私の能力は、
一度でも友好関係を築いてしまえば、相手からの如何なる攻撃、反動、攻撃的影響を受けない能力だ。
対能力者に対する絶対的最強能力とも言えるこの能力だが、弱点として能力的な攻撃手段はないこと。
まぁ、他にもいろいろできることはあるんだけど。
「ちょっと聞いてる?おにーさん達と遊ばない?」
「ちょっとそこだからさ?ね?」
はっきり、ナンパと言うものは扱いづらいと思う。
相手は下心ありありの下品な誘いだが、ここで攻撃がなければ私はどうする事もできない。
「いやっはは、私約束があるから!」
夏の暑いこの季節、こう絡まれてちゃ機嫌も悪くなるところ。さっさとどうにかしてこの場を切り替えなきゃならない。
これもあれも全て、忌々しい実験のせい。
体がせっかく健康的なリズムを取り戻したというのに、研究所が機能していないなら意味がない。
「えーいいじゃん。」
にしても、こいつしつこいな。
まぁ?この美少女を目の前に声をかけないのも可笑しい話。でも自分の容姿を少し考えたほうがいい。美少女にモテるブサメンなんて、魂が美しいかとてつもなく人柄のいいやつに決まってるのに。
「あ、おーい!」
この私がナンパにしつこく絡まれてると、前方からツンツン頭の高校生がやってきた。
私に向かって手を振っている。知り合いではない。
少々薄気味悪い雰囲気の男だが私に向かう感情は善意しかない。たぶん、呪われてるんだろうな。
「いたいた!もーなにやってんだ?勝手にどっか行ったら駄目だって!あ、連れがお世話になりましてー。」
彼は私の手を掴んで強引にナンパ男たちから私を遠ざける。かつてない幸運、絶好のチャンスに身を委ねて彼についてく。雰囲気はすこし薄気味悪いけど……
しばらく、角を何回か曲がったところで彼は歩きを止めた。
「あ、勝手に手握って悪かなったな。絡まれてたみたいだから。あ、俺上条当麻。」
「いえ、助けていただきありがとうございました。私はミサカ=アウターゴッツといいます。」
相手から名乗られたので私も名乗り返す。夏休みだというのに制服姿から部活終わりか、補修を受けてきたのだろう。私からしたらパッとしない容姿の彼は、私と出会う前からなにやら焦っていた様子。落とした財布でも探していたのかもしれない。
「ミサカ?御坂美琴ってやつの家族?」
「はぁ?ミサカが名前です、名字はアウターゴッツ。ミサカとお呼びください。」
上条さんはどうやら頭が悪い。
「何かを路地裏で探してました?お手伝いしましょうか?」
「ん?あー、いいんだ。ちょっとした再会を願って歩いてただけだからな。」
「会いたいのですか?その人と。」
「え?会いたいっていうか、忘れ物をだな。」
「あーなら、落とした場所に戻っているかとしれませんね!行きましょう!」
・・
「学生寮ですか……オートロックが多いですよね?あー、でも隣からとびうつれないほどでもない。」
「あのー、ミサカさんは女の子ですよね?上条さんと二人きりって……」
「あ、ええ。でも私ほどの美少女と噂になるのも嬉しいでしょ?それに私と上条さんはお友達ですし、私が『助けていただいて出会ったお友達です。』と言えば済む話ですよ♪」
「それは、それで上条さんは悲しいでせう。」
落とし物の落とし場所は上条さんの自宅らしく、上条さんの自室のある階まで来たところ。
「あん?土御門のヤツゲロでも吐いたんじゃねーだろーな。」
「あちゃー、大変ですね。ロボット数台がかりの清掃ってヌタウナギのヌタいらい。」
「ヌタウナギ?実験か何かか?」
「父は生物学の研究をしてまして……」
「はーん。」
「あら?でも誰か倒れているのでは?」
ロボットの影から、珍しい銀髪の髪の毛のようなものが見える。
倒れているのであれば、吐いて窒息死する恐れもある。髪が長いようで、ここからではどのような体勢で、倒れているのかはわからないが、まずい。
「大変!嘔吐して倒れているのであれば窒息しかねません!」
「なんだって!?早く起こさないと!」
「横向きに!」
そこで初めて気がつく。血の特有の鉄臭い匂い。
そして男子寮にしては甘ったるく、不快なフレグランスの匂い。
そこには、シスターさんが背中から血を流して倒れていた。清掃ロボットはシスターさんから出てきた血を拭き取っていた。
「あ、」
明らかな傷害事件、いつからこんな事になっていたのかは分からない。
上条さんの部屋は角部屋だ。しかもこの階は7階のはず。ここまでエレベーターで登ってきていたけれど、エレベーター内の階数ランプなんか一度たりともついてなどいないし、エレベーター自体もともと一階にあったのだ。
もう犯人は逃げたあと。
とりあえずシスターさんを病院に連れて行かなきゃならない。
「なんだコレ!何なんだこれ!」
「落ち着いて。」
「落ち着いてられるか!おい、一体誰にやられたんだお前!」
ここは学園都市、実験都市でもあり生物学を専門とする私の父は、医療もすこし齧っていたそうで、応急措置として、薄い人工皮膚を作り出すスプレーの開発をしている部下も居る。
まだ試作段階で液体絆創膏の方が効果があるものの、こういった重症患者に対しては応急処置ぐらいに役立てられるのかもしれない。
「応急処置だけはします、ちょっとエレベーターの方を向いていてください。」
「ぁ、ああ。わか…――」
「上条さん?」
私は途切れた言葉の原因を確認するために振り向いた。
そこには日本人ではない男がそこに居る。
真っ赤な髪に、黒い服、ピアスに入れ墨にタバコ。
童顔の変質者だ。
「ひっ!上条さん、あなたのお隣さんって飛んだ変質者ですか?」
「ち、違う、断じて違うからな!」
「つまり、不審者ってことね!この子を襲ったのもあなたなのかしら!」
「うん?僕達魔術師だけど?」
「…………………うっわ。」
とりあえず、対応は上条さんに任せるとして、早急に、迅速にこの子の手当をしなければ。
傷からして、刺されたのではなく切られた。
時代劇で見たことのある傷……真剣で切られたんだろう。模造刀だと殴るか刺すというものになるので、よっぽどの居合の達人が相手側にいるのかもしれない。
刀は切るための道具と聞いた事がある。断面はきれいなはず……
「ケナーズ」
その言葉が聞こえた途端、オレンジ色の光が溢れ出した。
「ひっ!」
熱い。熱くてたまらない………こんなの初めてだ。
なんで私がこんな目に会わなきゃならないの?
「やれやれ、どうインデックスを回収すれば……うん?」
いや、炎はここまで到達していない。
私と炎の間に人間が、上条さんがいるから。
変質者は驚いた顔をして、そして何かをつぶやいたと思ったら、服が弾けた。
全く意味がわからない。
逃げなければ……逃げなければならない。でもここは角部屋。通路は変質者がいる。
こんな高さから飛び降りるのは自殺者ぐらいだ。
……いや、方法はある!
「上条さん、私を突き飛ばしてください。」
・・
あれからどれほどたったのか、程よい茂みに身を隠して、息を殺して上条さんを待つ。
結局突き飛ばしてくれないので、自力で7階から降りた。自分で落ちて。
わかったことは、自分で落ちたときもダメージない。めっちゃチート。
惨めでなんて情けないんだろう。たった二人の人間を救えないなんて。
軍用クローンとはいえ、心まで強くはない。生きるために作られたこの体はそれを許さない。せめて私がこの世に生を受けた時の肉体だったら……いやいやあの体はもう捨てたんだ。生きるためには、たとえ這いつくばったとしても……私は生きるためにここにいるんだから。
「ありがとうなんだよ。手当してくれて。」
「当然のことよ。私はミサカ=アウターゴッツ。」
「私は禁書目録。アウターゴッツの人間ならわかるよね?」
「…まぁね。」
「驚いたんだよ。まさかこっちにアウターゴッツ家の人間がいるなんて。」