三話で御送りする。今回はプロローグだから短い。
修行が必要だ。
'俺はISに関してはド素人も良い所、例えるならアンバーに会う前の黒い契約者みたいな、ツェペリに会う前のジョナサン。あの日本の野球界を盛り上げるまーくんと高校時代、激闘を繰り広げたと言う伝説のハンカチ野郎みたいなポジションにいるのだ。つまり、俺は至急すばやく訓練を行わなければならない。
「遅いぞゆうちゃん!」
「お、おう。待たせたな」
このミッションインポッシブル(箒のドキドキデート大作戦)を生き残りな。
目の前にいる箒は至って普通、ポニーテールにショートパンツ。ラフなシャツにカーディガンを羽織った洒落乙な格好の美少女である。だが中身はちょっと病んでるメンヘラ気味な女の子! 今日は恋する俺とのデートにウキウキな気分だぁ!
こんなキャッチフレーズを思い浮かべてないとやってられないよね。
「ゆうちゃん、今日の……そ、その。デートコースは何処に行くんだ?」
「あ、あぁ……水族館とショッピングに行こうかと思ってるんだが、どっちから先に行きたい? 」
平凡だとか馬鹿にされるかも知れないが童貞にロマンチストを求めたらロマンチェストになりかねない危険があるのだよ。バイクの免許があるのでドライブも考えたが、俺のリア充スキルでは閉鎖空間の会話なぞ一分も持たんわ。
「水族館が良いな!」
「そっか、んなら行くか」
「あぁ、楽しみだ。昔は一夏とゆうちゃんと姉さん、千冬さんの四人で良く行っただろう? 昔からゆうちゃんはペンギンを怖がってた」
「皇帝ペンギンを俺は皇帝だと思ってたからな」
「今思い返せば結構残念な子供だったな」
イケメンの一夏、美少女の箒、ノッポの結城とかアダ名もあったな。ノッポって、言いたいことが分からなくもないがもうちょっと良いアダ名が合っても良いような気がしないでもない。今じゃホモの一夏にメンヘラの箒にノッポの結城だ。変わらないって素敵やん 。
「ゆ、ゆうちゃん」
「あい?」
「手を、繋いでも良いかな?」
遠慮を含めながら言う箒は顔を赤面にし、照れながら言う。可愛い。
断言してやろう、可愛い。
俺はその辺のラノベ主人公とは違う。素直に美少女は可愛いと思うし、相手の好意にも鈍いつもりはない。可愛いんだよ、箒は。
「……あぁ、デートだしな。良いぜ」
「本当か!? じゃあはい!」
そして金属音を鳴らしながら俺の腕にはまる手錠。ピンクの装飾が可愛いね。アホか。
そのまま何事も無かったように箒は自分の腕にも手錠をはめると、実に嬉しそうに俺の腕に抱き着いてくる。
「今日一日、ずっとだからな!」
やっぱ人間。顔より性格だと悟った十八の休日です。
◆ ◆ ◆
「私楯無は姉である。姉と言っても義理に近い血の繋がりなどは悲しいことに無いのだが、一概に家族と言う定義を思慮深く考えれば、従来、私達は血に拘る時勢は過去であり、現世は世界は血に拘ることなどあまりない。そもそもキリストやザビエルだって愛は見えないとか言ってるし法律だって義理は結婚出来るし。血の繋がりとは何かなんて哲学的に考えるならどうでもいい。つまり、私、楯無は結城の姉である」
独りでに呟くと周りにいた小学生が身を引いて逃げていく。その背中を見ながら、私は遠くの噴水前で手を繋ぐ二人の姿を双眼鏡で捕えた。
「会長。なんで私達がこんなことを?」
「不純異性行為を止めるのは会長の仕事よ。もっと健全な姉好きの結城を取り戻すために、この本作戦をデート・オア・ブレイクと名付けることにする。この本作戦の内容は…」
「いや名前聞けば分かりますよ。突っ込みたい所は多々ありますが……まず、大丈夫ですか会長?」
「手錠……! そう来たか女狐……鴉の恐ろしさをその身に叩き込んでやろう……行くわよ」
「何処のレイヴンですか……」
頼れる副会長を置いて、私は経験を元に二人の尾行を続ける。
間違いない。結城はあの塵取り女とのデートを心の其処から楽しんでいないのだ。あのひきつった笑みを見れば分かる。結城があの扇のボタンを押してくれれば直ぐにでも邪魔出来るのに。
「さて、どうやったら邪魔出来るかしら」
「……会長が男取られた女みたいになってる」
「はい? なんか言った?」
「いえ。それで、具体的にどうするんですか。何も案がないなら帰りますけど。と言うか案があっても帰りますけど」
「第一の作戦。乱入よ」
「もう見境ないですね」
「でもこの作戦には、結城からのお姉ちゃんってデートに乱入する非常識な女だねなんて印象を植え付けないから却下よ 」
「あ、非常識なのは理解してるんですね」
あくまでシンプルにデートを破壊する。それにはまず、結城に気付かれずに接近し、対象を攻撃する必要があるのよ。
「ここで役に立つのが扇に仕込んだ電話よ」
イヤホンを胸から取り出すと、その音量をあげる。
『やべぇ、なんだあの人、やべぇ』
『ファッタスティックだな』
「聞こえる雑音から間違いなく盗聴ですよね。なにやってんだテメェ」
後ろの五月蝿い女を無視して私は耳にイヤホンをつけると、町中の大道芸を見ている二人を視界に入れる。端から見ればデートその物だ、許さん。
「良い? 虚。第二の作戦、バスも電車も動かなくてデートに行けない作戦よ」
「色々と世間的に不味い作戦ですよね、休日にそんなこと出来ませんよ。と言うか犯罪ですよ、盗聴も 」
「楯無の力――――――舐めないでね」
「なにやったんだアンタ」
目を細める虚を無視して私は双眼鏡を覗き込みながら、電車に乗り込もうとする二人を視界に捕える。
さぁ、本作戦の開始だ。私は携帯電話のコールキーを押し込んだ。
『さて、水族館行きの電車は………全部止まってる!?』
『ただいま、電車は、動けません。電子掲示板にしては簡易な説明だな。なんで電車が止まったんだ?』
『まいったな……ちょっと駅員さん! なんで電車が止まってるんですか!?』
『五月蝿ぇッ!!』
『えぇッ!?』
『お前が……お前が悪いんだよッ!?』
『な、なんで………?』
本作戦は成功である。
「会長、何をしたんです?」
「ちょっとお話しただけよ。安心しなさい……さぁ、作戦は次の段階に入るわ。このままデートを行けない二人をさらに足止めする為に、私達は…」
『お、レンタカーがあるじゃん』
「ッ!?」
予想外な言葉に私は双眼鏡を再び覗き込む。
すると、結城は駅の前にあるレンタカーに足を運んでいた。ば、馬鹿な。十六才である彼が車の免許など持っているはずが無いのに。
「武川結城さんは空手の試合で必要以上の暴行を与えた理由で中学校を中退している経歴があります。確か……二年間は無職だった筈です。つまりは十八歳。車の免許は取れますね」
「う、嘘だッ!? 結城の初ドライブは姉である私の物なのよ!?」
「突っ込むところ其処ですか」
「あんな女狐ごときに奪われるくらいならば、私があのレンタカーに引導を渡してやる……」
「ち、ちょっと会長ッ!? 市街でのISは禁止ですよ!?」
「やめろオオオオオッ!! 放せぇッ!?」
「口調!! 口調ッ!?」
「今すぐに電車を動かしなさい!!」
電話口に叫ぶと駅から先程の駅員が飛び出してくる。そして続々と駅員が結城の周りを囲み始める。
『逃げ道を塞げ!!』
『な、なにこれッ!? なに!? なんで囲まれてんの!?』
『電車は動きました!! 電車は動きましたよォォォッ!?』
『は、はいッ!?』
『今なら、む、無料で貸しきりですッ!』
『公共規定はッ!?』
そのまま駅員に捕まれ、半場無理矢理に電車の中へと押し込まれると、結城を乗せた電車が素早く発進する。
「イァエッ!! ミッションコンプリート!!」
「会長……あの、割りとマジで帰って良いですか?」
「しかし、二人が順調にデートに出てしまったのは誤算だわ。でもね、甘いわ。まるで上等な料理に蜂蜜をぶちまけるが如く甘いわ。これよりコード2、ミッションインポッシブルを開始する」
「そのサングラス何処から出したんですか。と言うか凄く聞きたくないんですけど、その、作戦内容は?」
躊躇しながら聞いてくる相棒に私は口元を釣り上げると、ISの部分展開でハンドガンを取り出す。
「簡単に言えば顔を隠した私がハイジャックで私がハイジャックから弟を救いだすお姉ちゃん」
「もう訳分からないですよね」
「私のポケットマネーで全部なんとかなる範囲内の作戦よ。心配はいらないわ」
「電車より頭が心配です」
ハンドガンのコイルを覗き見ながらイヤホンに耳を集中させる。そろそろこの目の前の駅に到達する筈なんだけど、少し遅い。
『ゆうちゃん』
『ほ、箒。あんまり抱き着くなって』
『う、うん……ちょっと恥ずかしいなこれは』
『……え?これで恥ずかしいのになんで手錠はノーカンなの?』
己、いちゃつきやがって。
「ぶっ殺してやるッ!!」
「市街で叫ばないでください」
「あと三十秒で来るわ、虚、銃を構えなさい」
「嫌ですよ」
「ッ!?」
「そこで驚かれても」
「じゃ、じゃあ!? 私は誰のテロリストを殴れば良いのよ!?」
「知らねぇよタコ」
ば、馬鹿な。これがミッションインポッシブルか。
あと三十秒でどうすれば良いの。
『手を上げろォォォッ!! 』
『う、うオオオオオオッ!? なにこれッ!?』
『余計な真似をしたらぶっぱなすぞッ!? 床に伏せやがれェェェッ!?』
何故かまるでハイジャックにあったような騒がしい声に、響き渡る銃声。それを聞きながら虚が呆れたように溜め息を吐いた。
「会長、ちょっと準備してるなら早く言ってくださいよ」
「私は準備なんかしてないわよ」
「……はい?」
モノホン来た。