三人をシェルターに残したまま外に出てみれば、いたるところに戦闘痕が刻み込まれており、道や草原などは土がむき出しになってしまっていたりとひどい有様だった。
戦闘音は未だに続いており、ワイヤーとワイヤーが擦りあうギュルギュルギュルと言うような耳障りな音が聞こえている。
街灯が破壊されているため、月明かりを頼りに辺りを警戒しなければならないのが面白くない。
少しだけ進もうとしたところで、蒼の叫び声が聞こえた。
「ワイヤー!」
ひんやりとした何かが素肌にほんの少しだけ食い込む。
一歩後ろに下がり、レーザーで前を照らしてみると、途中で先のようなものに光が遮られた。
暗所故に張り巡らされたワイヤーに気がつけなかったらしい。
危なかった。あそこからさらに進めば怪我をしてだろう。耳障りな音は本当にワイヤーがこすれる音というわけだ。ワイヤーを辿って見れば、一人の人間に行き着く。
豊満な胸をまるで強調するようにTシャツを胸の下で結えて、ジーンズは片足のみハーフパンツの長さほどに切っている。
先程はよく見えなかったが、かなりヤバ気な服装の痴女でいらっしゃる。
「怪我をしたくなければ引いてください。」
「勝手に敷地に入ってきた侵入者の言葉にしては傲慢すぎやしないですか?敷地内から出ていってください。」
「お断りします。」
神裂火織と名乗っていた女は壊れたもう一つの街頭の上に立ち、こちらを見下している。
その女を中心に、七時の方向にパパがいる。すり傷だらけで頬から血が汗のように滲んで白衣を汚した。
「
私が呪文を叫ぶと同時に、神裂火織が戦闘態勢になろうとして、目を見開いた。
「な、動けない?超能力?」
「
「っ!」
神裂を中心に張り巡らされていたワイヤーがそれぞれ音を立てて落ちていく。
サルワーレ。その言葉に意味を乗せて発動させるものだ。
「神裂火織。たしか聖人と呼ばれる者の中にいましたよね?拳銃って効くんでしょうか?」
「効きますよ。今の私に防御の術がありません。無抵抗の相手を殺すことができるなら、話ですが。」
「1つ言っておきましょう。命に価値はないです。」
持っていた銃を眉間に突きつけても、彼女は強く私を見つめて、口を開いた。
「ならば私も1つ言っておきましょう。インデックスを引き渡さないのであれば、あの子が一番苦しむことになるのです。」
「何故?」
「完全記憶能力というものはご存知ですか?」
「えぇ。まあ。稀によくいる。」
「そのせいで、インデックスは死んでしまう。だから、だから!私達はあの子の記憶を消さなければ!」
見えない何かによって、体を拘束された神裂火織は焦ったように叫ぶ。
正直言って、なんでインデックスが死んでしまうのかはわからない。
魔術書の毒はなんとかしてるんだろう。そもそも記憶を消せば毒が消えるだなんて事、そんなの必要なときに魔術書を読んで、必要なくなったら記憶を消して毒のダメージがなくなるとか、そんな都合のいいことなんてない。
なら、なんで?記憶しすぎてパンクして死ぬとか思ってるの?
「面白い嘘ですね。この私が、記憶しすぎて死ぬとかそんな絵空事なこと知らないと思ってるんですか?一度何も知らない赤子に約千年の記憶も四十億年分各地で集められた情報を脳みそに叩き込んだことがあります。人間の記憶の限界を調べるためにね。結局それは11年半程しか生きませんでした。
しかし、死因は福山型先天性筋ジストロフィー。先天的な遺伝子異常による病死でした。」
その瞳が動揺して視線が揺れる。
「結果が出ています。
いくら幾万の本を暗記したとして。いくら長生きしたとして。
四十億年もの情報量に勝るものなどない。
何故私がそれを知っているのでしょうか?答えはかんたんです。なぜなら――」
銃口を眉間から人中に移動させる。
流石の聖人も恐怖を覚えるのだろうか?体が小刻みに震えている。武者震いだといいけど。
この圧倒的な蹂躙も全てはバックアップのパパのおかげ。
私は別に魔術の呪文を叫んでいるだけ。魔力を練らないこの言葉は呪文としては形を成さず、単なる言葉の羅列に過ぎない。
能力者が呪文を唱えることで、相対する魔術師にインパクトを与えて注目させる。その裏で魔術師のパパや部下が私の指定した呪文を唱える。
私の能力のおかげで、今回聖人相手に誤魔化せた。
「――この私こそ十二世紀の日本に飛来した
知っているでしょう?と聖母のように笑いかけてみても反応は返ってこなかった。
「無反応ですか?教えたのは冥土の土産なんかじゃないんですし、生き残ってくださいね?まぁ、打つのは人中にですけど。」
引き金を引くその瞬間、建物のほうから叫び声が。
聞き慣れない男のもの。
「それは本当なのか?四十億年とはっ!!!」
ぎこちない動きで、縋るように私のもとに寄って来る。
物陰に隠れていたパパがそれを制するように立ちはだかる気配がするものの、まるで気にしないように無理矢理足を引きずって私のもとに近付こうとする足音があった。
「やかましいですね。それがどうしたって言うんで――」
その瞬間、大きな地響きと共に1階から光線が溢れ出した。その光線は建物を突き破り、遥か彼方宇宙まで届くほど、高く高く柱を作っていく。
「ったく!
応の対価を払ったのならばインデックスは助けてあげるから!」