短編集   作:金宮 来人

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曲を聞いていて、ふと書きたくなり書きあげました。
所要時間、二時間の短編です。
ヒロインは簪ちゃん。
主人公は一夏君。

短いですが、良ければどうぞ。


春雷と桜

織斑一夏・・男性で唯一ISに乗ることが出来る、世界初の男性操縦者。

その男の子が学園に来ることになったのは二月ごろ。

試験会場を間違えて触れた時に起動したことで操縦できる事が判明した。

保護の為にもIS学園で生活してそのデータを取る事に。

 

それが、私が知っている彼の情報。

後一つ、彼の為に日本政府が専用機を用意する話が出ている。

それが私の所属する倉持技研だという事も。

要するに彼の機体の為に、私の制作途中の機体は投げ出される可能性が有る。

彼を恨んだ。

専用機の事は、彼自身が決めた事じゃないし、欲しいと言ったかどうかも知らない。

しかしそれで私が悔しい思いをする事になるなら、彼を恨んでいいはずだ。

姉に『貴女は無能でいなさい。』と言われた。親戚は私を蔑んだ。

私の何がそんなに悪いのか?

私はそんなにでき損ないか?

私とはいったい何者なのか?

もう段々と分からなくなってきた。

何もかもが嫌で、手続きを済ませて、早々に家を出て学園の寮へ入寮した。

学園がある島の一番高い場所。人工島の頂上には桜の木が植えられていた。

そこからは地平線に向かう夕日を見る事が出来た。

桜の花びらが散り、夕日のオレンジが私を照らした。

そこで、私は出会ってしまった。

「・・あぁ、どうも。初めまして。・・ここ、知ってたの、俺だけじゃなかったのか・・。」

その姿は中学校の制服だろう。IS学園の制服ではなかった。

男子生徒(・・・・)。つまりは・・彼が、織斑千冬の弟・・。

「俺は織斑一夏って言います。この春から通う事になってますのでよろしくお願いします。」

そう言って頭を下げた彼は想像と違っていた。

情報では、性格は明るく、人に気遣える上、姉譲りの良い顔立ちで、所謂イケメンだ。

しかし、此処にいた彼は・・影が有った。

「はぁ・・、それじゃ・・」

「待って。」

ため息をついて去ろうとした彼を引きとめた。引きとめてしまった。

「貴方は・・織斑一夏・・君、なんだよね?」

「え?うん・・はい。そうですが・・?」

「私も同じ年なの。言葉遣いは崩しても大丈夫。」

「え・・あぁ、そっか。ありがとう。・・それで、俺に何か用かな?」

そう言って首をかしげる。彼は坂の途中で止まっているので、私が見下ろすような格好だ。

「先ずはこっちに来てほしい。話すのには少し遠いから・・。」

「いいのか?・・じゃぁ、ありがたく・・」

そう言って近くに来て私の横を通り過ぎて、桜の木に触れる。

そこから頭を当てて眼を瞑っていた。・・二分くらいして、振り返ると夕日に照らされた彼は疲れ果てた様な顔をしていた。そして、そのままずるずると下がって、背中を桜の木にもたれる状況で座り込んだ。

「・・ごめん、ここしばらく疲れてて・・こんな恰好でごめんけど話を聞くよ。」

「そう・・じゃぁ、隣に座るね。」

そう言って私はその隣に座った。そして桜の木を見上げた。

「私は『更識簪』って言うの。この春から貴方と一緒の一年生。」

「そう・・俺は、家が大変な事になったから荷物まとめてここに保護してもらいに来たんだ。女尊男卑の嫌がらせや、変な研究所から人が来たりで大変だった。・・昨日着いて、今日も千冬姉・・あぁ、此処じゃ織斑先生って呼ばなきゃな・・。織斑先生に頼んで荷物を送ってもらったんだ。もう、疲れた・・。」

横を見ると同じように桜の木を見上げていた。舞い落ちる花びらが彼の顔に降り注ぐ。

「どうしてなんだろうな・・?どうして俺だったんだろうな?」

そう言って、顔を下ろした彼は眼を瞑って手を頭に乗せた。

「もう、参っちゃうよ。俺は、普通に静かに普通な生活がしたかったのに・・姉が有名な事で同級生からも絡まれたり、それが無い様に遠くの学校を受験しようとしたらコレだ。俺の人生って・・どうしてままならないのかな・・?いっそ、モルモットの方がいいのかな?」

そう言ってこっちを見た彼の目は疲れ果てて、光りを灯していない様に見えた。

私は情報だけ見て、彼の事を知らなかった。

女性が多くいる学園に来ることできっとへらへらしていると思っていた。

でも、全く違った。

彼と私は似ていた。

有能な姉のせいで人生を狂わされた被害者だった。

私よりもひどかった。

疲れ果てて、心から押しつぶされそうになっていた。

その姿を見た私は何も考えていなかった。

 

彼を抱きしめていた。

 

「・・え?」

「大丈夫。貴方は此処にいて良い。私が味方になってあげる。」

そう言って抱きしめてあげた彼はかすかに震え始めた。

肩越しで見えない彼は静かに震えて、でもかすかに聞こえた嗚咽が彼の何かを梳かしてくれたのだと分かった。

「あ、あぁ・・ありがと・・う・・ぐずっ。」

男の子と触れることなどなかった私が、こんな事をできるとは思わなかった。

でも、こんなにも壊れそうな彼を見て居られなかった。

彼は生きている。その温かさを知った。

日が暮れ始めた頃に、彼は泣きやんで顔をあげた。そしてどちらからともなく離れた。

 

「ありがとう。本当に・・ありがとう。更識さん。」

さっきと違い、儚く壊れそうな顔じゃなくて、ほんの少しでも温かみのある笑顔が見れた。

その顔に私は心が揺れるのを感じた。

『トクン』と心臓が高鳴る。

「か、簪・・。」

「え?」

「私、姉がいるの。だから、簪って名前で呼んで。私も貴方の事名前で呼ぶから。」

そんなこと言っても先輩呼びとかで分けれることぐらい知ってる。でも、そう言ってほしかった。そう呼んでほしかった。

「わかった。よろしく、『簪さん』。」

「うん、『一夏君』。」

お互いに同時に手を出しあって握手をする。

そして、笑顔で笑い合った。

「それじゃ、そろそろ帰ろうか。寒くなってきたから。」

「そ、そうだね。今は寮生活なの?」

歩いて坂を下りながら話をする。自然に横に並んで歩けた。

「あぁ、織斑先生に無理言って倉庫代わりに使われていた寮長室の隣部屋を使ってる。」

「分かった。・・これ、私の連絡先。何かあったら頼ってくれて良いよ。姉の時のことから色々と知ってるから。」

色々と話しているうちに寮についた。中に入り、階段を上がる。

「わかった。俺の携帯は今電池切れで部屋にあるから後で連絡する。色々とありがとうな。・・あぁ、ここの奥の部屋だから、一緒なのはここまでだな。これからよろしく、簪さん。」

「う・・うん、よろしく一夏君。」

そう言って手を振りあって分かれる。階段を上がる事無く、その物陰で背中を壁につけた。

「私・・どうしちゃったんだろ・・。」

おそらく顔が赤いと思う。熱い、顔が熱い。

『とくとく』と心臓がうるさい。

男の子と話したから?初めて一緒に長い事居たから?

違う、コレはきっと感情が暴走しているんだ。

 

「私・・恋・・しちゃったんだ・・。」

彼を好きになってしまったみたいだ。

 

昨日見つけた心の落ちつける場所、ソレはこの島の一番上にある桜の木。地平線に沈む夕日を眺めてその光が消えて行くのを見る。

まるで俺のように思えた。

世界中で騒がれている今は太陽のように目立っている。

しかし、きっと実験や色々と研究の影響で俺は使い潰される。

結局は、俺は『俺』にはなれないのだ。

『織斑千冬の弟』という存在が、『世界初の男性操縦者』という認識に変わっただけ。

だれも、俺を「織斑一夏」と見てくれなかった。

中学の時は結局、誰も友達が出来なかった。

いじめを見つけて止めたけど、その相手は結局は俺の事を遠くから見て目を反らすだけだった。

誰も俺を見ない。俺は生きているのかもわからない。

何も分からない。

 

それならいっそ・・。

 

最期(・・)にしようと思って、昨日と同じように坂を上がる。

その桜の木の下に女子生徒がいた。

≪俺の居場所≫は此処でもなかったようだ。彼女がこちらに気が付いた。

「・・あぁ、どうも。初めまして。・・ここ、知ってたの、俺だけじゃなかったのか・・。」

そう言ってそれから挨拶をした。彼女も同い年だったらしい。制服を着ていたから上級生かと思った。

それから話した。色々と・・そして、抱きしめてもらった。

[初めて]居場所を得た気がした。

千冬姉にも迷惑をかけてきたことは分かっていた。それでも、俺の居場所という気はしなかった。俺が出来ることはしてきた。家庭の家事は全て俺がしてきた。それでも、あの家に俺の居場所は無かった。ただ、仕事をしているだけだった。家主の為に家を守っているだけの存在にしか思えなかった。姉と弟の関係じゃなかった。

雇用主と家政婦の様な感じだった。

いつからだろうか・・家族の会話をした覚えなどなかった。

それが、今、雷に撃たれた様に俺の中に衝撃が走った。

気が付いた時には泣いていた。

かっこ悪いと分かっていても、

「ありがとう・・ぐずっ・・。」

あふれる涙は止まらない。それから話して寮まで帰ってきた。

そして、部屋に戻る。扉を閉めて、その場で立ち尽くしていた。

俺は彼女・・更識簪を意識していた。

その連絡先を握って胸に押しつけていた。

心臓が・・[ドクンドクン]と煩い。

鼓動が速い。そして、彼女の顔を思い出す。その笑顔を思い出す。

きっと何か困った事があれば俺は何もかもを投げだして彼女を助ける。

初めての感情だ。

きっとこの感情は・・、

「初めてだ・・こんなにも人を好きになるなんて・・。」

きっと恋ってこういう感情だと思う。

熱くなる胸と顔、あの時の衝撃を思い出す。

 

窓を開ける。

「言葉にするのも、形にするのも難しいけど・・」

ふわりと風が吹く。

桜の花びらが部屋に入ってきた。

「きっと、ソレは此処にある。」

胸を叩く。自分に言い聞かせるように。

ふと風の中に甘い香りを感じた。

ソレは彼女の・・簪さんの髪から感じた香りだ。

きっと抱きしめてもらった時に、服に香りが付いていたのだろう。

どこか甘い香り。

部屋に入ってきた桜の花びらを拾い上げて外に手を伸ばす。

風が花弁を手から攫って、その花びらはクルクルと風に踊った。

俺は胸をトントンと叩く。

「俺は・・大事な人を守る。その為に強くなる。」

目標が出来た。この学園で吸収できる事は全てする。

そして、簪さんが困っていたら助ける。危険だったら守る。

俺の≪全て≫に代えても。

「これが、俺の覚悟だ。」

月が綺麗な夜に拳を突き出した。

月に掲げた、ソレは俺の決意。

 

さぁ、俺の世界は今から始まるんだ!

きっと、大変だろうけど・・それでも、俺は『俺になれた』。

また風が吹いた。桜の花びらを見て俺は簪さんを思い浮かべる。

俺はきっと彼女に思いを告げる。

いつになるかは分からないけど・・。

きっと、強くなって、守れるくらいになったら告白する。

それまで、この感情は守っていこう。

あの衝撃と恋の始まりは忘れたくないから。

 

春に感じた雷のような衝撃、・・春雷。

風に舞う桜の花びら。

 

ここから俺が始まる。

先ずは、千冬姉にトレーニングをつけてもらう。

勉強も頑張る。

きっと、楽しくなる。俺が俺になれたのだから。

 

俺の温かな場所、≪日だまり≫を守りたいから。

 

 




米津○師さんの曲を聞いて、ふと書きました。
そう言えば、簪ちゃんの武装ってこんな名前だったな・・。
風呂で構想を考えて、上がるとすぐさま打ち初めて、
気が付いたら書き上がってました。

まぁ、拙い文章ですが良ければどうぞ。
では、またどこかで。
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