お詫び申し上げます。
それでは本文をどうぞ。
11月上旬、ハロウィンが終わり世間の空気がそろそろクリスマスムードに移行しようという時、士道はいつものヘルメットを頭に被り、軍事基地に隣接されている運動場のベンチに座って、本を読みながら運動場のトラックを走っているエレンにチラチラと視線を向けていた。
エレンは運動場のトラックを二週半、約1kmを走りきるとその場に座り込む。
士道はその事を確認すると本を閉じ、近くに置いておいたスポーツドリンクを手に持って、走っていた少女に近づく。
「お疲れさん」
そう言いスポーツドリンクをエレンに渡す。
「……どうも」
着服しているスポーツウェアを汗に濡らしたエレンは渋々差し出されたスポーツドリンクを受け取る。
「一カ月間走り込んでようやく1km達成、か……」
「私にかかればその程度余裕です」
「余裕って言ってる割には汗をかいてるぞ」
「また貴方は余計な事を……気のせいですよ」
「ああ……はいはい」
エレンは誤魔化そうとするが、士道はそれに乗ってやることにした。
本当は一カ月間トレーニングをしてやっと1km走れるようになったのは悪い意味でおかしい事を言ってやりたかったが、士道はエレンにそんな事を言っても無駄な事を既に理解していた。
◇◇◇
何故エレンと士道がこんなことをしているのか。
それは今から一カ月前に、
『あんたここで訓練したらどうだ?』
エレンにそう言ったのが発端である。
あの戦いの数日後、腕の火傷を直した士道が言った言葉だ。
エレンは最初こそ渋っていたものの士道にもやしっ子と煽られた結果、乗ってきたのだ。
最初は士道の鍛錬にエレンが付き合っていたがエレンが一時間も持たなかった為、持久走
1kmという内容になりそのまま一カ月が経ち、今に至るというわけだ。
「……全くあの戦いの後始末は大変だったぞ。地上に大穴を開けたのは、俺の目の前に居るもやしっ子なのになんで俺が始末書を書かないといけないんだ?」
「貴方が私を手こずらせるのが悪いのですよ」
「酷い言い分だな、もやしっ子」
「ッ!その呼び方はやめなさい!」
そういうとエレンは士道の胸に握った拳をぶつける。
ペチッ
可愛らしい音が聞こえてくる。
CR-ユニットを使っていたらその拳は砲弾のような威力になっていただろう。
だがエレンの身体能力は、見てるこっちが悲しくなるぐらい弱々しい。
「……お前そんなんでよく
「……うう」
エレンはぐうの音も出ないような様子だ。
「いいか?本物の正拳突きはこうだ!」
士道は同じく拳を握り、それを前に出す。
動作はエレンと同じだが、拳の速さが桁違いだ。
士道の正拳突きはエレンの顔に当たる直前で止まる。
拳圧でエレンの長髪が揺れた事を見ると、その威力は想像に難くない。
「………………」
「もし当ててたら頭がふっ飛んでたぞ」
「……今のは……」
「まあ空手のようななにかだ」
士道の言い方は間違ってはいない。
インターネットで調べた事を見よう見まねで真似しているだけだ。
毎日、何回も同じ事を続けていたら何時の間にか威力が馬鹿にならないものになっていたが。
「シドウさん!今のを教えてください!」
「はぁ?」
「今のようなパンチを私も打ってみたいのです!」
士道の正拳突きに魅せられたのだろうか、大人びた様子が一転し、まるで子供の様に教えてくれとせがんでくる。
「……ああ悪い聞いてなかった、もう一度言わなくていいぞ」
「無視した!?」
「お前がよくやってる手口だ、今回は俺が使わせてもらった」
士道は惚けたと思ったら、すぐにそのことをを認めるような発言をする。
「まあ冗談はともかく、真面目に答えると武術を修めるには時間がかかる。達人と言える腕前になるには年単位で時間が必要だ。そもそも体力のないお前が武術を学んでも大したメリットなんてないだろ。
エレンは体力がない癖してその実、世界最強の
なら
「ただ私は、あのパンチを打ちたいだけです。メリットなんてものは求めていません」
「メリットを求めろよ。やりたいってだけで技を学ぶのは馬鹿のすることだぞ」
「そ、それを言うなら貴方は何故投げナイフが出来るんですか?投げナイフなんて銃を使う現代では役に立たないでしょう!」
エレンは憤慨しているような様子で士道を指さす。
「そ、それは……えっと」
士道はエレンの視線が痛くなり、真正面に立っているエレンから目を逸らして視界をウロウロさせる。
すると士道は運動場の一番高い場所に設置されている大きな時計が目に入った。
その時計の針はこっちの時間で12時を指そうとしていた。
「あっそろそろ12時だ、昼飯でも食いに行こうぜ」
「あ、貴方ねぇ、また話を逸らそうとして―――」
「1km完走したご褒美として苺のショートケーキ奢ってやる」
その瞬間、エレンの頭から士道を問い詰める事は完全に吹き飛ばされてしまった。
「……行きましょうか」
そう言うとエレンは士道を追い越し、足早に運動場を去っていく。
どうやら今のエレンの頭の中には苺のショートケーキの事しか頭にないらしい。
「……フゥ」
士道はホッと一息つき、エレンの後を追い始めるのだった。
◇◇◇
士道はエレンとひと月一緒に訓練して幾つかわかった事があった。
一つ、意外と子供っぽい事。
二つ、苺のショートケーキをあげれば大抵の事は許してくれること。
三つ、実はバカ。
本人に言えば怒りそうだ。
特に三つ目は本人に口が裂けても言えない事だろう。
士道がそんな事を考えていると、
「ちょっと騒がしいですね」
「……確かにな」
食堂に赴くべく基地に戻ってきたエレンと士道はそう感じた。
通り道をすれ違う作業員などは忙しそうに走り回っている。
「何かあったのでしょうか」
エレンがそう思うのも無理はない。
外で遠目に見た格納庫には
何か非常事態が起きていても不思議ではない。
少なくとも
すると士道のポケットにしまってある携帯が音を出し始める。
士道はポケットから携帯を出して画面を見る。
「げっ」
そこには英語でサミュエルと表示されていた。
イギリスにおいてはよく見知った名前だ。
―――なんだまた厄介ごとか
そう思いながら携帯の通話ボタンを押して電話に出る。
「もしもし……ああ、はい」
士道は何回か言葉を交わすと電話を切った。
「エレン、状況が変わった。先に昼飯を食べててくれ」
「えっ?」
「緊急事態だ。俺はすぐ司令部に行かなくちゃならない」
士道はエレンにそう言い残して走っていく。
「……はー、SSSって案外忙しいのでしょうか……」
取り敢えずエレンは士道が言っていた通り、先に昼ご飯を食べる事にした。
トラック…運動場にある周回走路の事。
次回は某風の精霊が出てきます。