転生オリ主だけど一夏がホモだった   作:ニコウミ

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雑な文だね、知ってる。

今回のIFは“ユウキが一夏より前、マドカに出会っていた”ってお話よ。

短いよ(小声)


第14話

 始まりは些細な事だった。

 武川結城と言う男がこの世に生を産まれ、物心がついた時には銃を握っていた。何故、銃を握って。何故、人を撃っているのか。そんな理由は知りもしない。そうしなきゃならないからそうしたまでで。そこに理由を求めたことはない。やれと言われたからやって。やるなと言われたからやらなかった。

 最初はテロリスト。次は軍人。次はホームレス。次はなんだったか。特に目的もなく町をさ迷い。夢を見ずに現実も見なかった。

 

 ある時、テレビに映ったISと言う存在に。何故だか分からず惹かれた。現実から離れたその存在に自分と似たような感覚を抱いたからなのか、そんなことは自分にも分からない。ただ、惹かれた。偶然が偶然を呼んで、武川結城はISと言う存在を見付けてしまった。海の倉庫で釣りをしている時、ふと倉庫を覗いたらあったから、触ってみただけだ。起動出来たから何があったと言う訳でもない。

 あぁ、そうか。

 抱いた感覚はこれだけ。

 

「ッ!?」

 

 そして何故か設置されていたバナナの皮を踏み、頭から海に飛び込んだ。

 

「しまった!! スコール!! 遊び用のバナナの皮に誰か引っ掛かったぞッ!!」

「あんな見え見えの皮に滑るとか才能あるわね……マドカ! 助けなさい!!」

「大丈夫か!? この蛸糸に捕まれ!!」

「ちょ……痛ッ!? なんで蛸糸なんだよッ!? 痛いわッ!? もっとロープとかあんだろうがァ!?」

「ロープ……!? そうか、これがあったか!! 受け取れ!!」

「まるまるロープを投げんな馬鹿かッ!? 溺れている状況でロープ一本渡されてどうしろとッ!? そう言うのは片方をお前が持つんだよ!?」

「持つ……?」

「持っただけで止まんなよッ!! 投げろよッ!?」

 

 ―――こんな出会いだったのはご愛敬だ。

 スコールと言う女に才能があると雇われ、武川結城はホームレスからテロリストに返り咲く。亡国企業と言う。実にアホらしい組織に。

 マドカと呼ばれた女の子に人工呼吸されて、一目惚れしてしまう。人生最低で最高の思いを抱いてしまったのも。きっと武川結城が、この時に人を取り戻したからだろう。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 亡国企業は基本的に、自由だ。

 本当に自由だ。テロリストらしい作戦はあるものの、内容はその場で判断してなんとかするとか言う適当具合。だと言うのに未だ逮捕者や死亡者がいないのは、個人の能力がずば抜けて高い性だろう。

 

「あー……こちらはユウキ。マドカ、ルビーの石像はどうだ?」

『こちらマドカ。今髭を描いた』

「書くなよ、盗めよ。盗めよ」

 

 本作戦は、イギリスの博物館に展示されているルビーの石像を盗むことだ。作戦に導入されている人物は俺とマドカの二名。かなりの少人数だ。二人で世界最高峰の警備システムを潜り抜けて盗むなど、並大抵の作戦では無理だ。

 

『おいユウキ!!』

「どうした、警備に見付かったか!?」

『ミイラがあるぞ!!』

「素直に博物館楽しんでんじゃねぇよタコッ!!」

『こ、これは……』

「……なんだよ」

『ミイラのチン○だ……』

「ぶっ飛ばすぞ貴様ッ!?」

 

 マドカが妙に騒いで遊び回っている。なんでここまで騒ぎながら警備に見付からないのか不思議でならない。本人は兎も角、スキルが高いのが幸いなのか。

 

『ミイラにチ○コなんかあるんだな……』

「元は人間なんだからあるだろうよ……はぁ……で、ルビーの石像はどうしたんだよ」

『いま猫耳を付けた』

「よーしマドカ。そう言った遊びは盗んでから好きなだけやれ。俺が許す」

『本当に?』

「あぁ」

『ぜったい?』

「あぁ」

『じゃあ盗む』

 

 甲高い警報が鳴り響いた。

 

「なにしたお前ッ!?」

『盗んだだけだが?』

「引っこ抜いたな!? 警報も切らずに素手で引っこ抜いたなッ!?」

『勿論だが?』

「なんで自信満々なんだよ馬鹿ッ! もうっ…もう馬鹿ッ!! さっさと逃げろ!!」

 

 博物館の目の前に聳え立つビルから博物館を監視していた俺は素早く双眼鏡を仕舞い込み、スナイパーライフルのスコープを覗き込む。ライトがマドカの姿を映そうと探し回っていることを確認すると、ライトを撃ち抜く。

 

『お、おいユウキ!!』

「さっさとISを起動させて逃げろ!!」

『IS忘れたッ!!』

 

 頭を地面に打ち付けた。

 

「忘れたってなんだよ!? 忘れる物じゃないだろうが!?」

『整備途中だったんだ。しまったな、どうやって逃げようか……』

「ISを整備途中だったお前がなんで作戦に抜擢されんだよ!!」

『それは当たり前だ。ルビーの石像は個人的に欲しかったからな』

「……え? これ企業の作戦じゃないの?」

『私の作戦だ!』

「……欲しかったの?」

『うん』

 

 頭を抱えるしかない。自由な企業だが、あまりにも自由でアホの娘に言葉が見付からない。どうして自分はこんな娘に惚れてしまったのか。自分でも分からないことに呆れながら、ユウキは最後のライトを撃ち抜く。

 再び暗闇に変わった博物館を見ながら、スナイパーライフルを分解し、リュックに仕舞うと、真上に仕掛けていたワイヤーにフックをかける。

 

「今からそっちに行く。Dの出口に車が置いてある。三秒後に通信妨害をするからな」

『分かった。ふっ!』

『ぐぁ!?』『こいつ速いぞグフッ!?』『ぐぎゃあ!?』

「……三秒。通信を妨害した。敵は?」

『殲滅した。今から行く!!』

 

 四十階の屋上からワイヤーをつたり地面に滑り降りていきながら、ホルダーからハンドガンを引き抜き、ガラス越しに見える警備員を撃ち抜く。二発、三発とスタン弾の電気に悲鳴をあげ地面に倒れ込む警備員を横目に、地面に転がり、着地する。

 警備員が此方に気をとられている隙にマドカは逃げるだろうと予想しながら、止めてある車に向かって走る。

 

「おいマドカ、どうだ?」

『大変だユウキ! DがdでBがbだ! dがBなのか!? bがDか!?』

「ややこしいわッ!! 丸が左に付いてるのがDだっ!!」

『わかんない!!』

「もうっ……もうっ馬鹿ッ!! 馬鹿ッ!! 向かいの窓から飛び降りろ、受け止めてやる!!」

『それなら容易い!』

 

 マドカが飛び降りやすいように、腰につけた二つのハンドガンを引き抜き、円形を描くように窓を撃ち抜く。コルト・ガバメントの最新式は防弾ガラスと言おうが穴を開けることが出来る。

 丸形を描くように開いた穴の真ん中に。

 

「――――とおっ!!」

 

 黒髪の馬鹿で愛している奴がガラスをぶち抜きながら、三階から飛び出してきた。器用に身体を捻り、背中を向けて落ちてくる。その小柄な身体を、ユウキは両手を広げて受け止めた。

 端整な顔付き。肩程の艶やかな黒髪。挑戦的に笑う不敵な唇。

 ユウキの首に手を回し、姿勢をただして地面に立つ。

 

「ほら、楽しめたか?」

「たった今に満足した」

「そうかい、んなら行くぞ!」

 

 マドカの腰に手を回しながら、庇うように抱えて後方に向かって銃の引き金を引く。隠れていた三人の警備員が地面に倒れ込むのを確認しながら、ユウキとマドカは車に向かって走り出す。

 入り口付近に停めていたシボレー・インパラに乗り込み、キーを差し込む。素早く一速に変え、アクセルを踏み込む。

 

『―――博物館に窃盗犯が出没。現場の警官は直ちに急行してください』

 

 後方に置いてあった警察通信の盗聴機から英語で通信が流れる。それを聞きながら二速と段々速度を上げな、車を避けて道を走り抜けた。そして横にのんびりと座りシートベルトをはめる諸悪の根元を横目に見つめる。

 

「で、ルビーの石像は?」

「ふふん! これだ!」

 

 マドカが袋から取り出したのは女神をルビーで象った石像。猫耳がつけられ、髭がかかれ、スク水を着せられた見る影もない石像をただ呆れた目で見つめ、小さく頷く。

 

「で、帰るか?」

「折角イギリスに来たんだ。自由の女神を見て帰ろう」

「イギリスに自由の女神はねぇよ」

「ッ!?」

「……時々、俺はお前がマジで心配になるんだ。イギリスって言えばテムズ川とかバッキンガムとかだろ」

「ふむ……まぁ良く分からんからお前に任せる」

「はいはい」

 

 適当に受け流し車をただ走らせる。

 ふと、時計を見た。日付は十月の九日。気が付けばマドカに出会ってから数年の月日が経っていた。

 確かにマドカは馬鹿で面倒くさくて粗暴で良いところをあげるなら顔しかない。だが、俺はそんなマドカに惚れてしまっている。

 

 そろそろ次の関係に踏み出して良いのかも知れない。

 突拍子もなくそう思った。

 

「なぁ、マドカ。俺達ってどうかな?」

 

 まずは当たり障りのない質問からだ。落ち着け、クールになれ。ちゅきでしゅ(ピュア感)を現しても失敗するだけの未来だ。

 

「……んにゅ」

「あぁそうだよね。任務終わったら眠いもんね。良いよ、うん。眠りなさいよ」

 

 人が勇気をだしたと言うのにこれだ。

 どうして俺はこんな女に惚れたのだろうか。

 こんな。

 可愛くて綺麗で護りたくなるような容姿で。時たまに見せる優しさは兎に角可愛くて。なんかもう可愛くて。

 

 ん? 可愛くてしか思い浮かばねぇなこれ。

 

「……俺って別にマドカに惚れてないのか?」

 

 綺麗な女の側に居るという優越感的な物しかマドカに感じてないのか。それは、どうなのだろうか。マドカはマドカらしく自由に生きてきている。それを俺が勝手に縛り付け、束縛するのもどうなのだろうか。

 悪いことなんじゃないだろうか。

 マドカに惚れているのか惚れていないのか分からない曖昧な想いのまま、マドカの側に居る資格があるのだろうか。

 

 

 一度。真面目に相談してみよう。

 

◆ ◆ ◆

 

 

「死ねば良いんじゃ無い?」

 

 我が上司ことスコールさんに相談してみた結果、痛烈な言葉が返ってきた。

 

「いやいやスコールさん。俺はマジで考えてるんですよ。例えばマドカに交際を申し込むじゃないですか。そうしたら就職とかマイホームとか色々考えることがありましてね」

「彼氏彼女に年収やマイホームを考える恋愛感はなんなの?」

「付き合うならそれくらいが普通じゃないですか」

「あぁ、うん……じゃあ付き合えば?」

「でも俺はマドカを可愛くて綺麗で護りたくなるような性格としか見れないんですよ……それってマドカを愛してるって言います?(真顔)」

「……」

 

 何とも言えない微妙な顔をされた。何か間違ったことを言っただろうか。いや、多分だが俺の甘過ぎる恋愛感に呆れているんだ。やはりこんな浅い考えでマドカを好きと言ったのは愚かだったか。

 

「マドカを愛するには俺の覚悟が足りないのか……ッ!」

「いや。うん……なに。私って貴方の無表情を治すために色々やったじゃない? 多分ね、あれがイケなかったんだよね。大丈夫。間違えたのは私よ」

「スコールさん、俺、自分探しの旅に出ます」

「待って、待って待って待って。待って。お願いだから。ぶっちゃけ言うとマドカを操れるの貴方しか居ないから居なくなられると凄く困る。正直マドカのクビを考えないと」

「え? マドカを養え?(難聴)」

「あ、大丈夫ね。うん。良いわよ、自分探しの旅でも行ってくれば良いわ」

 

 雑に手を振り興味が失せたようにドリフターズを見始めるスコールさんに俺は渾身の土下座を決め込み、部屋から飛び出る。覚悟が足りないのならば見付ける旅に出るしかない。

 エレベーターに乗り込み、組織の地下にある大型ボートを入水させる。目指すはスイス。理由は無い。何となくスイスに行くべきだと思ったから行くのだ。自分探しの旅に出るには、きっとマドカから離れなければならない。

 

「マドカ……俺は少し」

 

 ――プルルルと懐に入れていた携帯が震える。懐から携帯を取り出すと画面には『馬鹿天使』と書かれていた。直ぐ様に通話ボタンを押そうとしたが、押し止まる。

 

 まてユウキ。クールになれ。ここで通話ボタンを押してしまえば。

 

『お腹減ったー』

 

 あ、無意識に通話ボタン押してましたわ(すっとぼけ)

 

「お腹減っただ? 冷蔵庫にスパゲッティ作って置いてあるだろ」

『冷凍されたスパゲッティを解凍して食べるとマズい。つまり食べたくない』

「いやあのな……食い物くらいは自分で食べろよ……ほら、戸棚に俺の財布があるからデリバリーでなんか頼めな」

『やだ。ユウキのご飯が良い』

 

 やだ可愛い。

 

「あっそう。じゃあ今から作りにゲフンゲフン……いや、悪いが俺は作りに行けない。今から旅に出るからしばらく会えないだろう。悪いな」

『……ぇ』

「いや嘘。旅になんか出ない。今から飯作りに行くわ。よーし、お兄ちゃんハンバーグ作っちゃうぞー!」

 

 そんな可愛い声を出されては動くに動けないだろう。

 

 

 

 こうして今日も俺はマドカに甘過ぎる生活を送っていく。それが良いか悪いかは分からないが。それでも幸せだ。

 

 

 俺が、マドカに出会わなかったら、一体どんな人生を歩んでいたのだろうか?

 

 

 まぁ、考えてもしかたない話だ。


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