Twilight〔Never〕   作:すいか4839

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憂鬱、そして昼休み

 

 物を二階へ運ぶのは、たった一度で済んでしまった。

 

 

私の部屋は庭に面した西側の寝室だ。

 

なつかしい。

 

フローリング、薄いブルーの壁、窓には黄色いレースのカーテン。

 

学習机と父が置いてくれた中古のPC以外は、子ども時代のまま。

 

赤ちゃんのときからあるロッキングチェアは、今でもすみっこに置いてある。

 

 ひとりでいると、気が楽だった。

 

 

神東高校の生徒数は、たったの357人。

 

夕闇市の学校では2年生だけでも700人以上いた。

 

ここではみんな一緒に生まれ育って、おじいさんおばあさん同士も幼なじみだったりする。

 

 

 私がいかにも夕闇出身の女の子って感じだったら、それを武器にできたかも。

 

大都会で太陽をたっぷり浴びてきたくせに色白で血色があまりない。

 

昔からスリムな方だけど、なんとなくぷよぷよしてるから体育会系じゃないのはすぐに分かる。

 

運動神経なんかゼロ。

 

 さらに人づきあいが苦手、ときている。

 

友達らしき人はいても、私はいつもみんなに距離を感じていた。

 

それに、ひとりが好きだった。

 

 

 とにかく、生徒数3000人の学校ですら居場所を見つけられなかったのに、こんなに小さな町の学校でそんなチャンスが巡ってくるというのだろう。

 

 

 学校は、少し距離があったがすぐに分かった。

 

父が手続きを済ませてくれたので、事務室で時間割をもらって教室へ向かう。

 

 

 先生は、簡単にクラスに紹介して後ろの方の空席に行かせてくれたけど、それでも、みんな振り返ってこっちを見てる。

 

 終わりのチャイムが鳴ると、ひょろっとした男の子が向こうの席から身を乗り出して話しかけてきた。

 

 

 「きみさ、白鳥玲でしょ」

 

周囲三列内にいる全員がこっちを振り向いた。

 

 

 来てそうそう話しかけられるとは思っていなくて、少し身構えてしまう。

 

なんか、サッカー部にいそうなタイプ。

 

 「次の授業、案内するよ。僕は福本有希」

 

 「うん、よろしく」

 

 

 

 

 午前中が過ぎ、勇気のある子がたまに話かけてくれていた。

 

隣の席の女の子は昼休みに食堂まで一緒に行ってくれた。

 

小柄で、黒髪の癖っ毛に愛嬌がある。

 

 最初の授業の後に話した福本有希が、向こうから手を振ってる。

 

私が降り返そうとしたとき、“あの子たち”に気付いた。

 

 

 私たちが座っているテーブルから一番離れたところにいる。

 

男女の5人組。

 

話はせず、食事もしてない。

 

それぞれ手つかずのものが乗っかったトレイを前にしている。

 

 3人いる男の子のうち、一人は筋肉質で、黒髪。

 

もう1人は茶色っぽい髪で少し長め。

 

最後の一人は細身で、他のふたりは大学生と言っても通用しそうなくらい大人っぽいのに対して、彼は少年っぽい。

 

 

 女の子二人はまるで対照的だった。

 

背が高いほうは彫刻みたいで、抜群のスタイル。

 

水着のグラビアに載りそうな感じで、長い髪が波打っている。

 

背が低い方は中性的で、ベリーショートの髪があっちこっちを向いている。

 

 

 5人とも、色白で、顔立ちのどこをとっても完璧で、修正を施したファッション誌のように美しい。

 

 「あの子たち、いったい…」

 女の子が、誰のことかと視線を挙げたとき、突然、ひとりがこっちを見た。

 

 

 

 やせてて、少年ぽくて甘いマスクの男の子。

 

 

ほんの一瞬、私のとなりの子を見て、その深い色の瞳が私のほうへちらりと揺らめいた。

 

あたふたしてすぐ下を向いたけど、視線はすっとそれた。

 

 

こちらを見たほんのわずかな瞬間の表情には、これっぽっちの興味も浮かんでいなかった。

 

名前を呼ばれて思わず顔をあげたけど、最初から答えるつもりはなかったって感じ。

 

 

 

となりの女の子は、私とおなじように下を見たまま、恥ずかしそうにくすくす笑ってる。

 

 

「あれは黒川ティムと黒川大樹、あと島田翼と島田愛、先に行っちゃった子は黒川アリス。

 

みんな医者の黒川先生と一緒に暮らしてるの」

 

彼女は小声で教えてくれた。

 

 

 あの美しい男の子を横目でとらえた。

 

自分のトレイだけを見つめて、白くて長い指でベーグルを細かくちぎっている。

 

そして完璧な唇をほとんどあけずに、ものすごいスピードで動かしている。

 

ほかの3人はそっぽをむいたまま。

 

それでも、彼がみんなにひそやかに話しかけているように感じた。

 

 

 

やっと、隣の子は由香だと思い出した。

 

ありふれた名前。

 

前の学校では知り合いに ゆかって子が5人もいた。

 

「すごい……えっと、美男美女ぞろいなんだね」

 

なんとかひねりだしたけど、そんな言葉じゃとても追いつかない。

 

「でしょ!」

 

由香はくすくす笑いながら認める。

 

「でも、みんな相手がいるよ。

 

大樹と愛、それに翼とアリスがつきあってて、しかも一緒に住んでるの」

 

その口調には驚きと非難がにじんでる。

 

田舎町はこれだ。

 

でも正直なところ、たとえ夕闇でも、それじゃうわさの種になる。

 

 

「黒川って苗字なのはどの子たち?」

 

ときいた。

 

「血がつながってるようには見えないけど」

 

「つながってないだもん。

 

 

 

 

 

「黒川先生はすごく若くて、20代か30代前半だと思う。

 

みんな養子なの。島田は双子のきょうだい。

 

あの茶髪の2人ね。

 

あの子たちは里子で預かってもらってるんだって」

 

「里子にしては、ちょっと大きいんじゃない?」

 

「今はもうね。

 

翼と愛は18歳だけど、8歳の時から黒川先生の奥さんのところにいたの。

 

奥さんは伯母さんかなにかだって」

 

「みんなずっとこの町に住んでたの?」

 

これまで私が夏に来た時には一度も見たことがなかった。

 

「まさか」

 

いくら新入りだって見ればわかるでしょとばかりに由香が言った。

 

「2年前に引っ越してきたばかりだよ」

 

同情と安堵がわきあがった。

 

同情したのは、どんなに美しくてもあの子たちはよそ者で、

 

あきらかにこの学校では受け入れられていないから。

 

みんな彼らのことは遠巻きにしてる。

 

ほっとしたのは、ここでは新入りは自分だけじゃなかったから。

 

どう見たって私は一番の注目のまとじゃない。

 

しげしげ見ていると、黒川兄弟のひとりが顔をあげて、また私の視線をとらえた。

 

 

 

今回はまちがいなく、好奇心をもってる表情。

 

私がさっと視線をそらすと、相手の瞳にはどこか不満げな色が浮かんだ気がした。

 

「あの赤みがかった髪の男の子はだれ?」

 

ときいてみた。

 

横目でちらりとチェックすると、まだこっちをじっと見てる。

 

でも、私が転校生だからまじまじと見るわけじゃなくて、ちょっとむっとした顔つき。

 

 

「あれは黒川ティム。

 

たしかにすごくステキだけど、時間のむだ。

 

あの子はだれともデートしないから。

 

自分につりあうだけの美人なんてここの女子にはひとりもいないんでしょ、きっと」

 

 

由香はふんと鼻で笑った。

 

あきらかに負け惜しみだ。

 

彼女はいつフラれたんだろう。

 

唇をかんで笑いを抑えた。

 

それから、もう一度、あの子を見た。

 

顔はそっぽをむいていたけど、ほほがゆるんだように見えた。

 

一緒になって笑ってるみたいに。

 

 

 

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