頭に蹴りを入れるその瞬間に、海原に気が付かれてしまい、腕でガードをされてしまう。ポキン!と何かが折れる音と共に足から何かを折る感覚が、硬いものを踏み抜いたような感覚が伝わってきた。骨、もしくは防具を蹴り砕いたのだろう。
海原は痛みで声が出ないながらも、歯を食いしばって必死に逃走を続ける。
骨が折れていなくても、衝撃が骨を伝っているのだろう。
「待て!」
「しつこいですね。随分と!」
当たり前。科学サイドの
あと一歩で手が届く。というところで室外機が上から落ちてくる。
どうしても反射的に手を引っ込めてしまい、せっかく詰めた距離を話されてしまう。
「っ!」
同じ様なやり取りを幾度かした後、薄暗い袋小路に追い詰めることができた。
微弱ながら放電でき攻撃が通る私と、魔術で障害物を作りながら逃げるしかできない海原。
私の方が有利に決まってる。
「追い込まれてしまいましたね。ここなら金星の光が届かない。流石です。」
「ん?」
金星の光?金星だったら、獅子を従えてないからイシュタルは無い。そもそも金星は愛と美貌の女神が多いからそもそも、光を反射させるなんてことしないだろうし。
ケツァルコアトル?いや、それは違うな。毛色が違う。蛇っぽくないもの。ん?ケツァルコアトルの化身とされてる破壊神かな?
「トラウィスカルパンテクートリ。」
そうか。トラウィスカルパンテクートリは太陽に負けてイツラコリウキになった。あれは黒曜石の鏡じゃなくて、まんま黒曜石のナイフってことね!
何語か忘れたけれど、イツラコリウキってのが黒曜石のナイフってことだったはず。光は、光線で破壊したからとかのやつか。
「知っていましたか。」
「たまたまよ。アステカの魔術師でいいのかしら?」
「えぇ。」
「テスカトリポカ、ケツァルコアトル、トラウィスカルパンテクートリにイツラコリウキ。アステカってホントややこしいわね。」
「意味はわかりかねます。」
降参。と手を上げて大人しくなった海原はすんなりと私に拘束された。
走ったため呼吸が少し早い彼は、私の一撃を喰らって地面に倒れ込む。
そして顔をこちらに向けて、諦めたように笑う。
「ホントは誰も傷つけたくなかったんですよ。あなただって。」
「わたしぃ?」
「えぇ。怒るとわかって言いました。怒ってくれてよかった。」
「え?マゾ?個人の性癖にあれこれ言いたくないけど、他人に迷惑かけるなら辞めといたほうがいいよ?」
「違います!貴方の行動理由です。見境無く誰かのために行動するような性格ではないってことがわかっただけでも良かったです。」
「あっそう。なら死ね。」
殴ったときに転がった黒曜石のナイスを海原の首元に突き刺そうとすると、慌てて海原が這いずって逃げる。
「ちょ!待ってくださいよ!こんな、誰も傷つけなくなかった!って言ってる人間を殺しますか?普通!」
「生憎普通じゃねぇんだな。これが。」
「自分を殺せば、第二第三の刺客が送られてきます!ここは効率的に自分が報告して観察を続ければよいのではないでしょうか!自分ぐらいですよ!ここまで穏便なのは!」
いぇーい。命乞いタイム?リアルで初めて聞いたよ。第二第三の自分的なフレーズ。
「自分はこの街が大好きです!海原も傷つけなくなかったし、平和が一番だと思います!御坂さんがいるこの世界が大好き!次の刺客は見境無く襲うかもしれませよ!」
……交渉条件としてはまぁ、いいけど、はっきりなんで安全と思われるかが私自身のことだけどわかんないんだよね。
他の誰かが代わりに来たら見境無く襲うかも!
ってのの条件は対等じゃなくない?
「だ、第三位の事が好きなんだ。だからここに居たいってこと?」
「え?あっ。」
「第三位が好きだからなんだ。
「べ、別にそういうわけでは!」
「違うの?潜入した地で想い人を作った。でも自分は彼女を鎮圧しなくてはならないなんて!なんて素敵な物語なのかね!」
しかも相手は、この世に7人しかいないレベル5のお嬢様。さらに彼女にはクローンが存在していてその数は約2万体のクローンがいる。
だけど悲しいかな。彼は第三位のヒーローにはなれない。振り向かせることは出来ない。
・・
元いた場所に戻ると、丁度第三位が戻ってきたようで、不思議がられる。
「あれ?アンタ一人?」
「急用ができたって。」
「で、アンタは何してたの?」
「第三位のファンの相手だよ。恥ずかしがり屋さんの。」
「そう?なにか言ってた?」
「御坂さんの近くで生きてて嬉しい!って。」
「物好きもいるものね?」
半笑いのその表情に、じんわりと苦労がにじみ出ているのを察した。よく目立つからいろいろと寄せ付けるんだろうな。
まぁ、どうでもいいけどね。
受け取った出来立てのクレープを口いっぱいに含んで食べる。
甘くて美味しぃ。第三位の悩みはさほど考えなくても良いような悩みだろう。足の裏を蚊に刺されたのかもしれないだけだろうし。
「あー!
うげ、超絶お子様ボイスは。
「
調整中のラストオーダーはまだ外出許可が降りていない。というか降ろさないはずなのに!
「
「え?何この子?」
「第三位のクローンで、私と同じ上位個体よ。」
「今はほとんど
「アンタみたいなゼロ歳児より私のほうがうまく使えるものな!しかも同性に対してのぶりっ子はムカつくだけですー。残念でしたー!」
「
ラストオーダーのあとから出てきたのはミサカ10032号だ。カエル顔の医者の所にいる個体だったはず。
「お姉様と一緒にいるとは思いませんでした。てっきり
「しょうがないだろー。第三位が、どぉーしてもって言うんだし。」
「そこまで言ってないわよ?まぁ、立ってるのもなんだし座りなさいよ。」
「じゃあミサカはお姉様の隣ーって、ミサカはミサカははしゃいでみたり!」
「はぁ、幼い上司野相手は疲れます。とミサカは汗を拭いつつ、愚痴をこぼします。」
同じ顔四人が集まって、周りに少し注目されている。この中で口を使ってでしか会話できない私達は第三位を見つめて居るが、第三位はキョロキョロと私達を見ているだけで話し出さない。
〈これは誰かが話し出すべきでは?とミサカ10032号はつぶやきます。〉
《言い出しっぺの法則発動。ミサカ10032号ドウゾ。》
〈嫌です。とミサカ10032号は拒否します。〉
〈
「お姉様に好きな人っている?ミサカは
「す、好きな人?べ、べべべ別にいないわよ?」
「ふむふむ。これは嘘をついている香りですなーってミサカはミサカは怪しんでみたり!」
ミサカ10032号も気になるのか、少し慌てて否定する第三位をじっと観察している。
誰だ?誰に恋をしているのだー?もしかして当麻?インデックスがなにか言ってたような気がする。
「え?あの子猫ちゃんとは遊びだったのかな?」
「子猫ちゃん……黒子とはそういう関係じゃないのよ!」
「ミサカはあの少年ですね。この前助けてもらってしまいました。」
「え?誰々?」
あの第三位といえど、乙女なんだね。恋バナに積極的に参加するあたり。
「上条当麻です。とミサカは告白します。」
「あぁ、アイツね!まーた女の子助けたのねー。アイツ。そう。」
驚きを隠せないって顔を第三位がしてるから、当麻を好きなんだ。海原ドンマイ。まぁ応援はしないけど。
「チャレンジャーだね。10032号は。結構あれでモテるんだよ。顔は平凡だけど根っからのたらしで紳士的な行動をとることがあるからね。」
「チャレンジ精神を買って取り合ってくれませんか?とミサカは無謀な賭けに出ます。」
「駄目ですー。私はインデックスを応援してるから嫌ですー。」
「チッ。とミサカは
「インデックスって、確かシスターの名前よね?なにか知ってるの?アイツとかなり親しそうだったけど。」
「ヒロインとヒーローの関係よ。」
「ヒーローとヒロイン?」
属性的に第三位は当麻のヒロインになれなさそう。
神が存在するこの世界は、救うものと救われるもので分けられる。神が関与しなければ運命とか宿命とかじゃなくて、自分自身でその因子を掻き集めてどちらかになるのだ。
故意的にどちらかの因子だけを取り込んだときにヒロインとヒーローが生まれる。
第三位はたぶんヒーローだ。
「あと同居してる。」
「え?それってほんの?」
「うん。」
「あ、アイツ………。」