文章の時は士道になり、セリフの時は片仮名になってシドウになります。
もちろん片仮名はSSS所属時限定の呼び方です。原作に入ったら士道で統一します。
「いやすまないね、こんな手荒な真似をして。悪いが君の力を試させてもらったよ」
「……………」
ソファに座って対面する二人の男。
一人は士道、
もう一人は、この巨大なビルの主、アイザック・ウェストコットだ。
いつもこうなのかは知らないが、えらく饒舌なウェストコットに、士道は少し辟易しながら話を聞いていた。
その聞いた話曰く、無人機をこの部屋に待機させていたのはウェストコットの指示で士道の力量を図る為だったようだ。
エレンを襲ったのは操縦者のミスのようで、それを知ったエレンは不機嫌そうな雰囲気を醸し出しながら、秘書らしくウェストコットの傍に立っている。
「特に悪意は無いんだ。まあ少々刺激的な挨拶とでも思ってくれたまえ」
「へぇ……それにしちゃあ随分と物騒な挨拶だな?」
「全くです。アイク、こんな事をやる時はちゃんと私に前もって一言入れておいてくださいと、いつも言っているでしょう?」
─────いや、やめさせろよ
溜息交じりに言うエレンに士道はそう返したくなったが、来客に遠隔操作機で喧嘩を売るような社長の秘書にそんな事を言っても無駄だろう、と今までの経験から察して口を噤んだ。
まあそもそもポンコツだし、是非も無いよね。
「さて、雑談をする前に何か飲み物でも入れてこようか」
「アイク、それなら私が……」
「いいさ。彼は私が招いた客人なのだから、私が用意しよう」
そう言うとウェストコットはソファから立ってダイニングへ向かい、冷蔵庫を開ける。
その中身を吟味すること数秒、困ったように手を顎に当てた。
「……見事に酒しかないな……仕方ない、紅茶にするか」
数瞬迷った後にそう言うと、棚から茶葉を出してダイニングの上にあったティーポッドへ入れ、そこにお湯を投入して蓋をした。
カップ二つを手に取り、茶葉とお湯を入れたティーポッドも持ってこちらへ戻って来る。
そしてカップとティーポッドをソファの前の机に置いた。
「生憎だが、ここに来るのは各界のお偉いさん方ばかりでね。お子様向けのジュースをご馳走することは滅多にないんだ。もし嫌なら誰かに買いに行かせるが……」
「いや、これでいい」
来客の立場でそのような傲慢な事は言えない。
士道自身、紅茶は嫌いではなかったので素直に了承した。
そんな士道を横目に、エレンは持ってこられた紅茶をカップに注ぎ込んで二人の前に出した。
「……それで?わざわざ飲み物をご馳走するために呼び出したわけじゃないだろ。用があるならとっとと言ってくれ」
士道は急かす様に、単刀直入に尋ねた。
それに対し、ウェストコットは回答に困ったように目線を横にずらした。
「ふむ、用か……正直に言うと君に確固たる用はないんだ」
「……は?」
「我が社最大戦力のエレンが君に倒されたと、本人から直に聞いてね。前々から是非とも会って見たいと思っていたんだ。君の実力も知りたかったしね」
ウェストコットは特に悪びれる様子も無く、自分の意思を語った。
それを聞いた士道は心底呆れかえっていた。
何故なら、アイザック・ウェストコットという人物が自身の想像を遥かに上回る程の、非常識人だという事に気付いたからだ。
最も、それに気付くにはもう遅い段階まで来ているかもしれないが。
「しかし、まさか〈DD-007〉を一撃で破壊するとは思わなかったよ。一応、性能面では並みの
「〈DD-007〉ってさっきのロボットのことか?」
見た限り、その遠隔操作のロボットには
士道はそのことが気になり、ウェストコットに尋ねた。
だが
もしかしたらDEMの機密情報かもしれないので、答えてくれるかは期待半分と言ったところだ。
「ああ。正式名称は決まっていないが、人が遠隔で操作できるCR-ユニットさ」
「CR-ユニットって扱いなのか、それ。AIのっけて無人機にしたりできないのか?」
「それは残念ながら、現時点では無理だ。
痛いところを突かれた、といった様子もなく、ウェストコットはあっさり答えた。
言っても別に困ることではなかったのか、それともあえて答えたのか、真意は測りかねた。
「ではそろそろこちらからも質問させてもらおうか。こうして話して、いくつか聞きたいことが出来たからね」
「……どうぞ」
◇◇◇
「ほう!君はアニメが好きなのか!」
「あ、ああ……」
「これは奇遇だね。私も日本のアニメが好きで、偶に見ているんだ。あの国は平和ボケが酷いと聞くが、アニメや漫画を作らせたら右に並ぶ国はない」
社長室に入って、一時間ほど経っただろうか。
最初は、「どうやってそこまで強くなったのか」等の真面目な質問だったのだが、何故か質問の趣旨がするりと別の方向にずれていったのだ。
因みに上記の質問に対して、士道が「訓練しただけ」と答えたら、面白くて仕方がないといった様子で大笑いを始めたので、士道は少し引いていた。
「ははっ、これは嬉しい誤算だ。私の周囲には同じ趣味を持ってる人がいなくてね。アニメを語れる人間は一人もいなかった」
「それには激しく同意」
士道は自身がアニメ好きであることを誰にも言っておらず、自分以外のアニメ好きとは全く親交が無かったため、これには頷かざるを得なかった。
まあそれ以前に友人がいないのだが、言っても詮無きことだ。
「ははは、いやまさか君と話題が合うとは思ってもみなかったよ。おかげで気付いたらもうこんな時間だ」
そう言って、ウェストコットは六時を過ぎている時計を指差す。
「うわ、もう定時過ぎてんじゃねえか」
窓の外を見てみると太陽は姿をほとんど消し、あたりは暗くなり始めていた。
「もう帰るのかい?」
「ああ、帰ったら用事があるんでな」
その用事が深夜アニメの視聴だということはもはや言うまでもないだろう。
士道はソファから立ち上がって、ドアに向かおうとする。
「まあ待ちたまえ。折角来たのだから、ここに泊まっていったらどうかね?」
「は……?」
「ここでは
「いや、だから俺には用事が「では私がシドウの上司に泊まることをお伝えしておきます」
「そうか。ではエレン、頼んだよ」
断ろうとしたところを、上機嫌なエレンが横から割り込んでくる。
そして士道が唖然としてる間に、話はとんとん拍子に進んでいく。
「まあ簡単な社会科見学だとでも思って、気楽に過ごしてくれたまえ。エレン、空いてる客間が幾つかあっただろう。そこに案内してやってくれ」
「いやなんでそうなる」
「はい。じゃあ早速行きましょう!シドウ」
「おいちょまっ、押すな押すな」
士道は背中を半ば強引にエレンに押され、社長室の外に出て行った。
「……行ったか」
一人になったウェストコットはソファに深く腰掛け、息を吐いた。
暫く天井を見つめていると、少しずつ口角が上がり、自然と笑いが零れ出た。
「まさかあれ程の逸材だったとは。……もしかしたら、そう遠くない内に今の
広い社長室には少しの間、哄笑が響き続けた。
や、やっと書き終わった……