士道はサミュエル大佐に呼び出され、司令部に居た。
司令部には一般ではお目にかかれないような機材と最新設備が並べられている。
士道が司令室に入ると大佐はすぐに口を開いた。
「さて来たか。それじゃあ早速説明を……とその前に」
「「?」」
「……メイザース、何故お前がここに居る」
大佐は士道の隣に立っているエレンに厳しい視線を投げかける。
それと共に士道にも非難の視線を浴びせる。
「いえ、ただ私はシドウさんについてきただけですよ」
エレンは悪びれる様子もなく淡々と言葉を発する。
「……ならシドウ、何故お前はメイザースを連れてきた」
「私もついていきます、って聞かないので仕方なく」
「じゃあ説得しろ。現状メイザースと一番仲がいいのはお前だろう」
「いや……だって大佐が早く来いって、言うんですもん」
士道の口調が少しおかしくなる。
苦し紛れの言い訳をしているからか、もしくは別か、大佐に真意はわかりかねた。
だが今はそんな事を気にしている暇はなかった。
「……メイザース、お前には一つ言っておくことがある。シドウと訓練をするのは構わん。だが邪魔はするなよ。いくらDEMでも許さんぞ」
「わかってますよ、そんな事は。シドウさんはSSSのエースですからね」
「そうか?俺はわかってないように見えるが」
エレンと大佐がお互いを睨みあう。
だがそこで士道が話を戻すべく「ゴホンッ」と咳払いをする。
そこで争いは中断された。
「さっさと本題に入りましょうか。時間、ないんでしょう?」
「……そうだな」
「エレンも口出しすんなよ」
「………………」
エレンは腕を組み不機嫌そうな顔をする。
「無言は拝呈、ってことでいいのか?……それで精霊が出たらしいですけど」
「ああそれも飛び切り厄介な奴がな」
「二亜……シスターも十分厄介でしたよ」
士道の頭に思い浮かぶのはつい一月前まで一緒に昼飯を食べていた間柄だった二亜の事だった。
二亜の天使は今起こっていること、誰が今何をしているか、がすべて分かるというチート天使だった。
使っている張本人の二亜曰く、超々高性能検索エンジンらしい。
そんな天使を使う二亜よりも厄介な存在なぞ士道には想像も出来ない。
「確かにな。だが今回の精霊は接敵する事すら出来ん。空間震規模もAランク、シスターとは比較にならん」
「……そいつは?」
「議別名は〈ベルセルク〉、つい数十分前に北大西洋の上空に現界した。今イギリスに向かって飛んできてる」
「!」
大佐から敵の情報を聞いた士道は少なからず驚く。
精霊、議別名〈ベルセルク〉はかなり有名な
世界各地の上空に現界し、ロケットのような速さで移動する。
その為、誰も〈ベルセルク〉に追いつく事が出来ず、しかも世界中を飛び回って一般人の目に触れることもあるのだ。
写真も撮られ、UFOだの空飛ぶスパゲッティモンスターだの、その正体を巡ってちょっとした論争になっている。
おかげで精霊の存在を秘匿したい各国は大困り。
SSSやASTなどの対精霊部隊では優先目標に指定されている。
しかも〈ベルセルク〉には常に巨大な台風が付いて回り、それが破壊をもたらす。
圧倒的な速さと他を寄せ付けない台風によって今まで接敵した例は一件もない。
ふと士道の脳裏に某隻眼隻腕の剣士の事がチラついた。
新刊はよ。
「何故俺を呼んだんですか。幾ら俺でもマッハで空を飛ぶことは出来ませんよ」
「……うむ……そうだろうな。でも安心しろ。策はある」
あんた俺がマッハで空飛べると思ってただろ!
口から出そうになる言葉を何とか呑み込む。
「んふふふっ」
「………………」
エレンは手を口に当てて笑いを堪えている。
どうやら、マッハで空を飛ぶ、についての会話に笑ってしまったようだった。
だがその笑いは完全に漏れており、堪えている意味はなかった。
笑われた士道はエレンをぶん殴りたくなった。
「何か方法があるんですか?」
「ああ、まあ口で説明するより実際に見てもらった方が早いな」
そう言うと大佐は司令室の出口に向かって足早に歩き出す。
「早く行くぞ。今のペースだと〈ベルセルク〉がイギリスの領空に侵入するまで……」
大佐は言葉を区切り、時計を見て再び話しだした。
「……あと45分しかない計算だ」
「わかりました」
何処に行くかを聞いている余裕はなさそうだ。
士道は同じく足早に司令室を去っていった。
◇◇◇
司令室を出た士道は大佐とともに車に乗り10分程で目的地に着いた。
因みにエレンもついてきた。
ショートケーキでも食べとけばいいのに。
車内から出るとそこには滑走路がある。
他にもプレハブ工法で建設された格納庫が何軒も建っている。
「ここって……空軍基地じゃないですか。うちの近所にある」
「そうだ、緊急事態なんでな。急遽借りさせてもらった」
そして士道は、格納庫から出されて今は滑走路にある戦闘機に気が付いた。
大佐はその戦闘機に向かって歩いていくので、士道もそれについていく。
近づくにつれ士道はその戦闘機の正体がわかった。
「あれは……ユーロファイター?」
「見た目はな。だが中身は別物だ、こいつには金に物を言わせて作った特注のエンジンを積んでいてとにかく早い。計測上〈ベルセルク〉にもついていける」
「そんな物が……でも〈ベルセルク〉の周囲をついて回る台風はどうやって突破するんですか。あれは下手な台風よりも強力です」
「それも心配いらん。このユーロファイターにはな……
「……は?」
大佐の話を理解した士道は驚いた。
戦闘機に
その疑問に大佐は答えた。
「お前が知らないのも無理はない。何しろ今までずっと格納庫で腐ってたからな」
「腐ってた?俺が知らないってことは……俺がSSSに入る以前に作られた機体ってことですか?」
「ああ、こいつは今から大体2年前に空軍が払い下げた機体にSSSの予算をぶっこんでうちの技術部が作った、対〈ベルセルク〉戦の為の兵器だ」
案の定、SSSの技術部が作ったらしい。
相変わらず、変わったものを作るのが得意な連中である。
大佐は口端を上がらせて自慢気に説明する。
「こいつは、戦闘機型CR-ユニット、って言った方がわかりやすいかもな。その名の通り
「はぁ……各国が聞けば卒倒しそうな兵器ですね」
もうこれがあれば一国を落とせそうである。
説明してるサミュエル大佐はもう自慢を通り越して喜んでいると言ってもいいぐらい上機嫌だ。
「それでまあ作ったはいいんだが……作った後に俺たちは重大な事に気付いた。いや見落としてたと言った方がいいな」
「……一体何を見落としたんですか。こんな欠点なんて見当たらない様な兵器に……まさか」
士道はヘルメット越しに目を細めた。
ある考えが士道の頭をよぎったからだ。
「実はな……これを乗れる奴がいなかった」
「……詳しく」
士道は呆れ半分で話を聞く。
「さっき言った通りこいつには
「……なるほど、言いたいことは大体わかりました」
つまりはこれを使いこなせる人間がいないのだ。
これは戦闘機だ。
当然操縦するには戦闘機の操縦法をマスターしていなければならない。
そして
つまり
「……SSSの隊員って案外アホばっかりなのでしょうか」
「お前が言うな」
「むきゅ!」
士道はエレンの頭にチョップをいれる。
いつも通りの変な悲鳴を出したエレンはチョップされた頭を押さえながら士道に非難の視線を送る。
「……続けるぞ。シドウ、お前空軍の研修を受けてただろう。操縦法も当然わかるよな?」
精霊が現界せず仕事がない時、士道はイギリス空軍を始め特殊部隊やMI6で研修を受けていた。
特殊部隊で習った銃の取り回しや体術、MI6で教わった情報収集法などはいずれ役に立つときがくるだろう。
だが戦闘機の操縦法は例外だった。
間違いなく生涯使う事は無いと士道はそう思っていたが……
「少しカジった程度ですよ。シミュレーターで訓練しただけで実践経験はないです」
「ならこれが初めての実践経験だな。頑張れよ」
「いやでも初戦の相手が精霊っていうのはちょっと……」
「いいからやれ」
「……はい」
士道はいますぐに逃げたくなったが上司の命令なので仕方なくやることにした。
因みにエレンはそんな士道の姿を鼻で笑っていた。
さっき投げナイフの話をはぐらかした仕返しのつもりなのだろうか。
ふたたび士道はエレンを殴りたくなった。
「いや良かった。これで開発にかけた予算が無駄にならずに済む」
「ああ、だから喜んでたんですか」
「まあそういう事だ。じゃあ早速乗ってくれ。〈ベルセルク〉が領空に侵入するまであと30分しかない。」
士道は大佐の言葉を聞き終わると滑走路に置いてある戦闘機に向かって歩き始める。
だがそこで再び大佐が声を上げた。
「あとシドウ。これを受け取れ。」
「……これは?」
大佐は士道に向かって何かを投げる。
投げられた物をキャッチした士道はそれを見つめるとすぐにその正体がわかった。
「デバイス?もしかして専用のCR-ユニットですか?」
「お前が使うCR-ユニットはそこにあるだろうが。それはついひと月前、そこにいるアホの
「……あーはい、そうですか」
士道はため息を吐き、目に見えて落胆した様子を見せる。
期待していた物の下位互換が渡されたのだからそうなるのも無理はない。
「そういうな。その
「全く……それを早く言ってくださいよ。ところでその機能とは?」
「それは使ってみてからのお楽しみってことでな」
「……そうですか……チッ」
士道は顔を顰めて小さく舌打ちをする。
だがその舌打ちは大佐に聞こえていた。
「お前……まあいい、最後に作戦確認だ。戦闘機で〈ベルセルク〉の討伐、もしくは無力化だ」
「はいはい」
「………………」
少しだけ士道を睨むと大佐は離れていった。
おそらく管制塔に向かったのだろう。
士道は今度こそ大佐との会話を終わらせ、戦闘機にたどり着く。
ふと戦闘機の外装に触れる。
そこから少しの間、士道はその場に立ち尽くした。
未だにその場に居るエレンには心なしか士道の体が震えている様に見えた。
それは恐怖によるものか、武者震いか、エレンに判別は出来ない。
「あ、あの」
「?」
「……気をつけて下さい」
少し顔を赤らめてそう言うとエレンは小走りでその場を離れていった。
「………………」
士道は心なしか少し気分が軽くなった気がした。
前に残念がつくとはいえ美少女に応援されたのは悪い気分ではなかったからだ。
「さてと」
士道はさっき大佐から受け取ったデバイスを展開した。
体が光に包まれて先程まで来ていた迷彩服が消えていく。
光が収まるともはや別人になっていた。
士道の体は専用の
そして所々には青いラインがいれてありそれは蛍光灯のように光っている。
人間味を感じさせない金属と防弾繊維による機械の体はまるでSF映画に出てくる機械化兵士のようだ。
「これって……」
士道は不思議とこの
戦闘機のコックピットには正面に液晶ディスプレイが三つあり、真ん中に操縦桿、そしてボタンが所狭しと並べられている。
士道は半年ほど前に習った操縦方法を頭から引っ張り出す。
ぼんやりと思い出した事をなぞってボタンを押していく。
するとキャノピーが閉まり、エンジンが掛かる。
エンジンの音は次第に大きくなっていき、それとともについさっきまで話していた声が聞こえてきた。
『さて、シドウ。何時でも飛ばしていいぞ』
「……ではお言葉に甘えて」
戦闘機が一気に加速した。
士道は操縦桿を手前に引き、高度上げて離陸する。
戦闘機はほんの少しで空に姿を消した。
何か説明回なのに凄い長くなった。
ここでは原作の六年以上前から八舞は二人に分裂していたという事にしています。
分裂前にするか、分裂後にするか結構悩みましたけど。
耶倶矢と夕弦の勝負の回数は八舞テンペスト時には99戦。
現界する頻度を大体三カ月に一回と仮定して一回の現界ごとに数戦していたとすれば、まあ六年以上前から分裂していても違和感ないかなと。
すべて仮定の話ですけどね。
まあ仮定の話こそ二次創作の醍醐味だと思います。
因みにキャノピーと言うのはコックピットの開閉する窓のことらしいです。