯月ちゃん最近、ガンダムよく見てるなーって思ってたけど、古川さんの影響だったんだ………」
三村さんが苦笑いを浮かべながら俺を見た。いや、すみませんね。俺の所為でガノタにしちゃったみたいで。
「ま、まぁ俺は勧めたわけじゃ無いんだけどな。うちのガンプラを見て島村さんが勝手にハマっただけで………」
「かな子ちゃんも見れば分かりますよ!皐月くんのガンプラ、カッコ良いんですよ?」
「いや、あれ素組みに墨入れしただけだから、そこまでってもんじゃ………」
「………待った。その前に卯月ちゃん、どうやって古川くんのガンプラを見たの?」
あっ、そっちに話の流れが行っちまうか。おい待てやめろ。
「へっ?どうやってって……皐月くんの部屋でですよ?」
「部屋に、上がったの?」
「うん」
直後、三村さんの目線が変わった。まるでチャラ男を見るような目になった。どんな目だよそれは。
「………ふ、古川さんって、意外と……」
「ち、違うから!俺が誘ったわけじゃないから!島村さんの方から………!」
「そうなの?卯月ちゃん」
「……どうだったかな?」
「島村さん⁉︎しっかりしろ!神谷奈緒にお礼を言わせるとかで連れて来たのは島村さんの方だ!」
「そう言えばそうだったかも………」
おいやめろ、洗脳してる人を見る目で俺を見るのはやめろ三村さん。違うんだって、今のが真実なんだって。
「………古川さんと卯月ちゃんって、どんな関係なの?」
「お友達ですよ?」
「………本当に?」
あ、ヤバイ。これ以上この話はまずい。勉強に戻ろう。ていうか戻るべきだ。
「お、おいもうその辺にしよう。勉強しよう、勉強」
「あっ、そうだね。じゃあ、再開しようかな。皐月くん、もう漫画読んじゃダメだからね?」
「お、おう。了解」
そう言うと、何とか勉強に戻ったが、三村さんの俺に向ける怪しい人を見る視線が突き刺さったまま勉強したため、結局捗らなかった。やっぱ勉強は1人でするに限る。