とある科学のハードミサカ   作:イェス

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三章 砕けるは緑色の硝子玉

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夜空は分厚い雲で覆われていた。

星どころか月さえ見えない空は、まるで目隠しをされた様に不安を掻き立てられて仕方がない。

 

「愛い。今日も愛子(ダーリン)警備員(アンチスキル)に怒られてるのね。」

「これ、楽しいか?」

 

私は対戦車用のライフル越しに一方通行(いとしご)を盗み見ていた。家を抜け出したのか、コンビニを出た途端に母猫が子猫を掴むように、保護者となっている黄泉川愛穂という女性の警備員(アンチスキル)が首根っこを掴まれている。

その中で、視界の済で黒服の男を発見する。その男ははニャルラトホテプにしてはブサイクな顔で笑う。

 

「ターゲットを確認。」

「どこだ。」

「右手側の角。重力漕手(グラビティキー)を。」

「おうよ。」

 

銃弾に重力をかけてもらい、それを計算した上で弾丸を放つ。

ヒットしたが、倒れる様子はない。

黒服の男がこちらを見たと思うと、それなりに早い速度でこちらに向かってきた。

それに合わせるかのようにお兄ちゃんが踵落としをキメるが軽く受け流されてしまう。

 

「あぁ、愛しの君。」

「愛しの君ぃ?何気持ち悪いこと言ってくれちゃってるの?あなた、()()ニャルラトホテプじゃないわね?誰?」

「何を言うんだい?僕のことを忘れただなんて!君を救いたいんだ!こんなに君を愛してるのに!あんな奴が居るから!」

「うっさいわね!愛し子(ダーリン)に何しようっての?」

「君は黙って王座に座ってればいいんだ!お前たち!」

 

男のコールがひびきわたると、路地裏からはエグい腐敗臭とうめき声がだんだんと近づいてくるのがわかった。

歩く死体(ゾンビ)だ。

 

「あっは!おもしろいわねぇ‼あなた本当に偽物だったってわけぇ!へへ、はは!ぎゃははははは!!

貴方が私の事を思ってくれる貌なら、こんなことするわけ無いわ!馬鹿ね、どうせどっかの他の化身に遊ばれたんじゃなくて?」

 

ゾンビ達はよたよたと歩きながらこっちに向かって来ようとする。

腐敗が進んでいるものが多く潰すのなら簡単に潰せてしまうだろうが、そんなことする必要もない。

相手がただの人間だとわかりきった以上、その道具たちを利用してやろうじゃないか。

 

地球(ホシ)より魔力を抽出。」

 

筋電多関節人工尾(カスタム・ドラゴンテイル)の先をビルにに突き刺せば、地脈や龍脈を無視して魔力を取り出す。たとえそれがビルの上であっても。

 

「輝ける星よ。煌めく生命よ。抱擁せし慈愛よ。」

 

筋電多関節人工尾(カスタム・ドラゴンテイル)の先からどんどん大きな魔法陣が広がっていく。

不自然な月明かりの影が模様を幾重にも幾重にも生み出していく。

 

「祝福を!確かなる祝福を与えよ!」

 

影はやがて光り輝く杖、いや指揮棒となって私の手のひらに吸い込まれるように納まる。

 

従え、我こそ地獄の神なりて(コール・オブ・オーナー)サルワーレ(塵に還れ)!」

 

魔力を練れないなら、地球から吸い取ればいいじゃない。

私が魔力を練れない理由は単純に、魔力の生成方法が違うからだ。それならば地球に巡る魔力を拝借してしまえばよいのだ。

 

「星の魔力を!やはり愛しの君はできる神ってわけだね。」

 

チリになっていくゾンビ達を横に、その男は私に触れた。

 

空間がブレる感覚とともに、この意味を完全に理解する。

空間移動(テレポーテーション)

 

「おのれぇ!」

「さぁダンスを踊ろうか。」

 

・・

 

意識の暗転は直ぐに治り、脳が辺りを見渡すようになれば、大きな空間だった。

豪奢であるが、質の薄いまるで金メッキのような装飾品。偽物だらけの骨董品。

 

そこには黒髪の少女が驚いた顔をしていた。

そして緑色の髪の男が冷たい眼差しを私に向けてきた。

 

「ご苦労だった。死ね。」

 

緑色の男がそうつぶやくだけで、ニャルラトホテプが死んだ。死んでも人の姿をとどめている以上偽物だったのだろう。

 

「簡単に殺してしまうのね。あなたが第一位にちょっかいをかけていた組織のボスってやつ?」

「そうだ。貴殿を呼び込むためその男からの提案だ。」

「やめてほしいわね。」

「当然。しかし、全てそちらで処理してしまっただろう?こちらとしてはもう貴殿と出会ったのだ。その必要はもうない。」

「そう。なら何をさせようっての?」

 

目の前の男は、アウレオスと名乗った。そして私をある机の前に誘導していく。

そこにはインデックスがいた。

 

「この子を、どうしろと?」

「彼女は禁書目録(インデックス)。膨大すぎる脳の情報量のため、一年ごとにすべての記憶を消さねばならない。」

「それで?」

「永遠なるものよ。無限の記憶を維持する術を授けてほしい。」

 

あぁ、彼は昔のパートナーとやらなのだろう。

 

「一つ、貴方に良いことを教えてあげましょう。私は一度、何も知らない赤子に約千年の記憶と四十億年分各地で集められた情報を脳みそに叩き込んだことがあります。」

「な。」

「赤子の脳はそれでも機能して生きましたよ。まぁ、先天的な病気で病死しましたが、それと記憶は何ら関係のないこと。脳を甘く見過ぎですね。」

 

眠っているであろうインデックスの髪を撫でれば、ゆっくりとインデックスが目を開ける。

 

「うん?あれ、ミサカ?」

「知ってます?彼女は一年前の記憶をきちんと持っていますのよ。」

 

開け放たれていたこの部屋のドアの向こう側に炎の魔術師と当麻を見つける。

私を見つけたのか、驚いた顔をする二人はすぐにこの部屋に入ってきた。

 

「貴殿、それはどういう?」

地球(ホシ)より魔力を抽出。願え、祈れ、信仰せよ。我が本質は宇宙なりて。」

 

私の存在が部屋一体に広がって、その空間が私となった。

誰もインデックスに手出しできないように。

変態が生き返ることのないように。

 

「あなたの目的は、インデックスの記憶容量の拡充。しかしそれをする必要はもうありません。」

「する必要がない?」

「インデックスの一年周期は約先週ほど前です。なぜ私がそれを知って、穏やかな気持ちでここに立っているのかわかりますか?」

「………なに?」

「なぜ、一年がたったにも関わらず、科学の本拠地に彼女がとどまり続けるのでしょう?」

 

私の話に、当麻が炎の魔術師に突っつかれて徹底的な言葉を放つ。

 

「お前、いつの話してんだ?」

「こいつは今代のパートナーさ。こいつは僕たちがなし得なかったことを、やってのけたのさ。ほんの一週間前にね。」

 

アウレオルスは信じられないと、インデックスを見つめる。

インデックスは自身の状況がわからずにいる。自分を知る初対面の相手が、自身に馴れ馴れしく接してくるのだから。

 

「とうま!」

「インデックス、危ないから私のそばに。」

「でも、」

「みんな黙ってるけど、赤毛の魔術師は君を守るために君を攻撃してたツンデレさんよ。ツンデレの意味は当麻に教えてもらいなさい?貴方をこれ以上傷つけるどころか、守ってくれる人なんだから。」

「……そうなの?」

「内緒よ。隠してたい年頃だから。」

 

しー、と人差し指を唇に当ててやるが、赤毛の魔術師は、顔を赤くして「聞こえてるよ!」と喚いていたけど、聞こえるように言ってやったんだからね。

 

・・

一度だけスティルは聞かされていた。

この学園都市の統括理事長曰く、彼女は邪神だと。

なにより、僕たちからしたらありえないことだと思っていたが、現在の彼女を見る限り正しく彼女が邪神と呼ばれるのも致し方ないとそう思ってしまった。

 

ステイル=マグヌス。心を乱されるな、気をしっかり持たなくては彼女に飲まれてしまうぞ。

 

「インデックスは、あなたの事なんか知らないのよ?アウレオルスゥ。あなたが大好きな少女は、誰からでも愛されるような聖女(ヒロイン)ね。それ故、世界で立った一人の彼女の主人公(ヒーロー)にしか行為を向けないの。それはわかるでしょう?」

 

邪神は嗤う。そう表現するしかなかった。

悪で僕も笑われているかの様に、ひどく彼女の言葉が突き刺さる。

 

踊るように彼女はインデックスを自身の後ろに隠すように保護すると、止めの一言を口にした。

 

「残念ね、かつての主人公(ヒーロー)さん。あなたには何もできない。だってインデックスはもう救われたから。あなたじゃない人間によってねぇ!」

 

悪魔よりもゾッとする笑い声をあげながら彼女、邪神ミサカはただただ馬鹿にして嗤う。

 

「うぐううう!!!」

 

ヘイトを一番集めやすいようだけど、アウレオルス=イザードは上条当麻を睨みつけた。

気持ちは分からなくないが今彼を失うと一番悲しむのはインデックス。彼女の笑顔を守れるなら、上条当麻でさえも守らなければならない。

 

「倒れ伏せ!侵入者共!」

 

炸裂する怒号、しかし何も起こらなかった。

上条当麻の情報からして、なにか起こるとは思っていたけど何も起こらない。

 

「なに?」

「ごめんなさいね?あなたの魔術は封じさせてもらってるわけよ。」

 

邪神の笑みは変わらない。

 

「そもそも、アンタは私の愛し子(ダーリン)を狙って危険に晒した!あのねぇ?それだけでも立派な罪よ?わかる?私はそういう人間がだいっきらいなわけ。人間如きが私達みたいな存在を利用するとか、しかも利用しといて結果出せないとかおちょくってるわけ?え?未然に防げたけど、未然に防いであげたけど!わかる?アンタは死ぬの。私の手で惨たらしくね!ねぇ皆目を閉じて耳をふさいでいて?」

 

さっきだけで、僕も上条当麻もインデックスも動けずただただ、僕たちに向けられた言葉に従う。

ちらりとだけ覚悟して目を開けて上条当麻を見やるが、能力ではなく殺意による圧力なようで、右手も意味をなさないらしい。従うほうがいい。本能が訴えていた。

目を塞いでいてもなお、あふれる光が瞼を透かしてその色を見せてきた。

それはまるで宇宙の様な極彩色だった。

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