「あぁ、ええっと、今後の方針なのですが……あの、その上条さんが怒っていることは百も承知ですけれど、とりあえずインデックスちゃんの治療をですね?」
目の前の上条当麻は怒っていた。
魔術師相手に敵前逃亡をした。や自らをおいて逃げたことに対してではなく、7階から飛び降りた。ということに対して怒っているのだ。
ここが学園都市ということを忘れてまで、私を心配してくれているのだろうか?それにしたって、お人好しがすぎる。
「能力がありますので。それに殿ご苦労さまでした。」
「まぁ、無事で良かったよ。取り敢えず治療ったってどうやってするんだ?病院は……使えないだろうし。おい、お前の中に傷を治すようなモンはないのか?」
背負ったインデックスに対してなにか、縋り付くように上条さんが食い気味に聞くけれども、インデックスは小さな声で無理だよ。とだけ喋った。
超能力者には魔術は使えない。
科学と魔術を組み合わせようとした実験で、「超能力者は魔術を使うことは実質不可能」と結果が出ていたはずだ。
その超能力者は
一度だけ、その資料を見たことがある。
能力者に魔術を扱わせても、魔術師を開発して魔術をあつかわせても体の穴という穴から血を吹き出させて死亡したと。
「無理ってなんでだ?俺の右手のせいなのか?」
「いえ、私も無理です。その、彼女の言う魔術と私達の超能力では回路が違うようで。」
「回路が違う?」
「うん……そう。ええっと、超能力は才能ある人で、魔術を使うのは才能の無い人。才能ある人が、才能がない人の為のものを使うことは出来ないんだよ。」
「なら、この街じゃ。」
そう、彼の交友範囲ではまず魔術を使える者は居ないだろう。そもそも 魔術を知っている人物でさえ、世界的に考えてもほんとに存在することを本当に知っている人のほうが圧倒的に少ない。
「チクショウ。」
「あの、」
「……なにかほかの方法があるのか?」
「えっと、」
「?」
「アウターゴッツ家はその、魔術師の家系でして。」
「え?」
上条さんはしばらく固まる。
こんな、機内にお医者様のお客様はいらっしゃいますか?でたまたまいたような。
爆発物が取り付けられてしまったトレインにいろんな得意分野や人が集まり、皆で協力して助かった。そんな小説の中の出来すぎたお話のようなことが現実で起こる。
「でも、ミサカは使えないんだろ?」
「……父が魔術師です。」
「いや、外にいる父親に来てもらうにしても、俺達が行くにしても、時間が足りないんじゃ……」
「あ、あ!あの、父が研究者でして、学園都市に居るので、その。」
「本当か!なら!」
「治療できます!」
・・
竜宮生物研究所。その土地に私の家もある。
研究所では詳しく知らないが医療器具の開発をしていたりもしている。
父は医師免許を持っているが基本的に植物の交配や屋内プラントの生産実験もしているため、研究所自体は工場のような出で立ちだ。
その隣にある研究所敷地内には似合わない豪邸が私の家だ。
電気は灯っているが使用人もいるため父の所在は不明。
ただ玄関は明かりが灯っていて人影がうごめいている。完全にパパです。ありがとうございます。
そもそも今日はとても、とても帰りが遅くなってしまった。どこかで火事でもあったのか
きっと心配してくれてるんだ。
「えっ?人?」
「開けてもらっても?」
「あぁ。」
私がインデックスを背負っているので上条さんに開けてもらう。
するとどうだ、ドアを開けると同時に黒髪の青年男性が飛び出てきた。
白いワイシャツに、紺色のベストを着て黒いスキニーパンツを履いたおよそ二十代前半ほどの。
「ミサカちゃん!こんな遅くまでとこで何して……ああ!ミサカちゃんが男連れてきた!!!え?もう無理!パパもう、無理!」
「だ、旦那様!」
玄関にいたのはパパと家令のアルバートだ。
パパは私が家に堂々と男の子を連れてきたことに対して、キャパシティーオーバーになり倒れてしまった。
そんなパパを慌ててアルバートがその身を支える。
「え、大丈夫なのか?」
「多分。取り敢えずインデックスを運んでしまいましょう。ミカ!ご主人様が帰ったわよ!」
慌ててやってきた専属侍女のミカにインデックスを預けて客間に慎重に運ばせる。
それを尻目に、困ったように眉を下げて落ち着き払った声でおずおずとアルバートは私に質問を投げかけた。
「ミサカ様、これは一体?それにあの少女は?」
「アルバートすぐに彼女の治療を。あの子は
アルバートはアウターゴッツ家から連れてきた者で、魔術も扱える。そもそもこの研究所自体ほぼほぼ身内で構成されていて、多少の後ろ暗いことぐらい簡単にもみ消すことができるメンツばかり揃っている。
魔術師が科学者としてやっていけるのかと心配していたみたいだけど、パパ曰く簡単に科学者としてこの街に受け入れられたそうだ。それに、魔術師といっても殆どがたしなみ程度の者が多いそうな。
「
「彼は上条当麻。ナンパから助けてもらって、人探しを手伝ったのよ。そしたら魔術師に襲われた。彼が殿を努めてくれたからまぁ、帰ってこれたのだけど。」
「襲われた?魔術師に?どういうことかな?」
目をカッ!と開いて気絶していたパパが私の肩を掴んで、怪我がないかを確認する。倒れてきたにもかかわらずものすごい筋力だこと。
その後上条さんの方に目を向けて、また目を見開いた。
まるで死人と再会してしまったかのように。
「あ、え?上条当麻君?」
「知ってるの?」
「知ってるも何も、僕は彼のお母さんの又従兄弟だから。よく来たね。君のお母さんは上条詩菜って言うだろう?竜宮の近縁のくせにえらい不幸体質な親戚なんて有名だよ。テレビでも有名だったし。こっちに来てる事は知ってたけど、娘が居たから。うん、
完全に嫌味なんですけど。
上条さんは少し青ざめている。
いやそりゃそうだろ。歓迎されてないから。
父は竜宮の家系で、その家系も代々魔術師の家系だ。私がそうさせた。
父と母は国際結婚だった為、夫婦別姓だった。
二人共魔術師だったのに、出会いは学園都市の研究所、社内結婚というやつだ。
ちょっとした事件でその研究所をやめて、新しく所長になった故に、集めた機材やデータ、実家から持ってきた霊装や呪具から何までを、上条当麻の右手の不思議な力と不幸で壊されたくないのだ。
「パパ。
「
「
「もう。」
渋々といった様子で、ミカの後を追っていくパパを見送って、取り敢えず上条さんの手当をするために、リビングへと向かう。
「あっちはあっちで、取り敢えず火傷は無いですか?炎使いのようだったから。」
「あ、ああ。そっちは?7階から飛び降りて平気なのか?」
「まぁ。能力で傷一つ負いませんでした。あとは、インデックスが回復するのを待つしかないみたいですね。」
ソファに座ると程なくしてメイドが飲み物を運んでくる。
まずは相手の魔術師の所属を明らかにしたい。
身につける装飾に関して私は詳しくないため、少しづつキーワードを見つけていかなくてはならない。
「何か、アレが言ってた名称はありますか?」
「名称?あー、ステイル=マグヌス?とかカンザキとか言ってたな。」
「カンザキ?どこかで聞いたことがある。」
「本当か?」
「カンザキ……んん?神裂火織?
「あま?」
「隠れキリシタンの末裔のようなものの、めっちゃ強い人間ですね。確か彼女現在は
「まっ、待ってくれ!ついていけない。それって常識なのか?」
あぁ、思わず熱くなってしまった、こんな事話してもよくわからないだろうし、どうやって説明しようか。
「世界一般的に常識ではないので安心してください。えっと、あなたが今まで興味が無かった界隈のヤベー奴が身内を何かしらの理由で攻撃し、それに私達は巻き込まれた。ですね。とんでもない事になりました。」
「とんでもない事って?」
「それは、」
「内乱とか、そんなものじゃないのかな?実際、血の繋がりのある身内でも起こることだしね。」
私の代わりに、パパが上条に答えを教える。
少し苛立ちながら、そして上条当麻を警戒しながら。
「スプレーで応急処置がしてあってよかった。傷の割に出血量は少ないし、簡易的な魔術と医療でなんとか塞がったけど、しばらく安静にしておかなきゃならない。」
「……アンタ、研究者だろ?上にこの事報告するのか?」
「ん?僕が報告しなくても、上はきちんと把握してるから問題ないよ。」
「問題ない……」
「あぁ、改めて僕は蒼《アオイ》。科学者であり魔術師さ。」
ニコリともしない挨拶に、どこか上条さんは悲しげな表情をする。諦めた顔だ。
「ちょっと。」
「ミサカちゃん、こればかりはね?上条君が詩菜の息子だからって、彼の周りにはトラブルが多すぎる。こんな事今まで君はしでかさなかった。」
「あら?それは私がパパにとって『都合の良い子』をしてきたからよ。」
「なら、今回も――っ!」
そうして欲しい。そう言う前に、パパは弾かれたようにリビングの窓、厳密に言えば敷地を区切る門を見つめる。
「早いな。」
夏ゆえに、開け放たれたバルコニーの薄いカーテン越しに、一人の女が立っているのが見えた。
武器は大太刀。
「竜宮蒼さんですね?私は神裂火織と申します。」