デート・ア・ライブ 士道ウィザード   作:みたらし団子が好き

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何かマイペースに書いてたらこんなに遅くなっちゃいました。
すいません。

言い訳をさせてもらうと、最近は卒業式で忙しくてその上PCが起動できなくなってしまい少しの間、スマホで作業するしかなくなってしまいました。
スマホで書いたのは初めてでしたけど案の定キーボードで文字をうつ方が早いですね。

それとあらすじにのっけた通り、士道の偽名を変更しました。
何か士道以外の名前にすると紛らわしくなりそうなので。



ドックファイト

つい15分前、イギリスの大地を飛び立った士道は台風の中を戦闘機で突き進んでいた。

目的は台風の中心、つまり台風の目だ。

台風の中は非常に視界が悪い為、士道は戦闘機の液晶に映るマップを頼りに目に向かっていた。

するとヘルメットに内蔵されている通信機から声が聞こえてくる。

 

『どうだ。乗り心地は?』

「子供の職業体験でもしてる気分です」

『そりゃよかった』

 

士道が今乗っている戦闘機には顕現装置(リアライザ)が搭載されている。

大佐曰く、随意領域(テリトリー)を展開することによって、かかる重力を消す事が出来るのだ。

大佐の言葉は今の状態を如実に表していた。

 

今、士道は何も感じていなかった。

エンジンの騒音、重力によって体が引っ張られる感覚、すべてが無と化している。

実際は戦闘機に乗っておらず環境映像でも見せられているのか、とつい勘違いしてしまいそうになる。

士道はそんな今の状態に、驚きを飛び越えて気味の悪さを感じていた。

 

「隊長……10%ぐらい重力を戻してもいいですか?」

『ん?何故だ』

「何か、今から戦いに行くぜ!……って実感がわかなくて」

『そ…そうか。まあ10%ぐらいなら特に問題はないか……いいぞ許可する』

 

大佐から許可をもらった士道は頭で随意領域(テリトリー)を操作し、少しだけ重力を戻した。

すると少しだけ振動がかかる様になる。

 

『そろそろ台風の目に入るぞ。〈ベルセルク〉も見えてくるはずだ。……いいか?台風の目はどうなってるかわからん。いきなり〈ベルセルク〉と接敵と言う事もあり得る。十分に注意しろ』

「……何かここに来て一気に腹減ってきましたね。あとフラグ建てるのやめてもらっていいですか?」

『お前は何を言っているんだ』

 

エレンとの訓練が終わった後、間髪入れずに空に飛び立った士道は昼ご飯を食べていない。

お腹が空くのは当然と言えるだろう。

 

『今そんな事を言ってる場合か!それよりも目に出るぞ』

「えっ……うわっ!?」

 

大佐が言葉を言い終わった途端に視界が一気に晴れて太陽がその姿を覗かす。

暗い台風の中から急に明るい場所に出た士道は日光のまぶしさに少し目を細める。

だがまぶしいと思ったのも束の間だった。

 

「きゃ!?」

「うわっ!?」

 

次の瞬間、何かがキャノピーにぶつかってきた。

ドン、と重い衝撃音とともに女の子だと思われる悲鳴が聞こえる。

一瞬、鳥でもぶつかってきたのかと思ったがこんな嵐の中に鳥がいるとは思えないし悲鳴が聞こえた為、その可能性はないだろう。

 

「いっつ~~~~ッ!」

 

今度は何か悶絶している様な声も聞こえてくる。

士道はその意味不明な出来事に混乱しかけたが素早く思考を整理して前を向いた。

するとそこにはこれまた意味不明な光景があった。

 

『……えっ?』

 

二種類の声音が同時に出される。

コックピットに座っている士道の目の前に居るのは橙色の髪に水銀色の瞳を持つ美少女だった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

台風の中心を二人の少女が舞う。

時にそれはぶつかり大きな衝撃波を周囲にまき散らす。

一方はその身を優に超す巨大な突撃槍を右手に持ち、もう一方は先端に菱形の刃がついた鎖を左手に持っている。

 

髪を後頭部で結い上げた少女はその巨大な突撃槍を構えて槍の先端から風の塊を放出する。

それに対し、長い髪を三つ編みに括っているもう一人の少女は左手を突き出すと、ペンデュラムが高速の速さで飛んでいく。

 

一見するとそのペンデュラムは槍に比べれば貧弱なものに見えてしまうかもしれない。

だが先端の刃が槍から繰り出された風に当たるとその風の塊は解け、空気中に四散していく。

 

風を突破したペンデュラムはその勢いを止めることはなかった。

今度は槍の少女を標的に変え、突き進んでいく。

だがそれを槍の少女は空を駆ける事で難なく避ける。

 

「迂闊。避けられましたか」

「ふん。あの程度の攻撃、この我が避けられぬとでも思ったか」

 

二人の少女は一息つくように言葉を交わす。

 

「否定。あれぐらいの攻撃、耶倶矢なら避けると思っていました。それぐらい出来なければ夕弦の半身として片腹痛いです」

「くくく……そうか、それは我としても同じことだ。貴様と我と拮抗せねばならん。それでこそ我が半身に相応しいと言うものだ」

 

耶倶矢と呼ばれた槍使いの少女が何かカッコいいポーズをとりながら不敵に笑う。

それに対し、夕弦と呼ばれた少女は耶倶矢とは真逆に憂鬱そうな顔と声音だった。

二人はおそらく誰もが口を揃えて美少女と言うであろう容姿をしているが、耶倶矢と夕弦の顔はまるで姉妹のように瓜二つだった。

 

議別名〈ベルセルク〉真の名を八舞と言う。

彼女らは精霊の中でも前例がない二人組の精霊だ。

だが元から二人だったというわけではない。

 

〈ベルセルク〉も元々は一人の精霊だったが、何度も現界を繰り返す内に、何の前触れもなく二人に分かれてしまったのだ。

神の悪戯か、あるいは偶然か、原因は不明だった。

 

何故こうなったのか、大元の原因はわからないが両者とも理解している事もあった。

それは、いつかまた一つに戻るという事だ。

 

その事について、良い事かと聞かれればそうでもない。

二人に分かれた時点で本来の八舞の人格は既に消えてしまっている。

つまり再び一つに戻る時は二人の少女のどちらかが主人格にならなければならない。

そしてどちらか一方は主人格に取り込まれ、消える。

 

その二人の少女、耶倶矢と夕弦はどちらが主人格に相応しいか雌雄を決するべく戦っていた。

戦いの方法は至ってシンプルかつ最も原始的な方法だ。

即ちどっちが強いか、と言うこと。

 

「だがこの審判の聖戦もついに終わる刻が来た。この聖なる戦いを制し、真の八舞となるのはこの我だ!」

 

そう言うと耶倶矢は、再び槍を夕弦に向けて今度は槍から渦を巻く風が繰り出される。

夕弦はそれを一瞥するが、焦る事も無く左手を動かす。

すると主人たる夕弦に従ってペンデュラムも同じく動き始める。

 

「反論。痛々しい耶倶矢に八舞の主人格の座を譲る訳にはいきません。……夕弦だけに」ボソッ

 

竜巻を生み出した耶倶矢に対し、夕弦は錠が着けられた左手から同じく竜巻を生み出す。

文字通り、竜のように荒れ狂う両者の竜巻はその数瞬後、激突してあたり一面に恐ろしい程の暴風が吹き荒れる。

もしここが上空ではなく街だったらすべての建造物がボロボロに破壊されていた事だろう。

 

「う、うるさいっ!私は痛々しくなんてないし!」

 

何かとても馬鹿にされたような気がした耶倶矢は暗黒言語をつい忘れてしまい、素で喋ってしまう。

すると竜巻が激突する場の右から夕弦のペンデュラムが伸びてくる。

さっきとは違い、それは時に曲がりながら耶倶矢に迫ってくる。

先程の風を打ち破る為のものとは違う。

これは耶倶矢に当てる為の攻撃だ。

複雑な軌道を描くペンデュラムを避けるのはかなり困難な事からそれが窺い知れる。

 

夕弦が最後にボソッと何かを呟いたのを耶倶矢の耳はキャッチしたがそれはこの際気にしないことにする。

 

「くっ!」

 

耶倶矢は竜巻の放出を即座に中止し、ペンデュラムから逃れようと後ろに後退する。

この後手に回った状況に、耶倶矢は苦渋の声を出した。

 

だが耶倶矢のこの判断はあながち間違いでもない。

夕弦の天使の形状がペンデュラムという鎖である以上、射程というものがある。

最善策とは言い切れないが、避けるよりもマシな対処方法だ。

だが突如としてある異変が耶倶矢を襲った。

 

「きゃ!?」

「うわっ!?」

 

耶倶矢は何かにぶつかった。

ペンデュラムの対処に集中していたばかりに耶倶矢は前への警戒を疎かにしていた。

それ故に気付くことができなかったのだ。

 

「いっつ~~~~ッ!」

 

全身を襲う痛みに耶倶矢は悶絶した。

精霊の持つ強靭な体のおかげで死ぬことはなかったが何とも言えない痛みだった。

人間風に言うのなら足の小指を角にぶつけたような痛みだ。

 

痛みに耐えるとともに耶倶矢は思考する。

一瞬、鳥でもぶつかってきたのかと思ったがこんな嵐の中に鳥がいるとは思えないし、そもそも耶倶矢は今そのぶつかった物体に横になっているのだ。

しかもその物体は金属の様に硬く冷たい。

少なくとも鳥ではない事は明らかだった。

 

数秒ほど時間が経つと痛みが少しずつだが引いていく。

耶倶矢は思考をまとめて下に向けていた目を前に向けた。

 

『……えっ?』

 

そこには窓を隔てて一人の人間が席に座っていた。

しかも体の至る所を金属で覆っており、ヘルメットで顔も全て隠している。

耶倶矢が言える事ではないが、その姿は人間社会に精通していない耶倶矢でも奇妙と思わざるを得なかった。

 

目が合ってから何秒か静寂が訪れる。

どちらとも突然の出来事に混乱しているからだ。

先に動き出したのは耶倶矢の目の前に居る人間だった。

人間は我に返ったように周囲を見渡すと手に持っている操縦桿を横に倒した。

 

「うあぁぁ!?」

 

すると耶倶矢の乗っている物体が回転し始める。

どうやら耶倶矢を引きはがそうとしているようだ。

耶倶矢の体が重力に従って引っ張られる。

その物体は右に数回回ると今度は左に回転し、耶倶矢を容赦なく落とそうとする。

 

「うぅ……もう無理ぃ」

 

絶えず襲ってくる重力に耐えられず耶倶矢は窓から手を放した。

 

「う、気持ち悪い……何なのよあれ」

 

精霊の力で空に浮いた耶倶矢はさっきまで自分が張り付いていた物体を見る。

その物体には両方に羽のような物がつけられており、さらにその羽の下には棒状の物がついている。

 

「耶倶矢!」

「!……夕弦」

 

声の聞こえた方を見るとそこには心配そうな顔をした夕弦がいた。

 

「質問。あれは一体……」

「……解らぬ。突然、我の前に現れ攻撃をしてきたのだ」

 

耶倶矢は口調を大仰なものに戻し、空を飛ぶ戦闘機を見ながらそう言う。

実際は攻撃ではなく事故なのだがこの場にそれを指摘する者はいなかった。

 

「あの空を飛ぶ異形の者が何奴かは解らぬが、少なくとも我らに友好的な者ではなさそうだ……ッ!」

「指摘。来ます!」

 

戦闘機は機首をこっちに向けて一直線に突き進んでくる。

 

「夕弦!ここは一旦休戦ってことで、まずはあいつをやるわよ!」

「同意。このままでは真の八舞を決める所ではありません」

 

耶倶矢は槍を構え、夕弦はペンデュラムを宙に浮かせて、それぞれの戦闘態勢をとる。

まず最手を取ったのは戦闘機の方だった。

戦闘機は八舞姉妹との距離が1kmほどに差し掛かると主翼の下についていたミサイルが分離し、一瞬宙に留まると後部から白煙出して八舞姉妹に向かっていく。

 

「対処。迎撃します」

 

ミサイルに一番早く反応したのは夕弦だった。

無表情で周囲に風を展開してこっちに飛んでくるミサイルを寄せ付けんとする。

だがミサイルは止まらなかった。

 

「ッ!……焦燥。これは!?」

 

一本の矢のように真っ直ぐ飛んでいたミサイルは夕弦の生み出した暴風により少しグラつくが勢いを完全に殺すことは出来なかった。

 

「させるかっての!」

 

耶倶矢は巨大な突撃槍を縦に構えて盾の代わりにし、ミサイルを防ごうとする。

直後、ミサイルの先端が槍に当たり爆発した。

 

「うあっ!?」

「!」

 

ミサイルの爆風が二人を包んだ。

それを見届けた戦闘機の操縦主は周囲を回って爆風が消えるのを待つ。

すると爆風の中から突如二人の人影が現れる。

耶倶矢と夕弦だ。

二人は飛び出すや否や高速でその場から離れていく。

 

「夕弦ッ!あいつを振り切るわよ!」

「呼応。ここは逃げるが勝ちだと判断します」

 

二人は、非常に、とても非常に、不本意だがここは逃げることに徹することにした。

だが戦闘機はそれを見逃さなかった。

戦闘機も二人を追うべくエンジンをより一層激しく燃焼させる。

 

「驚愕。私たちに追いついてきます」

「もうしつこいんだから!」

 

二人は後ろをチラりと見てまだ戦闘機が追って来ていること気付く。

戦闘機は二人が曲がらない事を好都合と言わんばかりに再びミサイルを発射した。

 

「ッ!また来る」

「挽回。今度こそは防ぎます」

 

夕弦は徐々に近づいて来るミサイルに対し、今度はペンデュラムを飛ばす。

ペンデュラムはミサイルにカチ当たりミサイルを誘爆させることに成功する。

二人は爆発の衝撃波で少し体制を崩すも即座に立て直す。

 

「もうっ!このままじゃ……」

「同意。埒が明きません。耶倶矢、あれについて何か情報は?」

「情報って言っても乗ってる人が操縦してるぐらいしか……あっ」

 

自身が知っている事を口にした途端、耶倶矢は一つの突破口を見つけた。

そして耶倶矢の話を聞いた夕弦も何かを思いついたように少し目を見開く。

 

「夕弦……もしかして今、私と同じ事考えてる?」

「回答。恐らく耶倶矢と同じ事を考えてると思います」

 

二人はピンチにも関わらず、耶倶矢はニヤッと擬音がつきそうな悪い笑みを、夕弦は微笑を浮かべている。

 

「結論。そうとなれば話は早いです。夕弦は攻撃を防ぎますので、耶倶矢は操縦主を狙ってください」

「クク……いいだろう。今回だけは貴様の手を取ってやる」

 

耶倶矢は上から目線で夕弦との協力を承諾した。

かなり嬉しそうではあったが。

耶倶矢と夕弦は手早く話をつけていくが、戦闘機はそれを見過ごさなかった。

戦闘機は空飛ぶ狂戦士を堕とすべく再三ミサイルを発射した。

 

「ふん。来よったな。我らの目論見にも気付かず愚かな奴だ」

「同意。今では操縦主に哀れみすら覚えます」

「我ら八舞を敵に回した事を後悔するがよい。いくぞ夕弦!」

「同調。いきましょう、耶倶矢」

 

夕弦は先程と同じようにペンデュラムを飛ばし、ミサイルを誘爆させる。

それを機に二人は方向転換、夕弦を先頭にして戦闘機に向かっていく。

八舞姉妹と戦闘機はどちらもとてつもない速さで飛行しており、その両方が真正面から激突しようとしているのだから距離はみるみるうちに縮んでいく。

 

戦闘機は八舞姉妹が近づいて来るのを見て爆風に巻き込まれるのを恐れたのか今度はミサイルではなく機関砲を撃ってくる。

ミサイル程の威力はないが戦闘機に内蔵されているだけあって銃弾とは比べ物にならないぐらいの威力がある。

 

「ッ!ゆ、夕弦」

「安心。心配せずとも必ず守って見せます」

 

連続して撃たれる機関砲の弾丸を夕弦はペンデュラムで的確に弾いていく。

だが何十発も撃たれる弾丸をすべて防ぐ事も出来ず、夕弦は何発か被弾してしまう。

霊装によりダメージは軽減されているが、ミサイルに爆風で所々が剥げてしまっているのでそう長くは持たないだろう。

 

そして遂に操縦席らしきものが肉眼で確認できるほど戦闘機に接近する。

 

「進言!耶倶矢、今です」

「うむ!任せるがよい」

 

耶倶矢は自信満々にそう言い放ち、夕弦の後ろを飛び出し槍を構えた。

そして斜め上から戦闘機に突撃する。

 

「いっけえぇぇぇぇぇ!」

 

耶倶矢と夕弦、両者の見事な連携で生み出した一撃。

槍が戦闘機の窓を突き破るその刹那、耶倶矢は操縦主たる人間の顔を見た。

槍の切っ先が向けられたその人間の顔はヘルメットで見えなかったが、茫然としているその姿は不思議と驚愕しているように見えた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

耶倶矢の天使たる槍が戦闘機を貫く。

窓は粉々に砕け散り、その破片が空の下に消えていく。

 

「?」

 

だがその手には肝心なものを貫いた感覚が無かった。

耶倶矢は寸分違わず、操縦主に槍を突き刺したつもりだった。

しかし肉を切り裂いたような生々しい感触は全くない。

そもそも戦闘機が精霊の絶対の矛である天使の攻撃をモロに喰らって未だに原型を留めている事自体がおかしいのだ。

本来なら貫通して巨大な穴が穿たれていた事だろう。

何故そうならないか。

 

「……え!?」

 

戦闘機の機器が発する黒煙が晴れていく内に耶倶矢の驚愕した声が出された。

黒煙が晴れた操縦席にはこの戦闘機を操り、八舞姉妹を苦境に立たせた張本人である人間がいた。

その人間は耶倶矢の槍を赤く光る剣の腹で受け止めている。

 

「う、嘘!?……ぐうッ!」

 

操縦主は驚愕して無防備になっている耶倶矢の右手を叩く。

その衝撃で耶倶矢は自身の天使である巨大な槍を落としてしまった。

操縦主は続けざまに耶倶矢の首を掴むと自身が座っていた操縦席に叩き付けた。

首を掴む力がよほど強かったのか耶倶矢は、ゴホゴホと咳き込む。

そして操縦席のシートベルトで耶倶矢の体を縛り付けた。

ここまで10秒も掛かっていない。

 

「ゴホッ……な、何すんのよ!」

 

耶倶矢は声を荒げるが操縦主は特に反応もせず言葉も返さない。

すると操縦主は席の足元に手を伸ばす。

そして奥から緑色のリュックサックのを取り出し、肩に掛ける。

それが何なのか解らなかったが、今の状況から鑑みてそれが脱出に用いるものだということを耶倶矢は理解した。

最後に操縦主は耶倶矢に顔を向けると、じゃあなとでも言わんばかりに手を振った。

そして操縦主は戦闘機から飛び降り、その姿は雲に消えた。

 

「う~、何なのよあいつは!」

 

耶倶矢は操縦主の仕草に何故かとてつもなく腹が立った。

理由は耶倶矢も解らなかった。

そうやって耶倶矢がイラついていると異変が起こる。

 

「ひゃ!?」

 

耶倶矢は体がふわっと浮くような未知の感覚を感じた。

それとともに耶倶矢は更なる異変を感じ取る。

主なき機体が先端から徐々に下を向いて急速に落ち始めたのだ。

耶倶矢は感じた感覚はこの落下によるものだった。

人がジェットコースターに乗って落下する時に感じる独特な感覚、それが今耶倶矢を襲ってる感覚の正体だった。

最もそれが耶倶矢に理解出来る筈もないが。

そして戦闘機はジェットコースターが可愛く見える角度と速さで落ちていく。

 

「ああっ!」

 

耶倶矢は恐怖を感じ、声をあげてしまう。

颶風の巫女である八舞の片割れとして世界中の空を飛び回って来たとはいえ、身動き出来ないまま落ちるということは耶倶矢も初体験だった。

それ故に耶倶矢はかつてない程の混乱に陥ってしまった。

それこそ天使の存在が頭からすっぽ抜けてしまうぐらいには。

だが耶倶矢は一人ではなかった。

 

「耶倶矢ッ!」

 

同じく八舞の片割れである夕弦が落下する戦闘機を追いかける。

戦闘機の落下するスピードは速かったが、無論風の精霊である夕弦が追いつけない速度ではなかった。

夕弦はあっという間に戦闘機に追いつき、席に縛られている耶倶矢に捕まる。

 

「対処。今これを解きます」

 

夕弦はすぐさま耶倶矢の体に巻き付いているシートベルトを解こうとする。

 

「くっ……焦燥。うまく解けません」

 

シートベルトは操縦主の仕業できつく複雑に絡み合っており、簡単には解けなさそうだった。

夕弦は今どの高度にいるのか確認する為、下を見た。

そこには肉眼で地面がはっきりと見えていた。

恐らく地面に激突するまでそう時間は掛からないだろう。

 

「思案。…………ならば」

 

夕弦は左腕を動かす。

すると宙を漂っていたペンデュラムが動き、その先端がシートベルトを抵抗なく切った。

それとともに耶倶矢の体も開放され、空に浮かぶ。

 

「質問。大事ないですか?耶倶矢」

「う、うん。……その、ありがとね夕弦」

「説明。真の八舞を決めるまで、耶倶矢に死なれる訳にはいかないので」

 

そうやって少し和やかな雰囲気になった直後、爆発音が響き渡った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

地上にある岩山の一角に戦闘機の残骸が打ち捨てられていた。

残骸は爆発を起こした今も火を出して、轟々と燃えている。

その惨状を見てるのは二人の精霊だった。

空に浮かんでいたその二人はそっと地面に着地する。

その内の一人、耶倶矢は冷や汗をかく。

先の戦いで霊装が所々剥げている今、もしあのまま戦闘機と一緒に落ちていたら、重傷は免れなかっただろう。

もし運が悪かったら死んでいたかもしれない。

そう考えたからこその冷や汗だった。

 

「……疑問。これで終わったのでしょうか?」

 

もう一人の精霊、夕弦が戦闘機の残骸を見つめる。

 

「クックック……ああ、我々八舞の勝利だ」

 

戦闘が終わり、耶倶矢が思い出したように言葉遣いを大仰なものに戻す。

 

「補足。とても勝利とは言えないものでしたが」

 

夕弦が悔しそうに顔を俯ける。

たしかに今回の戦いは終始圧倒されっぱなしで、自信満々に勝利とは言い難かった。

 

「まあまあ、相手が逃げたんだから私達の勝ちって事でいいんじゃない?」

誰が逃げたって?(・・・・・・・・)

 

その耳元で囁くそうな声に気付けたのは耶倶矢だけだった。

それとともに耶倶矢は周囲に気配を感じた。

その気配が向いている方向には、

 

「危ない!夕弦!」

 

いち早くそれに気づいた耶倶矢は夕弦を思いっきり突き飛ばした。

それと同時に突き飛ばした耶倶矢の腕が切り裂かれ、赤い血が噴き出す。

 

「か、耶倶矢!?」

「ぐっ!……誰かいる!」

「中々、勘がいいな」

 

片割れを切り裂かれて驚愕する夕弦と耶倶矢の耳に今度ははっきり声が聞こえる。

それとともに二人から数メートル離れた場所の空間が歪む。

その歪みは徐々に人の形になり、黒い奇怪な服装をした人物が姿を現す。

その姿はつい先程、今は残骸と成り果てた戦闘機を操っていた人間だった。

 

「……質問。貴方は一体何者ですか?」

「何者?……そうか、魔術師(ウィザード)の存在を知らない精霊もいるのか。二亜の場合は天使が天使だからな……知っているのも当たり前だったけど……」

 

その声音からして男だろう。

その男は矢継ぎ早に理解出来ない単語を連発する。

 

「話しがそれたな。俺が何者か、だったな。まあ端的に言うと俺は君達を殺しに来た」

「ッ!」

 

殺しに来た、その言葉を聞き、理解したと同時に夕弦はペンデュラムを飛ばした。

ペンデュラムは弾丸の如く、男の顔に向かっていく。

だがその男は、何てことないと言わんばかりに頭を少し横に傾けてペンデュラムを躱す。

 

「さて、やるか」

 

男がそう言った途端、夕弦に体中に寒気が走った。

まるでスイッチが切り替わるように。

それはこの男が自身に匹敵する強者だと言う事をひしひしと感じさせた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

夕弦が臨戦態勢に入る。

それに対し、構える事もなく悠然と地面に立つ士道は、

 

(こいつら霊装がエロいな。二亜もそこそこエロかったけど、こいつらのは猟奇的と言うか何というか……腹減った)

 

こんなくだらない事を考えてたとか何とか……




超難産回にして書きたい事を書きまくった結果、長くなった回。

今回は視点を八舞姉妹中心にしてみた。
戦闘機を用いた八舞姉妹とのドックファイトは初期の頃からやりたいと思って書いたけど戦闘機の戦闘描写難しすぎんよー。

八舞姉妹って十香に準ずるレベルで世間に疎そうだから多分戦闘機も知らんやろなって。
サンタクロースも知らないぐらいだし。

それにしても18巻は凄かった。
戦艦がドカーンってなって、みんながピチューンってなって、伏線もかなり回収されたね。
苦労して精霊を封印した挙句に記憶消されるって、士道くん大変やな(白目)。
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