とある科学のハードミサカ   作:イェス

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挿話 命が失われたその時

五条と言う男がいる。

その男は、外から科学者として学園都市に潜入し、科学者として街で暮らしている竜宮の元に潜入した魔術師だ。

・・

竜宮が代々保有している仮称「宇宙からの御子」の調査及び竜宮の一族の者の取り入れを命ぜられていた。

竜宮家現当主には四人の子供が居り、当主として有力視されているのは当然長男である。

俺に割り振られたのは、科学の都市に科学者として移住した三男、竜宮蒼であり、一番期待値の低い男のマークを命ぜられていた。

 

当初、取りあえずマークというものに憤慨してみたものの、蓋を開けてみれば一番の目的である仮称「宇宙からの御子」は三男の蒼に付いていき、科学の都市の住人にいつの間にかなっていた。

魔術結社(マジックキャパル)に所属しない一族単位での魔術師集団では簡単に学園都市に入り込むことができる。単純に科学者としてその街に引っ越すからだ。

竜宮への監視も彼自身の監視も当初有りはしたが、竜宮は純粋に科学者として働き、彼への監視も学園都市へのスパイではないとわかったのか、ふと気がついたときにはその存在が消えていた。

竜宮の元に部下として潜り込んで数年がたったあと、竜宮蒼は海外のアウターゴッツ家の四女、アイリーンと結婚することになった。彼女は学園都市へのスパイであったため、また監視はあったものの一人目の子供を身籠り、その監視もなくなった。

 

そして生まれた男子が竜宮朝歌(あさか)

その翌年に体外受精で生まれたのが、竜宮聖朝歌(みさか)

第二子は後の第一位一方通行(アクセラレータ)のクローンであり、アイリーンはまるでその子をかの御子のように扱った。いや、その行動は当然だったのだろう。

その聖朝歌は仮称「宇宙からの御子」そのものだった。

正直信じられなかった。人間でない力の塊が意思を持ったものが、人間の子供としてこの世界に誕生し、その力に耐えうる肉体が存在していたことに。

聖朝歌嬢……ミサカ嬢曰く、あれ程適応する者は供物として捧げられたとしても珍しかったそうだ。

 

しかし、家族四人の幸せな生活は、そう長くは続かなくなった。

およそ3年前ミサカ嬢が筋ジストロフィーという病にかかってから、家庭は崩壊していった。

当然ミサカ嬢を夫婦は最優先した。

朝歌坊っちゃんはそれを悲しみ、一人学生寮に移り、音信不通。そこで夫婦は必死に探しはしなかった。

夫婦の最優先はミサカ嬢であったからだ。

夫婦はありとあらゆる治療法を探し、探し抜いたある日、アイリーンが何者かによって暗殺された。

刺客は魔術師で間違いないだろう。余り竜宮は語らなかったが、ミサカ嬢はブツブツと何かを呟いていたのを覚えている。

 

数週間たち、ミサカ嬢は自由に動くことすら不可能になった頃、御坂美琴という少女のクローンを使った量産型能力者(レディオノイズ)計画と言うものの表向きの実験として、筋ジストロフィー患者を対象にした体の移し替え実験義妹達(シュヴェスターズ)計画を計画し、第1実験のみ竜宮が担当して行った。

とうぜんながら、ミサカ嬢の指示に従って行われた第1実験のみ成功し、その他の実験は失敗に終わった。

 

カスタマイズされた新しいミサカ嬢は、より強くなっていた。

アルビノであった体をリューシスティックに変えて、クローンの体を強度のある軍事クローンに変えることで肉体的には成長したそうだが、やはり一方通行のクローンよりも適合率が低かったそうだ。

そこで俺はミサカ嬢から第一位の調査を依頼された。

 

・・

かつては五条の手先であった己が、今や宇宙からの御子の手先となったとあればかなりの出世者だ。

彼女は惜しみなく科学と魔術の知識を我々に与えてくれた。

それの殆どが人類には未だ不可能であり、彼女自身も、『得意分野でないので詳しくない』と言っていたとおり、何十世代先の科学知識を有し、何百年もの前のすでに失われた魔術の術式を有していた。

彼女の持つ魔術はプロトタイプであり、脳の汚染度が高い代償がある代わりに、強力なものばかり。それこそ神話に登場する神々の権能を振るうかの如き術ばかりだ。

 

「教えたのだから、給料分働いてね五条さん。」

 

念押しされて俺は絶対能力者進化(レベル6シフト)の研究チームに参加したのだ。

第一位、一方通行(アクセラレータ)と直接面会することは叶わなかったが、彼の実験のモニタリングをするうちに、立ち振舞から察するに、相当危険人物であることだけは確かだった。

しかし幼少期のミサカ嬢を知っている俺は何故か、一方通行(アクセラレータ)に惹かれ、いつしか詳しく分析し行動を予測しようとしていた。

そしてミサカ嬢との共通点をどんどん見つけていく。

攻撃パターンは大胆かつ直線的な力のゴリ押し、そして派手を好む様だ。

考えながら物事をこなしているように見え、突発的な発想により攻撃方法を変えていた。

そして何より、クローンミサカへの問いかけ。

彼は人形を相手にしているだけ。と説得させられているはずだ。それなのに、わざと恐怖を煽る笑い、問いかけ、表現をする。まるで、謝らせるために怖い言葉を使う大人のように。

ミサカ嬢もそれを好む。単に脅しているだけなのかもしれないが、実験動物がおイタをした際、わからないだろうにも関わらず責め立てていた。 

 

そこである仮設が浮かび上がってくる。

 

一方通行はクローンミサカを殺したくないのではないか?と。

 

モニタリングしていて、これまで一度も野外実験の終了、つまりクローンミサカを殺害する瞬間を映したことがなかった。

第1実験でさえ彼の能力により弾丸が跳ね返り死亡に至った、自己防衛範疇の事故。

無力化して実験を終了させようとしていた。

データは残っているはずだ。音声データがなくとも、何かしら読唇術で読み取れるかも知れない。

 

探し、再生し、そしてまた探す。

その間の実験にもビデオカメラを仕込んだりして約数週間がたった。

そしてやっと見つけた。衝撃的な事実を。

 

それはミサカ2号から。

ミサカが死ぬ直後、つぶやかれた言葉がある。

『もしやあなたが……』その直後にミサカは死亡していた。

一方通行(アクセラレータ)の能力を受ける前に。

それ以降、どのミサカであれその言葉に似た言葉を発している。

『あなたこそ』

『あなたは、』

『なんてこと!あなたは』

 

確認できるだけでも、ミサカは必ず一方通行に対してそう言葉を発して、自決している。

心の底から恐怖やらなんやらが湧き上がってきた。

今まで一方通行は一度もミサカの殺害をしていない事になる。

何故か、その原因はミサカ嬢にあるだろう。

聞くところによると、ミサカ嬢の体が作られたのは量産型能力者(レディオノイズ)より前になる。

およそ2年前。

天井博士というクローン量産の責任者によると、0号(プロトタイプ)00000号(フルチューニング)の次にミサカネットワークへの接続テストを行っていないクローンミサカとして01号(リューシスティック)というものが作られている。第1実験のミサカ00001号とはまた別の個体で、正式名称『義妹達(シュヴェスターズ)01号(リューシスティック)聖朝歌』それがミサカ嬢の肉体となっている個体だそうだ。

もし、ミサカ嬢の抱え込んだ知識から何までがミサカネットワークに漏れ出していれば?

ミサカ嬢からミサカネットワークに関して情報は出たことがないため推測の域を未だに出ないが、個性の強いあの方の影響を無意識下にクローンミサカが、死の直前に受けるとしたら?

情報は高いところから下に降りていくのが自然の流れるように、強いものから低いものに流れていくとしたら、ミサカ嬢の探す愛し子(ダーリン)というものは一方通行で間違いないだろう。

 

まだ確認していない最新の実験映像がある。

そこに、確証が持てるものがあれば、そう思って、俺はビデオカメラの映像を再生する。

 

場面は真っ暗な路地裏。

戦闘音か銃声がどんどん近くなり、足音が2つ、こちらに向かってくる。

 

『だいたいよォ。オマエら最期に何言おうとしてるンだ?』

『それは、実験に関係あることですか?とミサカは意識をそちらに向けて返答します。』

 

戦闘音が止み、足音も止み、男女の声のみ音声が拾われている。映るのは二人分の足のみだ。

 

『気になってたンだ。オマエら、結局自分で死ンじまってるから、よくわかンねェ。』

『良くはわかりませんがこれまでの個体全て、最期にあなたに銃口を向けたことに酷く……間違いであると感じているのです。とミサカは返答します。』

『蘇生させようとするンだが、無理つゥのもおかしな話だよなァ?血流を動かして心臓を動かしてもアリャなンだァ?』

『理解不能です。ネットワークの奥底に、基盤の様に知識があるかのような、断片的な映像で、助けてくれ。その声が聞こえた。そういった映像が。とミサカは思い出します。』

『助けてくれ……か。』

『……ッ!』

『ン?』

『その声……わかりません!ミサカは!ミサカは』

『おいまたか?』

『誰の記憶なのか、叫んでいます!助けるべきものに銃口を向け、銃弾を当てたミサカを!糾弾する声が!ミサカは、そんな、あなたは、あなたに‼』

 

映像にはしゃがみ込み、頭を押さえるクローンミサカ。そしてそのミサカに駆け寄り、心配そうに手を伸ばす一方通行が。

 

『あぁ!ミサカは!ミサカ!ミサカミサカ‼なんてこと、誰ですか?許して、ミサカを!』

 

一方通行の顔が苦痛の表情に変わる。

そして右手を振り上げ、ミサカの右手を、ミサカが自分に向けた握る銃を弾き飛ばした。

 

普通ならありえない。クローンミサカが感情を露わにした叫び声など。

 

『シュヴェスターですか、この記憶も感情とやらも、他のミサカは死ぬ直前になって、奥底のシュヴェスターの記憶に干渉して、しまっていた。苦しいです、とミサカは。』

『シュヴェスター?』

『感情というものは、このようなものだったんですね。わかります。とミサカは他のミサカに同調します。

ミサカはあなたを愛している。だから他のミサカは、自分でとミサカは結論づけます。このミサカも』

 

言葉はそこで途切れ、フラッシュが起こる。

フェードアウトして、映像がものを表示する頃には、頭がまる焦げになった死体と、呆然とそれを見つめる一方通行がそこに映っていた。

その後は他と同じく、他のミサカが後片付けしていくだけ。

とんでもない事実。

この実験の要である、クローンミサカを一方通行が殺害するという物が全くなされていなかった。

一方通行はどんな理由があれクローンミサカを生かそうとし、クローンミサカはそれの手を拒否し自殺している。

 

気がついてしまったのなら、知ってしまったのならもう止まることは出来ない。

五条はこの事を報告するべく、受話器に手を伸ばした。

 

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