すんませんでした(´_ゝ`)
士道は机の上にあるコップを持ち、その中の紅茶を啜った。
そうしないとこの緊迫とした空気に耐えられそうになかったからだ。
現在、この場には士道を含めて三人の人物がいる。
一人はアルテミシア。
この緊迫した空気の中でも怖気づく様子は無く、悠然とした態度だ。
もう一人は言わずと知れた、世界最強の
だが普段の丁寧な物腰は微塵も感じられず、目を猛禽類の様に鋭くさせている。
恐らくはこの空気を作っている元凶だろう。
士道が現状確認をし終わったところで、エレンは張り詰めた息を吐くように溜息をした。
「……話は分かりました。つまりシドウはアルテミシアさんの先生役をしていると言う事ですね?」
止まっていた会話がようやく動き始める。
「まあ大まかに言えばそういうことだ。何度も言わせるなよ」
エレンには、アルテミシアの才能のこと、サミュエル大佐に頼まれたこと、全てを説明した。
だがまだ納得していないのか何度も聞き返して来るのだ。
「……それは百歩譲って許しましょう」
エレンは渋々と言った様子で言葉を発する。
途中、士道は何でエレンの許しが必要なのか疑問に思わなくもなかった。
「ですがさっきの行為は何なんでしょうか」
「………………」
エレンの言う行為とは、間違いなく膝枕のことだろう。
そうとしか考えられない。
「あれは中佐が眠いと言ったから私の膝を貸しただけです。だから中佐は悪くありませんし、やましい事も別にしてません!」
「ほう……あれの何処がやましくないのか私は不思議に感じますけどね」
アルテミシアが反論するが、すかさずエレンが否定する。
「で、でもだからってあれはないですよ!中佐以外にやってたら殺人もいいところです!」
「ぐっ……」
ここで一転して、痛いところを突かれたようにエレンが押し黙った。
あの時のエレンは凄まじく、まずジャブと言わんばかりに初対面のアルテミシアと口喧嘩をし、挙句の果てには
普段なら防御するまでもないのだが、
そう言う理由があり、エレンは一方的に怒れないでいた。
「うぅ……シ、シドウ!」
「え、ええと……」
どうにもならなくなったのかエレンは士道を見て、助けを求める声を出した。
士道は目元を抑えて考えるような仕草をする。
そして出した答えは―――――
「と、取り敢えず話って何なんだ?エレン」
会話を大元に戻すことだった。
今思えばアルテミシアに対しては拒否するべきだっただろう。
だが後悔先に立たず、今はその事を悔いても仕方ない。
「話……ああ、そうでした」
これまでの出来事でその事を忘れていたのか、エレンの返答が少し遅れる。
「話についてですがアイク、うちの社長が貴方と是非お会いしたいと言っていました」
「は?DEM社の社長が?俺に?」
士道は湧いて出た疑問に首を傾げる。
デウス・エクス・マキナ・インダストリー、通称DEM社と言えば世界規模で事業展開を行っている超巨大企業だ。
製造、運送、建設、医療、エネルギーなどの主要産業から、はては旅行代理店など様々な分野で事業を手掛けており、その中でも
本社がイギリスにある為、SSSとは親交が深い。
そんな世界有数の会社の社長が何の用だろうか。
「何でも、私に匹敵する
「へー、でもなぁ……」
世界有数の会社。
だからといってDEMは超絶いい会社と言うわけではない。
SSS所属だからこそ分かることだが、DEMはSSSに汎用化前のユニットを試験的に融通する代わりにSSSの出向した
その所業によりSSSの隊長であるサミュエルはDEMに対して尋常じゃない警戒を抱いている。
そしてそのサミュエルと上司と部下の関係である士道は、耳にタコができるほど日頃からDEMには気をつけろなどと言われており、それが士道を躊躇させた。
「確か……アイザック・ウェストコットだよな?社長の名前」
「ええ、正確にはアイザック・レイ・ペラム・ウェストコットです」
士道が口にした言葉にエレンが付け加える。
アイザック・ウェストコット、DEMの創業者であり、一代でDEMを大企業にまで成長させた敏腕経営者だ。
そしてSSSの
それを考えるとこの誘いには乗らない方がいいかもしれない。
士道は丁重に断ろうとする。
「因みに、もし良ければデータ収集を兼ねた専用のCR-ユニットを作らせてもらいたいと
言ってました」
「行きます」
「!……そ、そうですか。アイクはいつ来ても構わないと言っていましたが、いつ行きましょうか?」
エレンは士道が行くと言った途端、嬉しそうに声を弾ませて、さっきまでの眼光が嘘のように表情が柔らかくなった。
その様子を見たアルテミシアはジト目でエレンを睨むが、誰もそのことに気がつかない。
「俺は別に今日でもいいぞ。定時まで3時間ぐらいあるし」
躊躇いも無く、さらっと考えを変えた士道は、時計を見てそう言った。
「では今日行きましょうか。ではそのようにアイクに伝えておきます」
エレンは携帯を片手に持ち、部屋から出ようとする。
するとアルテミシアが士道に近づいてそっと耳打ちをした。
「結局この人って誰なんですか。随分親しそうでしたけど」
「エレン・M・メイザース、世界最強の
「え!?そ、そうだったの?」
「お前、誰かも知らずに喧嘩してたのかよ……」
驚きで敬語を忘れたアルテミシアに、士道は呆れた声音でツッコミを入れた。
「む……シドウ、今度は何をしてるんですか?」
士道とアルテミシアが密着しているのが気に食わなかったのか、部屋を出ようとしたエレンが体を反転させてこちらへ向かってくる。
「い、いや特になんもないぞ!」
「その割には慌ててるように見えますが……」
真正面からエレンの厳しい疑念の視線が士道を貫き、士道は反射的に目を逸らした。
「中佐の言う通り特に何もありません!少し話をしていただけです」
「……ならいいですけど」
アルテミシアの声に、エレンはとても訝しげに返答した。
ようやく喧嘩に終わりが見え、士道は内心で胸を撫で下ろした。
だがそれは全くの見当違いだった。
「全く、疑り深くて面倒な人ですね」
「……貴方、今私の事をしれっと侮辱しましたね?」
士道に同調させるようなアルテミシアの言葉を受けて、案の定エレンの頬が引き攣り、再び一触触発の雰囲気が流れ始める。
「えっ、ちょお前ら、やめろって!つい今仲直りとは言わずとも喧嘩は終わりそうだったじゃねえか!?」
「シドウは黙っていてください。ここまで馬鹿にされては、私も引き下がれません」
エレンは聞く耳持たずといった感じでアルテミシアも未だに続ける様子だった。
「そもそもの話エレンさんは文句ばかり言って、後から来たくせに随分偉そうじゃないですか!」
「私は貴方よりも前にシドウと知り合いました。寧ろ出会って数カ月の貴方の方が偉そうなんじゃありませんか?」
―――――こりゃダメだ……
士道に胸中にそんな考えが充満していく。
ヘルメットの中にある目は、恐らく死んでいる事だろう。
「……ん?」
すると士道は再びこちらに向かって来る人の気配を感じ取る。
誰だ、という疑問が全く無いわけではないが、今の士道にとっては些細なことだった。
この戦争を止めてくれるなら誰でもいい。
士道はそう願い、そして扉が開いた。
そこには―――――
「シドウ居る?訓練に誘いに来たのだけれど―――――」
イリシャが立っていた。
煌めくブロンド色の髪、エメラルドの様に鮮やかな緑色の目。
間違える要素など何処にも無い。
イリシャは士道と口喧嘩をしていたエレンとアルテミシアを見た。
エレンとアルテミシアの喧嘩はイリシャが現れたことで一時的に止まったようだった。
そんな事を確認していると、イリシャの整った顔が次第に歪んでいく。
後で考えて分かったが、この時のイリシャには士道の目の前で喧嘩するエレンとアルテミシアが、士道を誘惑しているように見えたのかもしれない。
だとすればイリシャが何というかは明白だった。
「……何、してるの?」
頬を引き攣らせながらイリシャは声を出した。
心なしかゴゴゴゴゴという音がどこかから聞こえた気がした。
「…………もう、勘弁してくれ」
小さく呟かれた声は誰かの耳に届くこともなく消えていった。
アルテミシアが敬語だとエレンと区別がつきにくいですね。
これはアルテミシアに限った事ではないですけど。
これは尚更、早いところ敬語を無しにしなければ。
あと秋クールのラインナップヤバすぎませんか?
見るものありすぎて執筆が滞りそうなんですが……。